けいおん!LinkCorpse(リンクコープス) 作:レパード☆アブデカ
しばらくして、廊下を進む4人の前に現れたのは、目を疑うべき光景だった。
「っ………。これ………。」
「どうなってんだよ……。廊下………崩れてる………。」
廊下が、ない…………。
その先が、ないのだ。
正確には、澪たちの立っている先の廊下の床板が、大規模に抜け落ち、足の置き場がそっくりなくなってしまっているのだ。
足場として使えそうなものも見当たらないし、これではこれ以上先に進めそうにない。
完全に“立ち往生”だ。
「参ったな………。まさか、さっきの地震で………。」
「あっ……。澪ちゃん、玄関があるよ。」
世以子が指差した右手には、正面玄関の昇降口とげた箱があった。
幸い、こちらの床はどこも抜けてはいない。
子どもたちのものだったと思われる上履きが、何足かそこに転がっている。
「ちょっと、外に出てみよう。」
澪はげた箱の先にある、昇降口の扉の取っ手を引いてみた。
ガチャ…ガチャ…
しかし、開かない。
押してみてもだ。
「っ……。くっ……!開かない………。さっきの、教室の窓と一緒だ。」
「ほんとだ……。っ……くそっ……。開かねぇ……。」
ガチャ…ガチャ…
ガチャ…ガチャ…
ガチャ…
律も一緒になって、力任せに扉を引っ張ったり押したりしたが、状況は変わらない。
さっきの教室の窓と、ほとんど同じなのだ。
カギはかかっておらず、釘なども見当たらないのだが、そうではなく、空間になにかの力をもってガッチリと抑えつけられている、そんな感じなのである。
「ちくしょぉ……!開けよ!このっ!」
ガンッ!ガンッ!
ガンッ!
律は扉を蹴り飛ばした。
それでも扉は、その蹴りさえも受けつけず、ただその場に留まっている。
「くぅぅ………。」
「どうしよう…。これじゃ、出られないな………。」
「ねえ。1回、2階に戻ろうよ。先に行けないし、2階に戻ればなんとかなるかもしれないよ。」
「そうね。澪ちゃん、律ちゃん。戻ろう。」
「そうだな。律、行くぞ。」
「………っ………。わかったよ。」
4人は廊下を階段の方角へと戻り、再び2階へと上がり始めた。
踊り場の隅には、まだあのろうそくがほんのりと明かりを灯し続けている。
地震によって位置は少しずれていたが、倒れずに済んだようだ。
2階に戻り、先ほど入った1年1組の教室前を通過。
2組、3組と順番に通過して進んでいくと、突き当たりにもう1つの階段があった。
3階へと続く階段だ。
迷わずそのまま直進し、階段を上がって、踊り場に立ったのだが………。
「えっ!?」
「そんな……。」
「ここもかよ……。」
3階への入り口付近には、いすがうず高く積み上げられている。
教室で机と一緒にあった、あの小さな木のいすだ。
誰が、なんのために積んだのだろう。
どかせるようなスペースはなく、この先にもやはり行けそうにない。
そもそも下手にどかしたりしたら、いすが崩れ落ちてみんなが大ケガを負う危険さえあった。
「仕方ないな……。2階で、ほかの教室に行ってみよう。」
Uターンし、4人はまた階段を2階へ降りた。
降りてすぐ左に曲がったところに、教室がある。
向こうの扉、つまり前の扉の上に“2-1”(2年1組)の黒いプレートが見えた。
澪が後ろの扉を開けて入り、律たち3人もそれに続いた。
ガラガラガラガラ………。
相変わらずのほこりまみれなカビくさ教室だが、澪にせよ律にせよ、直美や世以子にせよ、3度目ともなるとさすがに慣れたもの。
4人は黒板のある前方へ、ゆっくりと足を進めた。
そしてあと少しで、黒板というところまで来たときだ。
「………!?」
澪がなにかを見つけ、立ち止まり、そちらを見る。
後続の3人も、次々に足を止めた。
それは………………。
澪にとっては見たくもないばかりか、見てはならないものだった。
「うっ…………。ひ………ひっ…………。」
「どうした?澪。」
「ひっ………。い………いっ………いっ…………!」
「澪ちゃん?」
「なにか、あったの?」
「いっ…………いぃ…っ…………!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ!!」
限界が来ていた。
律にバカにされまいと、怖さをぐっとこらえていた澪の気持ちのたがが、あっけなく外れた。
黒板の手前の窓際に、人の白骨が横たわっているのだ。
もう、死後かなりの時間が経過しているらしい。
律・直美・世以子の3人も、すぐさまその白骨死体の存在に気づいた。
「………っ!」
「あぁっ………!」
「きゃぁああああ……!」
世以子は悲鳴を上げ、直美はその場に凍りつく。
澪は澪で、しゃがみ込んで頭を抱え、ガタガタ震えるばかり。
律に至っては、当の澪をバカにする余裕もなかった。
「見えない…!見えない…!見えない!見えない!見えない!見えない………!」
澪は震えながら、うわごとのように繰り返す。
澪には怖いものを見たり聞いたりすると、“見えない”と“聞こえない”の言葉を連呼しながら、頭を抱え震えて座り込むという癖があった。
ボワッ…………。
白骨死体の上に、青白い火の玉が浮かび上がった。
「あ……あ……。あれ………。」
「ひっ………人魂………!」
「わぁぁああああああああああ!」
澪は頭を抱えたまま、さらに叫ぶ。
間髪入れず、白骨死体、いや人魂が話し始める。
ボソボソとした、抑揚のない声で、
「…………きみたち…………。」
「……っ……!」
「…………きみたちは……新しい、犠牲者か……?」
「ぎ、ぎ………犠牲者ぁ……?な……なんなんだよぉ………。」
「あ……あ……。あなたは………?」
直美が尋ねる。
「…………きみたちと、同じように………無理やり、ここに……監禁されたものだ。」
「か……監禁……!?」
「じゃ…じゃあ、あたしたち…閉じ込められたってことかよ!?」
「そうさ………。この学校は…きみたちのいた世界とは……切り離されて、存在している。」
「ど、どうして…そんなところに、あたしたち……。」
「そうだよ!ていうか、いきなり地震なんて………。」
「彼らが……何人も、何人も……この空間へ、送り込んでいるらしい……。なんの、罪もない……生きた人間を、次々とね。」
“彼ら”とは、誰のことなのだろう。
話が進むうちに、いつしか直美たちは怖さを忘れ、人魂の言葉に聞き入っていた。
頭を抱えて震えていた澪も、聞いているうち、少しづつ正気を取り戻し始めている。
「ここは……恐ろしい力を持つ、怨霊が作り出した……呪われた、異次元空間……。いくつもの、空間が重なり合う……閉じられた………“多重閉鎖空間”さ。」
「………………。」
「きみたちも、我々も………。運悪く、手にかかった………“誘拐の犠牲者”というわけだ。」
「タジュウ……。」
「ヘイサクウカン……?」
「誘拐の…犠牲者……?」
「そうだ………。きみたち、4人のほかにも……ここに、連れて来られたものが……何人か、いるみたいだね。」
4人のほかにも、何人か………。
澪たちの探す桜が丘高校の面々や、直美たちの探す如月学園の面々なのだろうか?
「み…みんなも、この学校のどこかにいるの??」
「ゆ、唯たちもか?」
「何人かは……わたしには、わからないが………。きみたちと…同時に、連れて来られた人間が、数名……この学校に……確かに、いる。」
「やった……!直美!みんなも、いっしょだよ……。持田くんも、きっといるよ…!」
「うん……。」
「澪……!唯たちも、絶対いるぜ…!」
「あ……。あぁ………。」
しかし人魂は、こうもつけ加えてきた。
「だが………会えない。」
「えっ…?」
「どういうことだよ?確かに、いるんだろ?」
「この学校内に、確かにいるが………存在している、次元が違う。」
「次元が……違う……?」
「再び、仲間と会いたければ……“同じ次元”に、存在する方法を……見つけなければならない。」
「存在する、方法って……?」
「そうすれば……。脱出は、できなくとも……せめて……一緒に、死ぬことぐらいは…できるかもしれないな………。」
安心しかけた4人の希望は、1分もせずに打ち砕かれた。
「マジかよ……。」
「そ、そんなぁ……。どうやったら、帰れるの……!?」
確かに脱出手段もそうだが、“彼ら”……恐ろしい力を持つ怨霊の話を、まだ聞いていない。
直美が、
「怨霊って……なにものなの……。どうして、こんなことを………?」
「わからない………。彼らの、目的も……ここから、抜け出す方法も………。」
「………………。」
「だが……がんばれるかもな。きみたちは……一緒の次元に、存在できただけ……まだ、幸運だ。頭が、4つあれば……発想も、広がる。」
「………………。」
「なんとか、脱出方法を見つけ出すんだ………わたしたちのように………ならないでくれ。」
そのときだった。
教室の前の扉が、突如開いた。
ガラガラガラガラ………。
「………?」
視線を向けたが、扉の向こうに人の姿はない。
「………うわぁ………!」
悲鳴を上げ、人魂がその姿を消した。
あわてて白骨死体を向き直った4人の視界に、人魂とは違う、青白いものが飛び込んできた。
「……………きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
4人の悲鳴が、教室中に響きわたる。
黒板と戸棚の間……。
誰かが、そこに座っている。
6才か7才くらいの、黒い長髪の女の子………。
肌は青白く、まるで生気が感じられない。
身にまとっている赤いワンピースは、ところどころ破れて、ボロボロだ。
明らかに、この世に存在する人の姿ではない。
「な…な…直美……。に、逃げよ……。早く……いやっ……!」
「う……うんっ……。」
直美と世以子は、あたふたと教室を飛び出していく。
「み、澪っ!あたしたちも、逃げるぞ!」
「ま……ま、待ってくれぇ……。待ってくれよぉ……!律ぅ~……!」
律と澪も、どうにか教室から飛び出した。
逃げる4人の後ろで、白骨死体が、
「………助けて………。助けて………。」
もちろん、4人の耳には届かない。
届いたとしても、戻る義理はないだろう。
教室の外で、直美と世以子は床にへたり込み、澪と律は壁にもたれて息を整えた。
「はぁ……。はぁ……。はぁ……。」
「けほ……げほっ……うぅ………。世以子、大丈夫………?」
「う………うん………。」
「おい……。澪……。なんなんだよ、あいつ………。女の子……幽霊みたいだったけど……。」
「はぁ……ふぅ……。だから、あたしに聞くなって………!」
「……ぼんやり…光ってたよね…。幽霊とか、なんとか…信じられないんだけど……。ほんとに、現実なの……?これ?」
「でも……。人魂とか、いたし……。あんなの、初めて見た……。」
「世以子、見たんだろ?」
「うん……。話もした……。」
「わけわかんねーぜ……。こんなの……。」
「でも…。ただ校舎を出れば、家に帰れるなんて……。簡単な状況じゃないのは、確かかもね。」
「そうだな………。」
これまで自分たちが考えていたのとは、まるで正反対の現実だった。
深刻な状況に、空気が重くなりかけたところで、世以子が、
「……だ……大丈夫だよぉ…!明るく、いこうよ。ね。ねぇ…。」
「世以子……。」
「世以子ちゃん……。」
「気にしてたって、なんにもならないしさ。澪ちゃんたちも、早く。ねっ♪」
世以子の明るさ、ポジティブさがにじみ出た言葉だった。
“本当の友情”が育ちにくいと言われる昨今、こんなに友だち思いな子は数えるくらいだろう。
律と澪、
「……そうだな。世以子の言うとおり、このままいたって、唯たちが見つかるわけじゃねーし。な、澪?」
「……それじゃ、行くか。」
「うん。行こう。」
ここでちょうど息が整い、4人は再び歩きだした。
友の行方と、この異空間からの脱出方法を探るために…………。