竜の中でも比較的弱い飛竜等は強い竜をリーダーとした群れを作るが、今ウル達を囲んでいるのは群れを作らないタイプの竜だ。能力値も8000から9000はある奴等ばかりだ。
(あの二頭がコイツらのリーダーか……)
ウルの前に立ち塞がっている二頭は共に能力値が15000程、間違いなくこの竜の群れを率いている。
「Grrrrrrrrrr」
竜達は呻き声を上げ、今にも襲いかかろうと臨戦態勢をとる。
先に動いたのはウル。先程の雪崩を防いだ時よりも何十倍もの威力の暴風を周囲に吹かせ、大剣を足元の地面に突き刺し、そのまま振り抜く。それだけで大地は切り裂かれる。
「えっ!?」
「きゃぁぁぁぁぁっ!?」
ウルの力業で斬り割られた割れ目にウル以外の眷族達が土砂と共に落ちていく。
シャルロットとリリスは突然の事に驚愕するが、イー達やアルリアはウルの真意を理解して重力に身を任せる。
アヴァザードの地中には空洞が広がっている。そこにも魔獣はいるが、こんな数十体の竜に囲まれているのりかは、はるかに安全だ
そしてウルの意図を理解したアルリアが張った結界の影響で裂けた大地が修復され、塞がっていく。
「RAAAAAAAAAAA」
獲物を逃がすまいと一頭の竜が暴風の中を突っ切って来るがウルはさらに魔力を注ぎ込み風の威力を上げ押し返す。
暴風は辺りの雪や氷を飲み込み鋭利なカッターのように竜達の強固な鱗ごと切り裂いていく。とはいえ、致命傷にはほど遠い。特に能力値が高い竜達はかすり傷程度のダメージしかないだろう。
「GRAAAAAAA」
「RAAAAAAAAAAAAAA」
リーダーと思われる竜の咆哮で辺りにいた竜達が肌が裂けるのも構わず突っ込んでくる。
ウルは吹き荒らしていた暴風を止める。そして風の抵抗が急に無くなった事でバランスを崩した竜の懐に飛び込み、頸を切断する。しかし、流石竜と言うべきか、そいつはウルの速度に対応し、僅かにウルの攻撃を避けた。しかし、頸の7割り近くは切り裂いているので遠からず絶命するだろう。
「grraaaa」
だが、竜はその僅かな時をも戦いに使うつもりのようで、鮮血を撒き散らしながら喰らい付いてくる。
「チッ」
ウルは舌打ちをしながらその竜の牙を素手で掴み、そのまま投げ飛ばし、近くにいた竜にぶつける。
「「「「GRRRRRRRRRRRYYYYYYAAAAAAAAAAAAA」」」」
その隙に辺りの竜達が一斉に咆哮する。その咆哮が鼓膜を破らんばかりに虚空を震わせ、その轟音の振動がビリビリと大気を揺らす。ウルは音で全身を内側から掻き回され、堪らずその場で膝をつく。
それを好機と見た数頭の竜がウルを喰らおうと突進してくる。
「URRRRRRRRRRRRRAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
このままでは不利と悟ったウルは竜達と同じように咆哮する。ただ、竜達と違う点はそこに魔力を込めているという点だ。魔力の籠った咆哮は衝撃波となり大地を抉りながら四方八方に吹き荒れ、竜達を滅多打ちにし、薙ぎ倒していく。
飛んでいた竜達は地面に落ち、大地に立っていた竜達は衝撃波に吹き飛ばされる。
「はぁ……はぁ……」
ウルは咆哮を止め、荒くなった息を整える。これだけの数の竜だ、強化魔法抜きではウルでも勝てない。そこでウルは強化魔法を全力で使っているのだが、ウルの体がウルの動きに付いてこれていないのだ。全身が悲鳴を上げ、汗が噴き出す。
だが、そんなことは知ったことではないとばかりにダウンしていた竜達が起き上がる。
ウルと接近戦では分が悪いと判断したのか、何頭かの竜は魔方陣を展開する。
「くそ」
ウルはそいつらから潰そうとするが、それを遮る様に他の竜達が凶爪を振るう。ウルはやむなく大きく飛び退る。しかし、それと同時に爪の付け根を切り裂く。
「GYAAAAAAAAAA」
人間の痛覚神経は爪の裏に集中しているというが、それは竜も同じなようで絶叫を上げ、仰け反る。だが、ウルはもうそんなことは気にせず指を鉤爪状にして振り向きざまに背後に迫っていた竜の目を潰す。
「GRRRRRAAAAA」
片目を潰された竜は激痛と怒りで出鱈目に暴れる。
「ぐっ!?」
ウルはその竜の尻尾にわざと当たりに行き、数十mは吹き飛ばされる。
だが、これでいいのだ。なぜならさっきまでウルがいた場所にこの世ならざる業火が降り注いでいるからだ。業火に触れた雪は溶け水になった瞬間に蒸発し、大地は融解してマグマに変わる。
(くそっ、数が多すぎて捌ききれない)
竜達は魔法が完済すると同時に業火を打ち出し、ウルを葬ろうとする。それに対してウルは大剣で魔法の軌道を変えたり、同威力の魔法をぶつけて相殺するが、四方八方から次々に撃ち込まれては対処か間に合わない。
(このままじり貧になるよりかはましか)
ウルは腹の内で覚悟を決め、竜達が展開している魔方陣に膨大な量の魔力を注ぎ込む。
魔法とは一つの術を発動させるのに正確な魔力バランスが求められる。さもなければ魔法は暴発し自滅してしまう。ウルがやったのはそれ引き起こすために強引に魔法に干渉し
結果、コントロールを失った魔法は暴発し辺り一体を吹き飛ばす強大な爆弾となる。
その衝撃でアヴァザード全体が揺れ、あちこちで雪崩や山崩れが起きる。
「ぐっ……ぁ……」
巨大なアヴァザードを揺るがすほどの威力の爆発の中心にいたウルは全身からおびただしい量の血を流しているが、致命傷は受けていない。一方、竜達は大多数が虫の息になり起き上がることさえ出来ていない。
そんな中、ウルと同じく血は流しているが、致命傷を避けている竜が二頭いた。
(やっぱりあの二頭だけは別格か……)
その二頭はこの竜の群れを指揮していた能力値が15000を越える化物だ。
「ああああああああああっ!!」
ウルはすでに強化魔法を使っている。しかし、強化魔法には時間制限がある。そのためウルは自然と短期決戦を強いられているのだ。
ウルは痛む体に鞭を打ち、立ち上がる。そして右手で大剣を、左手で小太刀をを構え、二頭目掛けて突貫する。
周りの溶岩など駈ける際の衝撃波で押し返し、大地に亀裂を入れる勢いで二頭に接近する。
そして袈裟懸けに大剣を振るう。だが大振りな攻撃はなんなく避けられる。
「なめるな!!」
本来なら身を躱した竜には届かず、空を切るはずだった斬激を一歩詰めることで埋め、翼を切り裂く。
そして振り抜いた勢いを利用して回し蹴りを叩き込み、距離をとる。しかし、ウルが着地した瞬間を狙ってもう一頭の竜が噛みついてくる。
ウルはその竜に拳を見舞うが、竜はその衝撃を殺さないようにその場で一回転してウルの攻撃の威力に自分の力を加えた攻撃をしてくる。
「がっ!?」
辺りに土砂の津波が出来るくらいの威力で地面に叩き付けられ、ウルは肺の中の空気を全て吐き出す。目の前が点滅し意識が途切れかける。
強化魔法の時間切れが近い。ウルは薄れた意識の中で残りの魔力量からそう判断する。
───死
その言葉が脳裏に過った瞬間、ウルの中でまるで今までズレていた歯車が噛み合った感覚がする。
全身が痺れて上手く力が入らなかった体に力が涌き出てくる。ウルは杖が代わりにしていた大剣を引き抜きゆっくりと立ち上がる。そして再び竜目掛けて突貫する。
「ああああああああああっ!!!」
そしてウルは雄叫びと共に大剣を力任せに振るい、斬撃の暴風を引き起こす。するとさっきと違い、竜達がジリジリと押し負け、徐々に裂傷を増やしていく。
「RYYYYYYYY」
「あああああああああ!!」
竜は調子に乗るなと凶爪を振るって反撃しようとするが、ウルはその腕ごと斬り飛ばす。
竜は片腕を失った激痛で大きく仰け反り、無防備に頸を晒す。ウルはその頸を切り落とすべく大剣を振るうが、残った片腕を間に差し込む事で威力を殺ろされ、切断にはいたらない。だが、ウルは攻撃の手を緩めず竜の胴体に指を食い込ませて掴むと、そのまま地面に叩き付ける。
「aaaaaaa……」
「──ふッッ!!」
もう一体の竜がウルの豹変に戸惑い、弱々しく鳴きながらも仲間を救おうと凶爪を振るうが、ウルは白銀の斬閃を走らせ受け止める。
竜は渾身の力を入れてもびくともしないウルを恐れるように間合いを開ける。
ウルは今起こっていることに実感が湧かなかった。全身は血塗れで、辺りには
それでもウルはなにも感じない。恐怖も、緊張感も。
「これ以上やっても無駄だ」
ウルは諭すように優しい声で言う。
どれだけ強大な力を持っていたとしても使わなければ宝の持ち腐れ。力とは実戦で使って初めて真価を発揮し、その力を持って死神に身を晒すことによって極地に至る。
ウルはこの世に戻ってきてから全力で戦ったことも、死を感じたことも一度たりともない。
それが初めて全力で戦い、死を感じたことによってウルは本当の意味で自分の実力を掌握した。
もう竜達に勝ち目はない。例え竜達が万全の状態であっても、今のウルなら強化魔法が切れる前に全滅させることが出来る自信もある。
「もしここで退くなら見逃すが、これ以上やるなら───根絶やしだ」
この世の全てを凍てつかせるような声音で凄むウル。その言葉は単なる脅しではなく、実際にそうすることが出来ると理解させるには十分だった。
そう理解した竜達がとった行動は平伏だった。
竜の一番の武器である爪は体の下にして、顎は地面に擦り付け、攻撃する意思がないことを示す。
他の竜達もリーダー格の竜がウルに平伏したのを見て、同じ姿勢をとる。
ウルは竜達から完全に敵意が無くなったことを確認して強化魔法を解く。
すると今まで麻痺していた疲労がドッと押し寄せてくる。全身の傷が痛み、強烈な睡魔に襲われる。
今にも倒れてしまいそうな中、ウルは地下迷宮に避難させた眷族達を呼び寄せる。眷族契約の主側の特権だ。
ウルが念じるとウルの周囲に黄金色の光が人のシルエットを作り、次の瞬間、ウルの側に眷族達が実現する。
「───っ!?」
眷族達はいきなり地下から地上に戻されたことや、周りで平伏している竜達を見て混乱するが──
「ウル!?」
「ウルさん!?」
「マスター!」
ウルの様態を見て慌てて駆け寄って来る。
「傷は深くないけど出血が多い」
ウルの容態を正確に診断したシャルロットは素早く詠唱をして応急処置をする。
ウルの体が淡い緑色の光に包まれ、出血が少し収まる。
「マスター、この者達はどうしますか?」
イーは両刃斧を竜達の方に構えながらウルに確認をとる。
ウルは〈交信〉を使い竜達と意思疏通を図る。ウルが竜達にこれからどうするかと問えば付き従うとリーダー格の竜が答える。
付き従うとはつまりウルの使い魔になるということ。
ウルは半笑いになりながらも竜達と使い魔の契約を結ぶ。
「ジブル、こいつらも治療してやってくれ」
ウルの傷を癒すために治癒魔法の詠唱をしていたジブルはウルの指示に頷き返す。ウルが竜達と使い魔の契約を結んだことを理解したようだ。
辺り一面が緑色の光に包まれ、ウルの傷はたちまち癒えてゆき、竜達も少しずつ欠損していた部位が復活していく。
スーは魔法でカマクラを作り、アルリアの結界の影響ですでに元の形に戻ったアヴァザードに吹雪いている吹雪を遮断して部屋から木材を取りだし焚き火を起こす。
「マスター、少しお休みください」
イーはそっとウルに膝枕して、頭を撫でる。
これだけの数の竜だ、襲ってくる魔獣もいないだろう。ウルは睡魔に身を任せ、深い眠りにつく。