けいおん!LinkCorpse(リンクコープス) 作:レパード☆アブデカ
「どうしよう……。真鍋さんの居場所、聞きたかったのに……。」
今の話で、和が軽音部員たちと“この学校の中にいる”という、その事実は確かにつかんだ。
しかし、具体的にどこにいるのか、どうすれば会えるのかということを、まだ聞いていない。
「でも……。あのまま聞いても、教えてくれなさそうな雰囲気だったし……。やっぱり、教室から離れたほうがよさそうね。」
恵は再び廊下を歩き出した。
ギシ…ギシッ…と床がきしむ。
歩いていくと、突き当たりの階段にたどり着いたが、見るからに雰囲気が異様だった。
「これは……。誰が、こんな……。」
上下に分かれている階段の両方に、いすがうず高く積み上げられている。
それも上から下まで、すべての段にすき間なくびっちりと……。
ふと見ると、階段の手前の教室の、前の扉が開いている。
「仕方ないわね。時間はかかるけど、なんとかどかさなくちゃ。」
恵はまず、下り階段のいすを1つ1つどかし始め、どかしたいすは、扉の開いている手前の教室に逐一運んだ。
状況としては澪たち4人と似ているが、こちらはどかすスペースがあったのが幸いの救いだ。
運び先の教室は、机もいすもないがらんどう状態だったが、おそらく積まれているいすの多くは、この教室から持ち出されたものなのだろう(机はどこへ……?)。
上り階段は1つか2つどかした瞬間に崩れ落ちて、完全に進路をふさいでしまうばかりか、自分が下敷き・生き埋めにされてしまう危険もあって、そこだけが澪たちと変わらなかった。
5分ほどかかって、ようやくすべてのいすを階段から完全に(下りのみ)どかすことができた。
できれば上り階段もどかしたかったが、さすがに安全には変えようがなかった。
いすがきれいさっぱりなくなってすっきりとした階段を、恵は下りて行った。
ギシ…ギシッ…
ギシ…ギシッ…
下りた先は、2階の廊下の突き当たり。
和たち5人が、ツインテールの女の子から逃れるために隠れた教室の、反対側に出たのだ。
同じ次元ならここで出会えるはずだが、変則的に突然連れて来られた恵は、次元が分断されていることも知らなかった。
それもさっきの七星に確認すべきだったが、これもおそらく教えてはもらえなかっただろう。
ギシ…ギシッ…
ギシ…ギシッ…
(真鍋さんたち……。どこなのかしら……。)
ところどころに穴の開いた廊下の床と、ひびの入って割れた教室の窓ガラスが続く。
携帯の液晶の明かりが、それを照らす唯一の光源だ。
何歩か歩いたところで、前方にまた人影が見えた。
遠くなので見づらいが、今度はどうやら七星ではなさそうで、ざっと4~5人ほど確認できる。
(誰かしら……。真鍋さんたちだといいんだけど……。)
近づいていくと、そのシルエットが少しづつはっきりしてきた。
その先頭にいる人物を目を凝らして見た恵は、ついに確信を持った。
(真鍋さん……。間違いない!)
紺のブレザー、グレーのスカート……。
自分と同じ、桜高の制服だ。
そして丸い顔、濃い茶髪のショートカット、赤ぶちメガネ。
まごうことなき、和だった。
恵は駆け足で走り寄った。
「真鍋さん!!」
「…えっ…?」
恵の声に反応した和は、思わず足を止めた。
一緒にいた梓と純、森繁と繭もそれにならう。
(………え………?)
(あれって…。生徒会長の……。)
「曽我部先輩…!」
「よかった…。無事だったのね。携帯で連絡しようと思ったんだけど、圏外で…。」
「はい…。でも、どうして先輩がここに…?」
「それは、後でゆっくり話すわ。えっと……。」
恵は梓と純を交互に見回す。
「あなたたち、確か軽音部の中野さんと…。」
「はい……。ほら、純……。挨拶……。」
「あ…。は、初めまして…。鈴木 純です。ジャズ研で、梓とは同じ1年2組なんですけど。」
「ジャズ研の、鈴木さんね。生徒会長の、曽我部 恵…3年1組よ。あなたとは、初めてね。」
「は、はい……。」
恵は軽音部5人やさわ子のことはよく知っていたが、部外者の純と直接顔を合わせるのは、ここが初めてだった。
この場にいない憂に至っても、それは同じである。
さらに森繁と繭にも、
「ごめんなさい…。どちらの学校かしら?見かけない制服だけど……。」
「……如月学園2年9組の森繁 朔太郎です。こっちは……。」
「初めまして。同じクラスの、鈴本 繭です。」
「如月学園の、森繁くんと鈴本さんね。初めまして。」
「繭が、この真鍋さんたちにお世話になったみたいで……。」
森繁が繭に目配せすると、繭はニコッと微笑んできた。
「改めて、桜が丘高校3年1組の、曽我部 恵です。生徒会長よ。よろしくね。」
「……あ。どうも、よろしく……。」
「よろしくお願いします。」
2人は挨拶しながら、恵のほうを見た。
(綺麗な人だな……。)
(かわいい……。)
「じゃあ、とりあえずなにがあったのか、聞かせてもらえる?真鍋さん。そこで、わたしのことも話すから…。」
「はい…。じゃあ、そこの教室で……。」
和たち5人と恵は、さっき隠れていた教室に移動した。
和はそこで、恵と別れて以降のことの次第を、最初から詳しく説明した。
「……じゃあ、やっぱり田井中さんが言い出したのね。」
「わたしも、ちょっと心配で…。そのページに、説明とかはなかったの?って聞いたんですけど、こうすれば必ず~、ぐらいしか書いてなかったそうですし…。」
「そのページの管理者の子、名前はなんて?」
「冴之木 七星って子らしいんです…。」
「冴之木……七星……?」
「はい。なんでも、オカルト関係の作家をしている子らしくて……。」
恵の脳裏に、さっきの上の階の廊下でのやりとりが頭をよぎった。
「真鍋さん。その子、どんな子だったの?」
「律の携帯の画像を見ただけなんで、詳しくは説明しづらいんですけど…。」
和の説明したその容姿は、部分的だがさっき見たそれとまったく同じだった。
「っ……!わたし、今その子に……。」
「えっ…。会ったんですか?」
「ええ。だけど、自分は幽霊で、ここはあなたのいる世界じゃないって言うの。」
「幽霊……。どういうことなんですか?」
「律先輩、その人のページを見た、って言ってるんですよ?幽霊って、もう死んでるってことじゃないですか…。死んだ人が、なんでホームページなんて……。」
そうだ。
律はちゃんと七星本人名義のホームページを見て、おまじないを考えついたのだ。
顔写真とプロフィールも、しっかり見ている。
もし恵の会った七星が、彼女の言っていたように幽霊だったとすると、律がページを見る以前に、すでに死んでいたことになる。
となればページは管理者不在のまま、宙ぶらりんで放置されていたことになるが…。
「死者の、ホームページか……。ふざけた話だな。」
森繁がつぶやく。
純も、
「それより、わたしたちのいる世界じゃないって、どんな世界なんですか?て言うか…そもそも、その七星って人、なんで死んじゃったんですか?」
「それが…。そこまでは、教えてくれなかったわ。それ以外にだって、もっと聞きたかったことはあるんだけど、その前に突然消えちゃって…。」
「う~ん……。」
「森繁くんたちは、誰から?」
「委員長の、篠崎 あゆみって女子なんです。おまじないや、オカルトが趣味らしいんですが…。もっとも、オレにはほぼ関係ない話で…。」
森繁も、普段からあゆみの趣味はよく知っていたが、性格柄、非科学的なものをあまり信じていなかったこともあって、基本は我関せずの無頓着だった。
今回のおまじないも、最初は完全無視を決め込むつもりでいたのだ。
「その篠崎さんが、どうしたの?」
森繁はすかさず繭の話題を持ち出し、親の仕事で転校するために、遠くにいてもずっと一緒にいられるように…と余すことなく、恵に説明した。
「繭のことですから、いつもみたいにはできないなと思って…。」
「そうなの…。大変ね、鈴本さん。」
「はい…。」
「それで、真鍋さん。ほかの軽音部の子たちと、山中先生は本当にどうなったかわからないの?」
「そうなんです…。気づいて一緒にいたのが、この梓ちゃんと純ちゃんだけで…。」
「森繁くんたちも?」
「ええ。真鍋さんたちと、一緒です。」
「そう…。」
すると、
ボウッ……
「!!」
青白い人魂が、6人の頭上に現れた。
「………また、1人来たようだね………。」
「……っ!」
「………それも、今度は変則的だ………。気まぐれだな……。怨霊といっても、そこはやっぱり、子どもってことなのか………。」
人魂はこれまでと同じように、自分がこの学校の呪いで連れて来られたこと、探している桜が丘・如月両校のメンバーが別々の次元内にいること、そして呪いの黒幕はとある幼い女の子の怨霊だと話した。
「多重次元……。」
「その怨霊が、こんな空間を……。」
「……正確には、“多重閉鎖空間”……。いくつもの、次元の中に…みんな、送られている……。」
「唯先輩たちも、そこにいるんですか?」
「……ああ……。個々の、居場所はわからないが…間違いなく、いる………。」
「でも…。曽我部先輩は、どうして……。」
「そうですよ!おまじないなんかしてないし、場所も違うのに……。」
「……今も言ったが、変則的だ……。そこの、メガネのきみ(和)…どうやら、きみと親しい間柄だったみたいだね………。」
「ええ。うちの生徒会の会長と、役員なの。」
「……そこに、目をつけられたのかもしれないな………。あのおまじないをした以外で……一番、ここに連れて行きやすい人間だと思ったんだろう……。どこまでも、子どもの発想だ……。」
「そんな……。どうして、そこまで……。」
「……あの子には、すべてお見通しだ……。これからおまじないをしようとする人間…その誰かと親しい人間のことも、すべてね………。」
人魂はそこまで言うと、
「……申しわけないが…ぼくから、話せるのはそこまでだ……。どうか…あとはきみたちで糸口を見つけてくれ……。健闘を、祈るよ………。」
スーッ……と消えていった。
「さて……。どうするかな……。」
「そうね……。あ……。そうだ。」
和は恵と再会する前のことを思い出した。
「あの…先輩。」
「どうしたの?真鍋さん。」
「実は、さっき繭ちゃんと森繁くんに会ったときなんですけど……。」
和は軽音部のことが話題になったこと、それを聞いた2人が、クラスメイト共々桜高見学の意思を示したことを恵に話した。
役員としては副会長に次ぐ上席にいる和だが、それでも仕事上の最高権限は会長にある。
他校の生徒を校内に招き入れる以上、独断専行はさすがにまずいので、一応ここで報告することはしておかなくてはならない。
「……それで、学校と軽音部を見学したい…そういうことなのね?」
「はい…。そうなんです…。」
「オレは、ちょっと悩んだんですが…。繭が、ぜひ行ってみたいと……。」
「お願いします。そちらの、みなさんには…ご迷惑はおかけしませんから……。」
右上にちょこんと束ねた髪を突き出すようにして、繭が深々と頭を下げた。
「う~ん……。」
「先輩…。わたしからも、どうか…。」
恵は少しの間考えていたが、やがて言った。
「わかったわ。持ち帰って、後で生徒会の議題にかけてみるわね。」
「あ……。ありがとうございますっ!」
「ど……どうも……。」
ここで1つ、肩の荷が下りた。
しかし、もう1つ話し忘れたことが……。
「あ……。それから、先輩……。」
「まだ、なにか?」
「先輩に会う、ちょっと前なんですけど…。はさみを持った、片目の女の子に……。」
聞き終わった恵、
「……どういうこと…?片目って…。なんで、はさみなんて……。」
「わからないんです。“返して…返して…。”って、ものすごい勢いで追いかけてきて…。」
「繭さんや、森繁さんと一緒に逃げたんです。」
「その後、この教室で繭さんが刺されそうになって…。でも、お守りのおかげでなんとか…。」
「お守り…?」
「あ…あの子が、くれたんです…。」
繭は恵に、ここに横たわっていた白骨死体の女の子と、助けてもらったお礼にその子からもらったお守りであることを説明した。
「うそだと思うかもしれませんけど…。本当なんです。お礼にって……。」
「……そうなの……。わたしも、詳しくはわからないけど……。」
ここで森繁が、
「……曽我部さん。もう、そろそろ行きませんか。ここにずっといて話し込んでも、なにか状況が変わるわけじゃない。」
「……そうね。先輩、一緒に行きましょう。」
「……ええ……。じゃあ、行きましょう。真鍋さん。」
和・梓・純・繭・森繁と、新たに加わった恵の6人は立ち上がり、教室を出た。
そして改めて、今和たちが向かおうとした、廊下の反対側へ進んだ。