リリス、シャルロットの二人はウルと交わった疲労でそのまま眠りに落ち、スウスウと寝息をたてている。
「お休みにならないのですか?」
夜も更けても睡眠をとらないウルにアルリアが近付き、隣に座る。
「この世をどうするか考えていらっしゃるんでしょ」
ウルは何も言わずにただ揺らめいている焚き火を眺めている。
アルリアにとってはその沈黙が答えだった。
「今のところ考えは変わりませんか?」
「──ああ」
「そうですか」
ウルが世界を救う気が無いと言ってもアルリアはさして気にした様子を見せない。
アルリアでもウルが何を考えているかは正確に分からない。とはいえ、全く読めない訳でもない。
「では、ウル様はまだ世界を滅ぼしたいと思っていますか?」
「……ああ」
この質問には僅かに間が空く。
ウルは未だに世界に対して変わらない憎悪を抱いている。もし、母を救い出すという目的が無ければ今すぐにでも滅ぼしたいと思っているほどだ。
しかし、力を付けて世界を滅ぼしうるようになればなるほど、その事に固執しなくなっているようにも感じる。
それはいつでも滅ぼせるようになったからなのか、はたまた別の感情が有るのかは分からないが……
「ウル様がどのような選択をしても誰もその選択に逆らうことは出来ないのですよ」
元々この世界は一度ウルを殺している。本来ならその時点でこの世界の滅亡は避けられなかったのだ。それをアルリアが僅かな可能性に戻しただけで、ウルが世界を滅ぼす決断をしても文句を言う筋合いはない。
むしろウルが世界を救うかを思考をするだけでもかなりの譲歩なのだ。
「この旅が終わるまでまだ考える時間はありますが……ウル様はご自分が思った通りになさっていいんですよ」
アルリアは優しい顔付きでそう言ってウルの側から離れる。
「………………」
ウルは持て余す感情を振り払うように目を閉じ、眠りにつく。
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翌朝、ウル達は朝食を取った後にアルリアが禁域の魔獣達の素材と街で集めていた稀少鉱石を使った装備を受け取る。
ウルは今後竜との戦闘も想定して刃渡り2mで幅50cm程の大剣と刃渡り60cm程の小太刀を2本。
大剣は柄までオリハルコンが使われておりウルの無茶な使用にも耐えれる強度に作られている。
一方、小太刀は大剣に比べてアダマイト製のため強度はかなり落ちてるそうだが、その分軽量で扱いやすい。
リリスは長さ150cm程のコンポジットボウと一般的な短剣。
コンポジットボウは真ん中が中心ではなく、下から3分の1の所が中心になっていて飛距離を伸ばしているが、命中精度はリリスの腕によって大きく左右されるタイプだ。
短剣は刃渡り70cm程で、禁域の魔獣の爪や牙を普通の合金で強度を増した形になっており、稀少鉱石を使ったものに比べると耐久力に欠ける。
稀少鉱石は街でも取り扱ってる数が少なく、ウル達が保持している量も少量のためそこまでどうしても節約せざるを得なかったのだ。
しかし、リリスは前線で戦うことはないので近接武器の性能はそこまで高くなくていい。
シャルロットは魔導杖とナイフを1本。
素材は共に魔法伝導率が高く、魔法の増幅効果もあるミスリル製で、
ナイフは戦闘用というよりは儀式用で強度はかなり低くなっている。それでもエンチャントをすれば十分な威力と耐久力が期待できる。
ジブルは両端に刃が付いている双頭槍で、長さは150cm程。アダマイト製でかなり軽量になっていて小回りが利く物だ。
ジブルは普段は武器など使わないのだが、使えないと言うわけではなく、むしろ様々な武具に精通している。
そのなかでも好んでいるのが槍なのだ。槍は遠近両用の使い方ができ、そのなかでも双頭刃の物ならばその真価はさらに発揮されることになる。
イー達の装備は全員戦斧だが、イーは一撃に主点を置いた殺傷力の高い
これらは本来は2m以上有るのだが、イー達の体格に合わせて縮小の魔法が付与されていて、状況に応じてサイズを変えられる。
これらは全体的に一撃が重く隙を生じさせやすいのだが、スー達はその隙を連携で埋めることができる。
そういう意味でもイー達は自分達の武器を一つに統一したのだろう。
「いかがですか?」
「凄いです、まるで武器と体が一体になったようです」
試しに振ってみたイーが賛嘆する。
どんなに優れた武器であっても使用者と武器の間に差が生まれる。アルリアの武器にはその差が一切無いのだ。
ウル達も手にした武器を試しに振ってみるが、それぞれの武器が使用者の能力値に合った重さになっており、さらにグリップも使用者の指に合わせて作られているため、自分の体と一体になった感覚さえ沸いてくる。
ウル達は一通り素振りをして感覚を合わせるとそれらを装備する。
装備するとウル達は再びアルリアの神業に舌を巻く。
アルリアの武器は装備しても武器の重さが感じられず、重さによる行動の制限がかからないのだ。
「これで出来る限りの装備は整えました。その装備を生かすも殺すも皆さま次第です」
アルリアの武器は優れているが、使用者よりも優れてはいない。
つまりウル達が武器に振り回される事はないが、ウル達の実力を限界以上には引き出してくれないのだ。
これはアルリアの立ち位置からすれば当然のことなのだが。
アルリアはウルに必要以上の力を貸さない。そうしてしまえばウル達の旅は直ちに終了してしまう。
アルリアはこの世界の存続をウルの決定に任せるつもりだが、神としてはこの世界に滅びて欲しくないと思っている。だからウルに考える時間としてこの旅をしてもらっているのだ。
ウルもその事は理解してるのでなにも言うところはない。
「それじゃあそろそろ行こうか」
装備の新調も終わったところでウル達はアヴァザードに向けて歩を進め出す。
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禁域内は人の手が加えられていないので、木々や草花が鬱蒼と茂っており視界が悪くなっている。
そのなかでもウルは自分達を襲おうとしている魔獣の数を正確に把握できている。
ウルは今まで敵意を向けられ続けたせいで誰が自分に敵意や殺気を向けているか分かるようになったのだ。その精度は索敵魔法に匹敵し、魔法ではないため魔力の消費もない。
ウルはその特性を活かし、索敵役を買って出ているのだ。
「正面に四匹と八時の方角に三匹、二時の方角に一匹いる」
ウルの言葉にジブルとイーが各々武器を構える。
「イー来たぞ」
「はい」
まずイーの側にいた魔獣が突っ込んでくる。
その魔獣は熊に似た体型で体長は3m程、異常に伸びた刃のように鋭い舌を振り回し辺りの木々を切り倒している。
唾液は強酸のようで触れた草花が一瞬で溶けている。
魔獣は一番近くにいたイー目掛けて舌を振るう。
イーは襲い来る舌をを逆袈裟懸けに斬り飛ばす。
「GAAAAAA」
魔獣は絶叫を上げ後ずさる。
イーはその隙を逃さず、一足飛びで魔獣に肉薄し両刃斧で真っ二つにする。
魔獣は最後に何が起こったか分からないと言いたそうな表情を浮かべそのまま息絶える。
「GYYYYYYYAAA」
イーによって仲間を殺された事により、周りにいた魔獣達が一斉に襲いかかってくる。
ウルの前にいた魔獣達は2本足で立ち上がり、全体重を乗せた一撃を繰り出してくる。
それに対してウルは無言で大剣を無造作に振るう。すると辺りの大気が巻き込まれ暴風が魔獣達の舌を弾き飛ばす。
そしてウルは怯んだ魔獣達を一斉に斬り伏せ、魔獣達を上下に両断する。
「GRRRRRAAAAA」
しかし、魔獣達は未だウルを狙って腕を降り下ろしてくる。だが、ウルは魔獣達の最後の一撃を難なく受け止めそのま握り潰す。
苦し紛れの一撃さえ届かなかった魔獣達は怨めしそうな視線をウルに向け事切れる。
「主様、二匹は逃げましたがどうしますか?」
見ればジブルに舌と前足を切断された魔獣達が足を引きずりながら逃げ出している。
「逃げるんなら殺す必要はない。放っておけ」
ウルは魔獣達がもう敵意を抱いていないことを確認するとそう言う。
ウル達の目的はアヴァザードに辿り着くこと。ここで敵意のない魔獣達を追いける位なら先に歩を進める。そう判断しての事だ。
「畏まりました」
ジブルはウルの判断に従い展開していた魔方陣を消す。そして刀身を振るい血を払う。
流石アルリアが作った武器と言うべきか、魔獣達の強酸でも刃こぼれ一つにしていない。
「シャル、こいつらは何かに使えるか?」
「そうだね、クーダの舌は死んでしまうとただの柔らかい肉に変わるから武器としては使えないね。でも毛皮は防寒着の代わりになるからアヴァザードでは使えるかな」
「こいつ以上に寒さを凌げる魔獣はいないのか?」
「アヴァザードにはいるだろうけど、ここらでクーダ以上の毛皮を持っている魔獣はいないとされてるね」
「そうか」
シャルロットがそう言うとウルは
「マスターそろそろ日が落ちます」
禁域は木々の影響で日の光がほとんど入らず、昼でも夜のように暗いため時間の感覚が狂ってしまうが、イー達は正確に時間を把握出来るようで日没を知らせてくる。
魔獣達は日の沈んだ後に活発に行動し出す傾向が有るため、今日はここで夜営をすることにする。
まず、ウルが辺りの木々を伐採して軽い空間を作り、そこに魔法で床を作る。
その間にスーとジブルは辺りの魔獣の掃討と魔獣避けの結界を張り、イーとシャルロットとリリスは夕食の準備を始める。
三人は部屋に保管していた食材や調理器具を取り出す。
「イーちゃん、薪を作ってもらえないかな」
「分かりました」
イーはウルが伐採した木を細かく割って薪にする。そしてそれにマッチで火を起こす。
勿論魔術などを使えば火など簡単に起こせるが、ここは禁域だ。無駄な魔力の消費は避けれるなら避けた方がいい。
そうして火を起こし、シャルロットはスパイスを絡めた鶏肉を焼く。
辺りに香ばしい香りが広まり食欲をそそる。
「この匂いって魔獣達を集めないか?」
魔獣とて生き物だ。旨そうな匂いに引かれてここに来ないとも限らない。
魔獣避けの結界が有るので魔獣がここに来ることはないのだが、結界を解除した瞬間にここに押し寄せないとは言い切れない。
「大丈夫だよ。ちゃんと対策していてるから」
シャルロットは少し離れたところに置いてある香炉に視線を向ける。
「そういえば、いつも炊いてるけどあれで匂いを消せるのか?」
「そうだよ。消臭香っていって辺りの匂いを無臭に変えてくれるお香だよ」
いつも何か炊いてるのは知っていたが、そんな効果があるとは知らなかった。
「はい。ウルできたよ」
そうやって話しているうちに料理が出来上がり、ウル達は夕食をとる。
こうしてウル達の旅は今のところ順調に進んでいた。