緊急召集
「ウル、この近くにある街に寄っていいかい?」
シャルロットはおずおずと聞いてくる。シャルロットやジブルがウルに積極的に関わろうとした結果、ウルは二人に心を開たのだが、弊害として感情のコントロールが難しくなってしまった。だからルイエの一件以降負の感情が溜まらないように人と関わるのを避けてきた。それはシャルロットもよく理解している。
「だが、滞在の任を解かれたとはいえ、まだボクはギルドに所属している身だ。定期報告をしておく方が問題にならないだろう」
確かにシャルロットが行方をくらませた、となればギルドも動く事になるだろう。そうなればウルの存在がバレる可能性が増える事になる、それは避けたい。
ウルは少し考えてからシャルロットの頼みを聞き入れてやる。確かに問題になりたくなかったというのも有るが心を開いた者シャルロットの頼みというのが大きいのだろう。やはり心を開いた者には甘くなってしまう。
またルイエで武器を調達できなかったどころか逆に大量に消費してしまった。更に人数が増え、ウィラやウィズにしっかりとした栄養の有る物を食べさす為に調味料なども大量に消費してしまい、そろそろ補充したいところでもあった。
「じゃあ、この近くにあるクタアトという街に行こう。この街はそこまで悪いうわさを聞かないし・・・」
最後はしりすぼみしてしまう。治安がいいと言ってもカタスのようなこともある。シャルロットはルイエの一件以降ウルの励ましでマシになったとは言えまだ少し自信が持てないのだ。
本当ならそれ取り除いてやりたいのだが、シャルロットはだけはウルに溺れさせ過ぎてはいけない。物事を中立に見る事に多大な影響があるならともかく、多少の悩みだけならそれも含めて物事を見る必要がある。
「すまない、嫌な思いをさせるかもしれないのに」
「気にするな、その代り負の感情が溜まったら相手をしてくれ」
すまなそうに謝ってくるシャルロットにウルは軽く冗談を言う。こんな冗談が言える程ウルは心を開けたのだ。しかしシャルロットは冗談だととらえなかったようで頬を赤らめ俯いてしまう。
「ウ、ウルが相手をしろって命じるなら・・・構わないよ・・・」
シャルロットは仕方ない、といった感じで言ってくるが、ニヤけるのを必死で抑えているのがまる分かりだ。
そもそもここに居るメンバーにとってウルに抱かれる事はご褒美以外の何物でもない、それはシャルロットも例外ではないのだ。しかし肝心のウルがそのことに気付いていない、やはりこういう方面のカンはかなり鈍いようだ。
そわそわしていたシャルロットは他の眷属、ウィラとウィズにまで羨望の眼差しで見つめられ小さくなりながら前へ進む。
ちなみにウル達は今、馬代わりにフェンリル達を使っている。人と関わるのを避ける為、魔獣の多い人の通らない道を進んでいる。だから魔獣除けの意味も兼ねてフェンリル達を使っているのだ。それでも襲ってくる魔獣はいるのだが、今のウルやジブルがいる状態で襲ってくる魔獣などリリスだけでも十分対処できるようなやつなのだが。
「そろそろフェンリル達から降りた方がいいここら辺からは人に会う可能性がある」
しばらく街に向かって進んでいるとシャルロットが忠告してくる。
「こんな魔獣の巣窟に誰か来ることが有るのか?」
「武器や防具の素材確保などで冒険者達が来ることがあるんだ」
そう言われ素直にフェンリルから降りここからは徒歩で街に向かう事にする。フェンリル達はその場に放置するのではなく彼ら専用の部屋を造ってあるのでそこに戻す。
「ここら辺の魔獣から取れる素材からは良い装備が作れるのか?」
「いや、人族基準ならかなり良い物が作れるんだけど、ウルが使えるような物は作れないと思うよ」
「そうか」
そう言いながらウルのある疑問が浮かぶ。
「そういえばシャルは装備らしい装備は持って無いんだな」
シャルロットはジブル討伐の時も防具は着けてなかった。
「ボクは防御魔法に長けているから体の動きを制限する防具は着けたくないんだよ」
「じゃあ、武器を使わないのはなんでだ」
「ボクは魔法や魔術を中心に使って戦う魔導士タイプだから近接戦は得意じゃないんだ。多分ステータスの差が無かったらリリにも勝てないと思う。だから接近戦に持ち込まさせないようにしているから武器を使う機会が無いんだ」
まあ実際は苦手と言ってもかなりの腕は持っており、ホントはステータスの差を抜きにしても人族でシャルロットに接近戦で勝てる者はごく一部なのだが。シャルロットが戦って来たのは本来人族では対処できない敵ばかりだからその自覚が無いだけなのだ。
そんなことを話していると目の前からギルド員らしき集団がやって来た。彼らはまだウル達に気付いていないようなので、素早くウィラとウィズを部屋に入れる。彼らはこんな魔獣の多く出る所に人がいる事に疑惑の目を向けてきたが依頼を優先したようで何も言わずすれ違っていった。
「みんな、悪いけど街に着いたら一緒にギルドに来てくれないか?」
ギルド員たちが見えなくなってからそっとシャルロットが言ってくる。
「何でだ」
「ボクの顔を見られたってことはボクがシャルロット・ルーシアだとバレるかもしれない、そしたらギルドで君達がいなかったら逆に怪しまれる」
確かにシャルロットの言う通りだ。気は進まないが仕方なくギルドに同行することにする。ただしシャルロット以外は顔をを見られないようにする為ここからはローブを着る。
そうこうしている内に街に続く大通りに出る。さすがにここら辺には商人やら旅人など人が大勢いる。
「君達クタアトの街に行くのかい?もしそうなら乗せてってやるけど」
大通りにですと直ぐ馬車を引いたいかにも農民と言った風貌の男が声をかけてくる。
「何か裏がるんだろ」
「はっはっは!こいつは手厳しいな」
ウルが打算を感じ真意を探ると男は頭をピシャリと叩いて笑いだす。
「なに、悪事を働こうってんじゃねえ、お前さんたちが魔獣の多く出る危ない道から出てきたのが見えたんでな、冒険者かなっと思ったんだ。だから街まで送る代わりに警護してほしいと思ってな」
男はあっさりと白状する。だが嘘は言っていない。
「そういう事なら構わないよ」
ウルが答えるよりも早くシャルロットがOKを出す。
『こういうのは断らない方が怪しまれない』
どういうことかと聞こうと思ったら念話でシャルロットが説明してくる。
「そりゃありがてぇ、荷台しか空いてないが乗ってくれ」
男に促されて荷台に乗り込む。結果から言うと街までは問題なくこれたので男とは検問の前で別れた。
「次の者身分を証明する物を提示しろ、それができないなら一人1700Lで通行許可証を作ってもら」
門番がそう言うとシャルロットはギルドカードを見せる。
「シャルロット・ルーシアそうか君が、君にギルドから緊急招集がかかっている、すぐギルドに行くように。ギルドは大広場の前にある」
そう言ってシャルロットだけ通そうとする。
「で、君達の身分を証明する物は?」
「彼らはボクが旅の途中で合った者だ、身分を示せる物は無いが彼らの身分はボクが保証する。それじゃ駄目かい?」
シャルロットがそう言うと門番は少し考えてから決まり文句の様に一言「ようこそ、クタアトの街へ」とだけ言ってウル達を通してくれる。
街に入ると直ぐにギルドに向かう。ギルドは目立つ位置にあるので迷うことなくたどり着けた。
「はじめまして、本日はどういった御用でしょうか?」
ギルドに入ると受付嬢が対応してくる。
「シャルロット・ルーシアだ、ギルドから緊急招集があると聞いてきたんだが」
シャルロットはまたギルドカードを提示すると受付嬢は笑顔のまま固まる。
「シャルロット・ルーシアさん?」
「そうだけど」
笑顔のままの受付嬢に怪訝そうな顔をしながらも答える。すると受付嬢は大きく息を吸い込んで、
「キャ~!!本物のシャルロット様に会えるなんて!あの、ファンなんですサイン貰えますか?」
ギルド全体に響き渡るような声で言ってきた。すると
「シャルロットってあのシャルロット!?」
「まじか!?」
「キャ~!シャルロットお姉さまお慕いしてますー」
「あ、握手してくれ」
「あの、彼女にしてください!!」
「ちょっと抜け駆けはなしよ!」
そこら辺に居たギルド員や冒険者達全員が一斉にシャルロットを取り囲む。
「えっ?えっ?な、なんだい?」
突然の状況についていけず困惑するシャルロット。
ウルやジブルがいるので弱く見えるがシャルロットは人族最高峰の力を持っている。すると当然憧れるものや恋心を抱く者もあらわれる。
オリブントの街ではシャルロットには手を出さずこっそり見守ろうという条約が秘密裏に結ばれており、抜け駆けしようとした者は容赦なく制裁を加えられていた為こんなことにはならなかったのだが。
シャルロットはこういう状況に慣れていないのが一目でわかる。声を掛けられるたびに律儀に返事をしようとして間に合わずオロオロしたり、しまいにはウルに念話で助けを求めてくる。
「落ち着かんかぁ!!!」
収拾がつかなくなってきたところでひときわ大きな声がして騒ぎが一旦治まる。声の方を見ると無精髭を生やした男が立っていた。
「はじめまして、シャルロット・ルーシアさん、私はこのギルドのギルド長をしているロバートだ」
そう言って近づいてくるとシャルロットと握手をする。すると周りからブーイングが飛ぶが一睨みで黙らせる。
「緊急招集という事だがどういった内容なのですか?」
シャルロットが単刀直入に聞く。
「実はトランベルク国のアルバーニという街の近くにある特別指定区域に行った者が帰ってこなくなっているんだ。更に調査に出たギルド長含めたAランク24名と緊急招集されたSランク1名も帰らないままなんだ。そこで君にも白羽の矢が立ったのだ」
もしそれが本当ならかなりの緊急事態だ。いつになくシャルロットの顔が真剣になる。普通何らかの原因で特別指定区域から人が帰ってこないなどアクシデントが発生したらまずは一定ランク以上のギルド員を投入して調査する。それでもダメだった場合はSランクの冒険者が動く事になる。それでもダメだった場合Sランクでもかなり力のある少数精鋭部隊が編成される。シャルロットもその内の一人として選ばれたのだろう。
『ウル、この依頼ボクだけで行っていいかい』
『いや、なんだか嫌な予感がする、お前が行くなら俺も行く』
一人で行くことも考えたがそれはウルが許可しなかった。しかしそうなると問題が出てくる。シャルロットがと行動を共にするなら一部の者にウルの実力がバレてしまう、そうなるとギルドにも軍にも所属していない正体不明の実力者としてウルの存在が知られることになってしまう。ウルの存在がバレる可能性が上がることは避けたい。かといって断ることなどできない。
「すぐに転移魔法の準備始めるので準備をしてきてくれ」
ロバートはシャルロットの沈黙を了承ととらえたようで話を進めてくる。シャルロットはかなり焦っていた。転移魔法は目視できる場所、一度行ったことのある場所、座標が正確に分かっている場所に転移できる便利な魔法だが人族では数十人で数時間かけて一人転移させれるくらいが限界だ。ウル達と一緒に飛ぶことはできない。
『どうする、これじゃ君達と一緒に行く事ができない』
『それでしたら私が別口で転移します』
『だがそれでも君達の事が知られてしまう』
『それについては私に考えがあります』
シャルロットが念話を使てウルと脳内会議をしているとジブルとアルリアが割り込んでくる。
ウル達はアルリアの説明を聞く。かなりリスクがあるが、シャルロットはこの要請を受けないわけにはいかないし、ウルはシャルロットが行くなら付いていくつもりなわけだからどのみち一部の者にはバレてしまう。ならアルリアの作戦が一番被害が少なくてすむのだろう。
「分かった、だけど一応転移先の正確な座標を聞いてもいいかな?」
「それくらい別に構わないが・・・」
ロバートはそんな情報何に使うのか、といった様子だが一応正確な座標を教えてくれる。ウル達は座標を聞き取るとこっそりとギルドを出る。今ギルド員たちの注目はシャルロットに向いている。だからウル達に気付いた者はいないはずだ。
「ジブル、お前は俺達を転移させるのにどれくらい準備が必要だ?」
人気のない裏路地に入ると直ぐジブルに確認を取る。
「さすがのにかなり距離が離れているので1分くらいかかります」
ジブルは駄目だしされた子供のように言う。しかし人族が聞いたら頭を抱えるレベルの早さである。
「つまり今すぐ転移してもシャルが転移してくるまで数時間余裕があるってことか」
「はい、そうなります」
「ならそれまで必要な物の補充をしておく」
そう言ってウル達は買い物をする、と言っても武器は適当に数を購入するだけなので1時間もかからない内に終わってしまった。食材の方だがこれも食材はかなり残っているので調味料などを購入するだけなのですぐに終わってしまう。
そこでウル達は広場の近くにある自然豊かな公園で休むことにする。公園では子供たちが楽しそうに遊んでいる。
子供たちは大人に比べ打算や悪意が少ない為負の感情が溜まりにくい。しかし少ないだけで子供達も迫害やいじめなどをする。
そんなことを考えていると目の前で黒髪の子がいじめられている。ウルはため息をつき部屋に戻ることにする。
ーーーーーやはりこの世界は醜く救う価値を見出せない。
部屋で適当に時間を潰し良いころ合いになるとジブルに転移させる。もちろん気付かれないように<隠蔽>を使って姿を消しておく。
ガラスが割れるような音と共に景色が切り替わる。無事転移に成功したようだ。
しばらく待っているとシャルロットの気配が近くなったので彼女も無事転移してきたようだ。シャルロットを見つけ合流する。そして招集場所のギルドに入る。するとそこはただならぬ雰囲気に包まれていた。緊急事態という事も原因の一つではあるのだろうが、ギルドの中心にいる4人も原因の1つだろう。彼らも招集されたSランクの冒険者なのだろう全員能力値が1000以上ある。
「おっ!シャルロットじゃねえか。久しぶりだな」
「旅に出る許可貰ったんですって」
「俺は初めましてだな」
「私も会うのは初めてだが噂はかねがね」
4人がシャルロットに気付き声をかけてくる。同じSランクという事もあって面識が有る者もいるようだ。だがシャルロットは挨拶もそこそこに本題に入る。
「皆には集まってもらったのにすまないが今回の一件、ボクのパーティーだけに任せてくれないか?」
「何言ってんだ、Sランクのやつが一人戻らないんだぞ、いくらお前でも一人は危険すぎる」
「そうよ、多少腕が立つくらいのパーティーメンバーじゃ足手まといになるだけよ」
4人が止めようとする。誰一人としてウル達の事を戦力として見てないようだ。だがこれはウル達が望んだ状況でもある。ウルはジブルに目配せをするとジブルはそっと頷く。
「私が足手まといですか、少し力のある人族のサル風情が、ここで殺して差し上げましょうか?」
ジブルは翼を広げ威圧する。ウルと戦った時に比べれば抑えている方だが気を失う者が続出する。4人はSランクなだけあって耐えているが全員顔面蒼白だ。
「捜査は私達だけでします。何か異論は?」
「いや、ない」
「え、ええ、調査はあなた達だけでしていいから。だから落ち着いて」
4人はジブルの機嫌を損ねないようにする。彼らから了承を取ったところでジブルは翼をしまう。
アルリアが考えた作戦はジブルに注目を集めてウル達に気付かないようにすることだ。もちろんそれだけでも十分目立つのでその対処のしっかりしておく。
「あ、そういえば、私たちの事口外したらどうなるか分かりますよね?」
ジブルはギルドを出る際見惚れる様な笑顔で尋ねる。しかし4人に見惚れている余裕などない。嫌な汗をかき、まるで猛獣の居る檻に放り込まれたような顔をしている。
「どうするつもりだ?」
「もちろん皆殺しです。シャルロットには気紛れで手を貸していますが基本人族なんかと関わりたくありませんから」
実際天族が気紛れで人族に手を貸したり、街を滅ぼす事はよくある事だ。だから迂闊に口外できない。
4人力を合わせて挑めば戦えない事は無いだろうが勝つ事は難しいし、勝てたとしても街に多大なる被害が出る。それは彼らの望むところではない。
「シャルロット、どういうことだ?」
ジブルがギルドを出たことで4人がシャルロットに詰め寄る。
「ボクが旅に出る前にオリブントの近くにある特別指定区域で起こった事件知っているかい?」
「ああ、なんでも天族が住み着いていたって話だったよな・・・・まさか今の天族」
「ああ、その時の天族だ」
「なんでそんなのと一緒に居るの」
「特別指定区域から出てもらうように説得した時に気に入られてしまって、出ていく代わりに一緒についていく事を条件にされたんだ」
シャルロットはアルリアが考えた設定をスラスラと説明する。こう言ってしまえば口出しすることができない。彼らは渋々納得する。
これで被害は最小限にすることができたし、ウル達だけで調査することができるようになった。