仕事の帰り道に私は本屋にいた。部下の間で評判のいいという本を買うためである。
詳しくは聞いていないが恋愛モノなのだろうと勘違いした私はその本を手に取った。
「ショクザー?」
本のタイトルには「食ザー」と達筆な文字が書かれている。「ショクザー」とフリガナ書かれているので読み取れるが、崩した文字なので本来のタイトルは私には読めない。
文字の雰囲気からヤマトのモノだろうとは推測できる程度であろう。
「これを」
例の本を購入すると、私は家路につく。夕飯を済ませ、体を清めた私はバスローブに身を包んでその本を読み始めた。
物語は仕事に勤める貴族の女性とその人物に憧れるカフェの若旦那の描写から始まる。どこか自分とルートのようだなと自己投影しながら読み進めていく私はある罠に落ちた。
「マスター!」
「なんで御座いましょう?」
休日の昼下がり、カフェを嗜む彼女はマスターを呼びつけた。この日の料理に不満があったからで、鋭い目でにらみつつ頬を膨らませる。
「なんだではない。今日はどうした?」
叱責されてマスターはびくりと大柄な体を小さくする。彼女の怒りに繋がりそうななにかを隠しているのだろう。
「パンはえぐみがあるし、コーヒもミルクがざらついて……酷く不味い」
「申し訳ありません───」
マスターは彼女に平謝りした。
曰く、彼女を好きすぎた彼は彼女に提供する料理にだけ自分のザーメンを混ぜていたという。日に日にエスカレートする彼の行動はついに料理の味を壊すほどになったというわけだ。
だが彼女の怒りはそれではない。
なぜなら彼女も彼のことを好いており、すべてを見透かしたうえで接していたのだから。
「ようやく正直に言ってくれたな。ハッキリ言うが、キミの行いにはとっくに気づいていたぞ」
「そうなんですか?」
「まあ……惚れた弱みだ。いつ素直に言ってくれるのかと待っていたというのに」
「そんな……私はあなたを届かない高値の花と思い込んでバカな真似を……」
「せっかくだからこの件はこの後話し合うとして、私の怒りは別だ。今日使ったザーメンはなんだ?」
「なんだと言われましても昨日一昨日の自慰で出たものを使いました」
「やはりか」
彼女の言葉にマスターはきょとんとした顔をする。
「二日もたったザーメンなんて不味くてかなわん。罰としてこれから私の言うことを聞いてもらうぞ」
「な、なにを」
「心配はいらない。私の旦那になってほしいだけだ。そして若い夫婦が二人きり……やることは一つだろう?」
彼女はそういうとマスターのズボンを脱がせた。
固くなったおちんちんの先を両手で握ると彼女はしこしことそれを擦り始める。
「ソフィさん……」
「今日は徹底的に絞ってやるから覚悟しなさい」
両の手が絡み付き、彼女の細い指にマスターの先走りを汁が染み込んでいく。時折片手を放してちゅぱちゅぱと指先を舐めるしぐさを見るたびにマスターの心臓とおちんちんは鼓動し先走りの汁が溢れてくる。
次第に快感でおちんちんが溶けるような錯覚を覚えるマスターの表情は緩む。そんな表情にときめく彼女はもっと見たいと手の動きを激しくしていく。
そして互いに興奮の最高潮に達した。
恍惚の笑みを浮かべる彼女の顔とその手に、マスターは絞りたてのザーメンをたっぷり振りかけた。
「新鮮なザーメンの臭い……それに粘りもあって暖かい」
彼女は両手についたザーメンをねちゃねちゃともてあそび、そしてペロペロと舐めた。
彼女の淫らな姿にマスターは我慢などできず、射精したてだというのにまたおちんちんを大きくさせる。
「やれば出来るじゃないか。これからは毎日私のためにザーメンを射精すんだぞ」
「ソフィさん。おれ……」
「うむ。徹底的にと言ったじゃないか。私もこの程度じゃ満足できない。子供の頃からずっと好きだったんだ。やっと通じたこの気持ち、これだけじゃ満たされるわけないじゃないか」
マスターはザーメンまみれの彼女を床に押し倒し、その胸元をはだけさせた。
「子供の頃からの想いなのはおれも一緒です」
「互いにもっと早く素直になるべきだったな」
「そうですね。ところでソフィさんはザーメンに染まるのがお好みで?」
「いやそれは違うぞ。キミのだから浴びたいんだ」
「おれもあなたにもっとかけたい!」
はだけさせた胸におちんちんを挟みマスターは腰を降り始めた。
その後、恋仲になった二人は性行為を繰り返し、マスターの射精したザーメンを彼女が舐めとることを繰り返すのだが私は途中で読むのを止めた。
ルートとこういう関係になりたいという願望と頭が痛くなりそうな馬鹿馬鹿しい猥談に気が狂いそうになったからだ。
誰がこんなものを進めたと怒りつつ、素晴らしいおかずをありがとうと感謝する矛盾。それが私の正気を削いで本のページを閉じさせた。
「ルート……もっとおねえちゃんに白いのかけてぇ……」
その日の晩、早速夢に見てしまったのは幸福なのか嫌悪なのか。私自身朝になると困惑してしまうのも無理はない。
強いていうなら「ショク」というのは「食べる」という意味で、「ザー」は「ザーメン」の略だと最初に気づけばこんな悩みにはならなかったのにと、ヤマトから来たあの女に一方的な恨みの念を私は飛ばす。
「くしゅん! 誰かさんが噂でもしはった? あの本の読者からの感謝状かしら」
時を同じくして件の女はくしゃみをしていた。
ソフィアの念は実のところ的を射ていたが、相手はそれをファンの声だと勘違いして通用しなかった。
なぜ一外交官が書いたエロ小説が店頭に並んだのか、知る人はどこにいようか。