「ウル様、疲れ様です」
アルリアは動けないウルの元に来ると回復魔法を施すため唇を合わせてくる。別に口づけをしなくてもいいのだが、こうすることで効果を上げることができるらしい。徐々に硬直が解けてくるとウルは立ち上がりジブルの元へ行く。ジブルは天族だけあって死んではいないが気絶しているようでピクリとも動かない。
「待って下さい」
とどめを刺そうとするとシャルロットが止めに入る。
「下手に殺して天族の怒りを買うのはまずいです。あなたがいなくなれば街を守ることができない。ここは話し合いで事を収める方がいい」
「具体的には」
「どこか他の場所に行ってもらうか、ここに居ても危害を加えないようにしてもらえれば」
しかしジブルにはウルの名前を教えているシャルロットはアルリアに考えがあるようだが・・・
「大丈夫です」
アルリアはそう言うとジブルを治療するし始める、問題ないと言う事らしい。
アルリアはどう考えてもウルより重症なジブルにキスをせず、しかし問題なく回復している。キスによって効果が高まるというのは本当だろうが、なくてもいけるのでウルとキスするための口実なのだろう。そんなことを考えているとジブルが目を覚ます
「んんう・・・」
「目が覚めたか」
「ひっ!?」
ジブルは目を覚ますと目の前のウルを見て小さく悲鳴を漏らす。最後一方的にやられたのがよほど怖かったのだろう。
「こ、殺さないでください」
小さな声で弱々しく言いながら体を小さく丸め身を守ろうとする。
「安心しろ殺す気はない。ただし俺たちの事は誰にも話さない、こいつの言う要望を聞く、この条件を飲んでもらう」
「わ、分かりました」
ジブルは何度も頷く。これだけ怯えていればウル達の事を話すことは無いだろう。アルリアのお墨付きもあるのでウル達は話がまとまると帰路に就く。
オリブントの街に戻るとシャルロットは報告と事後処理のため一端別れることになった。ジブルはあの場を離れることにしたようだが、天族が本当に居たので安全性の証明などをしなければならなかったからだ。
シャルロットもウルを敵に回したらこの街が壊滅的なダメージを負う事は嫌と言うほどおわかってるはずなので監視もしない。
シャルロットと別れた後ウル達は近くにあった宿屋に入る。
「いらっしゃい」
店番をしていた女の子が声をかける。リリスとそう歳は変わらないだろう。リリスも本来ならこんな風に普通に暮らしてはずなのだろう。そんなウルの気持ちをよそにリリスは女の子に明るく話しかける。
「部屋あいてますか?」
「三人ですと今は四人部屋しか空きがない状態ですがよろしいですか」
「大丈夫です」
「25000Lになります」
料金を払い部屋に案内される、アルリアが作った部屋の倍ほどの広さだがウルはとにかく泊まれればよかったし、部屋に入ると感じる負の感情も少しはましになる。体の疲れも戻って来たのでウルはすぐ横になり眠る。
シャルロットが一息つけたのは帰ってきてから二日後だった。疲れた体を動かしウル達の居る宿へ向かった。
「遅くなってしまって申し訳ない、改めてお礼をさせてくれ」
部屋に入るともうウルに対する抵抗もないようで自然に話しかけてくる。
「君達にはいくら感謝しても足りないよ」
そう言って頭をさげる。
「約束通りボクにできる事なら何でもする」
ウルはアルリアの方を見る。アルリアはウルの視線を受け微笑んでから口を開く
「ではシャルロット・ルーシアさん、あなたを報酬として貰います」
「は?」
シャルロットはてっきり命を要求されるものだと思っていたため思わず声を出す。
「どういうつもりだ?」
ウルもアルリアの意図が分からず訊ねる。
「ウル様には中立な立場の第三者が傍にいる必要があります。シャルロットさんなら問題ありません」
確かにシャルロットはウルの事も中立な立場で見ていた。問題はないのだが、ウルはシャルロットを傍に置くほど気を許してはいない。
「決してウル様に悪いようにはなりません」
「・・・・・・」
「では念のため奴隷契約を結んでおきましょう」
奴隷契約は眷属契約を除くと最も配下側に制約が科せられる契約で主に不利になる事ができなくなる。
「・・・・・・」
ウルは何も言わず許可もしないが拒絶もしない。
「それでよろしいですね」
「も、もちろんだ、ボクの全てを寄こせと言うならボクの全てを捧げよう」
沈黙を肯定とうけっとたアルリアがシャルロットに確認をとるとシャルロットは当然とばかりに答える。
契約はアルリアが執り行いウルとシャルロットを契約させたが、ウルは最後まで何も口にしなかった。
その後シャルロットはウル達に同行するためギルドを抜けようとしたがギルド側がこれを認めず長引いたが、今後一切ギルドに協力しないと言うとシャルロットほどの戦力を手放したくないギルドは、ギルドの緊急要請は必ず受ける事を条件として特例で自由に放浪しクエストを受けてもよいと認めた。
後はギルド長の引継や街の者と別れを済まし、みんなに見送られながら街を出た。
「シャルさんって皆さんにすごい人気だったんですね」
街が見えなくなるとリリスは<隠蔽>を解きながら感心したように話しかける。
「そんなに大したことしてなかったんだけど」
ふたりはすっかり仲良くなったようで楽しそうに話している。
そうやって歩いていると空から誰が下りてくる、それはウル達の知る人物ジブルだった。
「私も連れて行ってください」
ジブルは音もなくウルの前に降り立つと片膝をつき跪きながらそう言った。
「なんでそうなる」
「戦いに負けたものが勝者に従うのは敗者の義務です。あなたを主とさせてください」
「天族なんか目立ってしょうがない、それに俺の周りにもう人は要らない」
「でしたら目立たないようにします」
そう言うとジブルは翼を消す、天族にとって翼は誇りでありそれを見えなくするのは最大の屈辱であるはずだ。そうまでするということはウルが拒んでも勝手にでもついてくる気なのだろう。
「目的は?」
見えないところでチョロチョロされるよりは目に見える範囲に居る方がいい。ウルはジブルを追い払うのを諦めて余計なことは聞かず単刀直入に目的だけ聞く。
「確かめたいことがあります」
ジブルはウルの目を見つめそれだけ答える。ウルはため息をつきアルリアをジト目で見る、アルリアにはこうなることが分かっていたのだろう。ただアルリアがやることはウルにとって悪いようにはならない事だけしかやらないはずだ。
「私ジブルはウル・ラグナルさまを主とし、主の剣となり盾となり共に歩ませていただきたいと存じます。どうかこの忠義お受け取り下さい」
「好きにしろ」
ジブルはもう一度跪き忠誠を誓うがウルは投げやりに答える。しかしそれでもジブルは嬉しそうに笑う。
結局ウルはシャルロットに続きジブルも加えた。
「これからどこに行くつもりですか?」
夜になり、一度歩みを止め夜営に入ったタイミングでシャルロットがウルに尋ねる。
「魔族領の方を目指します」
答えないウルの代わりにアルリアが答える。
ウル達は今ウルの母を殺した魔族がいる可能性が高いであろう魔族領を目指すことにしている。
「魔族領ですか、ですがここから行こうと思えばすこし大変なはずですが」
ここから魔族領まで行こうと思えば無法地帯を抜け、天族でさえ大変と言う険しい自然の壁や特別指定区域の比ではない強さの魔獣が生息している場所を超える必要がある。しかし、そこを避ければかなり遠回りしなければならない。
「まっすぐ行くつもりですか!?」
回り道をするつもりだったシャルロットが驚きの声を上げる。回り道もできなくないがそうすると数年はかかってしまう。
「私達にはあまり時間が無いので」
「どういうことですか?」
アルリアは二人に自分の存在、世界が後数年で滅亡する事、ウルがそれを止める救世主の役割を持っていること、そして今世界を救うか救わないかを判断するため旅をしている事を話す。
話を聞き全てを知った上でシャルロットは物事を中立な立場で見ると約束し、ジブルは主の決定に従うと言った。
ウルはシャルロット達がいるので部屋には戻らずそのまま野宿することにした。三人でいた時ほどではないがウルはすんなり熟睡できた。
朝目が覚めると朝食を済まし出発する。
「それじゃあこの世界以外に別の世界があるってことですか」
「はい、この世界とは法則も仕組みも違う世界がいくつもありますよ」
しばらくするとシャルロットはウル以外と打ち解けていた、誰かと仲良くなるのが上手いのだろう。
「ウルさんこの世界の事どれくらい知っているんですか?よかったら道中お話ししまよ」
シャルロットはウルにも積極的に話しかけ距離を縮めようとする。そしてウルにこの世界の事を知ってもらおうとするようになった。しかし世界を救ってほしくてご機嫌をとるのではなく、純粋にこの世界の事を知って判断材料を増やしてもらおうとしているだけだ。
「ウルさんて無詠唱で魔法を撃てるんですか!?」
今はアルリアにウルの特異性を聞いている。ウルの事もしっかり知ろうとするが、過去の事には触れようとしない。ウルが不快にならないように気を使っているのだ。
ジブルもシャルロットほどではないが打ち解けた。シャルロットと違いウルに対しては必要以上に踏み込もうとしない。あくまで僕として主がどんな人物であっても従うつもりらしい。
「げご、げご」
このメンバーでも魔獣には襲われるらしい。ウル達の前にカエル型の魔獣が現れた。
「私にお任せください」
「いや、リリに任せる」
ジブルが魔物を倒そうとするがウルはリリに任せる。リリはウルと共に戦えるようになりたいと望んでいた、シャルロットとジブルという強力な存在が加わったとしてもそれは変わっていない、ならできる所で戦闘経験を積ませておくのがいい。リリスはすでに能力値400以上の力を持っている、これくらいの魔獣なら大丈夫だ。
リリスは難なく魔獣を倒す。
「グルルルル」
倒したそばからまた魔獣が現れる、倒す、また現れる。魔獣自体はそんなに強くないがこう何度も地づけて出てこられるとリリスではすぐにスタミナが切れる。仕方なくジブルに任せるとあっさりと片付く。それを見てリリスは落ち込んでしまう。
「大丈夫だリリすぐ強くなれる」
ウルがそう言うとリリスは嬉しそうな顔になる。強くなるそれはつまりウルとするということだ。しかもウルから誘ってきた、それはリリスの顔をにやけさせるには十分だった。