「みんな昨日は済まない」
「気にしないでください、私達はあれくらいでは壊れません」
「そうだよ、寧ろもっとあんな風にして欲しいくらいだよ」
「我々は主様の全てを受け入れることこそが存在理由です」
ウルは朝起きるとまず一番に謝る。しかし眷族達は気にした様子もなくむしろ我慢などしてはいけないと注意されたくらいだ。
彼女達の気持ちをありがたく思いながら元の世界に戻る。
イーに部屋の事を知られないために少し離れたところに出る。
「ねー痛くないの?」
「損傷の具合を認識するため痛覚は有ります」
「どう見ても普通にしか見えない、本当に創られたんですか?」
「出来る限り本物の天族に似せて作られているので見た目での判断はほぼ不可能です」
アルリア達がいる場所に戻とウィラがイーの頬を引っ張りウィズが体のあちこち特に胸をペタペタと触っていた。
「……何してるんだ」
その光景にウルは少し脱力しながらもウィラとウィズに問いかける。
「あっウルお兄さん!このお姉さん凄い物知りなんだよ!!」
「昔の事を教えてもらう代わりに今の事を教えてあげていたんです」
ウィラは無邪気に笑いながらウィズは冷静に報告してくる。ウルは目を鋭くさせイーを見る。
「大丈夫です。彼女はウル様の秘密については聞いていません」
イーが自分達ではなくウィズ達に話を聞くことでこちらの秘密を探ろうとしたのではないかと警戒したがそばにいたアルリアがそんなことはないと言うので一旦警戒を解く。
「それで話を聞いてどうだったんだ」
「はい、私が知らないことだらけでたいへん有意義な時間を過ごせました」
ウルのぶっきらぼうな問いかけに対しイーはいつもと同じだがどこか興奮したような声色で返す。
「じゃあ、1つ質問だあの子達が魔族の血を引いてるかもしれないのは知っているか」
「はい」
「お前はそれを知ってあの子達を殺そうと思ったか」
「いいえ」
「お前は魔族を殲滅するために創られたんじゃないのか」
「はい、その為に作られそう命じられました。ですが今はマスターからそのような命令は受けていませんので」
「つまりお前はただ単に命じられたから魔族を殲滅していたんだな」
「はい」
「目的もなく」
「いえ、平和のためです」
「……平和ね、天族は平和を望んでいるのか」
「それは…………分かりません」
今までの問答にイーが嘘をついている感覚はなかった。全てを事実なのだろう。それを確認するとウルは「もういい、分かった」とだけ言って話を終える。
リリスとアルリア以外は今の問答にどんな意図があるのか分からず首をかしげていたが急にぐぅっと可愛らしい音がなる。
音の方を見るとウィズが顔を真っ赤にしてお腹を押さえていた。
「そう言えば朝ごはんまだだったね、今から作るよ」
そう言ってシャルロットとリリスが料理の準備に取りかかり、ウィラとウィズがその手伝いをする。ここまではいつも通りだったのだが、
「私にできることは有りますか?」
1つの抑揚のない無機質な声が発せられる。声の主はもちろんイーだ。
イーは普段料理をする際は辺りの見回りに行くかウルの側で控えていることが多い。
そもそもイーが創られたのは戦闘のためでイーもそれに関することしかできないと言っていたにも拘らず戦闘以外の事をしようとする事に誰もが困惑してしまう。
「え……あっ、うんそれじゃあ──」
シャルロットも困惑しながらもイーに指示を出す。イーは出された指示を忠実にするが明確に言葉にされていないことは実行できないようだ。明らかに教えられてないことをしようとしている。
「マスターどうぞ」
そしてできた料理をウルの元に運びウルが受けとると一礼して下がる。
しかしやはり食事はウルが食べ終わらないと手をつけないしウルの少し後ろを歩く。
だがいつもと違い何かを考えている様子で何度か木などにぶつかっている。その割には魔獣が出れば率先して戦う。
「なぁ、本当に何を聞かれたんだ?」
ウルはウィラとウィズに尋ねる。明らかに昨日とは様子が違う、考えられるのは二人と話をしたことくらいだ。
「えっと、どうしたらウルお兄さんと仲良くなれるかって聞かれた」
「どうしたらウルお兄さんに信用してもらえるかを聞かれました」
またウィラは無邪気にウィズは冷静に言う。
「それでなんて答えたんだ」
「ウル様に信用していただくには自分ができる考えうる事を全てしてウル様にどこまで忠誠を誓っているか見せてウル様に判断していただく必要があります、とお答えしました」
ウルが更に詳しく聞こうとするとアルリアが代わりに答える。
恐らくアルリアがイーに言った言葉なのだろう。
「アルお前があいつに何かしたのか」
「はい」
ウルは少し呆れた声で聞くとアルリアはあっさり認める。
アルリアは直接的な手助けはしない、だが間接的な手助けなら積極的にするのだ。
例は色々有るがそのどれもが条件が合わないとなんの意味も持たないものでそれを決定するのは必ず当事者達の意思だ。
そして条件が噛み合うとなにもしなかったときを上回る恩恵が現れるようになっている。
アルリアはウルが母を助けられるようにしてあげたい、しかしウルの行動も見たい。
その矛盾した感情がそのような形で現れているのだろう。
相変わらずのアルリアの性格に呆れはするがそれだけだ。ウルはそんなところも含めてアルリアを受け入れている。
そんなことを思いながらまた木にぶつかっているイーを見る、
(つまり条件さえ合えばあいつも俺にとって有利になる存在ではあるってことか)
べつに有利になるからといって無条件に受け入れるなんて事はしないし利用しようとも思わない。そんな事はウルにとってどうでもいいことなのだ。
イーはそれからもウィラやウィズ、眷族達に話しかけこの時代の知識や常識を取り入れ自分にできることを模索しているようだが、それ以外は特にかわりなく旅は順調に進んだ。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
誰も来ないような山奥に綺麗な湖を見つけたのでその日はそこで野宿することにした。
ウルやリリス、シャルロットやジブルはアヴァザードに向けて鍛練をし、ウィラやウィズはイーを連れて遊んでいる。
どうやらイーは二人に気に入られた様でよく相手をさせられている。と言うよりオモチャにされている。
リリスは近接戦では既にシャルロットと互角に戦えるようにまでなりシャルロットとジブルに魔法を習いかなり魔法を扱えるようになってきた。
シャルロットは魔法のコントロールが上手くなりウル程自由自在にはいかないがエルフでもそこまでコントロールできる者は少ないとジブルに言わせるほどになった。
ジブルは全体的にバランスよく強くなり2枚羽の天族では最高峰の力を得た。
ウルは強化魔法の掌握に力を注いだ。
その結果強化魔法の持続時間の延長、短時間だけならかなり魔力を消耗するが魔法を使える状態になることができた。
竜の主クラスになると強化魔法を使わなくても負けることは恐らくないが接戦になるくらいの力を持っているものがいるらしい。更に竜で伝説になると強化魔法を使わなければ勝てないものもいるらしい。
そんなのが住んでいると言う情報などはないが万が一の為に準備しておくに越したことはないたろう。
後は性交で能力値の底上げをする。
鍛練が終わり辺りも暗くなってきた頃に湖に戻るとウィラとウィズ、そしてイーが料理を作っていた。
「あ、お帰りなさい」
「今日は私達が作りますよ」
二人がにこやかに話しかけてくる。
「マスター身勝手な事をしてしまい申し訳ありません」
イーは対照的に謝ってくる。勝手にしていいのか分からないができることはしたいと言うような感じだ。
ウルはため息だけつき手頃な石に腰掛ける。アルリアが見張っていたので変なことはしてないはずだ、それに二人が頑張って作ったのだ食べないわけにはいかないだろう。
イーはウルの行動を見て顔に出さないが安堵している気がする。
またウルの元にはイーが運んでくる。作られたのはリリス達が一番よく作っているメニューだった。一口食べると二人が感想を求めてくる。
「悪くない」
リリス達にはやはり劣るが決して不味いと言うことではない。
「良かった~」
「私達まだそれしか作れないんですけど喜んでもらえて何よりです」
二人は嬉しそうに笑いながら口々に言う。
ウルはチラッとイーの方を見るとイーは何か挙動不審な動きをしていた。
「何してるんだ」
「分かりません、何故か体が思い通りに動かなくなってしまいました」
ウルはその理由が分からなかったがウル以外の全員はその理由について察しがついていた。中でもリリスが何か考えている様子だった。
食事が終わりウルは一人離れたところで休息を取っているとイーが近づいてくる。
「マスターお願いがあります」
話しかけてくるイーの声はいつもの抑揚のない平坦な声ではなく震えた声だった。
「マスター私を抱いていただけませんか」
ウルはスッと目を細め射ぬくような視線をイーに投げ掛ける。
「それはアルリアの入れ知恵か」
「いえ、リリス様です。リリス様がマスターに抱いてもらえばマスターが決断できるだろうと仰られました」
てっきりアルリアだと思っていただけに意外な人物の名前が上げられ驚く。リリスにも考えが有るのだろう。
「俺はお前を抱くことはない」
だからといって抱く理由にはならない。
「それではマスター、私の手足を切り落とし喉を潰してください」
イーは代わりに物騒な提案をしてくる。
「……何でだ」
「マスターが私がマスターを裏切り襲うことを気にしていらっしゃる様なので、私の手足を切り落とせばマスターと戦えなくなり、喉を潰せば魔法を使うことができなくなりマスターを裏切って襲うことができなくなります」
いつもの抑揚のない無機質な声に戻りながら言う。ウルはイーに対しある感情を向ける。
「は~~~~~~~~」
ウルは目を閉じしばらく考えた後肺の空気を全部吐き出すような長いため息をつく。
「リリスがお前を抱けば答えが出るって本当に言ったんだな」
「はい」
イーの言葉に嘘はない、本当にリリスが言ったのだろう。
「わかった、リリスがそれを望むのならリリスに免じて許可してやる」
「ありがとうございますマスター」