※この作品はR-18です。

けいおん!LinkCorpse(リンクコープス)   作:レパード☆アブデカ

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人魂 (ひとだま)!

しばらくして、廊下を進む4人の前に現れたのは、目を疑うべき光景だった。

 

 

 

「っ………。これ………。」

 

「どうなってんだよ……。廊下………崩れてる………。」

 

 

 

廊下が、ない…………。

その先が、ないのだ。

 

正確には、澪たちの立っている先の廊下の床板が、大規模に抜け落ち、足の置き場がそっくりなくなってしまっているのだ。

足場として使えそうなものも見当たらないし、これではこれ以上先に進めそうにない。

完全に“立ち往生”だ。

 

 

「参ったな………。まさか、さっきの地震で………。」

 

「あっ……。澪ちゃん、玄関があるよ。」

 

 

世以子が指差した右手には、正面玄関の昇降口とげた箱があった。

幸い、こちらの床はどこも抜けてはいない。

子どもたちのものだったと思われる上履きが、何足かそこに転がっている。

 

 

「ちょっと、外に出てみよう。」

 

 

澪はげた箱の先にある、昇降口の扉の取っ手を引いてみた。

 

 

 

ガチャ…ガチャ…

 

 

しかし、開かない。

押してみてもだ。

 

 

「っ……。くっ……!開かない………。さっきの、教室の窓と一緒だ。」

 

「ほんとだ……。っ……くそっ……。開かねぇ……。」

 

 

ガチャ…ガチャ…

ガチャ…ガチャ…

ガチャ…

 

 

律も一緒になって、力任せに扉を引っ張ったり押したりしたが、状況は変わらない。

さっきの教室の窓と、ほとんど同じなのだ。

カギはかかっておらず、釘なども見当たらないのだが、そうではなく、空間になにかの力をもってガッチリと抑えつけられている、そんな感じなのである。

 

 

 

「ちくしょぉ……!開けよ!このっ!」

 

 

ガンッ!ガンッ!

ガンッ!

 

 

律は扉を蹴り飛ばした。

それでも扉は、その蹴りさえも受けつけず、ただその場に留まっている。

 

 

「くぅぅ………。」

 

「どうしよう…。これじゃ、出られないな………。」

 

「ねえ。1回、2階に戻ろうよ。先に行けないし、2階に戻ればなんとかなるかもしれないよ。」

 

「そうね。澪ちゃん、律ちゃん。戻ろう。」

 

「そうだな。律、行くぞ。」

 

「………っ………。わかったよ。」

 

 

4人は廊下を階段の方角へと戻り、再び2階へと上がり始めた。

踊り場の隅には、まだあのろうそくがほんのりと明かりを灯し続けている。

地震によって位置は少しずれていたが、倒れずに済んだようだ。

 

 

2階に戻り、先ほど入った1年1組の教室前を通過。

2組、3組と順番に通過して進んでいくと、突き当たりにもう1つの階段があった。

 

3階へと続く階段だ。

迷わずそのまま直進し、階段を上がって、踊り場に立ったのだが………。

 

 

 

「えっ!?」

 

「そんな……。」

 

「ここもかよ……。」

 

 

 

3階への入り口付近には、いすがうず高く積み上げられている。

教室で机と一緒にあった、あの小さな木のいすだ。

誰が、なんのために積んだのだろう。

 

どかせるようなスペースはなく、この先にもやはり行けそうにない。

そもそも下手にどかしたりしたら、いすが崩れ落ちてみんなが大ケガを負う危険さえあった。

 

 

 

「仕方ないな……。2階で、ほかの教室に行ってみよう。」

 

 

Uターンし、4人はまた階段を2階へ降りた。

 

降りてすぐ左に曲がったところに、教室がある。

向こうの扉、つまり前の扉の上に“2-1”(2年1組)の黒いプレートが見えた。

 

澪が後ろの扉を開けて入り、律たち3人もそれに続いた。

 

 

 

ガラガラガラガラ………。

 

 

 

相変わらずのほこりまみれなカビくさ教室だが、澪にせよ律にせよ、直美や世以子にせよ、3度目ともなるとさすがに慣れたもの。

4人は黒板のある前方へ、ゆっくりと足を進めた。

 

そしてあと少しで、黒板というところまで来たときだ。

 

 

 

「………!?」

 

 

 

澪がなにかを見つけ、立ち止まり、そちらを見る。

後続の3人も、次々に足を止めた。

 

 

それは………………。

澪にとっては見たくもないばかりか、見てはならないものだった。

 

 

 

「うっ…………。ひ………ひっ…………。」

 

「どうした?澪。」

 

「ひっ………。い………いっ………いっ…………!」

 

「澪ちゃん?」

 

「なにか、あったの?」

 

 

「いっ…………いぃ…っ…………!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ!!」

 

 

 

限界が来ていた。

律にバカにされまいと、怖さをぐっとこらえていた澪の気持ちのたがが、あっけなく外れた。

 

 

黒板の手前の窓際に、人の白骨が横たわっているのだ。

もう、死後かなりの時間が経過しているらしい。

律・直美・世以子の3人も、すぐさまその白骨死体の存在に気づいた。

 

 

「………っ!」

 

「あぁっ………!」

 

「きゃぁああああ……!」

 

 

世以子は悲鳴を上げ、直美はその場に凍りつく。

澪は澪で、しゃがみ込んで頭を抱え、ガタガタ震えるばかり。

律に至っては、当の澪をバカにする余裕もなかった。

 

 

「見えない…!見えない…!見えない!見えない!見えない!見えない………!」

 

 

澪は震えながら、うわごとのように繰り返す。

澪には怖いものを見たり聞いたりすると、“見えない”と“聞こえない”の言葉を連呼しながら、頭を抱え震えて座り込むという癖があった。

 

 

 

ボワッ…………。

 

 

 

白骨死体の上に、青白い火の玉が浮かび上がった。

 

 

「あ……あ……。あれ………。」

 

「ひっ………人魂………!」

 

「わぁぁああああああああああ!」

 

 

澪は頭を抱えたまま、さらに叫ぶ。

間髪入れず、白骨死体、いや人魂が話し始める。

ボソボソとした、抑揚のない声で、

 

 

 

「…………きみたち…………。」

 

「……っ……!」

 

「…………きみたちは……新しい、犠牲者か……?」

 

「ぎ、ぎ………犠牲者ぁ……?な……なんなんだよぉ………。」

 

「あ……あ……。あなたは………?」

 

 

直美が尋ねる。

 

 

「…………きみたちと、同じように………無理やり、ここに……監禁されたものだ。」

 

「か……監禁……!?」

 

「じゃ…じゃあ、あたしたち…閉じ込められたってことかよ!?」

 

「そうさ………。この学校は…きみたちのいた世界とは……切り離されて、存在している。」

 

「ど、どうして…そんなところに、あたしたち……。」

 

「そうだよ!ていうか、いきなり地震なんて………。」

 

「彼らが……何人も、何人も……この空間へ、送り込んでいるらしい……。なんの、罪もない……生きた人間を、次々とね。」

 

 

“彼ら”とは、誰のことなのだろう。

話が進むうちに、いつしか直美たちは怖さを忘れ、人魂の言葉に聞き入っていた。

頭を抱えて震えていた澪も、聞いているうち、少しづつ正気を取り戻し始めている。

 

 

 

「ここは……恐ろしい力を持つ、怨霊が作り出した……呪われた、異次元空間……。いくつもの、空間が重なり合う……閉じられた………“多重閉鎖空間”さ。」

 

「………………。」

 

「きみたちも、我々も………。運悪く、手にかかった………“誘拐の犠牲者”というわけだ。」

 

「タジュウ……。」

 

「ヘイサクウカン……?」

 

「誘拐の…犠牲者……?」

 

「そうだ………。きみたち、4人のほかにも……ここに、連れて来られたものが……何人か、いるみたいだね。」

 

 

 

4人のほかにも、何人か………。

澪たちの探す桜が丘高校の面々や、直美たちの探す如月学園の面々なのだろうか?

 

 

 

「み…みんなも、この学校のどこかにいるの??」

 

「ゆ、唯たちもか?」

 

「何人かは……わたしには、わからないが………。きみたちと…同時に、連れて来られた人間が、数名……この学校に……確かに、いる。」

 

「やった……!直美!みんなも、いっしょだよ……。持田くんも、きっといるよ…!」

 

「うん……。」

 

「澪……!唯たちも、絶対いるぜ…!」

 

「あ……。あぁ………。」

 

 

しかし人魂は、こうもつけ加えてきた。

 

 

「だが………会えない。」

 

「えっ…?」

 

「どういうことだよ?確かに、いるんだろ?」

 

「この学校内に、確かにいるが………存在している、次元が違う。」

 

「次元が……違う……?」

 

「再び、仲間と会いたければ……“同じ次元”に、存在する方法を……見つけなければならない。」

 

「存在する、方法って……?」

 

「そうすれば……。脱出は、できなくとも……せめて……一緒に、死ぬことぐらいは…できるかもしれないな………。」

 

 

安心しかけた4人の希望は、1分もせずに打ち砕かれた。

 

 

「マジかよ……。」

 

「そ、そんなぁ……。どうやったら、帰れるの……!?」

 

 

確かに脱出手段もそうだが、“彼ら”……恐ろしい力を持つ怨霊の話を、まだ聞いていない。

直美が、

 

 

「怨霊って……なにものなの……。どうして、こんなことを………?」

 

「わからない………。彼らの、目的も……ここから、抜け出す方法も………。」

 

「………………。」

 

「だが……がんばれるかもな。きみたちは……一緒の次元に、存在できただけ……まだ、幸運だ。頭が、4つあれば……発想も、広がる。」

 

「………………。」

 

「なんとか、脱出方法を見つけ出すんだ………わたしたちのように………ならないでくれ。」

 

 

 

そのときだった。

教室の前の扉が、突如開いた。

 

 

 

ガラガラガラガラ………。

 

 

「………?」

 

 

視線を向けたが、扉の向こうに人の姿はない。

 

 

 

「………うわぁ………!」

 

 

 

悲鳴を上げ、人魂がその姿を消した。

あわてて白骨死体を向き直った4人の視界に、人魂とは違う、青白いものが飛び込んできた。

 

 

 

「……………きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

4人の悲鳴が、教室中に響きわたる。

 

黒板と戸棚の間……。

誰かが、そこに座っている。

 

6才か7才くらいの、黒い長髪の女の子………。

肌は青白く、まるで生気が感じられない。

身にまとっている赤いワンピースは、ところどころ破れて、ボロボロだ。

 

明らかに、この世に存在する人の姿ではない。

 

 

「な…な…直美……。に、逃げよ……。早く……いやっ……!」

 

「う……うんっ……。」

 

 

直美と世以子は、あたふたと教室を飛び出していく。

 

 

「み、澪っ!あたしたちも、逃げるぞ!」

 

「ま……ま、待ってくれぇ……。待ってくれよぉ……!律ぅ~……!」

 

 

律と澪も、どうにか教室から飛び出した。

逃げる4人の後ろで、白骨死体が、

 

 

 

「………助けて………。助けて………。」

 

 

 

もちろん、4人の耳には届かない。

届いたとしても、戻る義理はないだろう。

教室の外で、直美と世以子は床にへたり込み、澪と律は壁にもたれて息を整えた。

 

 

「はぁ……。はぁ……。はぁ……。」

 

「けほ……げほっ……うぅ………。世以子、大丈夫………?」

 

「う………うん………。」

 

「おい……。澪……。なんなんだよ、あいつ………。女の子……幽霊みたいだったけど……。」

 

「はぁ……ふぅ……。だから、あたしに聞くなって………!」

 

「……ぼんやり…光ってたよね…。幽霊とか、なんとか…信じられないんだけど……。ほんとに、現実なの……?これ?」

 

「でも……。人魂とか、いたし……。あんなの、初めて見た……。」

 

「世以子、見たんだろ?」

 

「うん……。話もした……。」

 

「わけわかんねーぜ……。こんなの……。」

 

「でも…。ただ校舎を出れば、家に帰れるなんて……。簡単な状況じゃないのは、確かかもね。」

 

「そうだな………。」

 

 

これまで自分たちが考えていたのとは、まるで正反対の現実だった。

深刻な状況に、空気が重くなりかけたところで、世以子が、

 

 

「……だ……大丈夫だよぉ…!明るく、いこうよ。ね。ねぇ…。」

 

「世以子……。」

 

「世以子ちゃん……。」

 

「気にしてたって、なんにもならないしさ。澪ちゃんたちも、早く。ねっ♪」

 

 

世以子の明るさ、ポジティブさがにじみ出た言葉だった。

“本当の友情”が育ちにくいと言われる昨今、こんなに友だち思いな子は数えるくらいだろう。

 

律と澪、

 

 

「……そうだな。世以子の言うとおり、このままいたって、唯たちが見つかるわけじゃねーし。な、澪?」

 

「……それじゃ、行くか。」

 

「うん。行こう。」

 

 

 

ここでちょうど息が整い、4人は再び歩きだした。

友の行方と、この異空間からの脱出方法を探るために…………。

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