8つ目の要もウルの予想通り守護者はおらず、簡単に破壊できた。
だが、ウル達の歩みは遅くなる一方だった。
魔王が仕掛けた結界は龍脈を要石で封じることでウル達の行動を制限するものだ。
龍脈には自然によって作られるものと人工的に作られるものの二種類ある。
今回魔王が使った龍脈は後者。
「辺境なら問題はなかったのですが、やはり魔王の元に近付くにつれ動きにくくなりますね」
人工的な龍脈は人口が集中し、エネルギーが活性化する都市を街道等で繋ぐことによって発生する。
つまり龍脈の中心地たる魔王城を目指せば目指すほど発展した都市を通らなければならないというわけだ。
「魔族の多様性、好戦的な性格、一定以上の文化力は思ったより厄介ですね」
魔族にも様々なタイプがおり、昼行性の者や夜行性の者、休息をほとんど必要としない者、そういった連中がそこら中で勢力争いをしていたり、街道を行き来している。
しかも、魔王の命令なのか何かを警戒するように神経を尖らせている。
「鬱陶しいけど、正面から蹴散らして進むわけにもいかんしな」
魔王を除く魔族全員が束になってかかってきても勝つのはウル達だ。
それは魔王も理解しているだろう。
だが、時間は稼がれるたろうし、最悪ウルの力を把握されてしまうかもしれない。
「儂が"隠蔽"を使えたら良かったのじゃがな」
リューが"隠蔽"を使えたら上空という選択肢があったのだが、生憎リューにそのスキルはない。
一応魔法で姿を眩ますことはできるが、本体ではないため見破られる可能性もゼロではない。
「結局"隠蔽"を使って少しずつ進んでいくしかないな」
魔王相手に準備期間作らせるのは得策ではないが、こちらの手札を知られるよりはましだ。
「相手の方が格上なら、仕掛けるタイミングくらいは此方で決めさせてもらう」
ウルは来るべき決戦の時に備えて闘志を鋭く研ぎ澄ましていく。
そんなウルに対して仲間達は嬉しそうな笑みで応える。
仲間達は既にウルからどう魔王と戦うか聞かされているのだが、その作戦では仲間達全員がそれぞれ重要な役割を持つ。
ウルの行く末を左右する大一番でウルのとからになれることが嬉しいのだ。
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場所は森族領に変わり、部屋化したドローグではウルの配下となった森族達がバタバタと忙しなく働いていた。
「薬はもう十分じゃから、魔獣の防腐処理と塩の生成を急げ」
「はい!」
「ああ、家屋の修復要の木材の確保も急げ」
「はい!」
右へ左へ走り回る森族達に指示を出すのはこの村の長であり、ウルの眷族の一人でもあるセラだ。
外敵の心配がなく世界樹の恩恵を多大に受けれるこの場所ではほとんど仕事をする必要がない。
にもかかわらず、村の住民達が多忙を極めているのには訳がある。
今生産している全ては人族領に輸出するための物だ。
人族領への輸出といっても不特定多数の国と取引を行うためではなく、同じくウルの眷族のエレニーが治めるラピックスの物資不足を補うためのものだが。
今ラピックスは政治的に危うい立場にある。
外からは周辺諸国の圧力、内は元エリュシア貴族による反発。
それをエレニーの手腕で何とか抑えているが、急改革も行っているため人手も物資も間に合っていないのが現状だ。
『ラピックスは今後、主様の成すことにおいて重要な役割を持つ。じゃからお主等も協力せい』
これは数ヵ月前に大量の項目が書かれた書類を持ってきたリューが言った台詞だ。
ほとんど説明を受けていなかったために戸惑いこそしたが、それが仲間、ひいてはウルの役に立つのなら否はなかった。
毎日大量の追加が来て休む暇などないが、誰一人文句も溢さず働き続ける。
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大量の書状や書類が所狭しと積み上がった執務室でエレニーは現状の問題点や解決策を考案し、各方面へ通達する。
「は~~~~」
書類整理が一段落してエレニーは深い深いため息を吐く。
「姫様、あまりご無理をなされては……」
「ありがとうございます。ですが、心配要りません」
側に控えていた腹心達が心配そうに声をかけてくるが、エレニー本人はあまり気にした様子はない。
それもその筈で、エレニーは既に半神化をしている。
例えウル達が魔族領に旅立ってから一睡もしていなくても、なんの問題もないのだ。
どんなに疲れていてもそれは精神的疲労、気力でどうとでもなる。
「そんなことより、例の件……先方は同意してくれましたか?」
「い、いえ……」
「そうですか……ならば敢えて蜂起させましょう」
「わ、分かりました……ではそのように裏工作を」
「はい。お願いします」
エリュシアは人族領でも屈指の大国だった。
それを軍隊を持たず、同盟により国を維持していた小国のラピックスが打ち破ったとなれば周辺諸国だけでなく他の大国も警戒や疑惑の目を向けてくる。
対外的にはエリュシア国は魔族と共謀していることが発覚したため、人族の安寧を維持するために宣戦布告としているが、ラピックスこそ魔族と共謀しているのではないかという声や詳細の説明を求める声が後を絶たない。
(リュー様やセラ様のお陰で他国の影響はほとんど考慮しなくてよいのが救いですね……)
こちらは大量の竜や強力な魔獣を戦力として使えることを公表しているため簡単には仕掛けてこない。
出来ることといえば物流の制限だが、こちらはセラ達の協力で何とか間に合っている。
「商人連合の方はどうですか?」
「はい、ほぼ掌握が完了しました」
セラ達が物資を無償で提供しているおかげで格安で商品を下ろすことができ、大体の商人は以前より利益が出たと好意的だ。
「ただ……輸出を専門にしていた商人達の懐柔にはもう少しかかりそうです」
「ありがとうございます。わたくしは商いの方面には少々疎いもので」
「いえ、わたくしの家は元々商人達を取りまとめる役目の貴族の家系だったもので……これは昔とった杵柄というものです」
エレニーに親しい言葉を返すのは元フィリップス王の後宮にいた姫の一人だ。
祖国を失った姫達はエリュシアに残り、エレニーの補佐をしているのだ。
「ギルドの方はリュー様に任せてあるので問題はないでしょう」
ギルドは基本的に国家間の問題には干渉しない。
しかし、先の戦争でSランクの冒険者がエリュシア側についていたことからギルドと王族や貴族が癒着しているのは明らかだった。
そこでリューは能力値1万程度の分身を作り、"万物変化"で竜との亜人ということにしてギルドに加入することにした。
リューが居るからこそラピックスは竜や魔獣を兵力として扱え、リューがギルドに加入することでラピックスは人族の敵でないと示せる。
これがリューが用意した筋書きだ。
ギルドに所属していれば申請さえすればリューを指名して依頼を出せる。
能力値1万越えの人物に国家間の問題でなければどんな内容でも救援を求めれるのだ。
これには初め国に所属しているリューをギルド員にすることに難色を示していたギルド上層部も直ぐに手のひらを返した。
さらに、周辺諸国もSランク冒険者の依頼料としては破格の値段で済むと知って渋々だが納得した。
「ああ、ギルド長には就任できたが、職員の総入れ替えは人員の選別に少し時間がかかるの」
エレニーの言葉にいつから居たのか、窓辺に腰掛けていたリューが応える。
「そうですか……」
元エリュシア国との癒着が一切なく、この地域一帯の情勢にも詳しく、今後邪魔にならない人材などそう簡単に見つるわけもない。
「まあ何とかするわ。それと、頼まれていた貴族どもの調査結果じゃ」
「ありがとうございます。早速拝見させてもらいますね」
リューはため息を吐きつつも束ねた報告書をエレニーに差し出す。
他国の影響をあまり考慮しなくていい現状、一番の問題はやはり元エリュシア国の貴族だ。
エレニーの改革では貴族の恩恵は政治に関与で事だけなのだが、私腹を肥やしたい卑しい狸どもはあの手この手で自分の利益を要求してくる。
まあ、そんな要求はことごとく無視しているのだが、時には反乱を煽動したり、裏工作を講じたりと面倒事だけ起こす。
リューの情報網のお陰で貴族達の行動は筒抜けなのだが、どんなに正当性があろうとも、圧政のようになっているのは否めない。
「やはり地盤を早く固めなくては……」
「失礼します。オルタワ国より同盟の要請が届いております」
「同盟条件は?」
「恒久的な友好関係と労働力の提供、見返りとして兵と資源の提供です」
「こちらは平時は憲兵団の提供に止まり、防衛戦争の場合のみ兵の提供、資源の提供においては要相談。相手方にはこちらが宣戦布告をされた場合にのみ同陣営としての参戦義務。この内容でよろしければ同盟締結に同意するとお伝えください」
「かしこまりました」
エリュシア国の後ろ楯を失った弱小国はラピックスにどれだけ黒い噂があったとしても同盟を結ばなければ列強国に呑み込まれる。
だからエレニーはウルに害を及ぼさないかつ改革の邪魔にならない弱小国ならば条件を吹っ掛けずに同盟を締結するようにしている。
そうして地盤を固めなければ内側から崩れるのを止めきれないからだ。
「さて、もう少し頑張りましょうか」
両頬を叩いて気合いを入れ直す。
エレニーの眠れない一日は今日も続く。
次回はアルリアとリューを除いたウル同行組のハーレムエッチ回にしようと思ってます
まだまだ不定期更新ですが、できるだけ早く更新できるよう頑張ります