宝石をちりばめたように星々が煌めいている澄んだ夜空、ウルは隣で寝転びながらその景色を眺めているウィズとウィラに倣い横になる。
柔らかい
もっとも半神化の進んだウルには暑さ寒さなどは鈍くしか感じられないのだが、それでも少しは心が落ち着く。
「ふふ、このように夜空を眺めることでさえ特別に感じるものなんじゃのう」
ウルの近くに生えた木にもたれかかって夜空を見ているリューは穏やかな笑みを浮かべる。
生涯寄り添うと決めた相手と共に過ごせることが嬉しいといった様子だ。
「なあ、それはどういう仕組みなんだ?」
ウルはチラッとリューを見て不思議に思っていたことを聞いてみる。
アルリアに治療してもらってある程度回復したリューは自分の方がブロウ達よりも速く翔べるから、ここから先は自分がウル達を運ぶと言い出した。
本来ならば、まだ信用しきっていないリューの背に乗るのは避けたったが、禁域全体を吹き飛ばすほどの魔法を使ってしまったため、時間をかければウルの存在に世界が気付く可能性があるのだ。
そこでウルはブロウ達からリューに乗り換えることに決めた。
つまり、今ウルが寝そべっている場所は大地ではなく、リューの背中なのだ。
しかし、ウルの前には少女の姿をしたリューがいる。
「これは体の一部を切り離してる……蜥蜴の尻尾みたいなもんじゃ」
「イー達の"分裂"みたいなもんなのか?」
イー達も己を切り分けて分身体を作ることが出来る。それと同じ原理かと思ったが、リューは少し違うと言う。
「"分裂"は1度切り離せば元に戻してからでないと能力値は変えられん。しかし儂の場合はあくまで体の一部、自由に能力値を変えられる。似て非なるものじゃよ」
「ならこれも体の一部なのか?」
竜状態のリューの背中には草花や木らしき物が生えている。ウルが毛布代わりにしている柔草もその一部だ。
「どうなんじゃろうな?元々は儂が移動していないときに体についたものじゃが、儂が姿を変えれば一緒に変化するから体の一部になってるのかの?」
どうやらこの事に関しては本人もよく分かっていないらしい。
ウルはふーん、と言いながらリューの背中を見渡す。
竜状態のリューの大きさはブロウ達より遥かに大きく、ウル達が一列に並んで寝てもまだ余裕があるサイズだ。そして背中の中央から円状に草木が絨毯のように生えている。
「一応この植物は儂の意思で量を調節できるし、種類なんかも選べるようじゃな」
リューはさっきから色々な植物を出したり引っ込めたりを繰り返している。
「これってモーリュじゃない!?」
「モーリュじゃが、それがどうかしたのか?」
シャルロットはリューが咲かせて小さな花草を見て興奮したように声をあげ、リューは何を興奮しているのかと不思議そうにする。
「モーリュはもう絶滅したはずだよ」
モーリュは貴重な薬草で万能薬になるのだが、副作用として服用した者にかかっている護身などの魔法を打ち消すのだ。
なので剣や矢にモーリュを塗り、戦などに使われることが多かった。
そして前の魔族との戦争の際に大量に使用したため絶滅したとされているのだ。
「そういえばそうじゃったな。すっかり忘れとったわ」
リューは1度記憶したことは全て思い出すことが出来るが、興味のないことは意図的に忘れるようにしている。
この機会に色々と思い出してみると、自分の体にはかなりの数の絶滅した植物や鉱石が付着していた。
(ふむ、いい機会じゃしこれらの使い方でも伝授しておくかの)
今まで話せる相手が居なかったためか、リューはちょくちょく知識を披露したり、解説をしたりする。
「そういえば、リーネは
リューは一輪の花を取り出したところでふと思い出したようにリーネに訊ねる。
「呪術?」
聞きなれない言葉にシャルロットが首をかしげる。リーネも同様だ。
「その様子じゃと使うたことはないようじゃな。ちょうどこのフルッチで簡単な呪術を使えるから儂の言う通りにしてみい」
そう言ってリューは群青色をした花の蕾を手折る。
「この花は周囲にある空気を変化させて猛毒にして蕾の中に貯めるんじゃが、不思議なことに食っても毒が体に回ることはない。リーネよこいつを食ってみよ」
そう言ってリーネに花を手渡す。リーネは少し躊躇った後、えいやとフルッチを口に入れ、飲み込む。
「これでなにか起こるの?」
「いや、それだけではまだじゃ。そうじゃの……あそこにおる鳥に向けて食った毒を見えないパイプを使って送り込むイメージを持ってみよ」
リーネはリューの言う通りに体の中にある毒を送り込もうと念じる。
すると野鳥は急にバタバタともがき、苦しそうに落ちていく。
「今のリーネがやったの?」
「そうじゃ、呪術とは体に溜め込んだ毒や病などを魔法のように発動させるものなんじよ。」
「体に溜め込むって危険じゃないの?」
「もちろん体に取り込むだけでなく、特別な儀式をすることで体に蓄えずとも呪術を発動させたり、物に
シャルロットがリーネを心配して聞くと、リューは問題ないと説明を続けられる。
「この呪術は発動すればいかなるものも防ぐことができぬ上、事前に準備しておけば我が王のようにノータイムで発動できる」
「それじゃあリーネはリーネをこんな風にしたやつにも勝てるの?」
リーネを高位化させるほどの力を持った敵でも殺せるのか?とリーネは暗い影を落とした顔で問いかける。
「残念じゃが今のお主では無理じゃな。この程度の呪術で殺せる相手ならば戦っても勝てる。真の呪術とは発動手順もコントロールも難しく、失敗すれば自身はもちろん国を2、3は滅ぼし、数百年と呪われた大地を作り出すものじゃ」
今のリーネにはそれを操る力はないとハッキリと言い切る。
「じゃあどうすればうまく呪術が使えるようになるの!?」
「知識は儂が教えてやれる。じゃが扱いきれるかはオヌシの才次第じゃな」
「じゃあ今すぐにでも教えて」
「良いぞ」
「やったー」
リーネは嬉しそうに呪術の材料になるフルッチを摘みに駆けていく。
「質問があります。先ほどの発言ではあなたが呪術を使えないように受け取れますが」
いつのまにか現れて、話を聞いていたイーは質問する。
「さよう。儂には呪術は使えんよ」
「知識はあるのにですか」
「うむ、呪術を使うには
じゃからオヌシにも我が王にも使えんよ、とイーが考えていたことを見抜き先に結論を言う。
呪術は防ぐ術がないのなら強力な武器になる。万が一リューが裏切ったときや、まだ能力値が低いリリス達が強い敵と対峙したときなどを考えると覚えることが出来るなら覚えておきたい。
そう考えていたイーはリューの答えを聞いて少し残念そうな顔をする。
一方リューはそんなイーとウルを意味ありげに交互に見つめる。
「どうした?」
「なに、その娘がお前様に出会うとは縁とは面白いものじゃと思うただけじゃよ」
大したことではないのか、それ以上はなにも言わずにリーネに呪術の基礎を教え出す。
ウル達も特にそれ以上聞くこともなく、思い思いに過ごす。
ウルは再び星を眺め、リーネは初めての学問に目を回し、それをリューがさらに混乱させ……
ウル達が置かれている現状とはかけ離れた平和な時間が過ぎていく。
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「ウル様、新しい装備が整いました」
いつの間にか寝ていたウルはアルリアの声に起こされる。
辺りを見ればうっすらと太陽が上っていることからまだそんなに時間は経っていないらしい。
ウルはまだ完全に仲間だと認めていないリューが側に要るのに寝てしまっていたことに驚きを覚えつつも起き上がる。
リューとの戦闘で新調したばかりの武器を2つも失ってウルはアルリアに新しい武器を作らせていたのだ。
新しい大剣は前のシンプルな造りの大剣と違ってかなり仰々しい。
半刃で軽く反った刀身には鉤爪のような返しが付いておりノコギリのように切れ味を上げている。
試しに素振りをしてみる。
重さもウルが扱うのに最適な重さで、体と一体になったような感覚になる。
「どうじゃ儂の使い心地は?悪くないじゃろう」
リーネが呪術のコントロールを練習をさせているリューは嬉しそうに笑いながら新調した大剣を持つウルを見つめる。
新しい大剣はリューの爪で作られている。いわばリューの分身でもあるのだ。
それがウルに使われている、リューが上機嫌になるのも当然だ。
「流石にそこまで儂から離れると儂の力は殆ど及ばんが、多少は力になっているはずじゃ」
リューの言う通りこの大剣は脈打つように胎動し、高熱を持っている。
「儂はまだ眷族としてお前様の力になれんからの、今はこれで勘弁しとくれ」
リューの能力値はウルの能力値よりも高いため眷族にしようとしても出来ない。かといって1度でも疑似眷族の契約を結ぶと普通の眷族契約は結べなくなる。
そんなわけでリューとはなんの契約も結んでいないのだ。
それがリューにとっては負い目に感じているのだろう。
そんなリューの考えを読み取りながらウルは新しい相棒を部屋にしまう。
「リュー、俺の事に気付いている奴らはいるか?」
ウルは話を変え、現実的な話をする。
「まだおらんが、何人かの高位天族や人族の調査隊が調べ始めとるの」
天族はそろって血の気の多い種族だ。長いこと敵となる者と戦っていない者も多い。そんなやつらがあれほどの威力の魔法を無視するはずがないのだ。
「そう簡単にお前様の存在にたどり着くやつはおらんが、人族領はしばらく荒れるの」
自分がそのきっかけを作った張本人であるのに、リューは他人事のように言う。
「ならリーネを闇森族にしたやつの居場所はわかるのか?」
ウルは少し頭を押さえながら次の情報を聞き出す。
「ここ数万年は先の山に引きこもっておったから森族領の情報はないんじゃよ。今関知できる範囲には数名高位天族がおるが、誰がやったかはまだ分からん」
「なら地道にしらみ潰しにするしかないな」
「お前様がそのつもりならば、儂も全力で手伝うぞ」
リューはそう言って々情報を集めつつ、リーネには呪術を教える。
ウルはリューに教えられているリーネの姿を見て、どれだけ時間がかかろうとも成し遂げると決意を新たにする。