※この作品はR-18です。

酔いどれ三葉さん。   作:添牙いろは

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三葉と酔いどれ三葉さん。

 はっきりいって、半分くらい見損なった。

 でも、もう半分は……我ながら、どうにも煮え切らない。

 まさか、酔った女の子を介抱するフリをして、そのまま……その……やっちゃうなんて。

 正直、瀧君がそんな人だとは思わなかった。

 とはいえ――

「ごめんね。その……名前は思い出せないのに……身体だけは……なんて……❤」

 うわぁ、私ってこんな顔できるんだ。

 幸せを通り越して壊れちゃいそう。

 どう言い訳しても不審者事案として通報されちゃうニヤケっぷり。

 この様子を見れば……瀧君に良(・)く(・)してもらった……のでしょうね。

 それも、これ以上ないほどに。

 とはいえ……やっぱり酔った勢いで、ってのはよろしくない。

 倫理的にも。

 良心的にも。

 だから、とりあえず……

「先ずは、服を着ましょう。お互い」

 私は素っ裸の彼女に、健全な関係に戻ることを促した。

 

 残念ながら、私には記憶がない。

 瀧君からの書き置きもない。

 あったのは……足の裏に残された『犯された』という謎のダイイングメッセージだけ。

 勿論、こんなのはトイレに入ってすぐ消した。

 そして、改めて現場の状況を見つめ直してみる。

 二人きりの男女が全裸で夜を明かした――

 これはもう、全身全霊を込めて、致した――んでしょうね。

 具体的にナニをどうしたのかはわからないけれど。

 まあ、それを気にする必要はない。

 朝からそんな下世話な話題を振られることもないだろうし、

 男の子から求めない限り変なことにもならないだろうし。

 むしろ、それ以外のすり合わせの方が重要だ。

 ここで不信感を持たれてしまっては、瀧君の努力がふいになってしまう。

 でも、これも心配無用だった。

「昨日はずっと酔ってたから……今日はちゃんと瀧君のこと、知りたいな」

 どうやら瀧君は、お酒を呑んだ後の私を見つけたらしい。

 これなら、多少齟齬があっても『酔ってたから』でゴリ押しできそう。

 そんなわけで、私たちは自分のことを語り合っていた。

 と、いっても、私が知りうる限りの瀧君なのだけど。

 幸い、いま住んでる場所やバイト先とか、浅い話が中心だった。

 それと、もちろん連絡先の交換も。

 で、いま通ってる学校の話になった時――

「あっ、今日は授業があるんだった!」

「うそっ!? 土曜日だよ!?」

 それは判ってる。でも……瀧君の学校は土曜日の午前中に授業があるんだよ! 信じられないことに!!

 こんなガタガタな身体でまともに聞いてられるか不安になるも……え……何でそっちの方が泣きそうなのよ!?

「……じゃあ……終わったら、また逢いに来てくれる……?」

 やれやれ。たかだか半日で大げさね。

「わかりました。わかりましたから泣かないでください……」

「う……ん…………でも……寂しいよ……」

 ホントに、昨晩何があったのよ! 彼女に何をしたの!?

 メソメソしてる女子大生を宥めつつ、私は大急ぎで家を出ようとする。

 が、シャツの裾を掴まれてしまった。

「せめて、学校までは送らせて……いいでしょ?」

 身支度するから少し待っていろ、ということね。

 まあ、どうせ一時間目は間に合わないから、一分一秒焦る必要はない。

 だから、彼女の申し出はむしろ嬉しい。

 二人で身を寄せ合いながら通学していたら、きっと、周りから瀧君と私は恋人同士に見えるだろうから。

 

 四つしかない授業のうち、一つを遅刻で落とすとは我ながら不良学生だと思う。

 でも、一旦家に帰って、制服に着替えて授業の用意と――交換日記を持ち出せたことは大きい。

 これで、授業中にさっき聞いたことをメモることができる。

 そうしたら、入れ替わりの記憶が消えても、きっと瀧君と繋がっていられる……よね?

 私はようやく一安心していたのだけど……

「三葉さん、その……そろそろ二時間目が始まっちゃうんですけど……」

 正門の前で、引っ付いていた腕を解いてもらうのにも少なからず時間が掛かったのに、今度は手を放してくれない。

「お昼は、一緒に食べようね!? 私、待ってるから!!」

 食事一つでこの気迫である。

 こういうのって……束縛彼女っていうのかな。

 愛が重い、っていうか。

 ただ……こうなってしまった理由も少しわかる。

 私はこうして瀧君とちょこちょこ入れ替わって、

 それで、彼のことを感じてきたけれど――

 大学生の私は、ずっと心に空白を抱いてきたみたいだから。

 何だか寂しくて、

 だけど、その理由は解らなくて。

 それが昨晩、唐突に埋まった。

 でも、その間の記憶がはっきりしない。

 これは……不安にもなるわよね。

 その……うっかり、身体にも隙ができちゃうくらいには。

 ともかく、そんなわけなので、

 こっちの私にも優しくしてあげること! って瀧君にメッセージを残しておいた。

 勿論、学生らしく、節度をもって、ね。

 

 しかし……

 その忠告は、いきなり私が破ることとなってしまった。

「ホントごめん! お昼はご一緒できるんだけど……!」

 高木君……どうしてこんな日に限って体調崩すの……!

 彼には先月、シフトを変わってもらった借りがある。

 瀧君が作った借りだけど、私が返さなきゃならないわよね、この場合。

 まあ、多分問題ない。

 私は聞き分けの良いコだもの。

 もう大学生なんだし、きっと解ってくれるはず!

 ……と思ってたんだけどね。

 いや、頭では解ってるんだよ? きっと。

 だけど、気持ちの整理ができてないんでしょうねー……。

 折角のランチだってのに、すっごい落ち込ませちゃった。

 このあと一緒に観に行くつもりだった美術館があったとかで。

 それは明日一緒に行きましょう、と約束はしてみるも……だからね、頭では納得してるんだよ!

 ただ、心がついていかないだけなんだってば!

 本人だって、瀧君を困らせようとしているつもりはないわけだし。

 とはいっても。

「お願い……もう少しだけ……もうちょっとだけ……」

 この人、またしても手を放してくれません。

 くすぐるように指をモジモジさせるばかりで。

 このままじゃ、時間通りにお店の前まで来たのに遅刻しちゃう!

 だけど……

 自分のことだけに、私には彼女の気持ちが痛いほど伝わってきてしまう。

 そしてきっと、こうすれば言うこと聞いてくれるんだろうな、ってことも。

 でも、それは何かズルい気がする。

 迷ってる間に、残り三分を切ってしまった。

 これはもう……仕方ない!

「三葉さん!」

 私がそう呼べば、彼女は必ずこちらを向いてくれる。

 それで私は、目を閉じながらグイっと顔を近づけた。

 ここがお店の前だってことは分かってる。

 なのに、私……チューしちゃったよ!

 そしたら……彼女ってば、当然のように舌まで 挿入(い)れてくるのね。

 やっぱり昨晩、こういうことしてたんだなぁ……瀧君と。

 自分に嫉妬するのも変な話だけど、やっぱり悔しい。

 だから、瀧君の分までしっかりと味わわせてもらった。

 自分の知らないところでいいことしてた――って悔しがらせるために。

 絶対、日記にも書いとこう。私とベロチューしたよー、って。

 ともあれ、彼女はそれでこの場は引き下がってくれたのだけど……

 いや、自分でも驚くほど簡単に。

 それが逆に、ちょっと怖い。

 今なら『三回まわってワンと鳴け』って命令しても、迷わずやってしまいそう。

 それほどまでに……彼女は私のことをぼんやりと見つめてる。

 二つの瞳を潤ませて。

 熱っぽく。

 そこまで、瀧君のことを求めてたの……?

 とはいえ、これは他人事でもないのよねぇ……。

 私はこの先、瀧君との入れ替わりがなくなって、

 それから三年間――瀧君のこと忘(・)れ(・)て(・)過ごさなきゃいけないんだから。

 覚(・)え(・)て(・)る(・)のに、忘(・)れ(・)て(・)る(・)。

 そんな、寂しさに苛まれながら。

 ……だから、こんなになっちゃったのね……大学生の私は。

 

 さらに悪い事に……高木君、まさかシフトを2コマも入れてたなんて!

 バックで確認して驚いたわよ。

 これじゃ、終わるの二二時になっちゃう。

 夕飯も一緒に食べようね、って約束したのに。

 さすがに、そこまでは待たせられないわよね。

 ということで、仕事が始まる直前に、その旨だけを彼女のアドレスに送ったのだけど――

 急いでいたから、簡潔になりすぎちゃったのがマズかったみたい。

 お店の窓の外から、凄い形相の女がこっちを見てるもの。

 フラフラしてて。

 真っ青で。

 多分、ああいうのを『死相』っていうのだと思う。

 間違いなく何らかのメッセージをスマホの方に返ってきてるとは思うのだけど……今は仕事中。私事はあまりよろしくない。

 とはいえ、あんなのがお店に張り付いてたら営業的にもマズイよね。

 みんなには申し訳ないとは思いながらも……トイレに入ってこっそり確認させてもらった。

 すると――

『私のこと好きじゃないなら、正直に言って』

 お……重い!

 何なのこの重さ!?

 あんな女と付き合ってたら、瀧君ダメになっちゃう――

 って、私だよあの女!!

 ……どうしよう。

 どうしてこんなになっちゃったんだろう……。

 ……もしかして、ホントのホンキで、昨夜瀧君に――

 すっごい勢いで可愛がってもらっちゃった……?

 何しろ、名前も忘れるくらい記憶すっ飛んでたのに、身体だけは覚えてる――とか言い出すくらいだからね。

 あー……もう! 下手したら死んじゃいそうだもん、あっちの私!

 全力で励ますしかないじゃない!

『俺も、三葉さんのこと愛してます。だから、今日は客席の方で待っていてくれませんか?』

 勢い余って、“愛してる”とか送っちゃったよ……。

 これはイキすぎて逆に怪しまれるかなー……? とも思ったけど――あー……恋に嵌りすぎてバカになっちゃってるのね。お陰で助かった。

 あの女、まったく疑ってない。

 地獄から天国に舞い上がるように浮かれた足つきでフロアに踊り込んでくると、露骨なアイコンタクトをバチーン・バチーン・バチコーン! ……って。

 彼女は瀧君以外見えてないからいいだろうけど……みんな、私たちのことジロジロ見てるよ? もしくは、目のやり場に困ってるか。

 まいったな。これはこれで営業妨害だよ。

 でも――

 あんなに幸せそうな自分を見せつけられたら――止められないよねぇ、アレは。

 

 そうなると……当然訊かれてしまうわけで。

「瀧君……あの女の人……知り合い?」

 空いた食器を戻してきたとき、奥寺先輩から心配されちゃったよ。

 こないだデートに誘ったばかりだけれど……包み隠さず話させてもらおう。

「えーと……彼女です」

 それを聞いても、案外驚かれなかった。

 むしろ、納得の様子。

「ふぅん……なるほど、ね」

 あー……ビックリするほど脈なし、だったんだなぁ、瀧君。先月のデートで何か失敗したのかも。そのお陰で、今の私があるんだけどね。

 だからといって、いつもああだと思われても恥ずかしい。

「今は付き合い始めてちょっと舞い上がってるみたいなんで……しばらくしたら落ち着くと思いますが」

「ふふ……妬けるわね。しばらくは大変だけど、頑張ってね♪」

 思いっきり他人事の素振りで、奥寺先輩も仕事に戻っていた。

 しばらくは大変……かぁ……

 いや、でもさ。

 ホント落ち着いて、大学生の私!

 全然頭回ってないみたいだから。

 注文したスイーツが出てきたら『これ瀧君が作ったの!? 凄い!!』って――私、高校生バイトですよ? マニュアルどおりにやれば組み上がるファミレスならともかく、こんな本格的な飾り付けできるわけないって。

 勿論、お料理の方も。

 なのに、瀧君の手料理食べてるつもりになってる。

 これ、面倒だから明日瀧君の方から訂正しておいてもらお。

 そもそも、彼氏は瀧君なのだし。

 私が深く首突っ込むもんじゃない。

 で、彼女は本当にそのまま夜まで同じ席に居座って、

 そこからずーっと私のことを凝視していた。

 監視といってもいい。

 もしくは、視姦――か。

 それはまったく飽きることなく、

 むしろ、強く、熱くなってくるような――

「さっきの白、もう一本もらってもいいかなぁ?」

 ……って、ワイン何本空けたの!?

 それだけのめば、赤くもなるわ!

 でも、気付いた時にはすっかり手遅れ。

 頭はユラユラ揺れてるし、一人で帰らせたら途中で寝ちゃうんじゃないか、ってくらい危うい。

 幸せなのは解るけど……もう少しお酒の呑み方は覚えてくれないかな、自分。

 瀧君に送っていってもらうつもりで油断してるのかもしれないけど。

 そして、予定調和というべきか。

 仕事が終わった私は、泥酔女を担いで退勤することとなったのでした。

「ねーぇー……瀧君、私のこと、好きぃ?」

「はいはい、好きですよー……」

 このやり取り、もう一〇回以上やってる。

 私はコソコソ答えてるけど、酔っ払いは声が大きいからねぇ……。

 こんなことなら、タクシーにしておけば良かった。

 恥ずかしくて、明日からこの電車使えないよ!

 今日の記憶は元の身体に戻ったら消えてしまうのだけど――

 それはむしろ、幸運だったかもしれない。

 こんな未来を見せられてしまったら、きっと今後はお酒を呑むのを控えてしまうだろうから。

 でも、ちゃんと酔わないと、私は瀧君と出逢うキッカケを一つ失ってしまう。

 もしかしたら、翌日以降に別の機会があったのかもしれないけど――

 それは、私たちも同じこと。

 翌日以降は入れ替わりがなくなって、瀧君は私のことを忘れてしまうかもしれない。

 だから……

 ……ハァ。

 この酒癖の悪さは、こっちの瀧君に何とかしてもらいましょ……。

 

 ここまでは電車やら駅やら商店街やら、と人が多かったけど――

 住宅地に入って 人気(ひとけ)がなくなってくると、この女の絡み方も更に悪化してきた。

 一応アレでも、彼女としては周囲に配慮していたつもりだったのね。

 今では全力でベタベタくっついてくるし、隙あらばほっぺにチューしてこようとするし。

 挙句に、質問内容もいよいよ鬱陶しくなってきた。

「瀧君さー……私のどこが……好き?」

 それってまさに、自分で自分を褒め称えよ、ってことじゃない!

 こっ恥ずかしくてそんなの言えないって!

 何より、私たち逢ってまだ二日目――なんだよ? 認識上は。

 そう考えると……この関係は深すぎるわね、やっぱり。

 だから、こう答えても何の問題もないはず。

「多分、運命的な出逢い……だったんだと思いますよ」

 具体的に挙げることはできない。

 だけど、自分たちの知らないところで惹かれ合っている――

 そう思ってくれていた方が、今後も付き合いやすそうだし。

 何より、酔った頭にはこのくらいが丁度いいでしょ。

「運命! そだねー……私たちは結ばれる運命なんだよねー♪」

 彼女はヨタヨタと私の腕にしがみついてるけど……男の身体ってこういうとき本当に便利。

 すべてが軽く感じられるもの。

 これは、私も瀧君に安心して介抱してもらえるなぁ……うん❤

 似たようなことをこっちの私も考えているようで――

「私はねぇー……こーゆー……頼り甲斐のあるとこ、好きかなー……」

 何だか私の腕を気に入ってくれたようで、頬ずりしながら少しだけ静かになってくれた。

 が、湧き起こる想いは止まらない。

「それに、今日の瀧君仕事熱心で……そこも好きになっちゃった❤」

 というか、あんなに見張られてたら手なんて抜けないでしょ。

「ふふふ~……運命の人が、こんなカッコイイ男の子でホント良かった~♪」

 ぅ。

 ソレ、ゆっちゃうんだ……。

 私もずっと思ってたけど。

 勿論、本人には言ってないけど。

 でも。

 誰かに口に出されると……他人事なのに少し照れてしまう。

「ん、そうやってはにかんでるところも可愛いよ❤」

 ……だよねぇ。知ってた。

 もし、こうやって付き合い始めたら……いっぱいからかっちゃうんだろうな。

 瀧君の、そういう顔を見ていたいから。

 

 何だか複雑な気分になってきたところで、私たちはようやく女子大生の家に着いた。

 けど、私は瀧君と違って紳士だから。

 酔っているのをいいことに、女の子に乱暴したりはしない。

 速やかにベッドまで送り届けるだけ――と思ってたら……!

「ぎゃふっ!?」

 玄関で躓いて倒れちゃったよ!

 しかも、そのまま起き上がる気配がない。

 大人しく寝てくれるのは助かるのだけど……せめてベッドまでは頑張って欲しかった。

 さすがに、担いでいくのは大変だろうなー……と思っていたけど――

 幸い、眠ってしまったわけではないらしい。

 いや、この場合はむしろ寝ててくれた方が良かったかも……。

「ご……ごめんなさい……」

 何について謝っているのか――その臭(・)い(・)ですぐに解った。

 うつ伏せになったその腿の下からは、じわー……と床に水溜りが広がっていき――

「わた……私……うっ……うぅ……」

 そういえば、かなり呑んでたものねぇ……

 トイレに行きたかったなら、言ってくれれば良かったのに。

 ――って、言えるわけないか。大好きな男の子の前で。

 あまりのショックに本人も立ち直れないようで、出すものを出しきってもまだ泣きながら震えている。

 ここは……男として、もう一仕事必要ね。

「三葉さん、俺は気にしてませんから……とりあえずお風呂で足を流しましょう」

 その間に床の掃除をしておこうと思ったのだけど――

「瀧君も、一緒に入ってくれる?」

 いや、水浸しのままの玄関を放置してはおけないし。

 少し答えに詰まっただけで――こんな失態の後だからね、彼女は再び泣き出してしまった。

「やっぱり、嫌だよね……こんなお漏らし女となんて――」

「いっ、いえ! 早く床を拭かなきゃいけないだけですから!」

 これについては、彼女も理解してくれたらしい。

 でも……

「解った。じゃあ、終わるの待ってる」

 これは、ある意味助かるかもしれない。

 歩くのもやっとの酔っ払いを一人で浴室に入れて……溺死でもされたらシャレにならないもの。

 

 片付けをしていると――やっぱりここは自分の家なんだなぁ、って実感させられる。

 雑巾の場所とか、洗剤の場所とか、初めてのはずなのにどこにあるのか見当が付いてしまう。

 自分なら、ここにしまうだろうな、というのが。

 私が床を磨いている間、大学生の私は裸になって待っていた。

 そりゃ、汚れた服を着たまま、ってのも嫌だろうけど……タオルくらい巻いた方がいいんじゃないのかな。

 むしろ、それを忘れるくらい――恋人の働きっぷりに見惚れているのかもしれないけど。

 いつまで続くのかな、この熱病。

 こんなの続いてたら、瀧君だけでなく、私自身も参っちゃうでしょうに。

 

 で、臭いも取れたところで、今度は彼女を綺麗にする番なのだけど――

「何で瀧君脱がないの?」

 いや、私は洗ってあげるだけで、自分は瀧君の家に帰ってから改めてお風呂入るし。

 だけど、この様子だと……当然のように、今日も泊まっていくものと勘違いしてるんでしょうね。

 本当に、片時も離れたくない感じだったから。

 シラフの頭なら理解してくれるだろうけど、いま説明しても多分ダメそう。

 それに、何にせよすぐ寝ちゃうでしょうから……それまでは、彼女に合わせといた方が無難かな。

 ちゃんと書き置き残して――目が覚めた頃、また逢いに来ますよ、とでもいっておけば、目が覚めた瞬間、即座に電話掛けてくるでしょ。

 だから、明日は一日予定空けとけ、ってメモ残しておかないとね。

 そこで、うっかり別の予定が――とかなったら、絶対泣いちゃうもの。

 ということで、私も一緒にシャワータイム。

 本来、女の子と一緒に入る分には、そう気にもしないんだけどね。

 ただ、今の私の身体……男の子、ってところが……

 未だに、コレには慣れない。

 というか、男の子って身体洗うの不便すぎない?

 だって、触ってるだけで勝手に 勃起(た)ってきちゃうんだもの。

 そうすると……変な気分に、なっちゃうし。

 男の子的にも、

 女の子的にも。

 でも、それを――

 まさか、相(・)対(・)的(・)に実感させられるなんて!

 女の子の身体で……男の子の身体を……!

「あはぁ……瀧君……大好きだよぉ……❤」

 さっきお漏らしして泣きじゃくっていたのもすっかり忘れてるみたい。

 温かいシャワーを浴びながら、彼女は自分の身体を私に擦りこんでくる。

 あんまり意識したことなかったけど、おっぱいってこんなに柔らかいのね。

 むしろ、全身脂肪だらけというか。

 私……太ってる?

 触れられるすべてが、こんなに柔らかいなんて……!

 いえ、これは男の子の身体が締まりすぎてる、ってことなんだよね?

 絶対そうだ。

「瀧君……私のこと、好き?」

 またそれか! ……と思ったら、返事はいらないみたい。

 だって、言おうとしてるところに顔を近づけてくるんだもの。

 目を閉じて、

 まるで、仕事の前に私がしたのと同じように――!

「なっ……長湯してると、風邪引きますよ!?」

 私は慌てて彼女を押し剥がす!

 そしたら……ああ! またションボリしちゃった!!

「……ベッドでおやすみのキスをしてあげますから……」

 我ながら、クサいこと言ってるなぁ……とは思う。

 でも、お酒と恋に酔ってる彼女には、そのくらいの方が波長も合うみたい。

「ん……じゃ、もう出る」

 早くキスが欲しいのか、スゴスゴと浴室を出ていった。

 やっぱり、勢いであんなことしちゃったのは失敗だったかも。

 何だか、今度はキス魔にもなりそうだし。

 うーん……あまりの扱いやすさに、自分自身が不安になってくるよ……。

 で、下着とパジャマはどこかなー……って見回してたんだけど、彼女は身体を拭きながらそのままテクテクと行ってしまった。

 ったく、あの酔っぱらいは油断するとすぐフラフラする!

 私のことだから――

 下着はここ!

 パジャマはここ!

 ほら、ちゃんと脱衣所にあるじゃない!

 それら一式を取り出して、自分の腰にもタオルを巻いて、

 ベッドの方へと追ってみると、案の定、そのまま布団に入ろうとしていた。

「……あれ? 持ってきてくれたんだ」

 とっととこれに着替えて寝てくれないかなー……と思ってたのだけど――

 

 ――え?

 

 私が渡そうとした手をするりと抜けて――というか、受け取る気もない。

 むしろ、腕の中に飛び込むような全力の体当たり。

 本気で眠いのか、力加減が容赦ない。

 うっかり床に押し倒されてしまったのだけど……え?

 

 ……葡萄臭い。

 

 いや、そうではなく。

 確かにおやすみのキスとか言ってはみたけど。

 そういうのは、布団の中に入ってからじゃないの?

 しかし……何だか今回のキスはどうにもしつこい。

 口を離すつもりがないというか。

 鼻息もフンフン吹き掛かってるんだけど。

 唇を放してくれたかと思ったら、舌だけ伸ばしてこっちを舐めようとしてくるし。

 眠いだろうから、早く寝ればいいのに。

 って……アレ……?

 

 ……誰、コレ。

 

 なんか、おかしいよ、この人。

 笑顔なのに怖い、って初めて。

 おあずけされた犬だって、もう少し可愛らしいよ。

 目を見ただけで判る。

 これはヤバイ――って!

「瀧君……瀧君瀧君瀧君……」

 何度か彼の名前を呟いたところで……私の舌を補食しに掛かる!

 口の中のすべてを削ぎ落として、

 すべてを飲み込もうとする、

 無茶苦茶な……キス?

 何かもう、心臓まで吸い出されてしまいそうな、

 とんでもなく強引な勢い!

 その上、グニグニムニムニと男の子の身体を使って、

 自分の胸を揉みほぐしてる。

 解けてしまったタオルの内側にあったアソコの毛もジャリジャリと絡ませながら、

 硬くなった男の子を……何コレ、ヌルヌル!?

 上の口と同じくらい、

 下の口からも涎が垂れてるみたい。

 ち……違うよね……?

 これ、宮水三葉――なんて人じゃないよね?

 だって、それ、私だもの。

 私の名前だもの。

 私と同じ名前の人が――こんな……こんな……?

「瀧君……どうしよう……思い出しちゃった……どうしよう……!」

 何を思い出したか判らないけど……何やら腰を振り始めた。

 上下に、

 溝の中をなぞるように。

 そして――

「私の…… 子宮(カラダ)が……思い出しちゃったの……っ!」

 身体を起こして男の子をへし折るように体重を掛けてくる! ――けど、瀧君は無事。

 綺麗に、彼女の股の間へと、スルリ、ヌルリ、と埋め込まれていって――

「瀧君のおちんちんの硬さ……欲しいの……!」

 あ……あ……あぁ……!

 もしかして……

 これが……セックス……?

 男の子が、女の子とセックスすると……こうなっちゃうの……?

 なる……ほど……ね……。

 これは……男の子が欲しがるわけだ……。

 私は、女の子としてはしたことがないのだけど、

 彼女の様子を見ていると……女の子も……女の子で……

「あっ、あぁんっ、やっぱり……コレ好きぃ……っ❤」

 自らあんなに嬉しそうに擦りつけてるんだもの。

 相当気持ちいいんでしょうね……

「瀧君……瀧君……大好きだから……もっといい顔見せてよ!」

 いい顔――なんて言われても、私には表情を作ることなんてできない。

 男の子のトコロがヌルヌルと押し込まれたり引っ張られたり……

 手で擦るのとは全然違う。

 背骨ごとズルズル抜き取られて首筋までゾワゾワしちゃう。

「うんっ、うん……いいよ、いいよ……私の 膣(カラダ)で……もっと気持ち良く……なって!」

 う、うわぁ……さらに締め付けが強くなったような……。

 どうしよう……こんなの我慢できない……!

 でも、今なら判る。

 この人は……やっぱり私だ。

 宮水三葉だ。

 瀧君をこんなに悦ばせられるのは、私しかいないから。

 私しか、いて欲しくないから。

 私じゃないと……ダメだから……!

 そして何より――

「三葉……三葉……!」

 私は、自分の名前を呼んでみた。

 すると、彼女は幸せそうに微笑みかけてくる。

「嬉しい……瀧君……もっと……もっと呼んで!」

「三葉……三葉……三葉ぁ……!」

 顔だけでなく、 膣(カラダ)の中まで悦んでいるのが判ってしまう。

 だから、彼女は私なんだ。

 あんなに張(・)り(・)切(・)っ(・)て(・)た(・)顔(・)、初めて見たから少しだけ驚いてしまったけど――

 きっとアレは、瀧君の前でだけ見せる顔なんだ。

 それなら、今まで見たことがないのも当然だよね。

 私たちはまだ――同じ時間で出逢っていないのだから。

 同じ時間を、過ごしていないのだから。

 でも、きっとこれからは、

 同じ時間を過ごしていくこれからは――

 

 ビュクっ! ビュルっ! ドクン、ドクン、ドクン……

 

 あ……あぁ……気持ち良かったぁ……❤

「はぁ……あぁ…… 射精(で)てるよ、私の 膣内(なか)で瀧君がいっぱい……❤」

 ……え?

 ……え。

 えぇ!?

 何なのよ、この男子の感情の急下降は!

 さっきまで他に何も考えられないほどぼんやりしてたのに、 射精(だ)すモノ 射精(だ)してからようやく目が覚めるなんて……!

「あ、あの……その……」

 私……瀧君の身体で…… 射精(だ)しちゃったの?

 手の中でも、

 ティッシュの中でもなく……

 女の子の…… 子宮(なか)に……

 ゴム……とか、着けてなかったよね、本当に今更だけど。

 完全に 射精(イッ)ちゃった感覚あるし。

 というか、股の間から溢れてきてるし。

「ご……ごめんなさい……」

 どうしよう……。

 子供できちゃう……。

 まだ、大学生なのに……。

 瀧君に至っては高校生だよ!

 二人して働かないといけなくなるのかな。

 それより、先ずは入籍とかしないと。

 お婆ちゃんにだってどう説明したら良いのやら。

 ああああ! いきなりの急展開でどうしたらいいか分からないよ!

 それなのに……

「うふふ……瀧君もお漏らししちゃったね❤」

 何でこんなに嬉しそうなの!?

 今から焦っても遅いってのはあるけど……

 でも……!

「子供とか……その……!」

 あああ……どこから話せばいいんだろ。

 男の子の立場で考えたことなんてないし!

 だけど、未来の私はとっても余裕。

「大丈夫だよ、瀧君♪」

 何故なら、女の子の立場でなら、ずっと考えていたこともあるから。

「子供の名前ね、今パッと閃いちゃった」

 でしょうね!

 それ、私が三年前から温めてたヤツだから!

 どうしてそういうことばっかり思い出すのよ、この女は……!

 あのねぇ……お父さんに話したら全面的に協力してくれる――なんて脳内劇場はただの妄想だからね?

 瀧君が高卒でデザイン事務所にスカウトされるとかも。

 それ、全部ご都合主義のお花畑だから。

 というか、ぶっちゃけオカズ。

 自分たちを中心に世界を回して、瀧君の子供を産むための――

 そして、そこに至るまでの破廉恥な過程を楽しむための……!

 自分の中だけの秘め事だったのに、この女はそれを恥ずかしげもなく――!

「そういえば、瀧君って建築デザイナーとか目指してるんだよね? それで――」

「言わないでっ!」

 ズンッ!

「ぁはぁっ……ん❤」

 下から腰を撞き上げることで、何とか垂れ流されずに済んだけど……

「あぁ……そっか、瀧君も男の子だもんね♪」

 今度は彼女の方からズルズルー……と腰を上げて……ドスンっ!

 んっ……どうしてこんなに気持ちいいの……?

 一度 射精(ぬ)いてるのに一向に萎える気配がないし……。

 自分一人でするのと全然違うよ!

「女の子と繋がって、我慢できなくなっちゃったんだねー。大丈夫。私、一人でなら一日に一〇回したことあるから♪」

 ぎゃあああ!

 記録更新してるし!!

 七回でも多すぎると思ってたのに、そこからさらに三回とか、妄想のレパートリー増えてない!?

 女の子の方も、きっと一人でするのとは全然違う気持ちよさなんだと思う。

 そう考えると、一〇回どころか……

「あっ、あぁん、あ……明日は日曜日だから……今度こそ、ず~っと……一緒!」

 ヤバイ。本気でずっと腰振ってそうだよ、この人。

「何なら……はっ、あぁっ、ずっと、ずっと、 挿入(い)れっぱなしでも……ずっとぉ❤」

 ダメだよ!

 男の子から出るのは精液だけじゃないんだから!

 でも、今は……また……精液の方が……

 

 ビュルッ、ビュルッ、ビュル……

 

 あ……あはぁ……

 やっぱり、精液が 射精(で)ると……気持ち良くなっちゃう……

 二度目ともなると、さっきみたいに悲観的になることもないし。

 ホント不思議……オナニーと違って、おちんちんが全然柔らかくならないの……

 何度 射精(イッ)ても、女の子の 膣内(なか)で硬いまんま……

「ねぇ……瀧君……セックス、好き?」

 そんなこと訊かれても……困る。

 でも、腫れて膨らんだおちんちんが、女の子にヒクヒクされると……ゴシゴシして欲しくなっちゃう……。

 もう、自分から腰を振りたくなっちゃう程に。

 だから、これって……そういうこと、なんだなぁ……

「うん、セックス……好きぃ……❤」

 男の子としてセックスするのも好きだけど……

 早く女の子として、シたいなぁ……。

 だって、ほら。

「ふふっ、可愛い❤ 私も、瀧君とのセックス……大好きだよ!」

 上になって腰を浮かせるの、結構大変なのに、それをあんなに苦もなく続けられるんだもの。絶対気持ちいいんだよ。

 もしかしたら、男の子よりも 性感(カン)じちゃってるのかも。

 いいなぁ……私……

 早く三年後にならないかなぁ……❤

 

 ――なぁんてお気楽なことを考えていられたのはそこまで。

 三度、四度と続けれると……さすがに……!

「く……三葉っ、もう…… 絶頂(イッ)てるのに……!」

「うん、うん、いいよいいよ~♪ 瀧君の 絶頂(イキ)顔……可愛い……っ❤」

 ビクビクと自分のお尻が脈動してるのは判るけど、もう何も 射精(で)てこない。

 少し遅れて――彼女の方もビクビクし始めた。

 あっちはあっちで何回目なのよ……男の子と違って何も 射精(で)ないからわかんないけど……まだやるの……!?

「瀧くぅん……おちんちん硬ぁい……まだ欲しいのね……やらし❤」

「え、あの、そんなはずは……」

 どうして!? どうして萎えないの!?

 もう精巣空っぽだよ!?

 なのに……どうしてココだけ元気なの……?

 むしろ、全身の力を、そこに根こそぎ吸い取られてるみたい。

 そして、吸い取った男の子の力は全部、女の子の方へと……

「瀧君に 絶頂(イカ)される度に、どんどん瀧君のこと好きになっちゃうみたい❤ 瀧君……大好きだよ、愛してるよ瀧君……❤❤❤」

 あ、あ……どうしよ……

 もう無理、ってのは自覚してる。

 なのに、女の子って……凄い……

 疲れ切っているのに、男の子の男の子のところだけは癒やしてくれる。

 だから、嫌だって言えない。

 欲しい、とも言えないけれど。

 でも、くれるなら、いくらでももらってしまう。

 こんなの朝まで続けてたら……この身体、どうなっちゃうんだろ……?

 

       ***

 

 ……ハッ!

 俺は……一体……?

 何だか身体が痛い……と思ったら、どうやら床で寝ていたらしい。

 どうしてこんなことに……と思い返してみるも……見慣れぬ室内のお陰ですぐ解った。

 すぐに思い出せた。

 俺は……三葉さんに――

 何回だ?

 五回目あたりから記憶が怪しい。

 とんでもなく全身がだるいのも……きっとその所為だろう。

 念のために足の裏を見てみると――

『犯された』という自(・)筆(・)の(・)メ(・)ッ(・)セ(・)ー(・)ジ(・)が残っていた。

 どうやら入(・)れ(・)替(・)わ(・)り(・)は(・)起(・)き(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)らしい。

 こんなところを三葉のヤツに知られたら……何を言われるかわかったもんじゃないからな。

 それとなく……致してしまったことは伝えておこう。

 もちろん、合意の上で、と。

 そうとなれば、早急にコイツは消しておくべきだな。

 ウェットティッシュを一枚拝借して……ん? おかしいな。どうも消えてくれない。水性ペンを使ったはずなんだけど。

 必死で左足の裏をキュッキュと磨いていると――

「んー……おはよう……瀧君……❤」

 ギクリとして振り向くと、ちょうど三葉さんが目を覚ましたところのようだ。

 これに、俺は昨晩の惨劇を思い出すが――

 何故だか、身体には違った記憶が植え付けられているのかもしれない。

 彼女が身をもたげるにつれて、肌蹴た布団から二房の胸が零れ現れてくる。

 それが目に入っただけで俺の中で血が巡り、それが集まってムク、ムク……と膨れ上がっていく。

 一度捕まれば、大変なことになる――それは分かっているはずなのに……!

「おいで❤」

 両腕を広げて誘う三葉さんに、どうしても俺は抗えない。

 自らの意思で立ち上がり、彼女の方へと近づいてしまう。

 そして、胸の中に顔をうずめると――しっかりと抱きしめられてしまった。

 もう、逃げられない。

 逃げられないのに……それが何だか嬉しくなってしまう。

「まさか、床で寝てるなんて思わなかったから……ごめんね」

 そこに彼女の唇がある。

 たったそれだけの理由で、触れ合わせずにはいられない。

「私がいっぱい温めてあげるから……瀧君も私のこと、温めてくれる?」

「はい……俺で良ければ……!」

 今日は土曜日で学校もある。

 昨晩のように絞り尽くされることはないだろう。

 俺の身体が三葉さんを欲しているには違いないのだから――

 今は、求めるがままに充たしていたい。

 授業に差し障らない程度に。

 

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