俺たちは会場の中央に置かれていたデュエルフィールドにスタンバイした。このデュエルフィールドはパーティー参加者がデュエルをするために設置されていたものだ。なにしろ、このパーティーの参加者はデュエルディスクを上流階級が持つべきではないとする考えの人もいるようだから。
デュエルフィールドの頂点で周囲を見渡してみた。周囲は見物人たるパーティーの参加者で囲まれていた。彼らはなぜ決闘が行われようとしているのかを直接見聞きしたり、人づてに聞いたりして知っていた。周囲の人たちからはこれから起こることへの期待、友人が侮辱されたことに対して怒ったことに対する俺への称賛、決闘という身分不相応のことを行ったことへの非難などが感じることができた。そのような様々な思惑に対して何もいわずに無視を決め込んだ。幸子が困っていたことを目撃しながら、救いの手を差し伸べようともしなかった人間たちがどう思おうと知ったことではないからだ。
その一方で、俺のことを本当に思ってくれているハーレムたちには視線で答えを返した。
「さて。小南君。」
対戦相手が口を開いた。これからこの決闘の説明があるのだろう。
「君はまず間違いなく知っているとは思うが、念のために聞いておこう。決闘の決まりは知っているかね?」
「挑む側は自分たちが戦う種目を決め、挑まれる側は自分に不利にならないように相手にハンデを課すことができるというものですよね?」
「その通りだ。たとえば、マラソンならば私と君の力を公平にするために君が私の走力と同じになるように重りを背負って走ることになるわけだ。まあ、『脚を骨折して走らなくてはならない』などといった無茶な要求ができないよう公正なる第三者にハンデの許可を得る必要があるがね。しかし、今回はの決闘の種目はデュエルだ。デュエルは持っているカードや知識などによってどれぐらいに君が強いかが理解しづらく、客観的なハンデを決めることは難しい。そこでこうしよう。」
没落貴族は今、思いついたように提案を口に出した。
「君は1ターンに1枚しかカードを使用できない。そして、君は攻撃宣言、私に直接ダメージを与えるカード、私の行動を無効にするカードを使用できない。除去手段は破壊のみ。それも『聖なるバリア-ミラーフォース-』などの特定の条件でしか使えないカードに限る。また、特殊勝利も不可。これでどうかね?」
「なあ?行動を無効にするカードってなんだ?」
「説明が不十分だったね。ここでの行動を無効にするカードとは私の使用したカードの発動やモンスターの召喚を無効にするカードのことだ。簡単に言うと『神の宣告』のようなカードは使えないということだ。」
「要するにカウンタートラップは使うなということか。・・・いいだろう。その条件でやろう。」
周囲がざわめいた。あまりにも条件が厳しすぎるからだった。海野幸子は心配そうな表情から、青ざめた表情へと表情を変えた。
「私が勝利したら、サチコさんはもらう。そして、君には私たちの前から消えてもらおう。君が勝利したらどうするのかね?」
「別になにもしないさ。そのままだ。」
「そのまま?」
「そう、いつものような友達関係に戻るだけだ。ああ、もちろんアンタには幸子は諦めてもらうことになるが。」
「・・・そんなことのために自分の誇りを賭けて決闘をする?・・・ハハッ!理解できんね!」
「そうか?俺としては友人を助けたいがために決闘をするのは『そんなこと』ではないと思うんだがな。」
そういって、俺は笑い、初期手札をドローした。それをみて、ジークフリードも手札をドローした。
「挑んだのは俺だから、先行はお前からだぞ。ジークフリード。」
「ふふ。私のターン。サービスだ。私はなにもせずにターンエンドにしよう。」
「・・・俺のターン。ドロー。」
・・・何が、サービスだ。どう考えても攻撃されないからに決まっているだろうが。そう思いつつカードを引いてデュエルを続ける。
「俺は手札からモンスターをセットしてターンエンドだ。」
「それだけかね?ならば、私のターン。ドロー。・・・ふふ!速攻で終わらせよう!手札からマジックカード発動!『Walkuren Ritt』!!このカードの効果により私は手札からワルキューレと名の付くモンスターを可能な限り特殊召喚する!この効果で『ワルキューレ・ブリュンヒュルデ』、『ワルキューレ・ツヴァイト』、『ワルキューレ・アルテスト』、『ワルキューレ・ドリッド』を特殊召喚する。そして『ワルキューレ・ツヴァイト』の効果を発動する。君のセットモンスターを破壊だ!」
『Walkuren Ritt』(通常魔法・アニメ『遊戯王』オリジナルカード)
手札から「ワルキューレ」と名のついたモンスターを可能な限り特殊召喚する。 発動ターンのエンドフェイズ時、この効果で特殊召喚したモンスターを 全て自分のデッキに戻しシャッフルする。
『ワルキューレ・ブリュンヒュルデ』(アニメ『遊戯王』オリジナルカード)
効果モンスター ☆7 光属性 天使族
攻撃力1800 守備力2000
このカードの攻撃力は、相手フィールド上に表側表示で存在する戦士族・ドラゴン族モンスターの数×300ポイントアップする。このカードが戦闘によって破壊される場合、代わりにこのカードの守備力を1000ポイントダウンする。
『ワルキューレ・ツヴァイト』(アニメ『遊戯王』オリジナルカード)
効果モンスター ☆5 光属性 天使族
攻撃力1600 守備力1600
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、 相手フィールド上のモンスター1体を破壊する。
『ワルキューレ・アルテスト』(アニメ『遊戯王』オリジナルカード)
効果モンスター ☆6 光属性 天使族
攻撃力1600 守備力1600
1ターンに1度、相手の墓地に存在するモンスター1体をゲームから除外する。 このカードの攻撃力は、発動ターンのエンドフェイズまでこのカードの効果でゲームから除外した モンスターの元々の攻撃力になる。
『ワルキューレ・ドリッド』(アニメ『遊戯王』オリジナルカード)
効果モンスター ☆4 光属性 天使族
攻撃力1300 守備力1000
このカードの攻撃力は、ゲームから除外されている相手モンスターの数×100ポイントアップする。
『Walkuren Ritt』の発動の演出により天国から白馬にまたがった戦乙女たちが舞い降りてきた。それはオペラの一場面を思わせた。舞い降りてきたうちの1人である『ワルキューレ・ツヴァイト』が剣を引き抜いき、かけ声を発した。すると、光線が放たれ俺のセットモンスターを破壊した。
こうした一連の演出が終わるとジークフリードは興奮気味に叫んだ。
「これで君の場はがら空きだ!総攻撃だ!!戦乙女たち・・・。バカな!なぜ、君の場にモンスターがいる!!」
「セットモンスターは『リバイバルスライム』(原作効果)だ。このカードは破壊されると、墓地から蘇生する。」
「・・・まあいい。守備力は高々500。私の戦乙女たちで・・・。」
「いっておくが、『リバイバルスライム』は戦闘破壊でも再生するからな。」
「なんだと・・・。」
『リバイバルスライム』(漫画『遊戯王』原作効果)
効果モンスター ☆4 水属性 水族
攻撃力1500 守備力 500
リバイバルスライムは再生能力を持つ
「クッ!ならば、手札から『時の女神の悪戯』を発動。このカードの効果でターンをスキップする。これにより『Walkuren Ritt』を踏み倒す!ターンエンドだ。」
「じゃあ、俺のターンドロー。・・・きたか。俺はバトルフェイズに入る。」
「馬鹿な?攻撃できるモンスターがいないのに、攻撃宣言ができないのにバトルフェイズに入るだと?」
「ルール上はバトルフェイズには自分の場にモンスターがいなくても入れるんだぜ?そして、バトルフェイズを終了してメインフェイズ2だ。手札からフィールド魔法『シュトロームベルク金の城』を発動する。」
「なにっ!そのカードはペガサスが開発した幻とされるカード!なぜ、お前が持っている!?」
「なんででしょうねえ?」
俺は「すべてのカードケース」に手を触れながら、周囲の驚いた表情を眺めて楽しんだ。
「『シュトロームベルク金の城』には1ターンに1度、デッキからレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する強制効果があるが、ハンデによって俺はこの効果を使用できない。これで俺はターンエンド。さあ、あなたのターンだ。」
「わ、私のターン。ドロー。・・・いいカードをドローした。場の『ワルキューレ・ドリッド』をリリースして『フォーチュンチャリオット』をアドバンス召喚。このカードは1ターンに1度、「ワルキューレ」と名のついたモンスターに装備することができ、装備モンスターはエンドフェイズまで攻撃力を半分にする事で、 相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。私はこのカードを『ワルキューレ・ブリュンヒュルデ』に装備する。そして、ダイレクトアタック!」
その宣言とともに『フォーチュンチャリオット』に乗った『ワルキューレ・ブリュンヒュルデ』が襲い掛かってきたが、俺に攻撃はできなかった。なぜなら、『フォーチュンチャリオット』が破壊されたからだ。
「なにをした!?」
「『シュトロームベルク金の城』は相手モンスターの攻撃宣言時、攻撃宣言した相手モンスターを破壊して破壊したモンスターの攻撃力の半分のダメージを相手ライフに与える効果がある。そのため、『ワルキューレ・ブリュンヒュルデ』を破壊しようとして、装備カードだった『フォーチュンチャリオット』が破壊されただけだ。」
「そのような効果もあるのか?クッ・・・。ターンエン・・・。」
「ああいい忘れていたが、『シュトロームベルク金の城』がフィールド上にある限り、お互いのプレイヤーはバトルフェイズを行い、すべてのモンスターで攻撃宣言しなければならない。」
「なにぃ!?」
ジークフリードの言葉が言い終わらないうちに戦乙女たちは攻撃を仕掛けてきて、次々と破壊されていった。
ジークフリード
LP4000→3200→2400
「クッ!だが、そのような強力カードである以上、コストも膨大なはず・・・。」
「ああ、コストは俺のスタンバイズフェイズ時にデッキの半分を墓地に送ることだ。」
「な、ならば、たとえ『ワルキューレ・ブリュンヒュルデ』で攻撃宣言をし、破壊されてもそのダメージは900。ライフは残る。お前は攻撃できない以上、このままいけばデッキ切れで・・・。」
「ただし、コストとしてカードを墓地に送るのはお前だがな。」
「・・・・・・!?」
「ああ、それといい忘れたが、このカードは魔法・罠・効果モンスターの効果を受けない。だから、基本的に除去はできない。」
「なっ・・・!」
「そして、俺のターンドロー。スタンバイフェイズにコストとして、お前の墓地にお前のデッキのカードを半分送る。・・・『ワルキューレの抱擁』が3枚落ちたな。」
ワルキューレの抱擁(通常魔法・アニメ『遊戯王』オリジナルカード)
自分フィールド上に「ワルキューレ」と名のついたモンスターが 表側表示で存在する場合に発動する事ができる。 「ワルキューレ」と名のついたモンスター1体を守備表示に変更し、 相手フィールドのモンスター1体をゲームから除外する。
「・・・・・・・・・」
勝負はついたな。あの様子じゃあ、この状況を打開できるカードは全て墓地に落ち、そのカードを回収できるカードもデッキに残っていないのだろう。「はーっ」と息を吐いて、やれやれと肩をすくめた。
「・・・・・・うそだ。」
「はあ?」
「私が負けるなど嘘だ!貴様がズルをしたに違いない!!」
「・・・・・・」
このカードができた経緯を知っている俺としてはその発言は失笑ものだな。まあ、いい。しょうがないので俺はその反論をゆっくりと論破していった。リミットレギュレーションも、事前に与えられたハンデも守っていることを告げ、そのことを観客にも確認し、同意を得た。すると、なにを思ったのか信じられないことをいってきた。
「たかが、デュエルに負けたぐらいでサチコさんをあきらめるなど・・・」
「・・・『たかが』?」
その言葉が地雷だった。周囲から一斉にジークフリードを非難する声が湧き起こった。その罵声はジークフリードだけでなく、俺も表情を変えるほどだった。非難する人々の姿はとても上流階級にはみえなかった。やれやれ、どうにかしてこの罵声を止めないとな。そう思い、俺はジークフリードをゆっくりと批判していった。話す内容はこの世界におけるデュエルの重要性についてだった。努めて冷静で、論理的で、知性的であるように心がけた。すると、それまでわめいていた集団が黙り込んだ。あたかも自分たちを恥じているように、そして俺をみなおすように黙り込んだ。
「クぅ~~~~~~・・・・・・さ、サチコさん、助けてください。」
「その必要はない。」
「お。お父様。」
ジークフリードは最後の望みとばかりに幸子にすがりついた。大方、自分の所有株をネタにすればどうにでもなると思っているのだろう。
「ついさっき、私は会社を海馬コーポレーションに売った。だから、もう私たちはあなたの世話になる必要はない。」
「な、なに・・・・・・」
「お父様、それは海野家の歴史に幕を・・・。」
「そうだ。幕を閉じる。」
そして、幸子に向き直ると父親はこういった。
「幸子。いままですまなかったな。仕事にかまけてあまり接してやれず、ただ義務だけを負わせて。さらには夫までもを押し付けようとして・・・。本当にすまん!」
「お、お父様・・・。頭をお下げなさらずに・・・。」
「だが、私はもう決めたのだ。幸子。お前には後悔のない道を送ってほしいとな。そう、後悔のない人生という名の道を・・・。」
「お、お父様!!」
「そ、そんなサチコさん。」
「おい、ジークフリード。それと、お前間違ってるぞ。」
「な、なに?」
やれやれと思いつつ、口を開いた。面白いことに幸子と言葉がかぶってしまった。
『彼女(私)の名前は幸子(サチコ)ではなく、幸子(ユキコ)だ(です)。』
この言葉を聞いて没落貴族はうなだれた。