※この作品はR-18です。

けいおん!LinkCorpse(リンクコープス)   作:レパード☆アブデカ

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保健室!

哲志の判断で、6人は上がってきたばかりの階段を2階へと下りた。

そして、保健室への廊下を反対方向に歩き始めた。

 

 

 

「哲志くん。本当に、保健室のカギなの?」

 

「保健室に、なにかあるの?」

 

「わからない。でも、“カギで”開かなかったのはあの部屋だけ(理科室は多重次元に押さえられている)なんだ。こっちの廊下は、床が抜けてて行けないし、あそこに秘密や手がかりが隠されてるとしか思えないよ。」

 

 

 

話している間に、理科室を過ぎ、件の保健室の扉の前に差しかかった。

この部屋の中に、哲志の言っているような、どんな秘密や手がかりがあるというのか。

 

哲志はズボンのポケットを探り、カギを取り出す。

すべては、神ならぬこのカギのみぞ知ることだ。

 

 

「開けてみよう。」

 

「うん。」

 

 

哲志はカギ穴にカギを差し込み、ゆっくりと右に回した。

 

 

 

カク……

カチャッ…………

 

 

 

「………………。」

 

「開いた……………。」

 

「思ったとおりだ……。間違いなかったな…。この部屋だ。」

 

 

カギを戻して引き抜き、哲志は扉を開ける。

 

 

 

ガラ…ガラガラガラガラガラ…………。

 

 

 

「入るぞ。」

 

 

 

中に入ると、カビくささに混じって、消毒液のかすかな香りが漂ってきた。

部屋の中央に、もう火が灯ることもなければ、灯すものもいなくなった古めかしいまきストーブが置かれ、周りには保健の先生が座って、子どもたちの手当てや悩みの相談に当たっていたであろう机と、複数の書類が入った本棚に、電気スタンド、薬品を保管しておく棚、2つのベッド、そしてベッドを覆うカーテンが所狭しと並べられ、時代は違えど、ここが“保健室”という特別なる空間であることをこちらに誇示しているようだ。

机と薬品棚の間の壁には、少し変色しているが、手洗い励行を促す貼り紙が貼られている。

 

 

 

【今月の目標】

 

石けんで手を洗おう

 

 

 

この貼り紙が、学校として最後に貼られたものだろう。

校舎が取り壊されるその日まで、ずっとここに貼りつけられていたのか。

学校が失われさえしなければ、この後で新たな目標がここに貼り出され、訪れた子どもたちの目に留まっていたに違いない。

そんな物悲しさをも醸し出す、“当たり前すぎる”標語だった。

 

 

哲志は部屋を一通り見回して、言った。

 

 

「みんなで手分けして、部屋の中を調べてみよう。」

 

「うん。」

 

「そうね。」

 

「オレは由香と探すから、唯ちゃんは憂ちゃんと、紬ちゃんはさわ子先生と……。」

 

「わかった。憂、探そう。」

 

「うん。」

 

 

さっそく、探索が始まった。

哲志と由香、唯と憂、紬とさわ子の3班に分かれ、室内のいろいろなものを見て回る。

ストーブ、排水口、机の引き出し、本棚、薬品棚と、手がかりのありかとして考え得る場所という場所を、すみずみまで探った。

 

しかし………。

 

 

 

「おかしいな……。」

 

「なにも、ないよ……。お兄ちゃん…。」

 

「唯ちゃんたちは?」

 

「ううん…。こっちも。」 

 

「こっちも、なにもないわ。」

 

「なにかの薬品のビンはあったんだけど……。手がかりにはならなさそうね。」

 

 

探ること5分あまり、誰1人として、明確な手がかりを発見することができない。

次元の力でなしに、ここだけ“カギによって”開かないとすれば、十中八九なにかの手がかりが得られていいはずなのだ。

 

 

「弱ったな………。」

 

「ねえ、哲志くん。ちょっと、休もうよ。ベッドもあるし。」

 

 

唯は片隅に置かれた、2つのベッドを指差した。

ここまでかなり歩いてきたし、さんざん探し回ったので気分転換をしたかったのだ。

 

 

「ん……。ああ。そうだな。みんな、ちょっと、休もう。」

 

「そうね。」

 

「休みましょう。疲れてきたし……。」

 

 

唯と哲志が上履きを脱いで、ベッドに横になる。

憂と由香は、それぞれの頭上と足元に。

さわ子は机のいす、紬は近くに置いてあった別の小さないすに腰かけた。

 

 

 

「意外と……ほこりっぽくないんだな。ベッド……。」

 

「そだね……。」

 

「………………。」

 

「……………哲志くん。」

 

「ん?」

 

「哲志くん……好きな子、いるの?」

 

「えっ………。」

 

「クラスの女の子で、誰か好きな子いないの…?」

 

 

唐突な唯の質問に、哲志は思わずドキッ!とした。

 

まさかこんなところで、“彼女”の話を振られようとは思いもしなかった。

それもまったく見ず知らずで唐突に出会った、違う学校の女の子にである。

 

 

「す…好きな子って……。まだ、いないよ……。由香もいるし………。」

 

「そっかぁ………。」

 

「ゆ…唯ちゃんこそ、彼氏とかいないのか……?」

 

「いないよ。女子高だもん。ただね………。」

 

「…ただ?」

 

「…ギー太は、大好きだよ♪憂もね。」

 

「ギー太……?」

 

「軽音部で使ってる、あたしのギターだよ。」

 

「…なんで、ギー太なんだ…?」

 

「なんでって……。ギターだから、“ギー太”なんだよ……。ね♪」

 

「………ははは………。」

 

「うふふふ………。」

 

 

 

楽しそうに会話する2人を見て、憂と由香は微笑み会った。

紬とさわ子もである。

 

そのときだ。

 

 

 

 

ボーン…ボーン……

ボーン…ボーン……

ボーン…ボーン……

 

 

 

「?」

 

 

どこからか、鐘の音が聞こえてきた。

柱時計が時間を告げる、あの鐘の音だ。

扉の外…廊下の奥から響いてくるらしい。

 

 

 

「……っ!?な…なんだ……。」

 

「どうしたの?」

 

「か……体が………。」

 

「体が?」

 

「体が…動かない……。」

 

「えっ……?」

 

「か……金縛りだ…っ………。」

 

「あ……。そういえば…あたしも……動けない……。」

 

「くっ……。どうなってるんだ………。」

 

「っ……身動き……できないよぉ………。」

 

 

 

ベッドに座っていた憂と由香、同時に少し離れていた紬とさわ子も2人の異変に気づいてすっくと立ち上がり、ベッドに駆け寄った。

2人はベッドの上で、今の笑顔がうそのような青白い顔になり、さらに表情をゆがめている。

 

 

「お姉ちゃん!」

 

「お兄ちゃん!」

 

「唯ちゃん!哲志くん!」

 

「どうしたの!なにがあったの!?しっかりして!」

 

 

すると、

 

 

チカ…チカッ…

 

 

さわ子が座っていた机の上の電気スタンドが、なんの前触れもなく突然明かりを灯した。

続いて転がっていた鉛筆がひとりでに起き上がったかと思うと、開いたまま置かれていたノートの白い紙面に、速筆でなにかを書き始める。

 

 

 

コッ…コッ…

ガシ…ガシ…

コッ…コッ…

ガシ…ガシ…

 

 

 

「………………夏休みには……………。」

 

 

「!?」

 

 

「…………みなさんで、遠足に出かけましょうね…………。」

 

 

 

「誰っ!?誰か、いるの!?」

 

 

背後から聞こえてきた声に、紬が反応して振り返ったときだ。

 

 

壁の割れ目やその周辺から、真っ赤な血が溢れ出てきたのだ。

追い打ちをかけるように、薬品棚の扉のガラスに、無数の血の手形が叩きつけるように現れた。

 

 

 

ペチャ…ペチャ…

ペチャ…ペチャ…

ペチャ…ペチャペチャ…

ペチャペチャ…ペチャ……

 

 

 

保健室の白い壁が、みるみる朱に染まっていく。

ベッドの上で動けない唯と哲志も、周りにいる憂・由香・紬・さわ子も、その様子をただ見ているしかなかった。

 

 

 

「…………迎えにきてくれたのね…………。」

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

ドッ!

 

 

 

「…………サッちゃん…………サッちゃん…………。」

 

 

 

「ひっ…。」

 

 

 

ドタッ!

 

 

 

不気味な声と同時に、モヤモヤした黒い影が唯と哲志の上に現れた。

憂と由香はベッドから飛びのき、反動で尻もちをつく。

 

 

 

 

「…………サッちゃん…………サッちゃん…………。」

 

 

 

 

黒い影の中で、ギョロっとした2つの目が見開かれ、唯と哲志を見つめる。

 

 

 

「っ………。」

 

「うぅ………。」

 

 

 

「…………サッちゃん…………サッちゃん…………。」

 

 

 

サッちゃん、の言葉を一点張りながら、黒い影は2人に覆いかぶさってきた。

 

 

 

「う………ぐっ………!」

 

「ふぅううう………!」

 

 

 

黒い影は2人の体を包み込み、その姿の一部分を口の中にねじ込み始めた。

 

 

 

ズボボボボボボボボボボボボ……………

 

 

 

「ぐぅ………うぅ…っ……ひゃめ…ろぉぉぉ………!」

 

「うぅ………あぅ………。んんっ………。」

 

 

 

ものすごい力である。

その力を前に、2人にはなすすべがない。

哲志はかろうじて抵抗できるが、唯はあっぷあっぷ。

のどや口の中が、今にも避けて弾けそうな感触だ。

 

 

 

ズボボボボボボボボボボボボ……………!

 

 

「うっ…………。ぐぉ………っ………!」

 

「ふむ……っ……。ふぅぅぅうう………!」

 

 

 

「…………サッちゃん…………サッちゃん…………。」

 

 

 

「やめて!お姉ちゃんを、離して!」

 

「お兄ちゃんを助けて!お願い!」

 

 

 

憂と由香は、互いの姉と兄を助けようと、黒い影を引きはがそうとした。

が、その手はどうしても、黒い影にまったく触れることができない。

まるで空気か霧を、必死につかんでいるかのようだ。

紬とさわ子も助太刀に入ったが、同じことだった。

 

 

「っ……どうなってるの………。」

 

「さわれない……。どうして………!」

 

 

その間にも、黒い影はどんどん2人の体に入り込んでいく。

 

 

 

ズボボボボボボボボボボボボボボ……………!

 

 

 

「…………サッちゃん…………サッちゃん…………。」

 

 

 

「ぐぅぅ…………あぅぉ…………。あぁ………っ!」

 

「ふむぅぅ…………。うぅぅぅぅ………っ………。」

 

 

 

2人の意識がまさに途切れようとしたその瞬間、哲志が、

 

 

 

「ぐぅ……っ……うぉぁあああああああああああああああああああぁぁぁぁ~っ!!」

 

 

 

腹の底から必死に絞り出した、渾身の雄たけびを放った。

それに驚いたのか、黒い影は2人から離れ、パッ!と姿を消した。

 

 

 

ブワッ…!!!

 

 

 

「はぁ……っ……。はぁ……っ……。はぁ……っ……。はぁ……っ………!」

 

「ふぁ…はぁ……。ふぁ…はぁ……。ふぁ…はぁ………。」

 

「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」

 

「お兄ちゃん!しっかりして!お兄ちゃん!」

 

「唯ちゃん!」

 

「哲志くん!」

 

 

荒れた息を整えながら、哲志と唯はどうにかベッドの上に起き上がった。

 

 

「はぁ……っ……。はぁ……っ……。なんなんだ……今の……。」

 

「ふぁ……はぁ……。わかんないよ………。」

 

 

 

哲志は血まみれになった部屋を、もう一度見渡して、みんなに言った。

 

 

 

「みんな。……ここに、長くいたら危ない。早く、出よう。」

 

「哲志くん……。」

 

「そうじゃないと、オレや唯ちゃんも、こんなもんじゃすまなくなるし…。みんなだって、ひどい目にあうかもしれない……。その前に………。」

 

「……わかったわ。」

 

 

ベッドから足を下ろし、下に揃えていた上履きをはく。

唯もそれにならった。

 

そうして立ち上がり、扉の前に向かった哲志は、さらにとんでもないものを目にした。

 

 

 

「………っ!これは…………髪の毛………!?」

 

 

 

2つの扉の表面に、びっしりと長い髪の毛が張りつき、からみついていたのだ。

 

 

「………ぁっ!」

 

「なに……これ………。」

 

「誰が、こんな………。」

 

 

長さからすると女性の髪の毛らしいが、その長さやからみ方が尋常ではない。

普通の人間なら、こんなに長い髪の毛を生やした人はいないし、もちろんこの芸当だって到底でき得たものではない。

みんなが扉の前でぼう然としていると、

 

 

 

「…………………サッちゃぁ~ん…………………♪」

 

 

 

はっきりと、今度は人の形になった黒い影が、後方の壁際に立っていた。

血走ったギョロッとした目が、じっとこちらを見つめている。

 

 

 

「みんな!引きちぎれ!」

 

「えっ!!」

 

「髪の毛を、引きちぎるんだ!早くっ!」

 

 

 

哲志は扉にからみついた髪の毛の一部に両手をかけると、力任せに引きちぎった。

 

 

ブチッ!!

ベリベリベリッ!!

 

 

「…………………サッちゃぁ~ん…………………♪」

 

 

「早くするんだ!!」

 

「は…はいっ!」

 

「うん!」

 

「隙を見て、一斉に開けるんだ!」

 

 

ブチ!べリベリ…!!

バリバリバリッ…!!

 

 

哲志に続いて、憂が髪の毛を引きちぎり始めた。

続いて唯・紬・由香・さわ子と、みんなで力を合わせ、一心不乱の夢中になって引きちぎる。

 

 

ベリベリ!!

ベリベリベリ!!

ブチッ!ブチッ!

ベリ!ブチッ!!

 

 

(早く……。早くしなきゃ………!)

 

(黒い影が………!)

 

 

 

「…………………サッちゃぁ~ん…………………♪」

 

 

黒い影と声が、どんどん6人のほうに迫ってくる。

 

 

ベリベリ!!ベリベリ!!

ブチッブチッ!ブチッ!!

ベリッ!ベリッ!ベリッ!!

 

 

 

「…………………サッちゃぁ~ん……♪どこ行くのぉ~…………………?」

 

 

(お願い…。早く、開いてよぉ………。)

 

 

ベリベリ!!バリバリ!!

ブチブチブチ!!ブチッ!!

バリッ!ベリッ!バリッ!!

ブチッ!!バリッ!!

 

 

 

「…………………サッちゃぁ~ん…………………♪」

 

 

「開けるぞ!!」

 

 

ある程度引きちぎられた後、哲志の合図で、みんなが一斉に扉を引いた。

 

 

ミチ…

ブチッ!!

ガラガラガラガラガラガラ…………

 

 

扉が開いた瞬間、みんなは倒れ込むように廊下に飛び出した。

黒い影は、なおも迫ってきて、

 

 

「……………………どこ行くのぉ~…………………?」

 

 

「あぁっ………。」

 

「ひいっ………!」

 

 

 

しかし……………。

扉からレールをまたいで外に出たその瞬間、黒い影はス~ッと消えた。

同時に血まみれの室内も、もとの薄汚れた白い壁に戻り、薬品棚の血の手形も消えた。

 

 

 

「はぁ……。はぁ……。はぁ……。」

 

「ふぅ……ふぅ……。」

 

「や………やったの………?」

 

「はぁ…。はぁ…。そうみたいだな……。」

 

「………あら?」

 

「どうしたの?ムギちゃん。」

 

「あの、ろうそく………。」

 

 

紬の指差す先には、火の灯った1本のろうそくが立っていた。

直美たちと澪たちが、階段の踊り場で見つけたものとよく似ている。

 

さっきカギを開けるとき、こんなろうそくは立っていなかったはずだ。

おそらくあの黒い影は、このろうそくに驚いて姿を消したのだろうが………。

 

 

 

「なんだろう……?」

 

「誰が、立てたのかしら……。」

 

 

「……?……あれは……篠崎の………。」

 

 

唯のそばからろうそくを見た哲志が、つぶやいた。

 

 

「えっ?篠崎………?」

 

「あ、いや……。なんでもないよ。」

 

 

哲志はそう言って、ゆらゆら揺れるろうそくのその明かりを、じっと見つめた。

 

 

 

(篠崎………………。)

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