※この作品はR-18です。

世界に絶望した救世主の救済方   作:ウル・ウルス

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世界竜のリュー

 

「ふ、ふふふ、ふはははははは!!!まさか、まさかここまで殺されかけるとは思うておらんかったわい」

 

朦朧とした意識のなかで誰かが愉快そうに笑っている。

激痛が五体を苛み、頭と全身がとてつもなく熱い。全身の骨という骨が砕け、肉は焼け焦げている。

傷を負っていない箇所を探す方が難しいくらいのダメージ。

 

土砂に埋もれたウルはケホッと血を吐きながら、重たい頭を軽く起こす。

目の前にはやはり、あの巨竜が膝をつくことなく立っていた。

もちろん、無傷ではない。小太刀を突き立てた箇所からは肉が吹き飛び、心臓までもが剥き出しになっている。腕はおかしな方向に曲がっており、皮1枚で繋がっている状態だ。

お互い満身創痍、生きているのが奇跡なレベルの傷を負っている。

 

「おお、お前様も生きておったか。この死闘が無駄にならずにすんだわい」

 

ウルが死んでいないのを確認した巨竜は翡翠の瞳を細めて、怪物とは思えないほど晴れやかな笑みを浮かべる。

 

「お前の目的はなんだ?」

 

ウルは首をあげていることさえ億劫になり、脱力して天を仰ぎながら巨竜に問いかける。

この竜は間違いなくウルを殺そうと本気で襲いかかってきた。しかし、全力ではなかった。

もし、この竜が全力で殺しに来ていたら、ウルは初めの一撃で死んでいただろう。

 

「儂の目的か?品定めじゃよ」

 

いつの間にか3メートルの巨体から、イーたちほどの大きさの少女に姿を変えていた黒竜は、楽しそうにウルの回りを回りながらウルの問いかけに答える。

ダメージ事態は消えていないだろうが、黒竜の見た目は傷ひとつない。

 

「品定め?」

「そうじゃ。儂は……この話はお前様の眷族たちがいるときに話した方がいいの」

 

黒竜とは間違いなくウルの仲間達の事を眷族と言った。この事は他には漏れていないはずなのにだ。

 

「安心せい、儂以外には知られとらんよ」

 

視線を鋭くするウルに対して、黒竜は軽いノリで受け流す。

 

「儂はもうお前様と戦うつもりはない。安心してお前様の傷を治してもらうがよい」

 

黒竜は戦う意思がないことを示すかのように両手を上げ、ウルに背を向ける。

敵意がないことは分かったが、はたして気を許して良いのかと逡巡するが、直ぐに溜め息をつき、部屋にいるアルリア達に声をかける。

この黒竜がその気ならば今殺されている。

 

「マスター!?」

 

真っ先に出てきたイーはウルを見て悲鳴のような声を上げる。

 

「ウルさん……そんな」

「お兄ちゃん……」

 

他の眷族たちもウルの負傷を見て息を詰まらせる。

 

「直ぐに傷の手当てを!」

 

イー達は魔方陣を展開したり、倉庫から薬草を取り出したりする。

アルリアはウルに口付けをして欠損した肢体の再生魔法をかける。

 

「…………くっ、あっ……」

 

傷が回復するにつれて、麻痺していた痛覚が蘇り、ウルを苛む。

ウルは苦痛に顔を歪めつつも、黒黒竜から目を離さない。

しかし、黒竜がなにか行動を起こすことはなく、ウルの傷も普通に動くことぐらい出来るまで回復すると、黒竜はウルの方に向き直る。

 

 

「さて、一応自己紹介をしておこうかのう。儂はお前様達の間では世界竜と呼ばれておる。名はないので気軽にリューとでも呼んでおくれ」

「世界竜っ……」

 

イーはその言葉に呻く。世界竜とはその名の通り世界その物の事だ。イー達が造られるよりも遥か昔に考えられていたこの世の全てを支配して、その背に乗せているとされている神話上の生物だ。

 

「実際は世界を背負うほどのサイズではないがの。精々この大陸ぐらいじゃよ」

 

リューはイーの説明に大袈裟だと付け足す。

 

「それで、その世界竜が何で俺達……俺を狙ったんだ?」

「世界竜と言っても、儂が神話に語られている世界竜と言うわけではない。儂はその世界竜の子孫ということなのじゃが、儂らは生殖能力が低くての、絶滅せんように強い雄の子孫を残すのじゃ。お前様は今はまだでも、いずれ世界最強の雄になるやもしれんしの」

 

その言葉で一同はリューの言わんとすることを理解する。

ようはウルが強き雄かを確かめるために今回襲ってきたということなのだろう。

 

「もし、マスターが死してしまった場合はどおするつもりだったのですか?」

「その時はその程度の男だったというだけのことよ」

 

イーが敵意を剥き出しにしながらリューを問い詰めると、リューは大した問題ではないと言うように嘯く。

イーは目を細め殺気をちらつかせる。

しかし、ウルが制止したため殺気を抑えてウルの後ろに控える。

 

「何で俺達の秘密を知っている?」

「儂にはこの大陸で起こってることは全て伝わってくる。お前様が追っている魔族の居場所などもの」

「俺達がここを通るように仕向けたのはお前か?」

 

リーネをこんな風にしたのはお前か?とウルは冷たい声で問いかける。

 

「いや、それは違う。その娘とお前様が出会ったのは偶然じゃ。もっともお前様がこっちに来ないなら色々とちょっかいをかけるつもりじゃったがの。ほれ、そこにおる竜達等を使っての」

 

ブロウ達がなにか理由があってアヴァザードに来ていたのは分かっていたが、こいつの差し金だったのかと、納得する。

 

「それじゃあ最後の質問だ。お前は俺の事を理解しているのか?」

 

仲間達まで危険な目に会わされて、ウルは静かに。しかし、明らかに憤怒していた。

全てを威圧する殺気を放ち、鋭い視線てリューを射抜く。

 

「もちろんじゃ」

 

そう答えた瞬間、ウルの怒りは爆発する。辺りに魔力を吹き嵐ながら1歩、また1歩とリューに詰め寄る。

 

「お前様の気持ちはよくわかる。じゃから、儂を殺すのならば抵抗はせんよ」

「遺言はそれだけか?」

「儂は役に立つぞ。儂より強い者など片手の指で事足りる。眷族にするのが嫌ならば奴隷契約でもよい」

 

リューはウルの目を真っ直ぐな瞳で見つめながらそう訴えてくる。

その瞳には打算等は一切含まれておらず、本心から言っていることが分かる。

ウルにとっては初めての告白。

以前のウルならばこんな言葉をかけられても、躊躇いなく首を跳ねていただろう。しかし、今のウルにとって自分を慕ってくれる存在は何よりも変えがたい。

 

しばらく無言で立ち尽くしたウルは、やがて殺気を納める。

リューに気を許したわけではない。しかし、直ぐには切り捨てない。それが今回ウルが下した決断だ。

 

「寛大な判断に感謝する。儂はお前様のためならば犬馬の労をいととぬ」

 

ジブルたち天族の忠誠の姿勢を真似てリューは恭しく跪く。

 

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「儂ら世界竜は特別なスキルを幾つか持っておっての、例えば周囲の情報を全て知ることの出来る"千里眼"やあらゆる種になれる"万物変化(トランス)"等があるんじゃよ」

 

リューは意識してなのか、はたまたもとからそんな性格なのか、ウルたちに気後れすることなく話しかけて来る。

自分がまだ受け入れらていない事などお構いなしだ。

 

「じゃから、そこで時空断裂の術式を組み込むことで周囲との次元をズラしてより強固な障壁を張る………」

 

リューはイー達よりも長生きしているようで、その知識や戦略を伝授したりもしている。

今のところは敵対行動をとっていないので、イー達も盗めるだけ知識を盗もうとしている。

 

 

「お前様、傷の具合はどうじゃ?」

 

リューは一人で療養しているウルの側まで歩み寄り、世間話をするように声をかけてくる。

 

「儂はな、お前様の下僕になれて嬉しいんじゃ」

 

リューは聞く者を安らかにさせるような優しい声音でそう言い、ウルの隣に腰かける。

 

「さっきも言ったが、儂は強い。じゃからこそ、こうやって気楽に話せる相手などおらんかったのじゃ。それをお前様は叶えてくれた。お前様が儂を信用しきれんのはよう分かる、儂のせいじゃしな。じゃからそれは行動で示させてもらう……儂はこう見えても尽くす女なんじゃよ」

 

そう言いながら、リューはウルの肩に頭を置いて甘えてくる。

あらゆる姿に成れるのにこんな幼い姿をとっているのは、リューの心の幼さを表しているのかもしれない。

そう思うと、ウルもぞんざいに扱えず、リューのやりたいようにさせる。

 

「お前の傷はどうなんだ?」

 

特に意識したわけでもなく、自然とウルはリューを気遣う言葉を口にしていた。

ウルほど重症ではないとしても、リューも瀕死のはずだ。

だが、リューはウルを襲った罰として傷を治そうとはしない。

 

「まあ、死に体じゃ」

 

リューは腕をさすり、ケラケラと笑いながら他人事のように言う。

 

「お前もアルリアに治してもらってこい」

「良いのか?儂の傷が治れば敵になったときに面倒じゃろ」

「お前なら今のままでも俺に勝てるだろ」

 

リューは負傷によりかなり弱体化しているだろう。しかし、それでも強化魔法を使っていないウルよりも強い。

常に強化魔法を使っているわけにはいかないので、リューはその気になればいつでもウルを出し抜けるのだ。

 

「それではその代わりに1つおねだりをしてよいかの?」

「おねだり?」

「儂のことをお前ではなく、リューと呼んでくれ」

 

茶目っ気たっぷりの顔でそんなことを言う。

リューの立場からすれば図々しい願い、しかしそれを嫌に感じさせないのはリューの特技のようなものなのだろうか?

 

「分かった。アルリアに治療してもらってこい、リュー」

「仰せのままに我が君」

 

リューは気取った感じで天族の礼をしてからスタスタとアルリアの方に駈けていく。

 

「リューか……」

 

ウルは満天の星空を眺めながら呟く。

ウルがリューを完全に受け入れられていないのは出会い方が悪かったからだ。

だが、それも時間が解決するのだろう。

リューからウルに向けられる感情は純粋な好意だ。これまで悪意ばかり向けられてきたウルには簡単に手放せない存在。

相手の思っていることが読め、真偽を判断できるからこその結果だ。

 

ウルはウィズたちと楽しそうに話しているリューを見つめながら何となく思い付く。

 

(こんな世界があったらな……)

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