ウルは目を覚ますとリリスとの行為をのぞき見していたアルリアに小言を言って二度としないと誓わしてから詳しい説明をさせる。
アルリアはその時々にならないと詳細を話さない癖がある(あえてそうしているのだろうが)。
眷属は昨日のように主の体液を吸収することで力を増すことができる。体液は精液に限らず汗や唾液などでもいいそうだ。
体液を得なくても性交で少しは強くなれるのだがやはり体液を得る方がより強くなれ、主の体液も肌に掛かるよりは体内に注ぎ込まれる方がいいそうだ。
本来は眷属と主の間には子をなすことができないが、ウルとリリスは半神化しているため望めば子をもうけることができるそうだ。リリスは欲しいそうだがウルは今は子をもうけたいとは思っていないためちょうどいい。
説明が終わり元の世界に戻るとシャルロットとジブルが朝食の用意をしていた。
「皆さんおはようございます、もうすぐ朝食ができますよ」
シャルロットはにこやかに挨拶してくる。急に現れたウル達に驚かないところを見るとアルリアが事前に教えていたのだろう。
「ボクもそこまで料理が得意じゃないから口に合わないかもしれませんけど」
そう言いながら差し出された朝食を受け取り少しシャルロットの様子を窺ってから口を付ける。味は正直リリスより旨かったがそんなに食べる気にはなれず数口食べただけで残してしまう。
「やっぱり口に合いませんでしたか?」
「食欲がないだけだ」
ウルはそれだけ言うとアルリアに結界を張らせ独りで鍛錬を始める。能力値が一気に上がると感覚が狂うためこうして体を慣れさせておかなければならない。
「主様、私が相手を務めさせてもらってもよろしいですか?」
食事を摂らず近くで待機していたジブルが声をかけてくる。ジブルはまだ能力値だけならウルを上回ってる、相手としては文句ない。
しばらくジブルと戦った後リリス達の元に戻る。やはりジブルには強化魔法を使わなければ勝つことができなかった。
リリス達の元へ戻ると、リリスもシャルロットを相手に模擬戦を行っていた。リリスも急激に伸びた力に慣れたいのだろろう。
二人の戦いを見ているとリリスは自分の力で強くなったわけではないので自分の力に技術が追いついておらず力に振り回されている感じの戦い方になっている。
「リリはもっと技を磨く必要があるね」
「はい」
そのことはシャルロットにも指摘されているし本人もしっかり分かってるようだ。このままシャルロットとアルリアに任せておけばすぐに身に付くはずだ。
二人はウルに気が付くと特訓をやめ旅の支度をする、と言っても最低限必要なもの以外は部屋に入れるのですぐ準備できる。
「ウルさん、このまま魔族領に行くんでしたらトランベルク国とティムール国を抜ける必要があります。トランベルク国は芸術の国でティムール国は近くに禁域があるので強い武器や防具が沢山ある国ですよ」
シャルロットは相変わらずウルに話しかけてくる。しかもうまくウルが不快に思う前に話を切り上げるのでやめさせられず色々知識が増えてきた。
ここから魔族領に行くにはまず12000Mもある霊峰アヴァザードを超えなければいけない。それにはアヴァザードを追われた魔獣たちが生息する禁域を抜ける必要がある。禁域の魔獣は最低でも能力値が800以上あるそうだ。人族で入るのは死に場所を求める者か死を覚悟した調査隊くらいらしい。
「そろそろ国境だから姿を隠していた方がいいです」
シャルロットの説明を聞いている間に国境まで来ていたらしい。ウル達は<隠蔽>で姿を隠しジブルは上空に飛び上がる。最悪ジブルは見つかるかもしれないが天族に喧嘩を売る人族はいないので顔さえ見られなければ問題ない。
シャルロットは皆が姿を隠したことを確認してから関所に向かう。
「止まれ・・・っとシャルロットさんですか、話は聞いてます旅に出るんですって」
関所の役人の一人が顔見知りだったようで話しかけてくる。
「ふん、それだけの力を持っていながら国に尽くさずギルドなんかに入って軍役から逃げただけでなく在住の決まりも破って旅に出るなんて良い身分だよな、これだから亜人は」
「おい!これまで国を守ってくれていたんだぞ、そんな言い方はないだろ!」
待機所から現れたもう一人の役人はシャルロットの事を快く思っていないようで悪態をつく。
「いいんだ、その人の言う通りボクは軍に属さなかった上我儘でこの国を出るんだ、そう言われても仕方ないよ」
「そんなことないです、あなたは非難されても軍では対処できないことに対応するためにギルドに入り、国のために十分すぎるほど尽くしてきた」
「そういってもらえると嬉しいよ」
そう言ってシャルロットを通す。もう一人の方は最後までいい顔をしなかったが国を出ることを止めはしなかった。
「もういいですよ」
関所が見えなくなるとシャルロットがウル達に話しかける。
「まったくひどい人ですね、きっとシャルさんが亜人だから差別してるんですよ」
リリスが<隠蔽>を解きながら文句を言う。亜人は普通の人族より強い者が多いため差別されやすいのだ。
「お前はああいうやつに対して何も思わないのか?」
珍しくウルからシャルロットに話しかける。
「思うも何も彼の言う通りですからね」
シャルロットは気にした様子もなくむしろそう言われるのが当然のように言う。
ウルはそんなシャルロットをしばらく見つめてから何事もなかったようにジブルに合図を出し降りてこさせ歩き出す。
「このままいくとカタスと言う小さな村があります今日はそこで宿をとりませんか?」
日も傾き始めたころシャルロットが提案してくる。できる限り人と関わると約束しているため仕方なく足を向ける。
「グギャァァァァァァァァ!!!」
「うわあぁぁぁ!!!」
カスタの村に向かっている途中で魔獣の鳴き声と人の悲鳴が聞こえる。
「ウルさんあそこ!」
リリスが指さす方を見ると黒髪赤目の少年が全身を血だらけにしながら魔獣に向かって行っている。どう考えても勝てる相手ではない。しかも片腕は食いちぎられかけて辛うじて繋がっているだけの状態で武器もちゃんとしたものではない。
その子の武器が壊れ食い殺されそうになるが、間一髪でシャルロットが助ける。
「君大丈夫かい!?」
シャルロットが呼びかけるが返事がない、失血と恐怖で気を失ってるようだ。
「アル、回復してやれ」
アルリアは少年を治療する。アルリアが治療しただけあって腕も綺麗に繋がる。
しばらくすると少年が目を覚ます。
「君はどうしてあんな無茶をしたんだい?」
「だって今日中に村に悪さする魔獣を倒さないと村に入れてもらえないから・・・」
少年はウルの予想していた様な理由を話す。
シャルロットから得た知識だが人族と魔族の混血は黒髪赤目になることが多い、だから黒髪で赤目の者は迫害されているそうだ。実際この子も魔族の混血だ。
「お前村に家族は居るのか?」
「いない、僕は捨て子なんだ」
まあ当然だろう。親がいるならその親も同じ目にあわされているはずだ。
「そんなことより、ありがとう。これで皆から仲間外れにされないですむ」
そう言って少年は嬉しそうに村の方へ駆けていく。
「嘘をつくんじゃねぇ!お前がアイツを倒せる訳がないだろ!ギルドか軍に頼まなければいけない魔獣だぞ」
「ホントに倒したんだって!」
ウル達が村に着くと先程の少年と門番らしき人物が揉めていた。少年が魔獣を倒した事を信用していない様子だ。
「あの、本当に魔獣は倒しましたよ」
リリスが口論の間に割って入り魔獣の討伐証明の耳を見せる。門番はその耳を奪い取り確認する。
「確かに魔獣を倒したのは本当のようだな」
「だろ!だから入れてくれよ」
少年が嬉しそうに笑いながら言うが、門番は表情をより険しくする。
「本当にお前独りで倒したのか?」
「え?」
「こいつらが倒したんじゃないのか?」
「そ、それは」
事実を言い当てられて言葉に詰まる少年を見て、それ見た事かと言いながら手に持っていた棒で思いっ切り少年を突き飛ばす。
「何てことするんですか!?」
「俺たちが出した条件は一人で魔獣を討伐してくることだ。こいつはそれができなかっただから村に入れないだけだ」
「いくらなんでも酷過ぎる!あの子はホントに死ぬところだったんだぞ!」
「そんな奴死んでも誰も悲しまないよ、むしろ喜ぶ奴の方が多いよ。よそ者がうちの村の事に口出しするんじゃねえ!」
リリスだけでなくシャルロットも詰め寄るが門番は少年の目の前なのに当然のように言い切る。
それを聞いて少年は走り去ってしまう。
「行くぞ」
ウルは底冷えするような冷たい声がアルリアとジブル以外の者を凍り付かせる。ウルはそんな一同を気にも留めずに少年が走っていった方へ向かう。少ししてリリスとシャルロットは青ざめた顔で付いてくる。
少しすると泣き崩れている少年がいた。
「あんな扱いでいいのか?」
「よくはないけど、僕を村に置いてくれるだけましさ」
ヒックヒックと喉を鳴らしながら答える。確かにウルの様に直接殺しに来られるよりはマシかもしれないが、どちらも大して変わらないだろう。
「復讐したくはないのか」
「そんなことしたらもっとひどい事されるよ、そんなことできる力もないし」
「じゃあ力が有ったらどうだ」
ウルは無機質な声で言いながらフェンリル達を数体召喚する。唖然とする少年をよそにウルは<交信>でフェンリル達に少年の言うことを聞くように命令する。
「これでこいつらはお前の言う事を聞く、後どうするかはお前次第だ」
そう言ってと皆を連れて村を通らない道を行く。
「ウルさん、確かにあの村の態度は酷いですけど、あんなことをするよりちゃんと話し合いをさせるべきだと思います」
シャルロットが苦言を呈す。今ウルの機嫌は最悪と言ってもいい、そんな中こんなことを言えば殺されるかもしれない。しかしシャルロットは物事を公平に見るという役割を全うする。
客観的に見ると話し合いをさせ迫害をやめさせる、それが一番いい方法なのだろう。それはウルも分かっている。しかし気持ちで言えばそんな村今すぐにでも滅ぼしてやりたい。だがウルがそれをやっても意味が無い、だから少年に力を与えた。あの少年がフェンリル達を使って村に復讐するか村を守るか、はたまた別の選択肢を取るかは分からないが少年が選んだ選択なら文句を言える者はいない、あの少年にはそれだけの権利がある。
二日後に訪れた街でカタスの村が魔獣の群れに襲われて壊滅状態だと知ったシャルロットは己の無力さに打ちひしがれる。シャルロットはあくまで公平に物事を見てウルに伝えるだけだ。そのそれを知ってどうするかはウル次第でシャルロットが止めることはできない。
それでもウルが少しでも考えを変えてくれるよう公平な立場を貫こうと覚悟を新たにする。