結局、俺には何もできなかった。
爆発騒ぎを起こしてみたものの反応は鈍く、
虚偽の避難誘導にも住人たちは半信半疑。
挙句に、父親の説得では不覚にも熱くなって見破られ――
糸守の人々を救ったのは、すべて三葉の功績といえる。
だから。
すぐにでももう一度逢って、礼を言いたい。
記憶が消えてしまう、その前に――
と、思っていたのだが。
熱が冷めてみると、少なからず気恥ずかしい。
初めてアイツに逢えて……我ながら浮かれすぎていたんだろうな。
三葉はメモの中で、俺のことを“すき田君”などと呼びやがる。
だが――
『私もすき田になって、いいかな?』
そんな書き置きを残されては……怒るに怒れない。
何故なら、俺も、三葉も、すき田なのだから。
しかし――
こんなやり取りをいつまで続けていけるか判らない。
過去を変え、三葉の余命が延びたからか――俺たちの入れ替わりは辛うじて続いている。
とはいえ、その繋がりは徐々に細くなっているようだ。
入れ替わりの頻度も週に一度あるかないか。
しかも、記憶の消え方も危うく、昨日の自分が、三葉の身体で何をしていたのかすらわからない。
それどころか、彼女の記憶自体が時々霞んでしまう。
名前が、顔が、どうしても思い出せないことがある。
どうやら同じ現象が、彼女にも起きているようだ。
ゆえに、焦る。
文面から、焦りを感じる。
その決意が……この張り紙なのだろう。
『第一志望・絶対合格!』
仮設住宅の壁だけでなく、
この言葉はあらゆる教科書に、
あらゆるノートに、
さらには、普段使いのマグカップにも太字で書き殴られている。
こんな避難所暮らしで、ここまで熱心に受験のことを考えているのは彼女くらいのものだろう。
だが、未来と――俺とを結びつけるにはこれしか道は残されていない。
“あの大学なら、通学に使える駅は一つしかないから”
それで――
俺は大学生が賑わう夕暮れ時、その改札で待っている。
入れ替わった日には彼女自身も探しているようだが……未だ発見の報告はない。
もし、彼女が受験に失敗していたら――
その時は、第二志望か、第三志望か……
何にせよ、そこまで張り込み範囲を広げることは難しい。
ゆえに、彼女を信じて、ここ一点に絞っておきたいのだが……
実際問題、彼女の受験勉強は苦戦を強いられている。
もし、
だが、実際はこちらでどんなに未来を知っても、元に戻ればその時間はすっぽり抜けてしまうのである。実質、学習時間が減っているに等しい。
俺が設問を記憶して、過去の三葉のノートにメモを残したいところだが、あまり露骨にやると……どこぞから試験問題を横流ししてもらった、と不正を疑われかねない。俺が覚えられる記憶量にも限度があるし。
そして何より。
悪戦苦闘しているうちに、試験を待たずに彼女から俺の記憶が失われ、志望校を変えてしまうかもしれない。
だが……
俺の中で三葉を思い出せなくなっても、
三葉への想いが消えたことはない。
忘れても、思い出したくて――
思い出したい、という気持ちだけはずっと残っている。
だから――
彼女もきっと、俺を忘れない。
俺への想いを忘れない。
忘れずに、受験に臨んでくれるはずだ。
胸の内に残る“何か”を追い求めて。
そして、この計画も今日で九日目となる。休日も休まず大学の最寄り駅へと足を運んでいたが、未だに彼女らしき人物は見当たらない。
これは……時間を広げる必要がありそうだ。
駅の付近には大学生をターゲットとした店が多く賑わっている。
今日は週末だし、遅くまで遊び歩いているのかもしれない。
高校の授業が済んだ後、放課後から終電まで張ってやるつもりで、俺は改札前に待機し続けていた。
とはいえ、ベンチが設置されているわけでもない。
五時間、六時間と同じ場所に立ったり座ったりしていては不審者として映ることだろう。
実際、既に二度ほど駅員から声を掛けられている。
それでも俺は、電車が走っている限り、ここから動くつもりはない。
しかし……
変わらぬ景色に、さすがに疲れてきた。
帰宅ラッシュもピークを過ぎたことで、人の数自体が減ってきている。
集中力も欠き、時折確認し損ねている人もいるかもしれない。
俺は、彼女を一目見れば、絶対に判る自信がある。
だが、記憶を失って久しい三葉の方は……
もしかしたら、ぼんやりしているうちに素通りされてしまったのかもしれない。
今日はもう、来ないのではないか。
そう、諦めていた時――
「――、三葉ったら――」
その単語――音の響きだけで、自分の意識が覚醒していく。
誰だ? どこで彼女の名が呼ばれた……!?
辺りを見回し、そして振り向く。
二二時も過ぎているので、そう混雑もしていない。
だから、声の発信源はすぐに見当がついた。
あの、女子大生のグループの中に……彼女はいる!
そして――
「大丈夫だってぇ、こう見えて私ぃ――」
俺はすぐに彼女を見つけ出す。
だが、彼女の方は――そんな懸念は杞憂だった。
何故なら、目が合った瞬間、彼女もまた立ち止まり――
「三葉ー、どしたん?」
友人からの問い掛けも、彼女に耳には届いていない。
頬を染め、両目は俺だけを見据えている。
そして、吸い寄せられるように俺の方へと歩み寄るが……その足取りは覚束ない。
酔っているのか?
だが、呂律はきちんと回っている。
「え……えーと……どこかでお逢いしたような……」
「はい、あ……俺……」
この人が三葉だってことは判る。だが――
「宮水三葉……さん、ですよね? 俺……立花瀧です!」
これが、大学生の三葉……なんだな。驚くほどに大人びていて、思わず敬語になってしまった。
「うん……私、宮水三葉……だけど……」
そうか……彼女は俺のことを覚えていないのか……
いや、すべてを忘れたわけではなさそうだ。
忘れていたなら、『どこかで逢ったような』などと言うはずがない。
きっと、彼女の奥底に俺の記憶は確かに眠っている。
ならば、どうにかしてそれを引っ張り出したいところなのだが――
どうにか手掛かりを掴みたい二人の間に、見かねた彼女の友人が助け舟を出す。
「ほら、三葉ー……先週の飲み会の後ー……」
「あー……そういえばー……」
いや、それは関係ない。
俺と三葉の出逢いは、そんな間近のことではないのだから。
しかし、本人はそれで納得してしまっている。
「ご、ごめんね。あの晩は……その……すごく酔ってて……」
今もだろ。
もう、コイツに酒とか飲まさない方がいいんじゃないか?
ただ――
「三葉ー……電車来ちゃうよ? カラオケどーすんの?」
「ごめーん……私、この子の話聞きたい……」
じゃあ脱落ねー、と友人らは彼女を残して先に行ってしまった。
が、みんなを見送ることなく、三葉の気持ちは俺だけに向いている。
おそらく、引っかかるものがあるのだろう。
だから、ちゃんと話をして、そして――
俺も、彼女が先週何をやらかしたのか、きちんと問い質しておきたい。
三葉は、ここから駅三つほど行ったところで一人暮らしをしているようだ。
こんな時間に初対面の男を家に呼ぶなど……一般的な成人女性にしてはあまりに警戒心がなさすぎる。
酒が回っているからか、それとも、俺に運命的なものを感じているからか――
できれば、後者であって欲しい。
さて、電車の席で、問題の件について尋ねてみると……
どうやら、記憶がないらしい。
その日も学校帰りにたらふく呑んで、そのまま公園でくっちゃべっていたのだが……
「ほら、あの晩は珍しく暖かかったでしょ?」
と言われても、俺がその場に居合わせたわけではないので知る由もない。
眠いー、寝るー、と言い張って、彼女はベンチに横になり……
気づいた時には、家の布団の中だったという。
だが、送っていったのは友人たちではない。彼女らは、そのうち起きるだろう、と三葉を放置したまま解散してしまったようだ。
その時公園では、彼女ら女子大生集団の他にも、近所の男子高校生グループが集まって騒いでいたという。なので、彼らに送ってもらったか、通報してもらったか……ともかく、何らかの世話になったのではないか、と彼女は考えているようだ。
「危ないな……変なこととかされたらどーすんだよ」
東京は田舎と違ってヤバイ人も多いのだから、そういうところは本当に気をつけて欲しい。
だが……こちらの老婆心とは裏腹に、三葉は俺を怪訝に睨みつけてくる。
「変なこと……したの……?」
「すっ、するわけないだろ!?」
その高校生とは無関係だ、と説明はしてみたものの……酔った頭では理解できないらしい。かといって、じゃあお前は何者なんだ、と問われても答えに窮するのだが……。
しかし幸か不幸か、そこを指摘されることはない。何故なら、彼女の中で、俺は件の男子高校生ということで決着しているようだから。
しかも……変な疑いすらも、変な方向に進んでいる。
「でも……したのは、二人きりになってから、だよね……?」
「だから、してねーって!」
その頬の赤みは、アルコールの所為……なんだよな……?
彼女の瞳に怒りの色はない。
だからこそ、厄介だ。
これでは、彼女の疑いを否定する理由が乏しくなってしまう。
誤解は誤解のままに最寄りの駅に到着した。そこで降り、俺たちは彼女の家へと向かっている。
だが、その間も彼女は引き続き暴走中だ。
「何だかね……キミが相手なら、油断しちゃったの、解る気がするんだ……❤」
「あー……してないからなー……」
俺の話などまるで聞いていない。
一方的に話し、そして……ぐいぐいとこちらに寄りかかってくる。
酔いが回って眠くなってきているのかもしれない。
寝る前に、何とか俺の記憶だけは取り戻してくれよー……。
そして、彼女の家は徒歩で一〇分ほど行ったところ――フラついていたので、多少時間はかかったが、そう遠い道のりではなかった。
どうぞー、と通されたところ……うん、家具は隕石で消滅してしまったものの、その趣味嗜好は変わっていない。収納は白か木目調。それに、窓際には観葉植物も。すっかり日常を取り戻してくれたようで、少なからず嬉しくなってくる。
あとは、俺のことを思い出してもらうだけなのだが――本人にはその気がまったくない。
「ね……私と、どこでシたの? お外……じゃないよね? もしかして……瀧君の家?」
「どうしてそうなるんだよ……」
さっきからシモの話から離れてくれないな。そりゃ、自分の身に起こったかもしれないことなのだから、気になるのは解るが……。
だが、これが意外な糸口となる。
「ぼんやりとなんだけど……うちでもない違う部屋で……こー……シコシコしてたよーな……」
そう言いながら、右手で筒を作って上下に振っている。女の人にそんな仕草をされると……どうやって切り返せば良いものやら。
だが、これは重要なことである。
シコシコの方が、ではなく。
もし俺の部屋を思い出してくれれば、そこからもっと別の記憶も引き出せるかもしれない。
が……どうしてこの女は……!
「瀧君って、朝晩シコシコするのが日課でしょ?」
「ハァ!?」
意識して定期的にシていた覚えなんてないぞ!?
というか、シモ以外のことは思い出せないのかよ!?
「ううん、絶対シてた! こー……朝起きるとモジモジして……その……アレ?」
なるほど。コイツ、俺の身体でそんなことしてたのか。
しかし、自分の身体ではないため、違和感を捨てきれないらしい。
だが、このまま忘れられても困る。
「なぁ……その部屋で他にしてたこと思い出せないか……」
お願いだから、もっと別のことを思い出して欲しい。
だが……クソっ、これが酔っ払いというヤツか……!
「えーと……あ、そういえば男の子のお股って割れ目が縫い合わされたようになってるんだよね!?」
コイツ……人には自分の身体に見るな触るなと言っておきながら、こっちに対してはやりたい放題かよ……!
「それと……あー……アレって臭いし変な味するし……飲める人の気がしれないわ」
「お願いだから勘弁してくれ!!」
俺だって三葉でそこまではしてないぞ!? 自分の身体でそんなことまでされていたかと思うと……うっぷ、想像もしたくない……。
ゲッソリして俯いていたが、顔を上げた時、彼女と目が合わなかった。
何やら彼女はじーっと見ている。
俺の顔ではなく、身体の方を。
な……何だ……? さっきから変な話ばかりしていたからか、変なこと考えられている気がするぞ。
と、思ったが――予想にもれず、変なことを考えていたようだ。
「瀧君、ちょっと脱いでくれる?」
「何を!?」
服以外にありえないのだが、三葉は一体どういうつもりで……!?
「あのね、何だか思い出せそうな気がして……私、男の人の裸なんて見たことないはずなのに、何故だか見たことがあるような……」
「それが……俺だと……?」
もしそれが本当なら、脱いだ方がいい……のかもしれない。
が、ただの与太話に付き合わされただけでは、恥の掻き損である。
さすがにそれは躊躇していたのだが……ここで三葉の方から意外な提案がもたらされた。
「じゃあ、賭けをしよう」
「賭け……?」
コイントス、
ダイスロール、
賭けには色々あるだろうが、彼女が持ち出してきたのは……よりにもよって最悪なものだった。
「瀧君のちんちん、
「バッ……」
もう少し恥じらってくれ!
「それなら、脱がなくても上から触るだけでも確認できるし。もし左だったら……裸になってね♪」
「待て! 勝手に決めるな!」
左右の二択で全裸とか、ペナルティが大きすぎるだろ。
「それに、そう都合よく
と言いつつも、先程からの猥談で収まりきらなくなっているのだが。
それでも、彼女は律儀に手を止めた上で――
「ちらっ❤」
可愛らしい擬音とは裏腹に、結構激しく自らスカートを捲り上げる。中に穿いていたのは意外にも黒く、素足とのコントラストが眩しい。
「はい、
にじり寄ってくる女の酔っ払いを乱暴に蹴飛ばすわけにもいかず、その勢いに押し負けて俺は――
「む、むむ……ほらー、左♪」
そんなの自分でも気にしたことなかったのに……どうしてコイツの方が覚えてるんだろうな……。
「さてさて、それじゃ……全裸になってくれるかな? んん~?」
何だか嬉しそうなのが癪だが……クソッ、もう割り切るか!
これも、三葉の記憶を取り戻すためだ。その代わり、絶対何か思い出せよ……!?
シャツのボタンを下まで外すのは面倒だったのに、俺は頭の二つだけ緩めたところで、中の下着と一緒にまとめてたくし上げていく。そして、ベルトを外してズボンだけでなくパンツと靴下も……。
その間数秒。
モジモジしても恥ずかしいので、一気に脱いでやった。
願わくは、今度は早く元通りに着させて欲しいのだが……
「……………………」
三葉は、俺の身体を凝視している。
だがそこにあるのは性的な意味よりも、むしろ……観察?
羞恥の甲斐あって、彼女は彼女なりに真剣に向き合ってくれているらしい。
しばらくは色々なところを眺めていたが――そのうちの一箇所をとても気にし始めた。
「瀧君、ちょっと座ってみて」
思うところがあるのなら、彼女に任せてみるのがいいだろう。
俺は言われたままに床へと腰を下ろすと、彼女は何故か俺の背面に回り込んできた。
「そうそう。そんな感じで胡座かいてー……」
肩口からひょいと顔を出す。
胸が当たっているのだが……そんなことを言い出せる雰囲気ではない。
柔らかな感触に気を取られていると……腰の辺りからすっと彼女の右手が回り込んできた。
そして、謎の一言。
「ここ、東京だよね」
「え、あぁ……うん……?」
最初はナニを言っているのか解らなかったが……俺の右足の付根のほくろを指でプニプニと押されても、やっぱり意味は解らない。
だが、その手がすーっと左に滑り……
「で、ここが樹海」
わさわさと毛だまりを指で梳いたと思ったら――
「そして、富士山ー!」
「なっ!?」
コイツ……握りやがった……!
俺の……俺の……ソコを……!?
「最初は富士山の噴火~……とか思ってたんだけど……やっぱり白いから湯気かもねー、って」
バカなことをのたまいながら、三葉は俺の股間を、さっき見せた手つきで、シコシコ……シコシコと……!
「おっ、おい……思い――」
「――出せないの」
その声が何故か寂しそうだったので、俺は止める機会を逸してしまった。
「こうやってちんちんをシコシコしてたのは覚えてるの。それに、あのほくろの辺りが東京かも、ってのも。だけど……どうして……?」
苛立ちをぶつけるように、彼女の手が激しさを増していく。
自分でするのは何だか違う。
その指の細さだけで、何だか……!
「三葉……やめろ……このままじゃ――」
堪えきれない……!
だが、彼女の手は、逆に加速してゆく。
「いいよ……
本当にどうなっても……知らないからな……っ!?
ビュクッ! ビュクッ! ドビュクッ!!
自分でも驚くほどに濃い
天井に届くんじゃないかと思えるほど高々と打ち上がり――どこに落下したかは見当もつかない。
俺の中の脈動は未だ止まらず、第二射、第三射と打ち上がり、床どころか彼女の手にも降り掛かっている。
それを――
「……うん、マズイ❤」
多分、味見してるんだろうな……自分の身体ではないので文句はないが……普通に恥ずかしいのでやめて欲しい。
これで何かを思い出してくれれば僥倖だったのだが……
「み……つは……?」
まだ試したいことがあるのか……?
離れるどころか、腕の力が強まってる気がするのだが。
そこに……
――カプ。
「!?」
思わず前にのめりそうになったが、彼女に拘束されているので、そのまま後ろに引き戻される。
だが、今……何をした?
耳に、硬く柔らかく……温かい感触が――
カプ。
次は確かに判った。
吸血鬼のごとく、首筋を甘噛している。
おいおいまさか……そんなとこまで味を覚えてるなんて言うなよ……?
「瀧君ってさー……」
オクテだよね、と恥ずかしげもなく三葉は言う。
「な……何だって……?」
「普通さ、女のコにここまでされて……黙ってる?」
抱擁が解かれたので振り向いてみると……三葉は膝を立てて座っていた。が、モゾモゾと足を通しているその黒い塊は……!?
「でも、それで分かったよ。やっぱり瀧君とは、ずっと前に出逢ってる」
その手に摘んでいたものをヒョイとベッドに放ると、三葉はこちらへと倒れかかり……全力で俺の肩に重さを掛けて――!?
冷たく硬い床を背に受けながら、温かく柔らかい三葉の身体が押し付けられている。
そして近づいてくる顔に、俺は視線を反らすことも、鼻先を逃すこともできずに――
……酒臭い。
アルコールを多分に含んだ吐息が、俺の喉へと直接流し込まれてくる。
グニグニと押し付けられる舌は、先程の苦味を俺に擦り込んでくるようだ。
でも、この感触自体は……嫌いじゃない……。
「……ふぅ」
唇を放してつく一息からも、やはりすえた臭いが漂ってきた。
彼女は、間違いなく酔っている。
だが、それは……
酒、だけではなく……?
「何だかね……私の頭の中に、瀧君のことが溢れ出してくるの」
だが、それは俺との入れ替わりの記憶ではなく――
「
逢ったばかりの男の子に、そんなの思いつくはずがない――だからといって、男なら誰でもいい、というわけでもないらしい。
「瀧君って、バスケ得意だったよね。それに、絵も上手だし……」
ようやく思い出してくれたのか、とぬか喜びしてみるも、本人すらどうして知っているのかわからないらしい。
しかも、それらが思い出されたキッカケは――
「それで、バスケを教わりながら、身体に触れ合っているうちに、とか……ヌードデッサンがどんどん激しくなって、とか……」
な……何だよそれ……俺が三葉にそんなことをするはずが……!
「色んな想いはあるんだけどね、その先に辿り着くのは……いつだって同じ場所なんだよ……!」
再び俺の根本に触れられたところで――そこに温かな粘液が触れられる……!?
「ったぁ!? ズキズキする……」
そう言いながらも、彼女は引き返すことはない。
「でも……無事だった、ってことだよね、私の処女膜❤」
その単語で我に返った。
俺は、三葉の処女を奪おうとしている……?
いや、奪われている?
男が奪われるのは童貞か。
って、今はそれどころじゃ――
「んっふぅ……」
混乱する俺に構わず、三葉はやるべきことをやり終えてしまった。
しっかりと俺の上に腰を下ろしている――その
「凄いよ。熱いよ……瀧君が
感極まったのか、三葉は自らセーターに手を掛け……あ、あぁ……俺はそれを、見ていていいのか……いけないのか……
こんな状況とはいえ……
だがしかし……
と迷っている俺に対して、彼女の方に迷いはない。
ブラまで平然と抜き取り、スカートだけ巻いたまま、俺の上で――
「あっ、は……あぁん……❤」
身体を上下に揺することはしない。
左手で剥き出しになった乳首を、
右手で股の間を、
コネコネクリクリと弄り回している。
「んっ、あっ、すごっ、いいのぉ……!」
少し慣れてきたのか、腰がヒクヒクと動き始めた。
「絶対、絶対……私、ずっと前から瀧君のこと知ってる!」
俺を股の間に敷いてはいるが、見下ろす三葉の瞳はうっとりと優しい。
「だって、ずっとこうしてみたかったもの。瀧君のこと考えながら、オナニーしてる時……こうして、
彼女の重心が飛び跳ねている。
両手の指で快楽に浸っているようだ。
それが、俺を包み込む三葉の
俺だって激しく動きたい……が、彼女は処女だった身であり、これは初めてのことだ。
なら、彼女がいいように任せた方がいいだろう。
少なくとも……今は具合がいいようだし。
「はっ、あ……あ……
そしてすぐに――
ビクッ、ビクッ、ビクッ……と三葉が締まる。
お腹が痙攣しているのが、ここからでも判ってしまう。
正直、三葉の身体でシていた時は、そこまで見ている余裕なかったからな……
そして、脱力感から、俺の方に倒れてくるのだろう。
と、思ったが、彼女は気丈にも姿勢を保っている。
ふぅー……と長く息を吐いたところで、シャンと背筋を伸ばし直した。
「なんか慣れてきたから……今度は瀧君も気持ち良くしてあげるね♪」
自分が満足したから、今度は俺を、ということか。
その気持ちは嬉しいのだが……腰の動きはおっかなびっくり。
やはり、
だけど、それでも、少しずつ。
俺に跨った腰を、ズッ、ズッ……と上下させていく。
「瀧君……気持ちよさそ❤」
俺、顔に出てたのか……
だが、確かに気持ちいい。
指で擦り込まれていた時よりも、ずっと。
ヌルヌルで、温かく、それにすべてが舐められているようだ。
その勢いは徐々に激しく。
「ん、ん……は……ぁ……」
三葉に……引き寄せられる……!?
蜜のお陰で引っかかることはないが、
「あ……あぁ……っ」
思わず声を漏らしてしまった俺に、三葉の口が嬉しそうに歪む。
「ふふ……その顔……ずっと見たかった……私が、そんな顔にさせたかった……!」
引っ張り、押し込む――その繰り返しの中で、俺はさっきとは比べ物にならない快感に導かれてしまう。
そして、その先に待っているものも、より大きく――
「三葉……
だが、それを聞いた上で、彼女の腰は止まらない。
「
トドメを刺すべく、彼女の膣がキュウキュウと締め付ける。もう根本まで迫ってきていて、もう長くは耐えられない……!
「ホントに……
ここに来て――三葉の表情が凍りつく。
「えっ?
ドッ、ドクン……ドクン……
俺の括約筋が脈打っている。
が、それに一番驚いているのは、三葉自身らしい。
「さっき
どうやら、二回連続の経験はなかったらしい。
予想外の事態に、三葉は不安そうに俯いている。
――が、沈みきったところで一気に反転。
「ま、仕方ないか。もう手遅れだし!」
それはそうだが、明るく言うことではない。
開き直っているだけかもしれないが。
「それに、二回がイケる、ってことは、三度目も……だよね?」
「な……何が……?」
彼女の
「うんっ、イケる、って瀧君のちんちんは言ってるよ♪」
い、いや、そこは……こんなに柔らかく温かく抱かれていたら、
実際、軽く腰を上げ下げしても、抜けることなく俺は三葉の
「せっかくの機会だし……萎えるまで付き合ってね♪ 大丈夫、瀧君が満足するまで、私がこうして腰を振っててあげるから❤」
満足という意味なら、もう満足してるのだけど!
多分、
しかし……
「どーしよ、私……瀧君のこと、も~っと好きになっちゃいそ❤」
すっかり慣れてしまったのか、彼女の腰つきには無駄がない。
無駄なく俺と、自分をも充たしていく。
本当に際限なく欲しがっているようだ。
何度
それどころか……
「
高校生に向かって何てことを言いやがる!
そりゃ、いずれはそうなって欲しいとは思っていたけど……それは今すぐにじゃない!
何とか萎えさせるべく、俺は気持ちを落ち着かせようとするが――
三葉の胸はやっぱり綺麗で、
三葉の
三葉が跳ねるたびにスカートが翻って、繋がっているところが見え隠れしてしまう。
彼女のあらゆるところが魅力的で、俺の意思とは無関係に血流が集っていくようだ。
しかし、こんなことを続けていたら……
本当に……本当に……!
いや、それ以前に――
俺の身体はもつのか……!?
***
ん……床が硬いな……。
てことは、今日もまた避難所かなー……と思ったけど、天井は綺麗。
だけど……瀧君の部屋とも……違う……?
ここ……どこ……?
どこ!?
何かもう、完全に目が覚めた!
だってここ……プレハブ小屋でも、瀧君の家でもないもの!
ベタっと胸に手を当てて、それからアソコに……
うん、ない、そして、
だから、これが瀧君の身体であることには違いない。
もう触り慣れてるから、それはいいんだけど……
おかしい。
朝なのに。
ってことは、今日は
男の子の身体はよくわからない。
まあいいや。
ただ……何で私――じゃなくて、瀧君、裸なの?
裸で寝てるの?
しかも、床で。
ホント、何があったのよ……?
そもそも、ここはどこなの?
友達の家……なはずはないわよね。
そこで、こんな格好で寝るわけないもの。
辺りを見回して……私は血の気が引いていくのが判った。
「ぅぅん……」
悩ましげに寝返りを打つのは……私……?
私、だとは思うのだけど、いつも鏡で見てるのとはちょっと違う気がする。
だけど、私であって欲しい。
何故なら、毛布から覗く肩口は、何かを着ているようには見えないから……!
い、いや……そんな……ね?
もし私の目論見通り、大学生の私と出逢えたからって、いきなりこんな……
と、予想を覆そうと恐る恐る布団を捲ってみたのだけど――
すぐに元に戻した。
言い訳できない状況だったから。
てか……育ってなくない?
成長終わっちゃったの?
しかし……はぁ……
瀧君、もうちょっと真面目だと思ってたんだけどなぁ。
逢っていきなりベッドイン――なんて、節操なさすぎでしょ。
たとえ記憶が残ってたとしても、私がそう簡単に身体を許すはずないんだけど。
そう考えると……あの瀧君がどうやって私を口説いたのかはちょっと気になる。
むしろ、私が頑張らなきゃ、って思ってたくらいだったのに。
意外と男の子だった、ってことかな。
やる時はやるのね。少しだけ見直した。
ともあれ、どういう経緯でこの状況になったのかは知りたい。
事と場合によっては……文句の一つでも残さなきゃいけないから。
とはいえ……いつものノートは当然自宅よね。
一度帰宅してから私探しを始めたのか、彼の手荷物も見当たらない。
ただ、ペン立てはそこにある。
せめて、自分の身体に何か痕跡でも残してないかなー?
また『すきだ』とか書いてたら……もう!
右手左手、右足左足――とあちらこちらを探してみるけど……
あれ……これって……?
まさかの足の裏? 何でそんなとこに……?
座り直して左足をグー……っと上げてみたところ――
……え?
ナニコレ。
ホントに、瀧君が書いたの?
筆跡はたどたどしくて何とも言えないのだけど……
確かに、こう書いてある。
『犯された』
――と四文字だけ。
犯した、じゃなくて犯“された”?
いまさら変な言い訳とかするとは思えないし……
合意だったの? 無理矢理だったの?
それが重要なんだけど。
私が寝てる間に、ついイタズラしちゃった、とか?
いや、全裸で寝てる方も無防備すぎだよね。
というか、何で私まで全裸なの? どういう状況なの?
……って頭が考えることを拒否しているけど……
“した”ではなく、“された”、と。
“した”であっても、その内容によっては許してもいい。
だけど……“された”って……
私が率先して瀧君を犯すはずなんてないし……
だよね?
私、そんなに淫らな女じゃないよね?
妄想と現実をごっちゃになんて……しないよね?
どうしよう……これじゃ、未来の私にどう話しかけていいかわかんない……
などと迷っているうちに――
ピピピピ、ピピピピ……
枕元のスマホのアラームが鳴っている。
瀧くんの、じゃない。多分、この家の。
電子音に反応してゴロリと転がり、ベッドの中の私が目覚ましを切った。
でも、それで目が合ってしまい――
「…………」
「…………」
うぅ……これは気不味い。
いま判ってるのは、私は瀧君と初エッチを済ませた直後、ってことだけ。
それがいい感じだったのか、ダメだったのか……私の反応でそれを見極めたい、と思っていたけど……
自分でも寝起きは良い方じゃない、って自覚はあった。
でも、こんなぼんやりしてるんだ。
何だか、恥ずかしい。
ちゃんとスッキリ起きられる方法を知りたいな。
これからは、瀧君にもこの顔を見られてしまうことも増えるだろうし。
ただ。
寝呆けながらも、こちらのことをじーっと見てる。
認識はしている。
眉間にしわを寄せてじーっと考え込んでいたけれど、
だけど、頭は働いていないようで――
「あれ? ……えーと……君の名は……?」