「二人は寝たか?」
「うん、ぐっすり寝てるよ」
ウル達は興奮で疲れてしまったウィズとウィラを休ませるために手頃な洞穴を見つけて暖を取っていた。
「
「そうだね……3日くらいかな」
シャルロットは地図を取り出しおおよその時間を計算する。
アヴァザードはウル達の足でも越えるのに十日はかかる予定だったので、途中でウィズ達のために休憩を挟むとしても五日とかなり短縮できる計算になる。
「禁域を抜けたら近くの街に寄る必要はあるか?」
「寄った方がいいかな。思いのほかアイテムを消費しちゃったからね」
ウル達は禁域に入ってから部屋に蓄えてきた食料や薬品類などのアイテムをほとんど消費してしまった。もちろん食料は狩りをすれば、薬品類は回復魔法があるのでそこまで必要なわけではない。しかし、有るに越したことはないので補給できるなら補給しておくべきだ。
「そういえば、ウルのお母さんを殺した魔族ってどんななの?」
まだ詳しい特徴を伝えていなかったので、シャルロットが訊いてくる。ウルは覚えてる限りの特徴を伝えるとシャルロットはピクリと反応する。
「その魔族は黒竜を従えてたんだよね……もしかしてこいつじゃない?」
シャルロットはそう言いながら、ギルドの資料を取り出し、手配書の中の一枚を見せてくる。
「こいつの名前はバール・ゼブル。魔族軍の幹部の一人で人族領侵攻の指揮をしている魔族で、最大の特徴は黒竜を使役していること……」
そこに描かれていた絵は確かに母を殺した魔族に似てはいるが、記憶にある姿と完全に一致しない。
「どれくらい似てる?魔族はある程度は自身の姿を変えられるんだ」
「……かなり似てはいる」
そう言うとシャルロットは黙り込み、なにかを考え始める。
「ウルもしかしたらウルのお母さんを殺した魔族はこいつかもしれない。黒竜は個体数が極端に少ない上、能力値もかなり高いからこいつを従えれる魔族はそう多くないはずだ」
「こいつの居場所は分かるか?」
「うーん、目撃情報が半年も前だから正確には分からないけど、人族領にいる可能性は高いと思うよ」
「最後に目撃されたのは?」
「オラクル共和国を亡ぼしたときだね」
ウルはシャルロットの回答に少し思考を巡らせる。よくよく考えれば自分がその魔族に襲われた場所が魔族領だとは考えにくい。
「もしかしたら違うかもしれないし、オラクル方面に行くなら少し道がずれることになるけど……こっちから先に行く?」
「ああ」
可能性があるなら、どんなに低い可能性でもしらみ潰しにするべきだ。ウルはまず人族領に来ている魔族の中に母を殺した魔族がいないかを重点的に調べることにする。
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新たに行動の方針を立てた日から六日後、ウル達は禁域を抜けて近くにある街まで向かっていた。
「ウル、そろそろ降りた方がいい」
梟のように夜でも昼間のように見え、数十km先も見通すことのできる遠見の魔法を使っていたシャルロットが街を目視してそう指示を出す。
竜達は移動には便利だが、どうしても人目を避ける必要が出てくる。そのため、ウルたちが街に近付けるのは夜中、しかもそれなりに離れた位置までになってしまう。
もちろんそれを差し引いても十分すぎるのだが。今まではウィズやウィラのペースも考えて適度に休憩を取りながら進む必要があったが、竜達を使えばその必要がなくなる。
「そう言えば残金てどらくらいありました?」
街に行くに当たってシャルロットと共に買い物や情報収集をする役割のリリスが確認をとる。
ウル達が今持っている素材は禁域に生息している魔獣のものばかりだ。もし残金が足りないのならば、適当な魔獣を狩る必要がある。
「大丈夫だよ、だいたい600万Lは残ってるから」
禁域に行く前、装備を整えるためにかなり使い込んだはずだが、思いの外残っていたらしい。今回は稀少アイテムを買い込む必要もないので、それほど残っていれば十分だ。
竜達は街から離れた位置にある森に着地する。
「ゆっくり休んでくださいね」
全員が竜から降りるとリリスは竜達を部屋に送りながら労いの言葉をかける。竜達はクルルと嬉しそうに喉を鳴らしながら部屋へ移動していく。
そのままウル達は森の中の獣道を進んでいく。やはり禁域側ということもあり道は整備されていなかった。フェンリルを使ってもよかったのだが、あまり早く街に行っても情報収集が出来ないのでゆっくりと歩いている。
途中で魔獣と鉢合わせたりもしたが、今のウル達には一般的な魔獣など脅威になり得ない。そうやって街を目指して森を進んでいるとウルは人の視線と悪意を感じ取る。この悪意は魔獣ではなく人のそれだ。おそらくこの辺りにアジトを持つ盗賊の類いだろう。
「ウルどうする?」
「なにも仕掛けてこないなら放っておく」
シャルロットも自分達に向けられた視線を感じ取って臨戦態勢に入りながらウルの指示を仰ぐが、ウルはまるで盗賊などいないかのように振る舞う。ウル達にとって人族の盗賊程度は邪魔にさえならない。
しかし盗賊達はウル達が自分達の存在にすら気付かない実力だと誤解したのか、悪意は大きく膨らみ回りを囲うようにジリジリと距離を詰めてくる。
「お前ら命が惜しかったら大人しくした方がいいぞ」
そしてついに盗賊の一人がウルたちの前に立ち塞がり、そんな警告をしてくる。手には青竜刀らしき刃物を持っている。
「警告、直ちに敵対行為を止め投降すれば命は取らないとマスターは仰られています」
イーが感情の乗らない機械音のような声音で警告を出すが、こちらを完全に舐めているので効果がない。
賊達は下卑た笑いを顔に張り付け、今にも襲いかかって来そうな勢いだ。
「ジブル、やれ」
「はい」
「なっ!?」
ウルが命令するとジブルは翼を広げ"威圧"を使う。賊達はジブルの"威圧"に呑まれて息すら出来なくなる。この程度の敵ならば正体を見せる必要はなかったが、ジブルは自分の主に危害を加えようとしたことを決して許しはしない。絶望の中で殺すために正体を現したのだ。
ジブルは身動きの出来ない賊達を次々と槍で貫いていく。
「や、やめ───」
そして最後の一人を貫こうとしたときその槍をローブを身に纏った何者かが掴む。
背丈はリリスほどだろうか、その小さな者は槍を引き戻そうとするジブルの力に平然と耐えている。
「り、リーネ助かった」
「えへへ、ここはリーネに任せてよ♪」
幼く、明るい女の子と呼ぶのが相応しい声がローブの下から聞こえてくる。
その少女は掴んでいた槍を放してこちらと対峙する姿勢を取る。
「主様……」
「ジブルじゃ無理だな」
ウルはそう言って小太刀を構える。ジブルの力に対抗できた時点で"神眼"を使って能力値を盗み見たが、その少女の能力値は二万近くあった。高位化をしている者がなぜ盗賊などをしてるのかは知らないが、この少女だけはウル達の障害になりえる。
「やめた方がいいよ♪リーネ強いからね」
「なあ、ひとつ聞かせてくれないか?何でこんなことしてる?」
ウルはリーネと呼ばれる少女の仕草に違和感を覚える。まだ漠然としていて分からないが、その少女に何かを感じている。
「えへへ、知ったて無駄だよ……だって今から死ぬんだから!!」
その少女は地を蹴り一瞬でウルに肉薄してくる。その速度は辺りに衝撃波を撒き散らし、音を置き去りにするほどだった。ジブルすら残像まてしか捉えられない。だが強化魔法を使った今のウルにとってはあくびが出るほどのスピードだ。
ウルは突っ込んでくる少女をちょうど殺せる威力で小太刀を振るい、命を刈り取ろうとする。
そしてウルの攻撃が少女を捉える瞬間、ウルとリーネの目が合う。
ウルとリーネが交差した後、ウルは攻撃を振り切った体勢で固まる。
「マスター、いかがされました?」
イーが動かないウルを心配するように聞いてくるが、ウルは上の空のままだ。
「何が起きた?おい、リーネどこ行ったんだよ」
状況が呑み込めていない盗賊はリーネが急に消えたようにしか映っていないのだろう。ウルは無言のままその盗賊に近付き、首を跳ねる。
「イー、さっきの奴がどこに飛んだか分かるか?」
「一分程あれば」
「なら俺たちもそこに飛ぶぞ」
「かしこまりました」
あの一瞬、ウルは確実にリーネを殺す攻撃を繰り出した。しかしリーネはその攻撃では死なず、転移の魔法でどこかに逃げた。ウルは腑に落ちない感情を持ちながらリーネの後を追う。
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「はぁ……はぁ……」
その頃リーネはおびただしい量の出血をしながら、仲間達がいるアジトへ向かっていた。
強引な転移で魔力はほとんど底をつき治癒の魔法を使うことも出来ない。
「お、おい!リーネどうしたんだ!?」
「と、頭領……助けて」
「おい、何があった!?」
「殺される……アイツに殺されるよ……」
「な、何を言って……お前が殺されるって?」
頭領の言葉に辺りがざわめく。
「まさか……お前すら殺せる化け物に喧嘩売ったんじゃないよな」
「頭領?」
リーネは頭領の台詞に違和感を覚え、不安そうな声を出す。それは何かに怯えるような声だ。
「な、何だよお前達!?」
部下達が慌てる声に頭領とリーネは同時に振り向く。その視線の先には盗賊達を惨殺しているウルの姿があり……
「頭領助けて!!アイツに殺されちゃう!ねえ助けて頭領!!」
「さわるんじゃねえ!!」
すがり付くリーネに対して頭領はリーネを蹴り飛ばす。
「なあ、俺達はコイツに無理矢理従わされてだけなんだ、本意じゃなかったんだよ、だから見逃してくれ、な?」
その言葉はリーネの心を深く抉る。
「どうして……?どうして、リーネの事を仲間だって言ってくれたよね?」
「そう言わなかったら殺されてたからだろ!!」
深い絶望が籠った、震える声。だが、頭領はそんなことにすら気付かず、ウルに命乞いをし続ける。
「ぅ、うあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
これまで誰からも受けいられなかった、初めて受け入れてくれたと思った人達にはまさに今裏切られた。リーネの中で何かが壊れ感情に呼応するように、残された魔力を絶対零度に変え、仲間だと思っていた人族を氷付けにする。
斬られた傷から冷気が入り込み、全身を芯から冷しても寒いとも感じなかった。それでも体は悲鳴をあげているようで、徐々に意識が遠のいていく。
(やっぱり、リーネは誰からも受け入れられないんだ……)
体を支える事さえ出来なくなり、リーネは凍り付いた大地に倒れ込む。
(これで死ねるんだね……)
なにも思うことがないと言うと嘘になる。けれども、これが一番幸せなんだと自分に言い聞かせながら、リーネは命の灯火が消えるのを待つ。
長い時間、あるいは一瞬かもしれないがそうしていると誰かが近付いてくる。誰だろうと思っても目を開ける力さえ残っていない。
ただ、誰かが自分の体に触れたのだけは分かった。
(なんだろう……暖かいな……)
冷えきった体がゆっくりと暖められているような感覚。それを感じながらリーネは意識を手放す。
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リーネの放出する冷気を結界で防いでいたウルはリーネを見てなぜ先程リーネを殺しきれなかったのかを悟る。
そして自分一人で結界の外に出てリーネに近付く。高位化をしているとはいえ、残り少ない魔力を込めただけの魔術ならばウルは防御しなくても耐えられる。
そうしてリーネの側に来たウルはそっと頬に触れ、涙を拭ってやる。そして、回復魔法を使い、リーネを治療する。
元々ウルに回復魔法は向かないのだが、死にかけのリーネを助けるためにはウルの膨大な魔力が必要になる。
「ウル、この子……」
リーネの意識がなくなったためか、魔力が切れたのかは分からないが、冷気が消えたために側に来たシャルロットがリーネを見て息を飲む。破れたローブから覗く肌は褐色で、耳がシャルロットのように細長くなっていた。
「
シャルロットがポツリと呟く。