禁域に住む魔獣達を禁域の外と隔離するかのように禁域全体を囲む山脈の麓でウル達は3日ほど立ち往生していた。
その理由は言うまでもなくEX-12再起動が完了してないからだ。イーとスーはウルを主と定め忠誠を誓っているので部屋の存在を知られても問題はないのだが、二人とリンクしているEX-12にも部屋の存在を知られてしまうのは不味い。
EX-12を感知することが出来る段階になってから完全に再起動するまでにある程度の猶予があるので、ここでウィズとウィラを部屋に入れてEX-12に部屋の事を知られたとしても感知した瞬間にEX-12の元に転移すれば間に合うとは思うのだが、それでも出来る限りリスクは抑えたいところだ。
そんな訳でまだ禁域に入らずに留まっているのだ。
「EX-12の居場所は分かったか?」
「いえ。まだ大まかな場所しか分かりません」
「ですが、この感じですと後数時間もすれば感知出来るかと」
この場所に着いてからイーもスーもEX-12の探知に全力を注いでいる。二人の見解では既に二人も認識できないような深層部分での連結は完了しており、EX-12を感知することが出来るようになる表層部分も後数時間の内に連結が完了するだろうとのことだ。
後数時間でEX-12と恐らく戦うことになるだろう。今のウルの実力でもEX-12の能力値には届かない。勿論強化魔法を使えばそれなりに戦えるようにはなっているはずだ。とは言ってもEX-12もイーやスーの時と同じく分身体を出している筈なので能力値42000と言う本来の実力は出ないだろうが。
「マスター、EX-12を見つけました」
それから数時間後、半日過ぎたくらいでようやくEX-12を感知する。
「EX-12の様子はどうだ?」
「やはりマスターを主とは認めていないようですね。それに分身体をあまり出していませんね、今の能力値は10000程です」
分身体は本体の能力値を切り分けることで作ることができる。分身体が多ければ多いほど本体は弱体化することになるのだ。
ウルはどうしたものかと考える。EX-12がその程度の実力しか出せないのならばまず負けることはないだろう。だが能力値が10000を越えた者同士、戦えば確実に痕跡が残ってしまう。
「ですが、EX-12は敵対する気はないようです」
「どういうことだ?EX-12はスーみたいに俺を危険視してないてことか?」
「いえ、そうではなくマスターのことを恐れているようなのです」
イーから告げられる意外な言葉、人造天族は恐怖とは無縁のはずなのだが、いや、スーと言う前例があるのでおかしくはない。
ともあれEX-12は敵対する気がないのは分かった。しかし、だからと言って放置しておくわけにもいかない。
「EX-12の所に飛ぶぞ」
「ですがEX-12はマスターが側に来た瞬間に転移で逃げるつもりのようです」
たとえ転移されたとしてもイーやスーが感知できるので見失うことはないだろうがその間に天族に報告されてしまう可能性が出てくる。
「その点は問題ありません。20分程ですがEX-12を抑え込みます」
イーは人造天族達のリーダーだ、その特権として他の人造天族達の能力を活性化させたり、逆に抑制したりすることができる。勿論能力値に干渉したりなどはできないが、集中を乱したり、術式の展開を遅らせたりすることはできる。
20分とはイーがEX-12に干渉できる限界時間を指しているのではなく、EX-12が転移の魔法を完成させるまでにかかる時間を指しているのだ。
EX-12は転移魔法の術式を組むことに全力を注ぐはずなので威力の低い簡単な攻撃魔法しか使えないはずなので、EX-12の元にさえたどり着ければ一瞬で片がつく。ただし、魔法を行使出来るほど意識があるのなら不完全な分身体もある程度自分の思い通りに操れるはずだ。となるとEX-12は分身体を使ってこちらが自分の元に来るのを妨害してくるだろう。
さらにスーの時の経験から言うと20分では床をぶち抜いて進んだとしてもEX-12の元にたどり着くのはかなり厳しい、しかも分身体による足止めも考えるとほぼほぼ間に合わない。
「このままEX-12を放置しておいとしたら天族に報告すると思うか?」
「当分は行動を起こさないと思いますが、いずれそうするでしょう」
「行くぞ」
「畏まりました」
今は大丈夫でもいずれそうなるならばやはり今何とかするしかない。かなり危険な賭けだがEX-12の元に行くことを決意するとすぐさま転移する。
やはり今回も遺跡内の構造が分からないためEX-12の元に直接転移することはできない。
ウルは威圧だけで辺りの魔獣を追い払い、遺跡に入るなり強化魔法を使用する。ここで強化魔法を使ってしまうとEX-12の元にたどり着いた頃くらいにちょうど限界が来てしまうだろう。その際EX-12が転移を諦め実力行使でウル達を排除しようとしてきたらまず間違いなく長期に渡る戦闘になる。そしてそれはやはりウル達の痕跡となってしまう。つまりウルはこの瞬間にEX-12と戦うと言う選択肢を放棄したのだ。
もっともウルも後先考えずにこんな行動をしているわけではない。元々ウルはEX-12の元へたどり着けさえすれば無理に戦う必要など無いのだから。
「一気にぶち抜くぞ」
ウルは拳を振り上げ、そのまま床に力任せに降り下ろす。瞬間、階層全体を揺らすほどの衝撃と大爆音が響く。
ウルが開けた大穴はこの階に止まらず3階下まで続いている。
「よっと」
ウルはその大穴に躊躇いなく飛び込み下へ降りる。ウルが砂煙が立ち込める下の階層へ着地した瞬間に四方から6体の分身体が襲いかかってくる。それぞれ鋭くなった爪や牙でウルの体を切り裂き、食い千切ろうとしてくる。しかし相手はおおよそ1000ほどしか能力値をもたない分身体、しかもウルは今強化魔法を使っている、分身体の動きなど止まって見える。
ウルは一番近くの分身体の頭を裏拳で砕き、その勢いのまま短剣を飛ばして2体目の分身体を倒す。そして右側から来ていた分身体の元へ一足跳びに移動し蹴りを食らわす。分身体の体は粉々に飛び散り後方に吹き飛ばされる。ウルはその反動を利用して今度は左側の分身体の元へ、そのまま頭を鷲掴みにして床に叩き付ける。そして頭上から降り下ろされる爪を素手で掴みとりそのままへし折り、その爪で残りの二人を切り裂く。
「先を急ぐぞ」
ウルが6体の分身体を倒すまでにかかった時間は他の仲間が下に降りてくるまでの僅かな時間、10秒にも満たない間のことだ。
だが、10秒にも満たないとはいえ何度もやられたらある程度の時間は奪われる。
ウルはさらに拳に力を込め床に穴を開ける。今度は5階層くらいはぶち抜いていた。
しかし、また飛び降りるとその階層で待ち構えていた分身体の襲撃に会う。しかも上の階からも分身体が飛び降りてくる。
この分身体も数十秒で倒したがまた足止めを食らってしまった。
こうなってくると魔法で一気に蹴散らすことが出来ないのは痛い。
強化魔法は体術なら力に振り回されず扱えるのだが、魔法になるととたんに制御が効かなくなる。分身体を倒すだけの威力にするつもりでも辺り数百キロを吹き飛ばすと言った事態になりかねない。
だが、この方法を選んだ以上は仕方がないことだと割りきる。
その後もウルが階層をぶち抜き、その都度、待ち構えていた分身体を排除を繰り返して何とか最下層、EX-12が居る場所にたどり着く。
「マスターもう術式が完成します!」
部屋に入るなりEX-12が展開している魔方陣を見てイーが叫ぶ。
ウルは弾かれたように床を蹴りつけEX-12を捉えるため駆ける。しかしこのタイミングで強化魔法の制限時間が来てしまい、EX-12を捉えようと伸ばした腕は一瞬の差で掴むことはできず空を切る。
既にここにはEX-12の姿は無くなっていた。
次話は早めに出せると思います