西住家屋敷玄関口。和服を着た女性が先頭に立ち、その後に他の使用人数名が並ぶ。
使用人は性別も年齢も様々だ。その最後尾に汗をかきつつ立つのは伝吉である。
やがて玄関前に重々しい音と共に停車するリムジン。音もなくドアが開き、そこから降車する人物がひとり。長い黒髪をなびかせた、黒いスーツの女性。
「お帰りなさいませ、家元様」
『お帰りなさいませ、家元様!』
リムジンが発車し切るのを待ち、使用人頭の菊代が玄関口で頭を下げる。それに合わせて一斉に頭を下げる使用人たち。
「お、お帰りなさいませ、家元様!」
一瞬遅れて伝吉も頭を下げた。その脳裏に先ほどまで見ていた夢の中の淫猥なしほの姿が浮かんでしまい、慌ててそれを振り払う。
「……夕方の忙しい時間に集まる必要は無いわ。すぐに各自の勤めに戻りなさい」
「申し訳ありません、家元様。皆さん、元の勤めに戻ってください」
切れ長の瞳を菊代に向け、端正な顔に一切の感情を浮かべずしほは静かに言った。頭を下げ、一同に指示を出す菊代。それを合図に他の使用人も一礼してから散開してゆく。
この一連の流れは決して菊代が粗相をした訳でも、しほが傲慢な訳でもない。しほが帰宅した際に行われる、プロトコルめいた一種の様式である。
使用人は自分の務めを一旦置いてでも主人の出迎えを優先することで、家の主人への忠誠を示す。主人はそれを知りつつも指示を出す事で主としての姿を示す。
それは一見無意味なやり取りに見えるかもしれないが、主従関係を再確認するための重要な意味を持つものなのだと、伝吉も奉公初めの頃に菊代から教わった。
「貴男には無駄に思える事があるかもしれません、しかし、伝統と言うものには全てに意味があります。その意味を知れば、貴男も分かってくるでしょう」
その事を思い出しつつ、伝吉も他にならって一礼した。
しほは歩みを止めずに屋敷へと向かった。その後に続く菊代。
「留守の間に何かあった?」
「月刊戦車道編集部の方からコラム依頼が」
「明後日までに口述筆記の用意をしておいて」
「アメリカ戦車道連盟の来賓の歓迎パーティーが今月末。招待が来ております」
「出ない訳にはいかないわね。パーティードレスの用意を。飛行機は専用便を用意して」
「はい。ケーブルTVの戦車道チャンネルから取材依頼が」
「取材内容は?」
「大洗女子学園の、みほ様についてです」
「……断っておいて」
聞き直す事無く二人は石畳を歩きながら言葉を交わす。やがて伝吉の前を通り過ぎる。
しほは伝吉の方を見る事も無い。菊代は話ながら伝吉に視線を向け、励ますように僅かに笑った。恐縮して会釈する伝吉。
そのまま二人は屋敷に入った。中から聞こえるしほの声。
「今日は戦車道の実践で汗をかいたわ。先に入浴するから用意しておいて」
「承知しました」
伝吉は跳ねるように体を起こし、自室に駆け戻った。
「(ううっ、何でまだ務めの前なのにこうなるんだよ!?)」
自室に戻った伝吉は泣きそうな顔で自分の下半身を見た。先程夢精で射精したばかりだと言うのに、既に股間の肉棒は硬度を取り戻し、固く勃起している。
しほがこれから風呂に入るというだけで、既に伝吉は期待と興奮を感じてしまっていた。菊代と話をしていた、しほの口元を思い出すだけで夢の中での激しいしほのフェラを思い出してしまい、それだけでピクリと肉棒は震える。
若者としては至って健全なのかもしれないが、今の伝吉には悩みの種でしかない。
「何とかしないと……」
しほが風呂に向かうまでには10分ほど余裕がある。自室で少しくつろぎ、湯の用意ができてから向かうのが帰宅後すぐ入浴する場合のしほの流れだと菊代は説明してくれていた。
ではそれまでに勃起が治まるのを待ってから行くか? いや、それで一旦落ち着かせても彼女が入って来たらすぐに再発するだろう。
「……くそっ」
伝吉は小さく悪態をつくと下履きを脱ぎ、ブリーフをずらし肉棒を露出させた。解放された肉棒は腹に貼りつくほど反り返っている。しほの裸体を期待しているのだろう。
「うっ、ううっ……!」
そのまま伝吉は肉棒に手を添え、少し余った皮を引っ張り亀頭を露出させるとそれを扱き始めた。
「駄目だ、奥方様じゃなくて……!」
真っ先に頭に浮かんできたのは、先ほどの夢で出てきた黒い下着のしほ。それを頭を振って打ち消し、彼女以外の自慰のイメージを探る。次に浮かんできたのは、三助の練習の時の菊代の裸体だった。
「……菊代さま、すみません」
伝吉はそう呟くと、扱く手を速め始めた。今朝の鮮烈な記憶だ。菊代の形良い乳房も、先端で揺れる薄桃色の乳首も、下半身の茂みも全て思い出せる。
妄想の中の彼女を押し倒し、荒々しく胸を揉む。
『んくっ……』
髪の解けた菊代が甘い声と共に悶える。
『上手いですよ、伝吉……もっと、もっとして下さい……!』
勃起してきた菊代の乳首に舌を這わす。既に彼女の秘所は十分に濡れている。顔を離し、彼女の両脚を抱え、一気に挿入する。それらの妄想と共に伝吉の手は動きを更に速める。
『ああっ! で、伝吉っ! 素敵ですっ、伝吉のチンポ、熱いっ!』
髪を振り乱し乱れる菊代。普段の清楚で優しい姿とは全く異なるイメージ。
「菊代さまっ、菊代さまぁっ!」
伝吉は思わず声を出して達した。精液が迸り、自室の床を汚す。
「……ふぅ」
一息つき、伝吉はようやく滾りが治まった肉棒を部屋のティッシュで拭き、その後で床の残渣を拭った。情けなさが伝吉の中で沸きあがる。
だが、間違っても粗相はできないと伝吉は決めていた。あそこまで菊代が念を押して、自身の身体を張って練習までしてくれたのだ。もしこれで、しほを怒らせたり粗相をしてしまっては、菊代も少なからず責められるだろう。
残り時間もあまり無い。伝吉は急いで風呂へと向かった。
伝吉が風呂に付いた時、既に支度は整っていた。湯は張られ、湯気が脱衣所との間のガラス戸に貼りついている。
まだしほは来ていない。急いで三助用の股引きと腹巻に着替え、浴室に入る。熱気が伝吉を迎え、剥き出しの肩に幾つもの水滴を作る。
湯加減を確認した後、伝吉は菊代に教えられたマットの片隅に膝立ちで座った。そこがこの浴室で、しほへの流し以外で伝吉の存在の許された場所だ。
「………」
無言で座して待つ。何も他にできる事が無く、眺める物も無い空間では時間の流れは緩やかだ。伝吉の髪が湯気で濡れ、腹巻や股引きは湿気を吸って肌に貼りつき既に半透明となっている。
「………」
更に待つ。体感では既に10分以上経ったように感じる。実際はどうなのだろうか。時計は脱衣所にのみあり、浴室内からは時間を確認できない。
「………来ないのかな」
思わず一人で呟く。複雑な気持ちだった。来てほしい気持ちもあるが、同時にこのまましほが来ずに今日の勤めが無くなる事も期待してしまっている。
一度外の様子を見ようかと伝吉が腰を上げた瞬間、浴場の戸の開く音がした。
「!?」
慌てて伝吉は姿勢を戻した。湯気で大凡のシルエットしか分からないが、肩まで伸びた黒髪と白いワイシャツ、黒のスリムパンツは間違いなくしほだ。
「スー……ハァー……」
深呼吸して、動悸を抑えようとする。しかし視線は脱衣所から離れない。
白いワイシャツが脱げ、その下の肌色が露になる。そこに混じる黒。
「(下着、やっぱり黒なんだ……)」
そう伝吉が思う間に、その黒のブラも外された。髪の黒色と肌色だけになる戸の向こうのしほ。更にスリムパンツと黒のショーツも脱ぎ、伝吉から見える戸の向こうのしほのシルエットはほぼ肌色だけになった。
「………!」
動悸が激しさを増し、唾が沸きあがる。だが、伝吉は必死に意識して股間に血液が集中するのだけは抑えていた。先ほどの自慰で一発抜いていなければ、この時点で既に射精していたかもしれない。普段の男性的な服装のしほしか現実では見た事の無い伝吉にとって、しほが服を脱ぐ姿はそれだけで煽情的だった。
だが、ガラス戸が開いた時、伝吉はまさしく息を呑んだ。
指示を出した当人である以上、伝吉が風呂で待機しているのはしほも当然知っている筈だ。
しかし彼女は頭にタオルを巻いて黒髪を上げたたけで、普段と変わらない落ち着いた歩調で裸のまま入ってきた。
まず伝吉の視線が吸い寄せられたのは、その豊満な乳房だった。朝の練習で見た菊代の乳房より二回りも大きいそれは重そうに揺れながらも張りを保ち、乳輪は小さく、先端の朱色の少し大きい乳首はしほの白い肌に刺激的な色合いを添えている。それが歩く度に揺れる様は伝吉の脳裏に焼き付いた。
それでいて手足や腰はしなやかであり、日頃の戦車道の鍛錬で鍛えられた肉体が若々しい張りと、脂の乗った大人の女性の妖艶さを両立させている。
そこから再び膨らみを増し、熟れた尻は娘二人を産むに足りるボリュームと張りを伝吉に見せつける。そしてそのむっちりとした太腿の間からは僅かに濃い茂みが覗く。
少年が相対するには余りに刺激的なその身体と、不釣り合いなまでに冷静さと気丈さを感じさせる、細い眉と切れ長の瞳、そして整った前髪。
「あ……あ……」
自身の妄想の中のしほの肢体を遥かに超える現実のしほの裸体に、伝吉は言葉を失った。
しほはそんな伝吉の反応を―――否、存在自体を無視するように湯船に近づき、腰を落とした。
「……お湯は?」
数秒の間の後、一言だけしほが言った。
「あ……、は、はい! 申し訳ありません、奥方様!」
そう言われて初めて伝吉は自分の務めの出番である事を思い出し、慌てて立ち上がり桶を取った。
しほの傍らまで近づき、湯加減を確認してからお湯を汲み、かけ湯をしほに注ぐ。
「ンンッ……」
しほの口から僅かに声が出た。普段の使用人への指示では決して聞けないような声。それを聞くだけで伝吉の動悸は早くなる。もう一回かけ湯。
「……もういいわ」
二度のかけ湯を行うと、しほはそれだけ言って湯船に入った。伝吉は慌てて元の場所に戻り、再び膝立ちの姿勢で待機する。
「……フゥ」
伝吉はしほに気付かれない程度の小ささで息をついた。大丈夫だ。何とかここまでは勃起を抑えられている。あとは流しと洗髪を終わらせれば完了だ。
「(菊代さま。すみません……ありがとうございます)」
練習相手になっていただいた上に自慰のために使ってしまった菊代に、申し訳なさと感謝を感じつつ伝吉は内心で詫びと礼を行った。
「………」
「………」
静かな時間が流れる。しほは伝吉に何も言わない。無論、伝吉もしほに何も言えない。
湯船でしほが体を動かす際に立つ水音だけが浴室に響く。
本来ならば気まずい時間であろうそれを伝吉は感謝した。興奮が次第に鎮まり、心が整ってゆく。しほは伝吉の事を石か何かのようにしか意識していない。ならば自分も石のつもりで務めよう。そう伝吉は思えてきた。
「………」
それまでより大きい水音が鳴った。しほが湯船から立ち上がったのだ。白い肌は火照って赤みを増し、肌から弾けた水滴が豊かな胸元から滴り落ちる。
先程までの心は何処へ行ったか、思わず目線を逸らしてしまった伝吉だったが僅かに身体を起こした。
しほはそのまま湯船を出ると、幾つかある洗い場のひとつに腰かけた。木製の椅子に乗った尻がぷるりと震える。
伝吉は素早くしほの許へ近づいた。洗面器に湯を張り、台の上のスポンジを手に取り液体ソープをそれに垂らす。泡立て、伝吉はしほの背を洗い始めた。
「………」
しほは何も言わない。伝吉の行為を、それが当たり前であるかのように身を任せている。
「あの、奥方様、腕を……」
おずおずと伝吉はしほに言った。無言のまま腕を上げるしほ。スポンジにソープを付け直し、今度は腕の洗いに移る。きめ細やかな肌を、まるで宝石商が宝石を磨くように丁寧に擦ってゆく。
「ハァー……」
しほの口から吐息が漏れた。気持ち良いのだろうか。伝吉はそう思いながらしほの腕の洗いも終えた。もう少しだ。
「お、奥方様、前を洗わせていただきます」
「……ええ」
いつも通りの端的な返事。しほは上げていた腕を下ろした。伝吉は練習の時の菊代の指示を思い出しながらしほの胸にスポンジを当てた。
まず肩口から鎖骨、次第に下へと擦る箇所を移してゆく。
「……ッ」
伝吉は懸命に音を立てないよう唾を飲んだ。スポンジが乳房に当たる。
「(これが、奥方様のおっぱい……!)」
それは伝吉の妄想よりも柔らかく、それでいて弾力があり、豊満だった。スポンジ越しでも伝わるずっしりとした重み。日頃羨望の目で、服の上からしか見られなかったそれを直接見て、触っている。それは伝吉にとって信じられない事だった。
このおっぱいを思うさま揉み、吸い、顔や肉棒を挟む事が出来ればどれだけ気持ち良いのだろう―――
「(……まずい!)」
二発も短時間で出したというのに、伝吉の肉棒はその妄想で早くも勃起しかかった。咄嗟に我に返った伝吉は必死に菊代の言葉を思い出し、勃起を抑えようとした。
『奥方様に粗相があれば、貴男の屋敷で身を置ける場所は無くなると思いなさい』
菊代は三度もそう言って伝吉を諫めた。それを無駄にしてはいけない。
危うい所で勃起し切るのを抑え、伝吉は乳房を洗い終えた。
「お、終わりました、奥方様……」
そう言って伝吉はスポンジを台に戻そうとした。臍から下はしほ自身が洗う場所だ。あとはそれが終わるまで待ち、流せば良いだけだ。伝吉はそれを考えて息を吐いた。
「待ちなさい、伝吉」
しかし、その息は途中で呑み込まれた。
「は、はい?」
「私は今日は非常に疲れています。そこから先も貴男が洗いなさい」
「じ、自分がですか!?」
伝吉は思わずしほに問い返した。
「(って事は、俺が、その、奥方様の、お、おま……)」
治まりかけた動悸が急激に早まり、股間に血液が集まってゆく。
「………」
しほはそれ以上何も言わなかった。ただ無言で脚を広げ、伝吉の手が下半身に届きやすいようにする。
そして伝吉も、もう一度しほに問うような事はしなかった。否、出来なかった。使用人にとって家人の、ましてやその中でも家元の言葉は絶対である。それがどのような内容であれ従うのが使用人の義務であり、最優先される事柄なのだ。
「そ、それでは、洗わせていただきます……」
震える指でスポンジを持ち直し、ソープを垂らしてしほの身体の前面に手を回す。先程までの箇所から更に下がり、臍周り、両脚に行って指先から太腿までを擦る。
「………」
そこで伝吉の指が止まった。
「……どうしました?」
しほの言葉。
「……何でも、御座いません……」
家人の言葉は絶対である。
伝吉はゆっくりとスポンジを動かした。臍下から鼠径部、更にその下へと。
ショリショリとした陰毛の感触が伝吉の指に当たる。やがてたどり着く、肌とは違うスポンジ越しの感触。
「(おまんこ……奥方様の、おまんこ……)」
伝吉の頭の中にはそれだけが響いていた。菊代の言葉も、それまでの意識もどこかに行ってしまっていた。
「うあっ!?」
突如、伝吉の股間に刺激が走った。既に伝吉の肉棒は完全に勃起して股引きの上からでもはっきり形が分かってしまう程だったが、しほが背中越しにそれに触れたのだ。
「お、奥方様!?」
「……続けなさい」
しほはそれだけ言って、伝吉の肉棒を布越しに握った。
「あっ、ああっ!」
それだけで伝吉の背が震える。
「………」
更にしほはその手を上下に動かし始めた。風呂の湯気で濡れそぼっていた股引きは抵抗なくその動きを受け入れ、間断なく伝吉に快感を送り続ける。
「だっ、ダメ、です、奥方っ、様ぁっ!」
「……手が止まっていますよ」
堪らず伝吉は声を上げた。しかし、しほは手を止めずに静かに言うだけだ。
しほの手は単に上下に扱くだけでなく、微妙な変化も付け始めた。ある時は早く、ある時は遅く、また竿全体を扱くようにしたと思ったら亀頭だけを弄るように指先を動かしてゆく。
「ハッ、ハァッ……おくがた、さまぁ……!」
「………」
しほは何も言わずに更に動きを激しくしてゆく。湿気とカウパーが合わさり、粘っこい音が肉棒から立つ。
「あっ、あああっ! でっ、出るっ! 出るぅっ!」
「………!」
腰を震わせ、伝吉は絶頂に達した。ビクビクと肉棒が震え、股引き越しに精液を滲ませる。
「……ンッ」
しほは自分の手に付いた伝吉の精液を少し眺め、それを口に含んだ。
「おくがた、さま……!」
最早伝吉は立つことも出来ず、腰を抜かしたように風呂のマットの上に腰を落とした。
しほはそんな伝吉を振り返って見下ろすと、スッと立ち上がった。
「出ます」
そう言い残し、しほは体を拭きもせず浴室を出た。
残された伝吉はそれから数分間、衝撃と混乱で起き上がることが出来なかった。
【続く】