「早朝」という表現には少し遅く、「陽が高く昇っている」というには早い時間帯に少女はいた。少女は「美少女」とまず間違いなくいわれるであろう容姿をしていた。しかし、その表情は険しく、美しい顔を損ねていた。彼女はゆっくりと着実にあるところへ向かっていた。その歩みは正確であり、機械的であった。しかし、その歩みは突然止まった。行く手に「障害」が立ちふさがったからである。その「障害」は二本脚で立ち、手を服のポケットに突っこんでいた。少女は立ち止まるとその「障害」をにらみつけた。しかし、彼はただ優しいまなざしで非難を受け止めるだけであった。吹き抜ける風と小鳥の声で時間が経っていることはわかった。だが、それだけだった。ただ時間が過ぎていった。
何とも言えない沈黙に耐えかねたのか、少女は質問をした。その質問を少年は面白そうに受け止めた。
「・・・ユウ、ユーはどうしてここにいるの?」
「上手いジョークだね。」
「どういうこと?」
「いい言葉遊びだということさ。ユウ(Yu)とユー(You)を上手くかけている。」
「ごまかさないで!!」
「・・・それは君が一番わかっているんじゃないのか?君がしようとしていることを防ぐためだ。」
「・・・私がしようとしていること?」
「ああ、レジー。君が十代と万条目、この二人を襲おうとするのをやめさせようと思ってここにいる。君は君の父さん、マッケンジー校長によって俺と今、戦うことは禁じられているはずだからね。」
「・・・・・・」
「俺はあの二人を君に倒されるわけにいかない。」
「ずいぶんと仲間思いなのね。」
「それもあるが、それだけじゃあない。」
「・・・?」
「俺は君にこれ以上、その手を汚してほしくないんだ。」
「・・・どうして、私に手を汚してほしくないの?ユーには関係ないことでしょう?」
「知らないのか?」
少年は他者にどう見られているのかを気にするようなしぐさを見せてからこういった。
「人が人を傷つけるのに理由がいらないように、人が人を助けるのにも理由はいらないんじゃないのか。」
その言葉を受けて少女はあっけにとられた表情をした。しばらくすると表情を大きく動かした。今までよりも感情をさらけ出した表情だった。怒りに満ち溢れ、目が赤くなっていた。その感情の赴くまま、言葉を紡いだ。
「ずいぶんと勝手なことをいうのね!何の権限があってそんなことを!私の気持ちも知らないで!!」
「そうだね。レジー、君の気持ちを俺は良く知らない。だけど、俺の気持ちは知っていてほしい。俺は君に今の状況から抜け出してもらいたいと思っているということを、君が自分のことを自分で決めることができるようになってほしいと思っているということを、君には幸せになってほしいと思っているということを、そして・・・」
少年は言葉を止め、間をつくった。これからいうことをきちんと知ってほしいとおもっていることが感じ取れた。そして、少年は視線の様子から、狙いが上手くいったことを感じた。だから、強調する一言を彼はレジーという名の少女に伝えた。
「俺が君のことを好きだということを。」
「・・・・・・Well・・・(・・・・・・ええと・・・)」
彼女は少年の突然の告白に戸惑っているようだった。しかし、それに構わず、少年は言葉を続けていった。彼女に対する思いをより詳しく吐露していった。しばらくは一方的な演説が続いた。
少年は十分に思いを告げることができたのか、満足して口を閉ざした。少女は再び少年を睨みつけて黙った。それを少年は微笑しながら受け止めた。表情は和らいでいた。しばらくの間、言葉が交わされることはなかった。そして、そのまま少女はもと来た道を引き返そうとした。少年はただそれを見送った。少女は振り返ることはなかった。しかし、少年には彼女がどんな表情をしているのかがよくわかった。
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「これで、ひとまずはよしっと・・・。」
レジーが見えなくなるまで、見送ってからそうつぶやいた。そして、今までのことを遠い眼をして回想した。
俺はツァンを抱いた後にモニタールームに入って、攻略対象キャラの情報収集をすることにした。そうすると、レジー・マッケンジーが十代と万条目を襲うように指示を受けている場面を確認することができた。レジーは指示を黙って聞いていたが、校長がいなくなって一人になると暴れだした。その様子をみて、俺は思った。レジーは自分から進んで悪事をしているのではないと。むしろ、悪事をすることを強いられており、悪事をきちんとこなすために自分の心で悪事を愉しいことであると考えるようにしているだけなのだと。つまり、今までにみせていた悪を愉しむような表情は本質的には作り物であり、本当の感情がわからないようになっているだけなのだとそう思った。
その結論に達すると、俺はコーヒーを飲むことにした。いつもと違って、砂糖もミルクも入れなかった。コーヒーを飲んでから、今後どう行動していくかを考えた。
「その結論として、とりあえずこうしてレジーがこれ以上、手を汚さないようにしたわけだが、さて次はと・・・。」
俺は邪魔が入らないように周りを警備してもらっていたアカデミア倫理委員会の隊員やタイラー姉妹などの警備員に「もう警備はしなくてもいい」と連絡を送り、返信をもらった。そうしてから、現在のもう1人のヒロインに対して連絡を取った。
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「・・・・・・そういうことだったの・・・彼女も大変だったのね・・・。」
「ええ、そうなんですよ。」
俺は準決勝第2試合開始前に響先生と会っていた。そうして「話をしたい」と言って話を始めた。内容はもちろん、レジーについてだ。先生にレジーがおそらくおかれているであろうと思われる状況について説明をした。もちろん、俺がこのデュエルアカデミアに相当の監視体制を敷いていることは伏せておいた。
響先生には話を始めた頃にみられた弟に対する姉としての切羽詰まった食いつきぶりは今はなかった。今はただ生徒のことを考える教師としての姿が見えるだけだった。
「・・・ねえ、小南君。聞いていいかしら?」
「・・・先生が生徒に質問をするのは、本来の立場から言えば逆の気がしますけどもいいですよ。なんですか?」
「私は彼女、その、レジー・マッケンジーに対して、どう接すればいいかしら?」
「・・・・・・そんなの決まっているでしょ。昨日言ったじゃないですか。」
穏やかに、優しく、それでいてはっきりと俺は伝えた。
「楽しめばいいんですよ。デュエルは楽しいものなんですから。」
「!!・・・そうね。そうだったわね。」
先生はそうしてから、穏やかで優しい表情をつくり、はっきりと聞こえる声色で返事を告げた。
先生が俺に返事をしてから、俺たちは時刻を確認した。時間としては間もなく先生がデュエル場に上がる時間帯だった。そのため、俺たちはもう少し会話をしてから別れることにした。
「頑張ってくださいね!!先生!!」
「ええ、頑張るわ!生徒にそう言われちゃ、教師として頑張らないわけにはいかないわよね!」
「え、俺を『生徒』としてみてるんですか?」
「そうよ、それ以外に何があるの?」
「俺としては、それ以外の存在としてみていてもらいたいんですが、先生のこと『好き』ですから。」
「・・・小南君。その『好き』ってどういう意味で使ってるの?」
「大体、わかってるんじゃないですか?」
「・・・まったく、君は・・・」
先生は手をひたいにあてた。そうしてから、二人で吹きだした。ひとしきり笑うと先生は熱いまなざしをこちらに向けていった。
「けど、小南君、安心して。私は君のことを、『生徒』として以外の存在としても『好き』だから。たぶん、きみが私にみてほしい存在としてね。」
「・・・ありがとうございます。とてもうれしいです。」
俺が返事をすると、先生にデュエルの準備をするよう呼びかける声があった。その声で俺たちは別れることにした。互いに微笑みを交わしたうえで。
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先生と別れた後、俺はデュエルアリーナを歩き回っていた。席を探すためだ。しかし、どこも満員だった。人が相当倒れているのに、この多さ・・・。この世界の人間はやはりデュエル中心にものごとを考えているのか、それとも怖いものや人が不幸になる姿をみたいのが人の性なのか・・・。そんなどうでもいいことを思っていると誰かが呼ぶ声がした。それも複数の。振り返ってみるとそこにはみんな(ハーレムメンバー達)がいた。彼女たちは俺の分の席も取っておいてくれたようだった。そのため、俺はそこに座らせてもらうことにした。
デュエルがはじまるまで俺たちはいろいろと会話をした。それはデュエルの話だったり、この大会が終わった後にくる夏休みの話であったり、夜の営みの話だったりした。この大会中に倒れた人たちに対することを彼女たちは話題にしなかった。不審に思い、そのことを聞くと、原麗華生徒会長が「天上院さんがその話をしてくれた。あなたが解決してくれるから心配ないって。」といった。明日香をみると、恥ずかしそうにそっぽをむいた。みんなをみると、やさしいまなざしを向けられた。信頼してくれている。そう思うと、うれしかった。不思議な空気が周りを支配している気がした。そんな中、明日香は照れを隠すように発言した。
「そ、そういえば、十代と万条目君が放送で呼ばれたわよ。」
「?十代と万条目が放送で呼ばれた?」
「そ、アメリカアカデミアのマッケンジー校長から話があるって。」
「あ、始まるみたいですよ。」
俺の質問にツァンが答え、彰子がデュエルがもうすぐ始まることを伝えた。その言葉を聞いて、俺はデュエル場へ視線を落とした。デュエル場にはレジーと響先生がいた。デュエルがはじまる前に先生がレジーに語りかけた。
その話はレジーに対する非難ではなく、教え子に対する愛情のあふれたものだった。その話を聞いて、会場にいる人間はただ聞き入るだけだった。しかし、その静寂は「笑い」によって打ち消された。正確に言うと「嗤い」によって打ち消された。
それはレジーが発したものだった。そして、彼女はその嗤いのまま、語りだした。響先生の弟である響紅葉をレジーが倒し闇へと引きずり込んだことやこの大会でも多くの人を闇へと引きずり込んだことを自慢げに語った。アリーナのみんなはわけがわからないという顔をしていた。だが、俺と響先生はレジーの置かれている立場を知っていたので、レジーが意識を乗っ取られていることを確信した。そうしたなかで、レジーは正気とは思えない妖しい表情と黒ずんで狂気に満ちた瞳で宣告した。
「アナタも闇へと葬ってあげるわ。ミスヒビキ?」
「・・・そうはさせない。私はあなたに勝って紅葉もみんなも助け出す!!」
こうして二人のヒロインによるデュエルがはじまった。