けいおん!LinkCorpse(リンクコープス) 作:レパード☆アブデカ
一方、こちら………。
ちょっと時を戻し、澪と律が目を覚まして教室内を見回していたのと、ほぼ同じころ。
「……………ん………。あれ?」
唯も澪たちと同じように、古い机やいすの散らばる薄暗い教室で目を覚ました。
もちろん、澪たちとは別の教室だ。
「………ここ………。どこ………?準備室じゃないのかな?」
見てのとおり、さっきまでの明るい準備室ではない。
そして、申し上げるまでもなくカビくさいし、床には穴。
隣を見ると、憂が横たわっている。
ほかのみんなは………?
「憂…?憂…?起きて…起きてよ…。憂……。」
「………う………ぅん………。」
声をかけると、憂も目を覚ました。
「お姉ちゃん……?ここ………。」
「わかんないよ……。みんな、どこ行っちゃったのかな………。澪ちゃんも、律ちゃんも……。」
すると、
「う………。うぅ………。」
「あ………。ムギちゃん!」
「紬さん……。」
「唯ちゃん…憂ちゃん……。」
教室の後方に倒れていた紬が、会話に反応して目を覚まし、起き上がった。
「大丈夫ですか?」
「うん………。それより、ここはどこかしら………。」
紬も状況を把握できず、困惑している。
「ムギちゃん……。みんな、どうしちゃったんだろ………。」
「さぁ………。床が崩れてから、その後の記憶がないし……。」
「携帯で、かけてみようよ!澪ちゃんとか、律ちゃんたちにさ。」
「そうね。」
「あたしも……。梓ちゃんに、純ちゃんが心配だし……。」
唯がポケットの携帯を取り出し、拡げる。
これも澪たち同様、画面左上には無情なる“圏外”の文字。
憂や紬の携帯も同じだ。
「ダメだわ……。これじゃ、どうしようもない……。困ったわね………。」
「どうしよう……ムギちゃん……。」
「お姉ちゃん……。」
「落ち着いて。まず、窓を開けてみましょう。」
携帯をしまい、紬は窓のところへ。
しかし、当然のごとく窓も開かない。
唯や憂が2人で、どこの窓をどう引っ張ってみても、びくともしなかった。
「はぁ……。はぁ……。はぁ……。」
「………窓も、開かないなんて………。どうなってるのかしら………。」
「ムギちゃん………。」
「仕方ないわね。教室を、出ましょう。」
いつものティーセットやお菓子があれば、それでなんとか気を落ち着かせようということになったのかもしれないが、あいにくここにはそれがない。
取りに戻れたとしても、さっきの地震でほとんど床に落ちて、使いものにならなくなってしまっていることだろう。
ないそでは振れない。
現状、3人に残された手段は、とりあえず教室を出ることだけであった。
ガラガラガラガラ………。
唯が教室前方の扉を開けて、廊下に出る。
憂と紬も、続いて出てきた。
この教室の壁には、例の“天神小連絡通信”は貼りつけられておらず、“天神町奉知新聞”も落ちてはいなかったので、唯たちはその内容を目にすることなく、廊下を歩き始めた。
すると前方に、誰か倒れているのが見えた。
「……?あれは……。」
「さわちゃん先生………?」
廊下の左端、教室の扉に寄りかかるようにして、さわ子が横たわっている。
見た感じ、ケガなどはしていない。
「先生?さわちゃん先生!」
「先生!」
「さわ子先生!」
3人は口々に声をかけた。
「………っ………。う~ん………あら………。唯ちゃん……?ムギちゃん……憂ちゃんも……。」
「さわちゃん先生!大丈夫?」
「ええ…なんとか……。それより、どうしちゃったのかしら……。それに、ここって……。」
さわ子は準備室で、職員室に地震を知らせに行こうとしていた自分を思い出した。
その直後、唯の手元から床が割れて、自分もみんなもそこに落ちていったのである。
もちろん、その後のことは記憶にない。
「先生……。澪ちゃんたち、いないんです……。」
「携帯も、圏外でつながんないし……。」
「えっ……?どれ………?」
さわ子はスーツのポケットの携帯を取り出したが、紬たちの言うとおりだった。
「ほんと……。おかしいわね……。」
「窓も開かないし……。どうなってるんでしょう………。」
「開かない……?カギは、見たの?」
「はい……。でも、カギなんてどこにも………。ちゃんと、見たんです。」
誰からも好かれる憂の性格を知っているさわ子、その言葉にうそ偽りはないと思った。
「そう……。」
さわ子は首をかしげた。
「先生。とりあえず、歩きましょう。歩けば、なにか手がかりが見つかると思いますし……。」
紬はさわ子にそううながした。
「いこうよ!さわちゃん先生。」
「……そうね。こんなことしてるの、時間の浪費だし……。行きましょう。」
さわ子は立ち上がり、唯たちと一緒に暗い廊下を歩き出した。
歩いていると、すぐ近くの教室から声が聞こえた。
2人の話し声のようだ。
「……由香……。大丈夫か?」
「うん……。お兄ちゃん………。」
中をのぞくと、Yシャツにグレーの学生ズボンをはいた17~18才くらいの少年、おかっぱ頭にピンクのヘアバンドをつけ、幼稚園の園服のような青いワンピースを着た、10~11才くらいの女の子が教卓の前に立っている。
少年のYシャツは、ボタンが2つ開いて、青いアンダーシャツが見えており、右胸には名札らしきものをつけている。
しかしこの名札、どこかで見覚えが………。
「……誰だろう?」 ⇒ 唯
「ちょっと、聞いてみましょう。」
紬は扉の前に立ち、軽く2回ノックした。
コン、コン………
「!?」
「?」
教室の中の2人は、突然扉をノックされ、驚いてこちらを振り向いた。
「ごめんなさい……。失礼します。」
ガラガラガラガラ………。
紬が扉を開け、唯と憂、さわ子も顔を出した。
「……き、きみたちは…………?」
「驚かせちゃったみたいね。わたしたち、桜が丘高校の生徒なんだけど………。」
「……桜が丘………?」
「神奈川県の女子高なの。あなたは、どこの県の?」
「お…同じ(神奈川)だけど…。」
「わたし、2年2組の琴吹 紬。こっちは、同じクラスの平沢 唯ちゃんと、妹で1年生の平沢 憂ちゃん。それから、山中 さわ子先生。」
「2年2組………。ああ、よかった……。オレは、如月学園高等部2年9組の持田 哲志っていうんだ。こっちは、妹の由香。中等部なんだ。」
「は……初めまして。中等部2年3組の、持田 由香です。」
由香は初々しく、ぺこりと頭を下げた。
唯が、
「わっ♪かわいい~♪」
「えへへ………。」
中等部、そして2年生というのはなんとも意外だった。
さっき部屋の外で見たこの子の姿は、明らかに10~11才にしか見えなかったのだから。
それを強調する園服のようなワンピース、これが学校指定の中学生制服とすると、ちょっと趣味が悪いように見えなくもないが………。
「あっ…。えーと、平沢さんと、琴吹さん……?」
「…あ、唯でいいよ。」
「わたしも、紬でいいわ。」
「え…。あ、あぁ……。」
「哲志くんたちは、どうしてここに?」
「あぁ……。それなんだけど………。」
紬に聞かれた哲志は、例のおまじないをクラスの仲間や由香、そして副担任の女の先生と一緒に行ったこと、気がついたら由香と2人でここにいたことを話した。
「実は、わたしたちもそれを………。」
「9人でやったんだよ。ここにいるさわちゃんも一緒に。」
「9人……同じだ………。先生(さわ子)もいるっていうし………。」
紬はさらに、軽音部のこと、部長の律のこと、結束を深めるためのおまじないだったことを残らず2人に話した。
「へぇ……。そんな部活なのか……。」
「部員がいなくて、最初は澪ちゃんと律ちゃん、わたしと唯ちゃんの4人だったの。そこに、今年から梓ちゃんが来て、5人になったのよ。」
「梓ちゃん……?」
「中野 梓ちゃん。1年生の子なの。この憂ちゃんと同じクラスよ。1人だけだけど、今年の新入部員なの。」
「そう。“あずにゃん”って呼んでるんだよ。」
(え……。あずにゃん………?)
「東中から入学した子なんです。同じクラスになって、仲良くなって……。」
「……それで、ほかに誰も入らなかったの?」
「一応、勧誘はしたんだけど……。うちの部、ちょっと特殊で………。」
「ちょ、ちょっと、ムギちゃん……。“特殊”は、ないでしょ?」
「特殊って?」
「ごめんなさい……。そこは、ちょっとお話しづらいの………。」
「そうか………。」
いくらなんでも、活動の大半をお茶やお菓子をたしなんで過ごしているなどとは言いづらい。
紬はなんとか話をごまかした。
そのとき、
ボウッ………。
「っ……?」
「!?」
「きゃっ…!」
「うぅ……?」
青白い人魂が、教卓の上に現れる。
さっき澪たちの前に現れたのとは、違う人物のもののようだ。
今度は、抑揚もはっきりしている。
「きみたち………。」
人魂は、澪たちが聞いたのとほとんど同じ話を、唯や哲志たちに聞かせた。
みんなもようやく、この異様な学び舎の現実を理解し始めた。
「多重閉鎖空間………。」
「そんな、恐ろしいところなの……?」
「ここに、連れてこられた生命エネルギーは……全部で、18個だ…。18の魂が、さっき入ってきた。」
「……18個……。」
「オレに、由香に……直美、良樹、篠崎、結衣先生、篠原、鈴本に、森繁………。あの場にいた、全員か。」
「あたしと、憂と……。律ちゃんに、澪ちゃん、ムギちゃん、あずにゃん、純ちゃん、和ちゃん、さわちゃん先生もなんだよね?」
「そうだ。」
「くそっ……。」
「お姉ちゃんたち、みんな……。この学校に、いるの……ですか?」
「……いや。今、言ったように……多重次元に、散り散りになっている。同じ校舎であって、違う場所にいるから…全員と会うのは、難しいと思う。下手に、逆らって……この学校の怒りに触れると、どんな目に遭うか………。」
人魂の言葉に、沈黙と重苦しい空気が走った。
しかしそれを破って、哲志が敢然と言い放った。
「………忠告は、ありがたいが………。オレたちは…絶対に、全員そろって……ここを、脱出してみせる。」
「お兄ちゃん……。」
「哲志さん……。」
「みんな、いいやつなのに…。こんな目に、遭わされる理由がない……。理不尽な、蹂躙(じゅうりん)には…絶対に、屈しない!」
熱弁する哲志の目には、口先だけではない、本気の炎がメラメラと燃えていた。
男の気持ちは目にあるとどこかで聞いたが、まさにその見本のようなものだ。
「……今時、珍しいな。……その心、どうか…なくさずにいてくれ。……誰も、死なせたくないという気持ち……。どんな、現実が待っていようとも…その心を、最後まで保ち続けられれば……。全員を、救うことはできなくとも……運命を少しでも……いい方へ導くことは……できるかもしれない。……わたしたちのように…ならないでくれ。」
人魂が言い終わった、その直後。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガッ…………!
「………うっ!」
「わぁっ………。」
「きゃぁ!」
「あぁっ………!」
激しい揺れが、6人を襲う。
「またか………。今度も、9個だ………。これで、27個………。」
人魂はそう言って、姿を消した。
それと同時に、揺れもおさまった。
「はぁ……。はぁ……。」
「なによ、これ………。」
「お兄ちゃん……。怖い………。」
「由香。大丈夫だ。心配するな。」
哲志は由香を抱きしめる。
「………ねぇ。」
「なに?唯ちゃん。」
「今の……。“またか”…って言ってたよね。」
「そうね。」
「なにが、“またか”なの?」
「たぶん……。オレたちと、唯ちゃんたち以外に、また誰か連れてこられたんだ。“今度も9個”とか、“これで27個”って言ってたし………。」
「………お兄ちゃん………。」
「ん?どうした。」
「……学校の、怒りにって……。なんのこと………?」
「……なんだろうな。……この校舎自体に、“意思”があるとでもいうのか……?」
「意思?」
「ああ………。」
じっくり考える哲志だったが、どうも腑に落ちない。
もちろん由香や、唯たち4人もだ。
この空間のあらましはほぼわかったが、それ以上がどうしてもつかめないのだ。
しかし、ただじっとしているのも心苦しい。
「………よし。とにかく、先生やみんなを探そう。由香。」
「うん………。」
「唯ちゃんたちも………。」
「うん。」
「そうしましょう。」
「協力するわ。」
「行こう。お姉ちゃん。」