ウル達だけで調査できる事になったので特別指定区域に向かう。
「本当にこれでよかったのかい?いくら脅しているとはいってもボクが天族と行動を共にしていることはごく少人数だけとは言え知られてしまった、ギルドの上層部に伝わるのは避けられない」
シャルロットはウルの事がバレる事を心配して聞いてくる。
「あぁ、たとえ俺の事がバレる可能性があったとしてもお前ひとりで行かせる気にはなれない」」
ウルはシャルロットが一人で行くと言い出した時から嫌な予感がしていた。このままシャルロット独りで行かせてはいけない、取り返しのつかない事になってしまう、なぜかそう思ってしまう。だからリスクがあってもシャルロットについていく事にした。
「そんな事より、これから行くところの説明をしてくれ」
「え、あ、うん。今度の特別指定区域は太古に作られたとされる遺跡で、数多くの階層が地下に広がっている。一説によると100階層はあるんじゃないかと言われていて迷宮、ダンジョンなんて呼ばれたりもしているんだ」
「一説によると?」
「うん、まだ最下層にたどり着いた者はいないんだ。下の階層に行くほど魔獣が強くなって特に40階層を超えるとけた違いに強くなる、だから67階層までしか到達できていない」
「それは何ランクの者何人でだ?」
「Aランクの12人パーティ―だ。ちなみに生還したのはたった2人、だから今回Sランク1人とAランク24人なんていう大戦力が送られたわけなんだけど」
もちろんそれだけじゃないだろうけどね、と最後に小さく呟く。
Aランクの者も人族にとっては重要な戦力だ、いかにギルドに所属していると言ってもギルドの一存で自由に動かせるわけではない。しかしギルドも名声が欲しい、だから今回調査という名目で戦力を集めて最下層まで探索するつもりだったのだろう。
シャルロットにこれから行く場所の説明をしてもらいながら歩いていると検問が見えてくる。辺りには大勢の兵士が待機していおり、全員神経を尖らせて張り詰めた空気を出している。
「ギルドの者か?」
兵士の一人がこちらに気付き構えていた武器を下ろしながら確認してくる。
「シャルロット・ルーシアだ。特別指定区域の調査のために来た」
そう言ってギルドカードを見せると兵士が近寄ってきてシャルロットのギルドカードを確認する。
「話は聞いている、先に君のパーティーで調査をするそうだな」
確認し終わるとギルドカードをシャルロットに返しながら最終確認のように言う。
「はい、勝手ですがそうさせてもらいました」
「現状はどこまで知っている?」
「あまり詳しくは」
「現在特別指定区域から大量の魔獣が出てきている。だから君達には調査だけでなく魔獣の退治も頼みたい。戦力的には問題ないとギルドからも言われているしな」
兵士の顔に怯えの表情は無い。怯えた顔をしないという事はジブルの事は知らされていないと考えていいだろう。少しはジブルの脅しも効いているようだ。
「分かりました。善処します」
「ご武運を」
そう言うと兵士は門を開きウル達を通してくれる。
辺りにはちらほらと魔獣がおりウル達が門を通ると直ぐに閉められる。ウル達は特別指定区域の魔獣など大したことないのだが、普通の人族は恐怖でしかないのだろう。
「とりあえず、見えてる魔獣から処理していこう。ここら辺はボクとリリだけに任せてくれるかな?」
ウルやジブルの力は強すぎる為兵士が近くにいる状況では戦わない方がいい。ウルはシャルロットの提案を認める。
リリスは短刀を抜くと近くの魔獣に素早く近づき、一太刀加えると直ぐに後ろに下がる。リリスは同格以上の強敵と戦う時は素早い動きで敵を撹乱して
シャルロットは今後特別指定区域で何が起こるか分からないため魔法を使わず近接で戦っている。まだこの程度の魔獣なら近接で戦っても問題無いようだ。こちらも問題なく魔獣を屠っていく。しかし魔獣たちは特別指定区域に近付くにつれ強さを増してった。中には能力値が800以上ある魔獣もいた。普通それくらいの能力値を持っていればウル達に襲い掛かってこないはずなのだが、魔獣たちは何かに怯えている様にウル達だろうとお構いなしに襲い掛かって来る。さすがにリリスは800以上の魔獣数体と同時に戦う力はなく、シャルロットも手を抜く余裕はない。シャルロットは魔法を使い魔獣を倒していく。
「シャル、この特別指定区域はこんな強さの魔獣がうじゃうじゃいるのか?」
「いや、こんな魔獣20~30階層辺りに居るはずなのに」
シャルロットは少し焦った様子で答える。ウルは少し考えてから陣形の先頭に立つ。
「シャル、ここからは俺が戦う。お前は魔力を溜めておけ、ジブルもリリもだ」
ウルが先頭に立っても魔獣達はお構いなく襲ってくる。
(シャルロットだけでなく俺にまで襲い掛かって来るか・・・)
ウルは警戒を強める。
ウルが先頭に立った事で特別指定区域の入り口にはすんなりとたどり着けた。Sランクもパーティーでもここにたどり着くまでに2日はかかっただろう。入り口からは何かから逃げるように魔獣が出てきている。魔獣を倒し中に入ると中は恐ろしいほど寒く、直ぐに太陽の光が届かなくなり真っ暗闇になる。ウルは半神化が進んだ影響か念じれば梟並みに夜目が効きようになるが、リリスとシャルはまだその段階に達して無いようなのでウルは光の球をイメージして自分の周りに直径20cmくらいの光球を作り辺りを照らす。しかしその光を目印に辺りに潜んでいた魔獣達が一斉に襲い掛かって来る。どの魔獣も800を超えていたがウルの敵ではない。ウルは光球を維持しながら別の魔法で迎撃する。ウルの放った魔法が魔獣に当たると閃光が弾け大爆発を起こす。魔獣達はその爆発に飲まれし次々に蒸発していく。僅かに残った魔獣達はウルの実力が分かったのか一斉に逃げ出す。
「ウル!ここで攻撃魔法を使うならもっと威力を落とさないと!!」
シャルロットはウルの攻撃の余波で崩れた天井を見ながらウルに慌てて忠告する。ウルやアルリア、ジブルの3人は生き埋めになっても助かるかもしれないがシャルロットとリリスはそうはいかないだろう。
魔法の威力を抑えるとどうしても討ち漏らしが出てしまうがウルがうち漏らした魔獣はシャルロットが処理してくれる。そのコンビネーションで問題なく20階層まで到着する。20階層は他の階層と違い一つの巨大な空間があるだけだった。
「ここは?」
「ここは魔獣が来ない
シャルロットが自信なさげにが答える。それも当然だろう辺りを見るとそこら中に魔獣がいる、とても安全な場所には見えない。ウルは気付かれる前に先制で攻撃を仕掛ける、魔獣達がウルに気付いて時にはすでに消し炭になった後だ。
落ち着いたところで辺りをよく見てみる。するとまだ白骨化していない死体がいくつか転がっていた。シャルロットは犠牲者の冥福を祈ってから身元を確認をし終わると火葬してやる。
「ここには何かを封印しているようです。ここに入った瞬間から何らかの魔法を感知できました。おそらくこの遺跡全体を使って封印魔法を作り上げているのでしょう」
迷宮に入ってからずっと目を瞑り翼を広げ何か探っていたジブルが報告してくる。
「じゃあ今回の事件の原因は何者かが復活したせいなのかい?」
シャルロットの質問にジブルは首を横に振る。
「いえ、封印が解かれたのなら封印魔法は消えます。まだ魔法を感知できるという事は少なくとも完全には復活していないはずです」
「完全に復活していないのにここまで生態系を壊す者か・・・あまり考えたくないね」
「その何者かが復活するとして復活までどのくらいかかるか分かるか?」
「正確には分かりませんが1週間はかからないかと」
(完全に復活していなくてここの生態系を壊せるのは間違いなく天族以上の力を持っているだろ、そして魔獣達がシャルだけじゃなく俺にまで襲い掛かって来た、恐怖で見境なくなっているのか、あるいは俺達の方がましなのか)
どちらにせよ完全に復活する前に何とかした方がいい、そう結論付ける。
「少し急ごう」
一応攻略されている階層までなら簡単な地図が作られている為最短ルートで進む。
「分かっていたけどウルって強いよね」
シャルロットは呆れて苦笑いしながら言ってくる。ここまで来るのに900以上の魔獣もいたがウルが瞬殺している。シャルロットの体内時計ではまだ1日もたっていない。ギルドのパーティメンバーできていたらここに来るまでに何日かかっただろうか。もしかしたらここまでたどり着けなかったかもしれない。シャルロットはウルの強さを再認識する。
「今のウルに勝てる人って何人くらいいるのかな?」
「そうですね、今のウル様に正面から戦えるのは全種族で2000、勝てるのは600程でしょうか」
全人口を考えるとほんの僅かだがそれでもそんなにいるのだ、そんなのが全面戦争すれば世界が滅ぶのも納得できる。緊張感無く話しているが45階層を過ぎたころから魔獣に一切鉢合わせる事が無くなった。おそらくここから下の階層の魔獣は全て上がってきてしまったのだろう。そのまま順調に50階層まで進む。50階層に入ると雰囲気がガラっと変わる。
「アル、リリとシャルに暗視できるものを作ってくれ」
ウルが真剣な声で言う。本来こういうことはしないアルリアだが今回はすぐに万物創造で暗視で切る物を作る。ウルは光球を消し辺りを窺いながら慎重に進む。
時折獣が唸るような声が聞こえてくる。その声は下の階層に続く階段に近付くほど大きくなってくる。
「このままじゃ鉢合わせる可能性が高いね」
「みんないつでも戦えるようにしておけ」
ウルは皆に注意を促す。リリスは短刀を抜きジブルは翼を広げシャルロットは防御魔術を使用する。そして遂に声の主に鉢合わせる。
ソレは人型をしているが固体というよりは流体の様で一定の形を保っていない、躰は崩れ落ちては再生するを繰り返している。見ているだけで気味が悪くなっていく。しかも能力値が1000を超えている。
「GRYYYYYYYYYY」
その人型はウル達に気付くとまるで合図の様に大声を上げる。すると階段から同じ人型が現れる、しかもこちらも1000以上ある。だがウルの敵ではない。他の魔獣の様に瞬殺するとその場に倒れるのではなく直ぐに崩れ形を失う。
「今のが封印されている奴か?」
「いえ、魔法はま感知出来ます、これは封印されている者が召喚した物でしょう」
「それくらいはできるくらいには封印が解かれているってことか」
その後も何度か人型に遭遇するがウルが蹴散らし、すぐに未到達の階層にたどり着く。
「ここからは地図が無い。多分ここからが正念場になると思う」
実際ここからが手間取った。道もより複雑なものになり人型と遭遇する回数も格段に上がり十体とは戦っただろう。しかもその全てが能力値が1000を超えていた。
「これがウルの胸騒ぎの原因かい?」
「たぶんな」
ギルドのSランクパーティーでもこんなに能力値が1000を超えている相手がいればひとたまりもない。シャルロット独りでこの調査に行かしていたら間違いなく命を落としていただろう。
自分の事がバレる可能性を作ってしまったがシャルロットを失わずにすんだと思えば些細なことに感じる。
何度も襲ってくる人型を蹴散らし最下層にたどり着く。最下層は小さな小部屋になっており、入ると辺りが急に明るくなる。辺りを見ると石が発光しているようだ。ウルは石を手に取りシャルロットに見せる。
「これは発光石のだね。見ての通り光る石だけどこの光には治癒効果があって数も少ないから高値で売買されるものだよ」
「これ全部発光石なんですか!!こんなにたくさんあるなんて」
なんでも1g金貨1枚を超えることもある希少な物らしいのだが部屋一面にあるのでいまいちピンとこない。ウルは説明を聞くと発光石から意識を外し壁に埋め込まれ妖しく発行している球体に意識を向ける。
「これが封印されているものか?」
「おそらくは」
「ならさっさと破壊するか」
『お待ちくださいマスター、私にマスターを害する意思はありません』
ウルが手を球体に向け魔法を放とうとすると球体から制止の声が上がる。ウルは一旦腕を下ろし様子を窺う。
「俺達に敵意が無いだと、あの人型はお前が召喚した物だろ」
『はい、確かにあれは私の仕業です。しかしあれは不完全に復活した為制御できなかったのです』
「ならホントに敵意は無いんだな」
『ハイ』
「ならお前は何者でなんでここに封印されているか、封印を解いて何をするつもりか教えろ」
この球体からは本当に敵意は感じられないが一応警戒は続ける。
『今の状態ではこれ以上話せません後28時間53分で
「・・・・分かった、だが変な真似をしたらすぐに破壊する」
この球体の言葉に従っても問題ないとなぜか確信できる。
『ありがとうございますマスター』
そう言って球体は声を発さなくなる。それと同時に上の階層からウルが倒して形を失った人型もそうでない普通の人型も降りてくる。初めは球体の仕業かと思ったが人型はウル達を素通りして球体に纏わりつき、球体を中心に黒い一つの形をを形成していく。そして球体の言っていた時間になると黒い人型が輝き中から155cmくらいの裸の少女が現れる。その少女は一見人族のように見えるが、背中から機械でできた様な翼を4枚生やしている。
「異常なく再起動完了。現在出力1140、損傷率98%、修復まで28258時間」
少女は何か呟くとウルの前に近付いてくるそして
「マスターお時間を取らせてしまって申し訳ありません」
そう言いながら翼を生やした少女はかつてジブルがウルに忠誠を誓った時と同じ体制でウルの前に跪く。