『モビルアーマーの照合は……派生型なんかを含めると検討がつかねぇ
アーム持ちならビグロに…ザクレロ?何だこの機体、ふざけた面してやがる』
伍長が舌打ちして、バンとメットを叩く音。
本来ならモニターに鮮明に映るパイロットと
コクピットだけれど、粒子が濃いのでモニターは映らずノイズだけだ。
灰色の荒れたモニターは新米の私にとっては不安な事この上ない。
『近くにいるのは間違いないわ。ボール各機、高速徹甲弾を装填。ユキ、深呼吸して…
トリガーからゆっくり指を離しなさい』
『り、了解…ふぅ……はぁ…こ、高速徹甲弾装填…ト、トリガーから指を』
少尉の声に従って大きく息を吸い込み吐く。少し落ち着いた気がする。
まだ震える声で復唱し操作していく。
――新兵は極度の緊張した状態でトリガーに指を掛けるな――
講義で習った事を今更ながら思い出した。何かの拍子でトリガーを引き暴発するからだ。運が悪ければ味方を撃ってしまう。講義で実際の事例をいくつも見せられた。
『ゴクッ……』
准尉が生唾を飲み込む音。しきりにジムの頭が四方に向けられる。
『少尉、わ、私達を無視して直接、艦隊を狙ってくるというのは?』
操作を終えて落ち着いた私は言った。こちらの艦隊を撃滅すればジムやボールは補給が
できなくなり無力化されてしまう。片やジオンは艦隊を失っても宇宙要塞に戻れば
補給は可能だ。
『本命は艦隊でしょうけど、この戦区はそんなに広くないわ。最短距離だと予測
進路はこことあと――』
『少尉殿!正面!高熱源体です!』
少尉から送信されたポイントを確認しようとした途端に准尉の声が響いた。
『散開!』
それぞれが四方に散った。次の瞬間ものすごいメガ粒子が直線で撃ち込まれた。
『こいつはぁ…MAのメガ粒子砲だ!おいでなすったぞ!』
伍長の声で我に返ると高速で接近する機体がモニターに映った。
二本の大型クローにメガ粒子砲…あれは訓練学校の機体識別講義で見た事がある。その名は『ビグロ』あのガンダムと戦って五角以上の戦闘をした大型MAだ。
赤い機体に斑に塗装された黒いライン。カラーリングこそ異なるが
あのシルエットは間違いない。
で、でかすぎる。クロ―を合わせるとサラミス並の大きさだ。
『あんな機体…そ、そんな…』
もう頭の中が真っ白になった。
『そんな…ビグロ相手にボールで勝てるわけが…』
ああ、もうダメだ。終わった。ここで死ぬ。艦隊も全滅して―――私は実に悲壮な
声色をしていたのだろう。少尉の激が飛ぶ。
『落ち着け!速度が遅すぎる。ビグロは加速性能に物を言わせ一撃離脱する機体だ。
その戦法が取れていない!顔を上げろ、ユキ!』
少尉の声にハッと我に返る。確かに速度が遅い。ザクと同じと言っても過言ではない。
『機体が損傷しているか、急造品か、パイロットが未熟か…』
伍長の声に准尉が言った。
『少尉殿!あいつの腹を、配線が丸見え…剥き出しです!』
ビグロの下方に回り込んだ准尉がビームガンで牽制しながら声を上げる。
録画された画像がモニターに映し出される。
荒い画像だが配線がむき出しなのが見える。
『確認した。何かを牽下しようとした機体のようね、ジムは常に下方に回り込んで
ボールはビグロの後ろに張りついてバーニアを狙って』
ビグロは加速を駆使し、機体正面に集中配備された火器をもって
一撃離脱の戦法を得意とする。その反面小回りがきかず、旋回性能に難がある。
その機体が要である速度が出ないとなると私達にも勝機はある。
『新兵、遅れるなよ!』
『は、はい!』
三機で編隊を組み、ビグロを追う。
ビグロから離されないように追い、高速徹甲弾を射つ。
後方からのボールの砲撃を回避すると下方からのジムのビーム射撃。
下方を回避すると後方からの砲撃。イケる!
これならあのビグロを撃破できるかもしれない。しかし、それは甘い考えだったようだ。2発目の高速徹甲弾がビグロの機体をかすめた時ビグロが一気にバーニアをカットした。一気に縮まる距離、目の前にはビグロ、回避しなければ衝突してしまう。
『くッ!各機四方に散開!!』
少尉の声が響いた時にはビグロを追い越した直後だった。
ビグロに装備された大型バルカン砲がけたたましい音を上げ一面にばらまかれた。
『しまッ―――』
伍長の言葉が終わる前にボールが紙切れのようにバラバラにされ、爆発した。
『えッ…あッ…』
あっと言う間の出来事に思考が追いついていかない。
『ノールマン伍長ッ!この野郎!』
准尉が叫び、ビールサーベルを構えて、下方から一気に突撃した。
ビグロの正面に向かって左のクローが切り裂かれるが、
右のアームがジムめがけて繰り出された。アレに掴まれるともう終わりだ。
『准尉ッ!ユキ、生きていたらビグロのハサミを狙って撃てッ!』
『ボールの姿勢の制御!照準!ハサミッ!』
右のクロ―接合部めがけてトリガーを引いた。ビグロの機体に大きな穴が開く。
『ハサミを撃破!』
力を失ったアームをジムが蹴り飛ばし続けざまにモノアイにビームサーベルを
突き刺そうとサーベルを逆手にした時、正面のクチバシが開いた。
『うおおおッ!させるかああああッ!』
准尉は雄叫びを上げながらクチバシを狙って頭部バルカンを撃ち込む。
しかし止まらないメガ粒子の集束、そして発射。
『ユキ、射線から回避――――ッ!』
メガ粒子砲に機体を焼かれながら、ジムのサーベルがビグロのモノアイを貫いた。
沈黙するビグロに胸部から上だけ残ったジムが寄りかかった。
『……あ…じゅ、准尉?…ご、伍長…?』
震える声、震える手、股間の湿り気…思考が追いついてきた時には私と少尉しか
残っていなかった。
あまりに唐突な仲間の死。准尉に至っては出会って1時間も
していない。
『しょ、少尉…嘘ですよね?准尉も、伍長も…で、出会ってまだ1時間もしていないのに
ば、爆発して、残骸が漂って、う、嘘ですよね?』
『ユキ…もういいわ…周囲を索敵』
『さ、索敵って…准尉も伍長もいないのに、索敵って……そ、それだけ――』
『あの姿は次の私か!貴女か!死にたくなければ命令に従え!ユキ=キクチハラ!』
かなりあっけなく撃破されてしまった伍長に准尉。
この後、戦闘が終局的になり少尉とユキは艦に戻ります。
本来なら要塞内探査に行くのですが、サンダーボルト外伝を
読んだせいか、『砂鼠のショーン』の短編になるか
08小隊のキキ陵辱話になるかもしれません。