「それで、たっぷり怒られたと?」
「隊長さんに嫌われちゃったよぉ・・・・・・」
休日明け、起きたら隊長さんはすでにおらず、慌てて出勤したお紺さんは、職場にも隊長さんがいないので、避けられているのではと凹みまくっていました。
同僚の女吸血鬼である、ピエレットは事の顛末を聞くと、すっかり呆れ果ててしまっています。
隊長さんの姿は見えず、ピエレットが壁にかかった進捗管理表を見ると、隊長さんは出張中になっています。
(あの人、色々と仕事抱えてなかったかしら?)
電線で構築される結界の配線表作成とか、最近多くなっている異国の化生の渡来対策だの、実際に色々仕事抱えていたりします。
そしていつもはきっちり片付いている隊長さんの机の上は、珍しく散らかって、資料が散乱しているのですが。
多少離れていますが、吸血鬼の視力なら、細かい文字でも読める距離です。
(魔法薬に関する資料ばっかりね)
副作用とか心配して、早出して散々調べてたんじゃないかしらと、ピエレットは独りごちます。
急な出張も、販売元を抑えに行ったのでしょう。
(ちゃんと愛されると思うけどねえ)
時間的にろくに寝てもいないはずです。
大切に思っていなければ、不眠で仕事を増やす真似は流石にしません。
お紺さんも、そこら辺は気付いているでしょう。
「隊長さんに捨てられちゃうよぉ」
気付いていても、不安で仕方ない面倒くさいのがお紺さんです。
(ちゃんとフォローしてから行きなさいよ、あの朴念仁は)
◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇
ある農家の一室。
隊長さんがきっちりと正座して、目付きの悪い少女とちゃぶ台を挟んで向かい合っていました。
以前に関わった、エルフのエルさんです。
そしてお紺さんに、怪しげな魔法薬を売った元締めだったりします。
「いやあ、男ってバカだろ? 女がひんひん喘いでイキまくれば、それだけで勝手に興奮してサカルもんでよ」
無言の隊長さんを前に、猥談を続けるエルさん。
ちゃぶ台の上には、魔法薬の瓶がズラッと並んでいます。
その内の一つを手に取り、振って見せると、中の液体がゆらゆらと揺れます。
「すごかったろ、これ。プッシーん中がクリだらけになって、どんな下手くそでも感じまくりだぜ」
じぃっと睨めつける隊長さん。
「・・・・・・本物のクリも、ちょいとでっかくなってだ、その」
とてつもなく冷たい視線が、エルさんを射抜いています。
「わ、悪かったよ! ちょっと妖力あるやつには、効果が強すぎるってのはうっかりしてたし。でもだな、それでもしばらくすれば元に戻るはずだし害はないぜ」
僅かに首を傾けます。
しばらくとはどれくらいだよ、という無言の意思表示です。
「その・・・・・・一ヶ月もすれば、自然に」
一ヶ月もクリトリスが巨大化して勃起しっぱなしとか、社会的に死にます。
隊長さんが無言のまま、ちゃぶ台に出された魔法薬の瓶、それもお紺さんが使ったのと同じやつだけを、的確に選んで袖の下に放り込みました。
咄嗟に手を出そうとするエルさんですが、途中でぴたりとその手が止まります。
蛍光灯が灯る室内で、隊長さんの袖の下は照らされる事もなく、何もかも呑み込むようなドス黒いクレバスのように、ただ暗黒だけがありました。
これ絶対にヤバイやつだと、エルさんはしぶしぶ手を引っ込ます。
「それで、他のは?」
「えっとだな、こっちは体中の骨がぐにゃぐにゃになるやつだ」
隊長さんが顔をしかめます。
「いや、これけっこうすごいぜ! 軟体になるから、むちゃな体位でもし放題だし、どんな巨チンでも子宮まで挿入できて・・・・・・その、だな」
再び隊長さんの無言の圧力がかかります。
「き、気をつけないと元に戻る時、骨格がゆがむくらいで大したことは」
大事だよ!!
むんずと瓶を掴むと、また袖の下に放り込まれます。
「こ、これは大丈夫だろ!! 飲んだらそく発情する強力媚薬!!」
犯罪まっしぐらな予感しかしません没収!!
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!! な、この腹みろよ、分かるだろ? いろいろ要りようなんだよ」
今更ですが、エルさんのお腹は大きく膨れており、明らかに妊婦だと分かります。
ほとんど子供にしか見えない外見な分、かなり背徳感がありますが。
「それとこれとは話が別だ」
「かんべんしてくれよ、な、さすがに赤字だすとやべえんだよ!!」
エルさんがまた別の瓶を取ります。
「これとか問題ないだろ。飲むと、こう子宮の辺りに紋様が浮きでる薬。孕むと紋様が変わるようになってんだ。いやあ、うちのやど六がなんかすげえ興奮しちまってな。この腹もその時にしこまれたやつで・・・・・・その」
まあそれくらいなら、問題はないかと取り敢えず、その薬は脇によける隊長さん。
「お、なんだこういうのが好みか? へへ、じゃあこれなんかどうだ? ヤッた相手におうじて、それぞれちがう紋様が体に浮かぶ薬で浮気したら一発でバレるやつ。一生消えないからごまかしようが」
浮気はともかく、一生消えないとかアウトです。
没収、没収です!!
「あーなんでー!?」
残当です。
◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇
結局、魔法薬の大半を没収した隊長さん。
祝儀代わりに、材料費だけはポケットマネーで払ったりしましたが。
引き換えに、顧客名簿はしっかりゲット済みです。
幸いなことに、効果があまりにも怪しげなのが多かったせいか、ヤバイ薬はまったく売れていませんでした。
販売の九割以上は、尻尾や角などを隠しておく薬です。
それでも強力媚薬とか、犯罪に利用されかねないようなものが、いくつか売れていました。
回収なり、その後の様子を確認するなり、しておかないといけません。
つまりまた仕事が増えました。
とはいえ、他にも仕事をいくつも抱えてる身では、そろそろ戻って取り掛からないといけません。
ゴリ押しで出張扱いで飛び出してきましたが、流石にこれ以上は限界です。
(エルフは本当に面倒事ばかり起こすな)
後日、エルさんは出産直後にまた騒動を起こすのですが、それはこの時点では知る由もないことです。
「夜刀、この媚薬を買った蛇妖のとこ、行ってきてくれんか?」
隊長さんの影の中から、にゅるりと刃のような一本角を持った蛇が、鎌首をもたげました。
式神である、蛇神に押し付ける気です。
まあ相手が蛇妖となると、この国の蛇の頂点に立つ蛇神なら、うってつけではあるんですが。
仕方ないなと、蛇神夜刀ノ神が、水に潜るように土の中に消えていきました。
「八咫はこっちの方に頼む」
カアカアと三本足の鴉が鳴くと、空に飛び立っていきました。
そして隊長さんは戻って仕事です。徹夜で。
取り敢えずお紺さんに後遺症も何もないと、裏付けが取れたのが、唯一の収穫でしょうか。
(少し叱りすぎたろうか?)
安心したら、今更ながらに思い直します。
お紺さんのような獣型の妖怪は、除毛薬とか変身薬とか、よく使う方です。
つまり魔法薬に対して、敷居が低いのです。
危機意識が低いのは、どうかと思いますが、そもそも自分を喜ばせようという意図があったのは確かなわけで。
それを考えると、ちょっと言い過ぎだったかもしれません。
(帰ったら謝っておくか)
ええ、これで一発で機嫌が良くなって、必至に宥めていた同僚達から生暖かい目を向けられますが、まあ些細な事でしょう。
何かやたら時間かかった。
この文体はもうやめておこう。
しかしなんでこんなアホ話を書くのに、五行説の本一冊読み込んでるんだろうか俺は。