けいおん!LinkCorpse(リンクコープス) 作:レパード☆アブデカ
にらみ合っていても埒があかないので、澪はブレザーの生徒手帳を取り出した。
パスポートを連想させる赤い表紙には、重なった2枚の桜の花の上に、“高”の字が置かれた校章があしらわれている。
ケースのページを開き、学生証を見せた。
もちろん、例の切れ端はそこに入ったまま。
「あ、あの………。わたし、桜が丘高校2年1組の、秋山 澪っていうんだ……。こっちは、隣の2組の友だちで………。」
「お…おっす♪田井中 律、2年2組。澪とは、小学校から友だちだぜ。」
律も生徒手帳を取り出し、並んで2人に見せる。
「あ……。それじゃ、同い年なんだぁ♪よかったね。直美♪」
「うん…。あたし、如月学園高等部2年9組の中嶋 直美。で、同じクラスの篠原 世以子。」
2人もスカートのポケットから、生徒手帳を取り出した。
紺色の表紙のこちらの校章は、逆さにした盾のような枠内に枝についた梅の花とつぼみが描かれ、一番下のリボンに“KISARAGI”とある。
ケースの中にはやはりあのおまじないで使ったと思われる、あの切れ端が入っていた。
如月学園――――――――
今新聞で見た「天神小学校」同様、このあたりでは聞かない名前の学校だ。
学園、高等部、そして9組ということは、桜が丘高校よりさらに大きな規模の学校なのだろう。
制服が多少派手目なのも、そう考えればうなずける。
「如月…学園…?」
「どこの学校なんだ?」
「(※1)神奈川の、富士沢だよ。中高一貫の。」
「神奈川…。あたしたちと、一緒(※2)じゃん……。」
「ああ…。」
「富士沢って、海側のほうじゃん…。道理で、知らない学校だと思ったぜ。」
(※1 「ブックオブシャドウズ」本編であゆみが“K県”と発言し、その後ヨシエの地元の民家を訪ねた際に、“富士沢市から…。”と発言している。)
(※2 桜が丘市の実際のモデルは、神奈川県相模原市の一説があり、そこにアニメ制作元:京都アニメーションの本拠地である京都市街地の風景、学校のモデルとなる旧豊郷小学校を融合させたものと思われる。)
「えっ…。そっちも……?」
「奇遇だね。よかったじゃん。」
「うん…。で、そっちは何市?」
「学校そのまんまで、桜が丘市だけど…。」
「えっと…。秋山さんと、田井中さん……?」
「あ…。そんな、堅苦しくしなくても…。」
「“澪”と、“律”でいいぜ。」
「うん…。それじゃ、澪ちゃんと律ちゃん…。」
「律ちゃんたちも、あのおまじないしたの?」
世以子が聞いてくる。
「おまじない?そういや、その切れ端って………。」
「そう。雀ちゃんのためにね。」
「雀ちゃん?」
「あたしたちの、クラスメイトなの。鈴本 繭(すずもと まゆ)さんって……。」
直美の話では、こうだった。
その子…繭の父親が、転勤の多い仕事で、少し前に職場から次の転勤を告げられており、引っ越しなどの関係もあって、ちょうど学園祭だった今日が、学校にいられる最後の日だったのだと言う。
彼女の送別のため、おまじない好きの学級委員長が、転校しても離れ離れにならないようにと考案したのが、この“幸せのサチコさん”なのだそうだ。
「篠崎 あゆみ(しのざき あゆみ)ちゃん…。その子、おまじないとオカルトが好きでね……。」
「ネットで、見つけたらしいんだけど。」
「………同じじゃねーか………。」
「えっ……。じゃ、律ちゃんたちはどうしておまじないを………。」
「うん……。それなんだけどさ………。」
律は軽音部のこと、自分が部長であること、メンバーの結束を高めるためだったことを話した。
「へぇ……。そんな部活なんだ。」
「あたしとこの澪と、部の仲間の子3人……。それから同じ2年の生徒会の子と、1年の子2人、顧問の女の先生…さわちゃんって呼んでるんだけど、9人でやったんだ。」
「9人……。それも、あたしたちと一緒………。」
「偶然って、重なるもんだね。直美。」
「なあ、直美ちゃん。そっちは、誰と誰でやったんだ?クラスのみんなか?」
「うん。あたしと世以子と、篠崎さん・鈴本さん・哲志・岸沼・森繁・由香ちゃん、それから結衣先生…あたしたちの副担任なんだけど、その9人なの。」
「サトシ………?」
「持田 哲志(もちだ さとし)くん。直美の彼氏なんだけどね………♪」
「ちょ…。ちょっと、世以子!!」
「ほら、ほら。ムキになっちゃったら、ダメだよ。」
「あ、あのねぇ……。あぁ、ごめんね……。中等部から、5年間ずっと一緒のクラスなんだけど、どうも“腐れ縁”って感じでさ。世以子ったら、勝手に“彼氏”だなんて決めつけちゃって。いつも、それで茶化してくるんだもん。」
「ふ~ん………。」
「あ、“サトシ”ったら、うちの弟もなんだぜ。」
「えっ!?ほんと?律ちゃん。」
「ああ。ちょっと、生意気だけどな。」
律には、中学1年生の聡(さとし)という弟がいた。
律の言うようにちょっと生意気ではあるが、律とは大の仲良しで、澪とも親交があった。
「あたしも、弟2人と、妹1人なんだよ。母さんがいなくて、父さんだけだからあたしが面倒見てあげてるんだ。」
「えっ……?お母さん、いないのか……?」
「どうしたんだよ?」
驚く澪と律。
「世以子ん家、お母さんが家出しちゃってね…。お父さんは仕事で忙しいし、ずっと世以子1人で面倒見てるの。」
「そうなんだ……。」
「あたしん家も、お父さんがちょっと前に病気で死んじゃってさ……。今は、お母さんしかいないんだ。だから、そのあたりで気が合うっていうかね………。」
直美がそう言うと、澪と律は、お互いに顔を見合わせた。
自分たちには兄弟姉妹はともかく、ちゃんと父と母、2人のいるべき親がいる。
対する直美たちには、事情は違えどそれぞれ片方の親がいない。
それでも、お互いに残された家族を、いない親のぶんだけ大事にしている。
“当たり前”の言葉では片づけられない、家族のありがたみ、親のありがたみを、改めて感じずにはいられなかった。
「それで、おまじないが終わってから少しして、強い地震が起きたの。」
「で…おさまったと思ったら今度は、教室の床が崩れて、みんなその下に………。」
「気づいたら、世以子といっしょにさっきの教室(澪&律とは別)にいたの。」
「持田くんたちも、いなくなっちゃうし…窓を開けようとしたら、開かないし……。」
「なんだよ……。なにから、なにまであたしたちと一緒じゃねーか。」
「澪ちゃんたちも、みんなを探してるんでしょ?」
「ああ……。最初にわたしが気づいて、律はドアの近くで見つけたんだけど、ほかのみんなはどこにもいなかったんだ……。」
「それで、みんなを探しにここまで来たってわけ。」
「ふ~ん………。」
「あ………。」
「どうしたんだ?直美ちゃん。」
「澪ちゃん、その新聞………。」
直美は澪の右手の新聞に気がついた。
「ああ、これか………。さっき、教室を出たところでひろったんだけど。」
澪は丸めていた新聞を広げた。
「これ……。あたしたちも見た……。」
「そうなのか?」
「うん……。ただ、汚れたり破れたりしてて、ちゃんと読めなかったけど。」
「澪ちゃん。それ、見せて。」
「ああ。」
澪から新聞を受け取ると、2人は食い入るように読み始めた。
読み終えると、直美が険しげな表情を見せて、
「………この、天神小学校なんだけど………。」
「うん………。」
「あたしたちの如月学園が建つ前に、同じ場所に建ってた学校なの。」
「えっ…………。」
「直美ちゃんたちの学校の前にか?」
「うん。」
「じゃ、ここは今の直美たちの学校が建ってる場所ってことなのかよ?」
「そうなんだ……。」
「あゆみちゃんが、言ってたんだけどね…。学校でひどい事件があって、それからも悲惨な事件が続いちゃって、結局最後は、学びや教育の場にふさわしくないって、廃校になっちゃったらしいんだよね。それを壊して建ったのが、うちの学校なんだよ。」
「ひどい……事件?」
「うん。それ以上は、あたしも世以子もよく知らないんだけど………。」
ホラーに加え、この手の話が苦手な澪、多少顔を引きつらせながら、
「直美ちゃん…。そんなところに、新しく学校なんて建てて大丈夫だったのか……?」
「建て替えのときに、ちゃんとお祓いはしたみたいなんだけど………。」
「そうか………。でも、なんで“壊された”学校がここにあるんだ?」
「そうだよな。壊されちゃったんだから、こんな完全な形で残ってたりなんて、しないはずだろ?超次元的な力で、元通りになったなんてのも現実的にあり得ねーよ。」
「うん………。」
確かに、そうだ。
どんな理由にせよ、元の校舎は跡かたもなく取り払ったのだし、“存在しない”のが妥当。
自分たちは今、その“あるはずのない”校舎の中にいるのだ。
どうして?
まさか、あのおまじない……。
そして、その後に起きたあの地震……。
もしかすると、あれらとなにか関係でもあるのだろうか。
唯たちや、直美たちの仲間も、それで行方不明になったのではないのか?
その場に一時、沈黙の時が流れた。
「………直美ちゃん。世以子ちゃん。」
「ん?」
「ちょっと、協力してくれないか?」
「協力?」
「ああ。こうして話してても、前に進みやしない。そっちのみんなを一緒に探すから、唯たちを…わたしたち桜高の仲間を探すのを、手伝ってほしいんだ。」
「澪ちゃん………。」
「あたしも、賛成するぜ。同じ高校生、同じ学年どうし、助け合わなきゃ。力、貸してくれよ。」
「律ちゃんも………。」
「お願いだ。なんとか、協力してくれ。頼む!ほら、律も!」
「いってて……。そ、そんなつかむなよ………。」
律の頭をつかみながら、澪は2人に向かって、深々と頭を下げた。
「あ、澪ちゃん……。そんなに、頭下げなくても………。」
「………わかった。協力するよ…。澪ちゃんたちの仲間も、一緒に探す。律ちゃんの言うとおり、ここは助け合いましょ。」
直美の言葉に、目を輝かせる澪と律。
「………!ありがとう!」
「よっしゃ!心強い仲間ができたぜ。」
重苦しかった雰囲気は、ここでいっぺんに吹き飛んだ。
学校が違っても、学年と、謎の空間にいるのと、仲間を探しているのは同じ。
ここは多少多い人数でいたほうが、かえって効率もいいし心強くなるというものだ。
「あ……。澪ちゃんたちさ……。」
「どうした?世以子ちゃん。」
「澪ちゃんたちと、あたしたちのアドレスと電話番号、交換しない?」
「世以子……。」
「交換?」
「こんな機会だからさ。お互いのこと、もっと知り合おうよ。趣味とか、学校のこととかさ。」
「わたしは、いいけど…。律?いいか?」
「OK!それくらいだったら、いつでも交換するぜ。」
「よし!それじゃ、直美。携帯、出して。」
「うん。」
澪と律は、直美と世以子のアドレスと番号、直美と世以子は、澪と律のアドレスと番号をそれぞれ自分の携帯に登録した。
「もし如月のみんなが見つかったら、みんなにもアドレスと番号のこと、話しておくね。澪ちゃんたちもそのこと、みんな(桜高)に話してよ。」
「うん。」
「わかってるよ。」
この世以子、彼女は学校ではその底抜けの明るさと人懐っこさ、面倒見のよさを武器に、学年内にクラスを問わない、広い交友関係を築いていた。
そんな愛すべき性格から、澪&律だけでなく、今はここにいない、唯たちほかのみんなとも仲よくなりたいのだろう。
「それじゃ、行くか。」
「おう。で、どこに?」
「あ、そうだな。う~ん……。」
澪はちょっと考えて、
「直美ちゃん。さっきまでいた教室って、どこなんだ?」
「教室?」
「ほら、○年○組とか……。」
「えーっと………。確か、1年1組だったような………。」
「プレートに、書いてあったよ。」
「じゃあ、そこだな。律。行くぞ。」
「おう。」
直美たちに案内してもらい、澪と律は直美たちの来た方角、1年1組に向かった。
薄暗い廊下を進んでいくと、一番奥の右手にその教室はあった。
外れかかっていたが、“1-1”の黒いプレートが扉の上にかかっている。
澪が扉に手をかけ、引き開けた。
ガラガラガラガラ……。
開けた扉の先には、さっき澪たちがいたのと同じ、ほこりまみれのカビくさい教室。
穴の開いた床、乱雑に置かれ転がる机やいすまで、すべてが似たり寄ったりだ。
入るとすぐに、例の“天神小連絡通信”が壁に貼りつけてあった。
こちらは多少色あせているが、先ほどの澪たちの教室のように破れてはおらず、十分判読可能だ。
「あたしたち…さっき、これ読んだの。ねえ、世以子。」
「うん。」
澪と律は、先ほど読めなかったその文面を、食い入るように見つめた。
【天神小連絡通信】
校内で頻発する、生徒児童誘拐事件への対策を、先般の事例に基づき、各員速やかに執られたし。
校長 柳堀 隆峰
堅苦しげな文章で、そう書かれている。
「直美ちゃん。教室の中、見て回ったのか?」
「うん。だけど、その貼り紙以外はなにも………。」
澪は教室中を見回したが、直美の言うとおり特に目ぼしいものは見当たらない。
この貼り紙以外、ここに長居するだけの意味はなさそうだ。
「出よう。」
「うん。」
「ああ。」
4人は教室を出て、今度は律が扉を閉めた。
再び、暗い廊下を歩く。
歩いて行くと、階段が姿を現した。
階段は下りで、うっすらと踊り場が見えている。
どうやらここは2階で、1階とはこの階段でつながっているらしい。
澪を先頭に律、直美、世以子の順で階段を降り始めると、踊り場にほんのりと明かりが。
「……なんだ?」
澪が降りていくと、踊り場の隅、火のついた1本のろうそくがそこにあった。
それに気づいた直美、澪の隣に来て、
「あれ……。この、ろうそく………。」
「えっ?知ってるのか……?」
「うん………。なんか、見覚えが……。」
律と世以子も近づいてきて、そのろうそくをのぞき込んだ。
「誰が置いたんだ?こんなの。」
「直美……。これ……。」
「世以子も、見覚えあるでしょ?」
「うん……。」
直美も世以子も、このろうそくに心当たりがあるようだ。
しかし、今はまだ思い出せそうになさそうに見える。
「ほら。行こうぜ。」
「うん……。」
律の言葉で、4人はろうそくから離れ、階段を下っていく。
1階に到着し、最後尾の世以子が床に足をついたときだった。
ゴ……ゴ…ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ…………!!
「なっ、なんだ……。うわぁっ!」
「ひっ!?ま……また地震かよぉ!」
「きゃぁああああ!」
激しい揺れが、4人を襲った。
揺れは10数秒ほど続いて、すぐにおさまった。
「うぅ……。だ、大丈夫か……。」
「大丈夫……。」
「こっちも……。」
「律は?」
「あぁ……。大丈夫だぜ……。ったく、なんなんだよ……。もう、地震はごめんだって……。」
「と……とりあえず、行くぞ。」
「うん……。」
「あぁ……。」
4人はどうにか体勢を立て直し、1階の廊下を前方へ歩き出した。