※この作品はR-18です。

けいおん!LinkCorpse(リンクコープス)   作:レパード☆アブデカ

16 / 16
遼くん!

「……ガェヒェエエエエエエェ~ッ………!」

 

 

カッ!と見開かれた目が、はさみの後ろから急速に迫る。

双方の距離は4メートル弱だったが、2秒もせずあっと言う間に残り3メートルに…。

 

 

「…っっ!!」

 

「あぁっ…!」

 

「逃げろ!!」

 

「わぁああああああっ!」

 

「きゃぁああああああ!」

 

 

 

哲志の大声に、6人は一斉に廊下の両側に分かれて、それぞれ斜め前方(廊下が狭いので)に間髪入れずに飛びのいた。

唯・憂・黒崎・さわ子は右側、哲志・由香・紬・恵美は左側に…。

 

はさみは唯と紬、黒崎と恵美が立っていた間のあたりを突き抜け、一瞬目標を失った男の子はそのままもんどり打って、前のめりに倒れる。

それを見たみんなは、猛然と廊下の前方へ後をも見ずに全力を上げて駆け出した。

 

男の子が起き上がって振り返ったときには、みんなはすでにその廊下の前方の闇へと遠ざかろうとしていた。

 

 

 

「……………ニガヒャニャイ………。ニガヒュモンクァ……………。」

 

 

 

走る。走る。

とにかく、ただ走りに走りまくった。

哲志と唯たちは、脇目もふらず暗い廊下を駆け、階段を夢中で上っていく。

 

 

タッタッタッタッタッタッタッタッ…………

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…っ!」

 

「ふぁ…!ふぁ…!ふぁ…!ふぁ…!」

 

 

「……マヒェ~……!マヒェ~……!」

 

 

男の子もはさみを突き出し、猛然と追いかけてきた。

距離間隔にしておよそ6メートル強。

その目は狂気に満ち満ちて、見境などつかなくなっているかのようだ。

 

 

「マヒェ~……!ガァェヒェ~…!」

 

 

「はぁ…はぁ…くそっ…。なんて、速いんだ…。」

 

「ふぁ…ふぁ…。ど…ど…どうしよう…!どうしよう…!ムギちゃん…!」

 

「あの子、一体…?」

 

「このままじゃ、追いつかれるわ…。」

 

「お姉ちゃん……!」

 

「とにかく、走るんだ!じゃないと、そこでおしまいだ…。」

 

「怖いよぉ!お兄ちゃん…!」

 

「いいから、走れ!由香…!走るんだ!」

 

 

そんな必死の8人をあざ笑うかのように、男の子はなおも猛然さを増して追いかけてくる。

 

 

「……ガァェヒェェ~…!シハ、ガァェヒェェ~ッッ……!」

 

 

そして、どれくらい行っただろうか。

男の子をある程度引き離し、ある廊下の中ほどに来たとき、8人は思わず、急ブレーキがかかったかのように立ち止まった。

 

 

「ああ……っ!」

 

「うそ……。」

 

「そんな…!」

 

 

目の前の床には、乱雑になぎ倒された机といすが数台、廊下を寸断している。

その向こうの床には長くて平たいなにかの板が、さらに向こうには大きな穴がポッカリ……。

 

確実に先へ進むためには、あの長くて平たい板を穴の間に渡さなければならないようだ。

あの板以外、穴を越える手段はどこにもない。

しかし手前のなぎ倒された机&いす数台が、それを阻んでしまって1ミリも身動きが取れない。

横にある教室の扉は、前後とも別の板でがっちり釘づけされて入れない。

 

 

「…………。」

 

 

8人の頭を、絶望が突き抜けていく。

 

ここには、和や澪たちのようにお守りもろうそくも存在しないし、できる要素もない。

あるとすれば、“偶然”が起きるのを待つしかないが、もちろんそんな余裕もない。

 

とすれば、待っているのは……。

 

 

 

「……ハァ……ハァ……。」

 

 

「!!」

 

 

 

かなり離れていた男の子が、再び4メートルほど手前に立っていた。

はさみを構える。

 

 

 

チャキ……

 

 

 

「………ヒィタァ………。」

 

 

「っ……。」

 

「くそっ…。」

 

「どうすれば…。」

 

 

 

「……カェヒェ……。……ガァエヒェェェェェ……!!」

 

 

「きゃぁああああ!!」

 

 

男の子のはさみがまさに至近距離まできた、その時だ。

 

 

 

 

ギュァアアアアアアアアアアアアアアアアアァ~ン!!

 

 

 

「……!!」

 

 

 

突然、耳をつんざく轟音が廊下中、いや校舎中を切り裂くように響き渡った。

同時に男の子の動きも、ピタッ!と止まる。

 

 

唯や哲志たちは、あわてて辺りを見回した。

しかし、今の音の発生源になるようなものはどこにもない。

 

数秒後、

 

 

 

ギュァアアアアアアァ~ン!!ギュゥウウウウウ~ン!!

ギョワァァァァァァ~!!ギェエエエエエエエエエエエェ~ン……!!

 

 

 

その音は不規則に、そして断続的に、うねるように廊下を駆け巡った。

なにかをひっかいているような、いや違うような……。

 

一体、どこから響いているのだろう。

男の子はしばらくの間、わけもわからないように狼狽していたが、やがて……。

 

 

 

「………ウ………ウゥ……。ウゥゥ……!!」

 

 

「!?」

 

 

「ウゥゥゥゥ……。アァァ……。アァァアアアアアァァ……!」

 

 

 

突然、頭を抱えて苦しみ悶え始めたのだ。

 

 

 

「アァァ……。アァァアァアアァァアアア…!アァァァァァアアアァアァァァァァアア!!」

 

 

ギュァアアアアアアァ~ン!!ギュゥウウウウウ~ン!!

ギャァアアアアアアアア~ン!

 

 

「アァァアァアアァァアアアアアアアアァァアア………!」

 

 

 

20秒ほど悶えて、男の子はスゥ~ッ……と姿を消し、同時に音も止まった。

 

男の子が消えてまもなく、入れ違いに空中になにかが現れた。

 

 

 

「……あれは……。」

 

「…………?…………ギー太………?」

 

「えっ………?」

 

 

空中に浮かぶそれは、1本のエレキギター。

 

“ギブソン・レスポール・スタンダード”……。

軽音部でギターを受け持つ唯が、いつも部活で使っている、あのギターなのだ。

哲志との話にも出てきた、“ギー太”と名づけてかわいがっている、唯一無二の相棒である。

 

しかも驚いたことに、エレキギターで音を出すためには、アンプと、ギターをつなぐコードが必要なのだが、目の前の“ギー太”にはそれらがなかった。

状況からして、今の音は間違いなくこのギー太から発せられたはずなのだが……。

 

 

 

「ギー太……?ねぇ、ギー太なの…?」

 

 

唯が声を発すると、ギー太はこれまたスゥ~ッ……と消えていった。

 

 

「あっ!待って!」

 

「唯ちゃん…。今のって……。」

 

 

哲志が言う。

 

 

「うん…。あれが、ギー太なんだ…。でも、どうしてここに……。」

 

「……ギー太……?」

 

 

ギー太を知らない白檀の2人は、ポカンとしている。

 

 

「あ、ごめんね……。ギー太ってね……。」

 

 

唯はギー太のことを、2人に1から1字1句説明した。

ついでに、仲間たちの楽器のことも。

 

 

「へぇ…。じゃ、初めて買った楽器なんだ。」

 

「そうだよ。わたし、軽音部の“軽音”のこと、よく知らなくって入っちゃってさ。」

 

「でも、唯ちゃんも飲み込みが早くてね。今じゃ、かなり上達したのよ。」

 

 

ちなみにほかのメンバーの楽器も、梓以外は入学・入部後に購入したもの。

 

ベースの澪は、“フェンダー・ジャパン・ジャズベース(レフト)”。

ドラムの律は、“ヤマハ・ヒップギグ(メローイエロー)”。

キーボードの紬は、“コルグ・トライトン・エクストリーム76”。

そして唯と同じギターの梓は、“フェンダー・ジャパン・ムスタング”である。

 

購入した場所は、学校から比較的近くの商店街にある楽器店。

購入に際しほかのメンバーはとりあえず不自由はなかったが、唯のギー太は目玉の飛び出るような価格で、とても入学したての女子高生の手が出せる代物ではなかった。

しかし、大企業の社長を父に持つお嬢さまの紬が、会社の傘下であるその楽器店の店員と交渉し、律のアシスト(?)もあってどうにか値下げを勝ち取ることに成功したのである。

 

今思えばバカげたような話で、もう少し安もののギターにすればそれで済んだのかもしれないが、店頭ですっかり一目惚れした唯に、ほかの選択肢は存在しなかったのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。