けいおん!LinkCorpse(リンクコープス) 作:レパード☆アブデカ
「くっ……。なんなんだ、これは……。」
「お兄ちゃん……。」
「ムギちゃん…。なんで、こんなのばっかりあるの……?」
「さあ……。」
「………っ……。」
黒い影から解放されて、保健室を離れた哲志・由香・唯・憂・紬・さわ子の6人は、廊下や教室の床に転がるいくつもの死体の洗礼を受けていた。
どこの学校かこそわかったものじゃないが、みんな制服を着た高校生や中学生、その姿には無念ささえにじみ出ている。
中には近づくと、青白い人魂が浮かび上がってきて、
“助けて……。”
“誰かぁ~……。”
“助けてくれぇ……。”
“帰りたいよぉ……。お母さ~ん……。”
そう助けを求めて来るものさえいた。
できることなら、指1本でも差し伸べてあげたい。
だがこちらでは、彼らを助けることも、元の世界に帰してあげることもできない。
ただでさえ自分たちのことだけで、精一杯なのだ。
そばを通り過ぎるたび、歯がゆさだけが残されていった。
「………ん?」
先頭を歩く哲志、とある教室の入り口で、なにやら話をしているらしい2人の人影を見かけた。
唯たちも目をこらす。
1人は小豆色のブレザーを着た少年、もう1人は彼とは対照的な白とグリーンのセーラー服に赤いリボンをつけて赤メガネをかけた、小太りの女の子。
唯と憂は、そのもう1人の女の子の制服に着目した。
(あれ…?)
(あの制服…。)
実は2人と和の3人は中学校時代、あれとよく似たようなデザインの制服を着ていた。
しかしよく見ると、リボンの形や大きさ・色合い・留め方が明らかに違う。
唯たちがつけていたリボンは比較的小振りで、濃い目のピンク色、輪っか状のひもを緑に白のストライプの装飾が施された襟の中に通すタイプだった。
あちらのリボンはそれより2回り~3回りくらいほど大きくてかなり赤に近く、襟の中にリボンを直接通して留めている。
それに、そのリボンを留めている襟と、共通の配色になっている袖口の装飾は元より、襟の内側のアンダーシャツの装飾がなく真っ白、代わりに校章らしきものが見えていた。
そして、極めつけにその襟の形も、白のストライプ共々スパッと直線的に切り落とされた唯たちのものに対して、丸みを帯びた曲線的なデザインに・・・。
「白檀か……。ちょっと、声かけてみよう。」
「ビャクダン……?」
唯はちょっと拍子抜けした。
それもそのはず、白檀の生徒はすでに3人(智寛・良介・島田)が、あゆみ&良樹に会ってはいるものの、おわかりのように次元が違っていた。
学校が比較的近い哲志や由香はもとより、市をまたぐ桜高メンバーが彼らに会うのはここが初めてだった。
「あ、ごめん……。」
「あ……。」
「え……?」
「オレ、如月学園高等部の持田 哲志っていうんだけど……。」
「如月……。」
「高等部……。」
「こっちは、中等部に通ってる妹の由香。」
「はじめまして!持田 由香です。」
2人はやや間を置いて、
「……あ…。もしかして、同じ学年なのかな…?オレ、黒崎 健介。白檀高校の、2年4組なんだけど……。」
「卜部 恵美(うらべ えみ)。黒崎くんと、同じクラスなの。」
「ああ…。2年9組……。」
「よかったぁ……。あ、あの…その子たち、どこの学校…?」
黒崎はすぐに、後ろの唯たちの存在に気づいた。
「あっ…。桜が丘高校の子たちだけど。さっき、由香と一緒に教室で会ったんだ。」
「桜が丘…。あ!確か、うちの女子バスケ部がこの間の練習試合で対戦したっけ…。」
「え……。バスケ部が……?」
「そう言えば、この前あったわね…。」
実は、桜高と白檀は少し前に、女子バスケ部が桜が丘市内で練習試合を行っており、唯たちもその応援に出向いた。
両校とも初めての顔合わせで、当日は桜高の体育館が別件(ほかの部の試合)でふさがっており、近くにある市立体育館を使って行われた試合だった。
結果は接戦の末にアウェーである白檀が勝利したのだが、頭の回転が鈍い唯は試合内容をすっかり忘れていた。
「あっ…。思い出した!」
「ほら。唯ちゃん、自己紹介…。」
唯・紬・憂・さわ子は、黒崎たちの前に進み出る。
「初めまして。平沢 唯です。2年2組だよ。この前のバスケの練習試合、忘れちゃっててさ…。よろしくね。」
「琴吹 紬よ。唯ちゃんと同じ2組で、部活も一緒なの。」
「唯の妹の、平沢 憂です。1年2組、よろしくお願いします。」
「山中 さわ子。音楽を担当してて、この子たちの部の顧問もやってるの。」
4人は一通り自己紹介を終えた。
「あ、どうも…。」
「よろしく…。」
「黒崎くんたち、やっぱりあのおまじない?」
「えっ……?それじゃ、持田くんたちも…。」
「ああ…。そうなんだ。」
紬がたたみかけるようにその人数を聞くと、やはり9人と答えた。
その後の状況すべてにも、まったく狂いはない。
3校が3校、揃いも揃ったその状況にみんなは当惑してしまった。
恵美はおまじない実行の経緯について、さらに詳しく話してくれた。
「同じ4組の山本 美月(やまもと みつき)と、霧崎 凍弧(きりさき とうこ)って子なんだけど…。」
「うん……。」
「あの子たち、占い友だちでね。いつも、2人で占い特集の雑誌とか見てるの。」
「…それで?」
「ネットでそのおまじないを見つけたから、わたしが凍弧に話したんだけど…。」
「そこで、その凍弧ちゃんからほかのみんなに、情報が行ったってことなのね。」
「うん…。それから、みんなが集まっておまじないをやったの。」
「その後、ここに飛ばされて来たの?」
「うん…。唯ちゃんや持田くんたちより、ちょっと遅い時間なんだけどね。」
「集まったのは、誰?」
「美月・凍弧と、刻命くん・黒崎くん・袋井くん・大川くん・片山くん・島田くんたちなの。」
「え…?キザミくん…?」
唯はポカンとした。
ほかのメンバーが、概ねその辺りにいそうな名前ばかりなのに対して、その“キザミくん”だけは、明らかにどこか異彩を放っていたのだ。
「刻命 裕也くん。背が高くて、男前で女の子に人気なの。」
「変わった名前なのね。」
木崎(きざき)という名前ならたまに聞くが、刻命(きざみ)はまったくの初耳。
北は北海道、南は沖縄まで47都道府県捜し回っても、出会うのは至難の技を越えるだろう。
もっとも、彼のその名前の漢字がどのように書かれているのか、唯たちも哲志たちもこの段階では1ミリも知らなかった。
いや、むしろ知らないほうが大正解だろう。
刻命 ⇒ 命を刻む……。
なんともはや、おぞましさしか感じようがない。
一体、どこでどんなルーツをたどれば、こんな不気味な名字が生まれるのか。
「ところで…。ここに来るまで、死体に遭わなかったかい?」
「ああ…。かなり…口じゃ言えない、ひどいのもあったよ…。持田くんたちも、見たのか?」
「うん…。」
「ねえ…。」
「ん?」
「黒崎くんたち、一緒に探さない?」
「えっ…?」
「人数の多いほうが、なにかと安心だと思うし、それに探しやすいと思うわ。」
「琴吹さん…。」
「賛成!2人とも、一緒に探そうよ。」
「唯ちゃん…。」
「お姉ちゃん…。」
「2人で探すより、ずっと楽だよ。お互いのこととか、いっぱい知りたいしさ。」
「……黒崎くん。どうする…?」
「……うーん……。じゃ、お言葉に甘えるよ。」
「やったぁー!いいよね?さわちゃん先生。」
「そうね。一緒のほうが、探しやすいわね。」
「じゃ、行こう。」
哲志の声で、唯たち4人と由香、白檀2人の計8人はまた歩き出した。
歩いている間、いつの間にか軽音部の話題が飛び出した。
「へぇ…。軽音部…。」
「そうだよ。」
「どんな部なの?」
「一応、バンドなんだけど…。」
「それで、わたしが吹奏楽部かけ持ちで、顧問をやってるのよ。」
「今年から、新入部員であずにゃんが入ったんだよ。」
「あずにゃん?」
「中野 梓ちゃんよ。1年2組の子で、わたしたちと一緒にここに来てるんだけど…。」
「同じクラスなんです。中学校は、違うんですけど…。」
「憂ちゃんも、軽音部なの?」
「あ…違います。わたし、部活に入ってなくて…。」
「へぇ…。じゃ、帰宅部なんだ。」
「うち、4人なんですけど…。お父さんと、お母さんは仕事で海外に行ってて。」
「共働き?」
「あ…。お母さんは、お父さん1人じゃ心配だからって、一緒に行ってるだけなんです。」
「家事は、大丈夫なの?」
「はい。ほとんど、自分でやってるんです。」
「なんでもできて、すっごく働きものなんだよ。」
「えへへ…。」
「そっか…。それで、部活に…。」
そうおしゃべりしながら、しばらく歩いていると、
“ウゥウウウウウ……。”
「?」
「なんだ……?」
“ヴゥゥウウウウウゥゥゥ……。ヴァァウウウウウゥゥ……。”
どこからか、唸り声のような声がかすかに聞こえてきた。
中年の男のような、押し出す感じの低い声だ。
それから、
カラカラカラカラ……
と、なにかを引きずっているような音まで聞こえてきた。
そう、棒かなにかのような細いものの先端を、地面に当てて引きずって歩いているような…。
カラカラカラカラ……
“ヴゥウウウウウウウウ……。ヴァアアアアアアアァ……。”
「っ!?」
「な…なんなの…。」
「これは……。」
カラカラカラカラ……
“ヴゥゥウウウウウウウウ……。ヴゥァアアアアアアアアア……。”
唸り声と音は、徐々に大きくなっていき、狭い廊下にこもってくる。
哲志とみんなは思わず立ち止まり、辺りを見回した。
しかし目に見えるのは暗い廊下と、居並ぶ教室の扉や窓ばかり。
カラカラカラカラ……
“ヴァァアアアアウウウウウウゥゥゥ……。”
「お兄ちゃん……!」
「っ…。だ…誰だ!?誰か、いるのか!?」
“………………………………。”
哲志が声を上げると、とたんにそれに反応したかのように唸り声も音もピタッと止んだ。
だが不思議なことに、なにものかの“気配”はまだ残っている。
もう一度見回すが、風景はさっきと同じで、どこに誰の姿も見当たらなかった。
「……哲志くん……。」
「……今の、なに……?」
紬と唯が尋ねる。
「さあ……。」
「お兄ちゃん…。怖いよ…。」
「由香。大丈夫だ。もう、おさまったから……。……っ!」
由香をなだめながら、前方に目をやった哲志の目はそのまま釘づけになった。
あの赤いワンピースを着た、長髪の女の子が後ろ向きに立っている。
いつの間に現れたのか。
確かに、誰もいなかったはずなのに……。
「あ……。」
哲志が声をかけようとすると、その子はゆっくり歩き出し、またあっという間に闇に姿を消した。
「あ……あの子……。」
「紬ちゃん…知ってるの?」
「ええ…。さっき、哲志くんたちと会ってすぐに見たの。恵美ちゃんたちは…?」
「見てない…。今のが、初めて…。ねえ、黒崎くん?」
「うん……。」
黒崎も、首をたてに振る。
哲志はさらにもう一度前方を見たが、やはり誰もいないし、なにもなかった。
耳をすましてもあの不気味な声も、ひきずり音も聞こえてこない。
(っ……。なんなんだ……。)
忌々しく、心の中で舌打ちしながら、
「……とりあえず、もう少し行ってみよう。」
「うん……。」
「そうね。」
引っかかりを残しつつ、6人はまた歩き始めた。
もう何分歩いたことだろう。
かなり疲れてきたし、死体を見るのもそろそろもうたくさんだ。
それでもあざ笑うかのように、暗い廊下と死体がただ視界を通り過ぎていった。
その時……。
「……………………ネェ……………………。」
「…っ…!?」
哲志がビクッ!として、立ち止まる。
唯・憂・紬・さわ子、由香、白檀の2人も立ち止まって、前方に目をやった。
「………ナンヒェ………サッヒ………ニヘタフォ………?」
聞こえてきた、舌足らずな声。
そしてその声の主……。
ブルーのトレーナーに、水色のショートパンツをはいた、8才~9才くらいの男の子だった。
口から流れた血…。
小腸・大腸がはみ出し、血まみれになった腹部…。
姿を直接見るのはこれが初めてだったが、さっき哲志たちが目をつぶって走り抜けたそばに立っていた、あの男の子なのだ。
「ひいっ!」
「……っ!」
「あぁ……!」
由香が哲志に抱きつく。
ほかのメンバーも青ざめた顔で、その場に立ち尽くした。
(もしかして……さっきの……。)
哲志がそう直感したとき、
「………シハ…………カエヒテ………。」
「え……?」
「な…なに…?」
「カエヒテ………。」
和たちと澪たちが、それぞれ会った女の子たちと同様、“返して”と言っているらしい。
しかし、やはりなにを返せばいいのか見当もつかなかった。
そして……。
「…………カエヒテ………フレナイフォ…………?」
硬直し、言葉をまともに発せない哲志たちに、男の子の表情が豹変した。
ポケットに手を突っ込み、血に濡れた断ち切りばさみを取り出す。
「…………シャア………コロフィヒャウヒョ………?」
そう言うとはさみを前に突き出し、哲志たち目がけて突進してきたのである。