「約束通り質問に答えてもらうぞ」
ウルの事をマスターと呼び、封印から解放されてもウル達に敵意を見せず従順に跪く4枚の翼を生やした少女にウルは言葉を投げかける。ウル自身は正直どうでもいいがシャルロットはギルドに報告しなければならないため詳しい事情を知る必要がある。
「まずお前は何者だ?」
「私は今から6500万年前に起きた天族と魔族の大戦の際に製造された対高位魔族殲滅用人造天族部隊の一体で個体番号はEX-01です」
「「「人造天族!!?」」」
ウルとアルリア以外が驚きの声を上げる、特にジブルが天族なだけあって一番驚いていた。
「一体って事は他にもいるのか?」
みんなが驚く中ウルは冷静に質問を続ける。
「はい、私を含めて15体の人造天族が作られました、ですが戦争中に12体が破壊され、残りは私と同じように凍結されています」
「凍結ってのは封印の事だな、なんで3体だけ破壊されずに封印されたんだ」
「魔族と天族の戦争は両陣営とも疲弊した結果休戦条約を結ぶことになりました、その際魔族側が出した条件の一つに破壊されなかった3体の破壊があったのですが天族は私達を破壊せず秘密裏に封印することにしたのです」
自分が封印されたことなど気にも留めていないように淡々と質問に答えていくEXー01。
「魔族を殲滅用って言うわりには弱すぎないか」
EX-01の能力値は1140、ウルはその答えをなんとなく察していたがあえて質問する。
「いえ、今はマスターに私の分身体をほとんど破壊された状態ですので本来の2%しか力が出せていませんが、私の能力値は57000に設定されています」
57000その数字に全員が息を吞む。それと同時に4枚ある翼の意味を理解する。基本能力値は生まれた時の数値から3倍以上伸ばすことはできない、しかし天族、魔族、森族は特殊な条件を満たすことや特別な儀式をすることで半神化の様に少し高位の存在になることができ、能力値もけた違いに上がる。先程アルリアが言っていたウルに勝てる存在は例外なく高位の存在なのだ。そして天族の場合は高位の存在になる際に翼が2枚から4枚に変る。EX-01の翼が4枚なのも4枚羽の天族と等しい力を持っている為なのだろう。
ウルはEX-01をどうするか考える。今は本当に敵対するつもりは無いようだが力が戻ったらどうなるか分からない、しかも今のウルの力では強化魔法を使っても勝てる可能性は低いだろう。ならば今のうちに破壊しておくべきか、だがなぜかEX-01を破壊する気になれない。少し考えたのち話を聞いてからどうするか決めることにする。
「お前はわざとここの生態系を壊したのか」
取り敢えずシャルロットに必要な情報から聞いていく。
「いえ、マスターが言う人型は私の不完全な状態の分身体です。不完全だった為コアを守ろうと脅威を排除するように動いていました。その過程でここの生態系を破壊してしまいました」
「つまり君にはもうここを拠点にしたり、入って来る者に危害を加える気はないのかい?」
シャルロットが念を押して確認する。
「はい、ありません」
それを聞いてシャルロットはひとまず安心する。外に出た魔獣の排除や上層に上がって来た魔獣、問題はたくさんあるが根本的な原因が解消されたのでこれ以上悪化することが無くなった。しかし同時に嫌な考えが沸き上がって来る。
「ねぇ、もしかして君以外の封印された人造天族も復活するなんてことはないよね」
「いえ、今は意思を感知できないのでまだ復活はしていないでしょうが私たちの再起動プログラムが作動しているので復活すると思います」
復活するという言葉にシャルロットは顔を引きつらせる、こんなことが他の場所で起きて万が一真相が人族にバレたら自分達に注意が向く、そうすればやはりウルの事がバレる可能性が上がる。
だがウルにはそれ以上にに聞き逃せない言葉があった。
「意思を感知できるって事は他の2体とお前の意思や記憶は繋がっているのか?」
「はい」
記憶や意識が共用されているとなると話は変わってくる。もしここでEX-01を破壊してもその情報は他の個体に引き継がれることになる。そうなればウル・ラグナルだとは分からなくてもウルの情報が天族に伝わることになる、人族ならまだしも天族には今のウルでは勝てない存在も多い。
ウルは念話を使ってアルリアにいくつか確認をとる。
「お前はこれからどうするつもりだ?」
「マスターに付き従います」
「・・・何でだ」
「私は天族である主の代わりに戦うために存在しています、ならばマスターのお側に居るのが最適だと判断します」
ウルはその言葉に違和感を覚える。
「天族を主とするならなんで天族でない俺の事をマスターと呼ぶ」
「マスターは天族ではないのですか?」
少女はコクンとかわいらしく首をかしげながら逆に聞いてくる。
「見ての通り翼も生えていない」
「確かに、天族?魔族?森族?マスターの種族が分かりません」
6500万年前にはまだ人族は広く生息していなかったため、知らなくても無理はない。
もしくは半神化しているせいで正確に把握できていないのだろう。
しかし半神化しているせいなら何故マスター達と呼ばすウルだけをマスターと認識したのだろうか?
「天族ではないと判定、マスターの変更、エラー?」
「マスターの解除、不可?」
EX-01は不思議そうな顔をしてウルを見つめる。
「マスター、どうやら私はマスターが天族でなくとも貴方の事をマスターだと認識しているようです」
「つまり?」
「今の私の役割はマスター、貴方がどんな種族であれ貴方の代わりに戦うことです」
ウルの目を無機質な瞳で見つめながら言う。その無機質な瞳を見ているの胸の奥がモヤモヤした気持ちになってくる。
「お前は俺が死ねと言ったら躊躇いなく死ねるのか」
「はい、正確には私は生きていないので死ではなく活動停止ですが、マスターがそれを望むのであれば」
「お前、自我はあるのか」
「はい、イレギュラーな事態に対応するため自己判断プログラムが存在しています。これがマスターの言う自我に当たると判断します」
「最後の質問だ、お前は何だ」
最初に質問したのと似たような質問だが意味の違う、そしてEX-01をどうするか決めるために重要な質問を投げ掛ける。
「私はマスターの代わりに戦い消費しても構わない使い捨てれる道具です」
EX-01は間を開けてから答える。ウルはその答えにやっぱりかと思う。この少女は本当に自分の事を使い捨ての道具だと思っている、そう思い込むようにされている。
「お前の同行を許可する」
はぁ、とため息をつきEX-01の同行を仕方なく認める。
「ありがとうございますマスター」
「ただし条件がある」
そう言うとウルは1度目を閉じる。そして今まで使ってこなかった、いや無意識に使うことを避けていた力を使う。再び目を開けてEX-01を見つめる、するとEX-01の首に首輪の様な紋様が浮かび上がる。ウルが<強制支配権>を使ってEX-01を奴隷化したのだ。
先程アルリアに念話で確認したこと、それは今能力値で劣っているEXー01を<強制支配権>で奴隷化したら、もし能力値が元に戻っても奴隷化は継続するのかという事だった。結論から言うと能力値が元に戻っても奴隷化は継続するらしい。なので今のうちに奴隷化しておく。いくら傍に置いておく必要があるとはいえ何の制約持っていない奴を傍に置く気にはなれない。
EX-01を奴隷化すると誰かがここにきてもEX-01の情報を得られないように最下層を破壊する。リリスは発光石ごと埋め立てる事にもったいなさそうな顔をしていたがウルにとっては発光石もそこら辺の石も大した差は無い。別にウルは金に困っているわけでもなく逆にそんな希少な鉱石を持ち帰って目立つ方が困る。
「どうするウル、ウルのおかげですごく早く最下層まで来れたけど、できたらもう少し生存者がいないかよく探したいんだけど」
調査に来たものが生きている可能性は殆ど絶望的だが万が一生きているなら助けたい、そう訴えかけてくるシャルロット。ウルも別に急いで地上に上がる必要もないし、装備用の鉱石なども採取したかったところなので許可する。ただしウルの事が怪しまれる、もしくはバレた場合にはそれなりの対処をするとだけくぎを刺しておく。
「それからお前はその翼を隠せないのか?」
ウルの3歩後を付いてくるEX-01の目立つ翼を見ながら言う。ジブルですら大騒ぎになるのだ4枚羽の天族を裸にして引き連れている所など見られたらシャレにならない。EX-01はウルが言うと素早く翼を消す。それを見てウルはアイテムボックスからローブを取り出しEX-01に放り投げる。
「マスターありがとうございます」
「勘違いするな、そんな恰好で付いてこられたら迷惑なだけだ」
「いえ、理由はどうあれ私に何かを与えてくださいました」
そう言って受け取ったローブを大切そうに身に纏う。
その後は2日ほど迷宮で鉱石採取と生存者探しをしてから地上を目指す。いくら天族がいるとは言えここまで生態系を壊した奴を相手にするには時間がかかる。そこでウル達はあえて地上に戻る時間を遅らせることにしたのだ。
ウル達は地上に出ると真っ直ぐ来るときに入った門を目指す。地上に出た魔獣達は軍やギルドに丸投げする。もともと調査してやる義理もなかったのだ、そこまで面倒を見るつもりなどはなからない。
「シャルロット・ルーシアだ、特別指定区域の調査が終わった。ここを開けてもらいたい」
シャルロットの声に門がゆっくりと開かれる。兵士達はもう終わったのかと驚いた顔をしている。
「こんなに早く終わったのですか?」
「ああ、今回の問題の原因は取り除いた、後は地上に出た魔獣の処理だがこれは他の者に任せたい。ボク達はギルドに報告しに行くので」
シャルロットは一方的に言うと返事も効かずに街を目指す。
「それにしてもギルドにどう言い訳しよう」
シャルロットが呟く。ありのまま起こったことを話すことはできないし、かといって下手な理由じゃギルドも納得しないだろ。
「無難に封印されていた強力な魔獣が復活したって事にしてはどうでしょう」
「やっぱりそれがベストなんですかね」
ただそれだけではギルドが納得してくれるかは怪しいところだ。どんな魔獣なのか最下層はどうなっていたのか根掘り葉掘り聞かれそうな気がする。
「いざとなったら私が脅せば問題ないでしょう」
シャルロットがうーん、と悩んでいるとジブルがいい笑顔で言ってくる。その笑顔にちょっと引きながらもそれが現状一番いいことに肩を落とす。
ウル達がギルドに入るとギルド内が一斉に静かになる。全員ウル達の方を直視しようとしない、そんな中Sランクの4人が出迎える。4人は報告を聞く為ウル達と別室に移動する。案の定根掘り葉掘り質問攻めにされたが説明できないことを聞かれたらジブルが微笑むのでそれ以上聞いてくる事は無かった。
「それで、調査隊の生き残りは居たのか?」
「いや、いなかった」
2日間シャルロットは必死に生存者を探したが、見つかるのは白骨化していない調査隊の者と思われる遺体のみ。回収できた遺品とギルドカードを出す。
「そうか・・・」
4人はそれだけ言うとまた質問に戻る。大体報告し終わると念のためもう一度脅しを入れておいてからギルドを出る。そしてEX-01のための服を買ってからウル達は街を後にする。