遊ぶ
一応は他種族との交易もあるにはあるのだが、基本的には排他的で鎖国気味な大陸だ。
森族は自然を尊び、共に暮らすことに誇りを持っている。だから森族領の自然はほとんど手が加えられていない。
そんな自然豊かな大陸、アインワイドの最大の特徴と言えば、1本の木の上に大陸が成り立っているところだろう。
「わ………凄い!」
シャルロットは大陸の中央にそびえ立つ巨大な大樹を見て歓声をあげる。
その大樹の幹は太く逞しく、枝は芸術のような繊細さを感じさせる。
枝先に青々と繁る葉は大陸全体を覆い隠すように広がっており、一層大樹を壮大に見せている。
「綺麗!」
葉は翠色の水晶のようで太陽の光を遮ることなく、光を優しいエメラルドクリーンへと色を変えて大陸中に届けている。
ウィラはその光景に目を輝かせ、食い入るように見つめる。
「凄い迫力ですね」
ウィズは樹が海から吸い上げた水を幹からまるで大瀑布のように放出している光景に圧倒される。
「どうじゃ樹齢一億を越える世界樹は」
「この大きなのが世界樹なんですか!?」
リリスはリューの言葉に驚く。
世界樹は厄を祓い浄めをもたらす神聖な木として人族領にもいくつか存在している。
その価値は1メートルの原木だけで白金版が5枚分必要と言われているほどだ。
それがこんなサイズで存在しているなら誰でも驚くだろう。
「この世に存在する世界樹は全てこの大樹から生まれたものなんです」
リューやイー達と同じ博識組のジブルはそう説明する。
「リーネよ、やはり辛いか?」
それぞれが絶景に見とれる中、ただ一人だけ複雑そうな顔をしている者がいた。
それはこの地に住まう森族によって迫害され続けてきたリーネだ。
森族領に来るまで呪術の師をしていたリューがリーネには声をかける。
しかし、リーネはううん、と首を横に振る。
「確かに嫌な気持ちにはなるけど……よく分かんなよ」
恐怖も確かにあるのだろうが、殺意や敵意などの様々な感情が入り雑じり、気持ちが整理できない様子だ。
「仕方ないの、このまま行ってもよい結果にはならんじゃろう。どのみち橋が出来るまでに後1週間はかかる。ここらで少し休みながら気持ちに整理をつけい」
リューはそう言って徐々に高度を下げていく。
「このまま森族領には行かないんですか?いえ、リーネちゃんの気持ちの整理が出来るまで待つのは賛成なんですが」
「見ての通り森族領はほとんどが森に覆われておって上からでは近付けん。竜が無理に降り立てば騒ぎになるしの」
森族領には地面が見えている場所などな海岸沿いの砂浜くらいしかない。確かにこれでは簡単に降りれないだろう。
それに、ウルなどのデタラメな力の持ち主ばかり見ていると忘れそうになるが、竜はどの種族にとっても最大の脅威と言っていい。
そんなものがうろつけば直ぐにバレてしまう。
「でもそれならどうやって森族領に行くんですか?」
比較的近いとはいえ、流石に泳いでいくわけにもいかないだろう。
「それは心配いらん。人族領と森族領は数年に1度陸続きになるんじゃ。それが一週間後じゃよ」
考えてみればリーネも森族領から人族領に移ってきたのだ。何らかの交通手段は確保されているはずだ。
「オヌシらしっかり儂に掴まっておれよ」
そう言ってリューは着陸の準備に入る。
リ全員がちゃんと捕まったことを確認すると、"
世界が灰色に変わり、時間の流れが緩やかになる。
着陸できるとは言え、人族領でも竜状態のリューを見られるわけにはいかない。
だからリューは他人が認識できない程度まで時間を遅めて降りることにしたのだ。
"歪刻"の良いところは"加速"と違って移動スピードは変わらないため、衝撃波などが生じない点だ。
リューはそのままゆっくりと着地し、ウル達が背から降りた後に少女の姿に戻る。
「さて、橋が出来るまで時間があるが、何をするべきかのう?」
「どういう意味だ?」
ウルはリューの言葉の真意が分からない。
ここに来たのは人族領と森族領が繋がるのを待つためと、リーネの気持ちの整理をするためで、それ以上でもそれ以下でもない。
「まぁ、無為に時間を過ごすのもよいがの。この際じゃ色々と経験しておくべきじゃろ?」
「経験……ですか?」
「うむ。今ここにおる者達は世界の事を知らんものが多いじゃろ……いや、ある意味では知りすぎているのかもしれんが」
リューはウルやリーネ、ウィラやウィズを見てそんなことを言う。
この四人は世界から迫害しか受けていない。世界はその一面だけで出来ているわけではないが、間違いなくその様な負の一面を持っているのも事実だ。
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さんさんと降り注ぐ眩しい太陽の光。その光を受けて星屑の様に煌めく純白の砂丘。
空は雲一つない快晴……ではないが、青い空をわずかな白い雲が彩っているのもそれはそれで悪くない。
そして底抜けに澄んだエメラルドブルーの海。
常夏の島を彷彿とさせる大きな実がなった木々がそこらに生えて目の保養になっている。
ここは誰もがリゾートと思うほど美しい海辺。しかし、ここにいる者はなく、ただ空より舞い降りた10人の人影があるだけだ。
「わぁぁぁ!!お水がしょっぱい!!」
「あははは!こんなに広い湖見たことないよ!」
人族領は海に面していない土地もかなりあり、ウィズとウィラは初めて見る海に大はしゃぎで水遊びを始める。
「二人ともあんまり遠くに行っちゃダメだよ」
「「はーい」」
沖へ出すぎないようにシャルロットが注意すると、二人は元気よく返事をする。
シャルロットは「大丈夫かな?」と少し不安に思いつつも手元にある鶏肉を串に刺して味付けをしていく。
リリスは野菜を食べやすいサイズに切っている。
イーとスーは浜辺でプカプカと無表情でクラゲのように浮かんで波に揺られ、シーはジブルと木陰でチェスを指している。
この光景を見たものがいれば、誰もが楽しそうにバカンスをしているものだと思うだろう。
「これに意味はあるのか?」
「意味などはない。強いて言えばお前様の判断材料が増えるくらいじゃの」
ウルは今、リューと共にボードゲームで遊んでいた。
人族内では一番ポピュラーなゲームで、不確定要素まで組み込まれたウォーボードゲームだ。
魔法や戦略なども組み込まれ、子供達はこのゲームで戦争の知恵を身に付けるのだ。
「お前様は戦略を知らん。ほれ、これでお前様の敗けじゃ」
リューはそう言ってウルの陣営に駒を進めてくる。ウルの負けだ。
「今までは己の強さだけで戦略さえも覆してきたのだろう」
そう言ってリューは駒を集めて並べ直す。
既にリューと10回ほど対戦しているのだが、ウルはリューの陣営を半壊させることさえ出来ていない。
「戦略など必要ないのは儂も同じじゃが、知っているのと知らんのでは出来ることの差は歴然じゃ」
駒を動かし、ウルの陣営に攻め込むリューの陣営。ウルは仕方なく駒を動かしてりゅーに付き合う。
別に戦略など知りたいわけではない。
少し前にリューは橋が出来るまではいつもと違い遊びながら時間を過ごすのはどうだと提案して、ウル以外の仲間は少し考えた後、皆その提案に賛成したのだ。
仲間がその気なら無粋な真似をせず、ウルも遊びながら時間を過ごす事にした。
しかし、今まで遊ぶということをしたことがないウルにはこれが楽しいのかが分からなかった。
「お前様はこの世界をどう思っておる?」
相変わらず駒を動かしながらリューが訊いてくる。
ウルはなにも答えない。
「お前様は何を望んでいる?」
またウルは答えない。
「最後の質問じゃ。お前様は一つの答えにしがみついてはおらんか?」
その言葉にウルはピクリと眉をつり上げる。
「儂はお前様の一族の事はよう知っておる。ラグナルの一族がどの様な一族かな」
「お前はなにがしたいんだ?」
ようやく口を開いたウルの声は冷たく、拒絶の色が色濃く出ていた。
ウルが心を開いている者であっても決して触れようとはしないウルの深淵。そこにリューは平然と入り込んできている。
それは下手をすればウルと敵対しかねない行為。しかしそれでもリューは踏み込んでくる。
「儂はお前様に成長してほしいんじゃよ。今のお前様は子供同然。お前様がどの様な決断を最終的に下すかは分からん。じゃが、今のお前様のままで出した答えは、お前様自身も納得できるものではないじゃろう」
今のウルの考えは、思考停止と言っていい。そうしなければ自分を守れなかったのだろう。
ウルが世界を滅ぼすか、あるいは救うか。その事から目を逸らさず、真剣に考えてほしい。
「別に難しく考えることはない。お前様がしたいと思ったことをすればよいのじゃ。お前様にはその権利があるのじゃからな」
優しく、我が子を諭す母親のように言われてウルは押し黙る。
リューが言っていることは全て事実だ。
「最後に一つだけ言わせてくれ。お前様は誰よりも───」
「ウルさーんお肉焼けましたよ!一緒に食べましょ」
最後の言葉はリリスの呼び声に掻き消されて聞き取れなかった。
リューはやれやれと肩を竦めて立ち上がる。どうやら言い直す気はないようだ。
ウルもあえて聞き直すことはなく、白い砂浜に足跡をつけてリリスの元へ歩いていく。
ウルがやって来ると皆は炭で焼かれている肉を取り、タレに付けて食べる。
一般的にはBBQと言われている調理方法だ。
これの特徴は初めから取り分けるのではなく、できた料理を思い思いに取っていくことだ。
考えてみればウル達は一つの料理を皆で取り合うといった事はしたことがない。
一つの料理を皆で取り合う。これはよほど心を許したものでないとできない行為だ。
皆が皆、この行為に心を踊らせ、楽しむ。
「こうやって心を通わす習慣も世界には有るのじゃよ」
リューの呟きは風にさらわれて海へと消えて行く。
だが、ウルだけはハッキリとその言葉を聞いた。