「んんっ……」
リューは微かに呻き声をあげて目を覚ます。
全身はウルの精にまみれ、リューの肌を白く染め上げていた。
それを指で掬い取り、口へ運ぶ。
「ちゅぷ、ぢゅる、ぢゅるる」
ずっと欲しかったウルの精液を一滴残らず味わう。
腹が膨れるほど精を出されたが、恐らく子は授かっていないだろう。
そもそもリューはウルの破壊衝動の捌け口になっただけだ、ウルにその気がないのに妊娠などするわけがない。
「しかし、お前様の気もそれなりには晴れたじゃろう」
アルリアの力で無理に破壊衝動を解放した弊害だろう、隣でまだ気を失っているウルに膝枕をしながらリューは呟く。
ウルの寝顔は穏やかで、陰鬱な感情はだいぶ発散されたように思える。
(4分の3、いや半分ほどか……儂ひとりではここらが限界かの)
さっきの交わりでリューは本当に死にかけていた。
それは肉体的よりも精神的な意味合いが大きい。
ウルが破壊衝動を行動で解消しようとしたら少なくとも大陸ひとつは消えるだろう。
それほどの膨大な感情の受け皿になったのだ、本来なら脳が焼け切れ、廃人になっている。
「しかし、お前様の雄々しい振る舞い……惚れ直したぞ」
雄とは雌を支配する生き物だ。
弱い雌を支配し子を孕ませる、それが本来の理。
その理に従って子孫を残してきた世界竜にとってウルとはまさに待ち望んだ雄なのだ。
リューは頬を赤く染めながらウルの額に口付けをする。
「儂はお前様のためならなんだってするぞ」
そこまで言ってリューはかつての友の口癖を思い出す。
今していることは唯一の友だった彼女との約束とは反しているかもしれない。
その事にリューは少し罪悪感を覚える。
「だが、儂は我が主様に着いていくと決めたんじゃ」
リューは気持ちを切り替え、ウルの眠りを妨げないように回復の魔法をかける。
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ウル達がアインワイドに入ってからかなりの日にちが過ぎたが、リーネの生まれた村はまだ見つけられていない。
それはウル達が他者と接触しないように動いていると言うこともあるが、一番の理由は闇森族の情報など噂話ですら話されることがないことだろう。
いくらリューが大陸全ての情報を知れるといっても、話題にさえならなければ知りようがないのだ。
だが全く当てがないわけでもない。
現時点で森族領には5名の高位天族が居座っている。
その内の誰かがリーネを闇森族にした犯人だ。
「もしかしたら森族領を出てる可能性はないですか?」
「天族の習慣的に一度住み着いた場所から数年で離れることはまずないですね」
その5名の内に本当に犯人がいるのか分からないのでリリスが心配するが、同じ天族であるジブルが間違いないと断言する。
「とは言え、その内の誰かを見分けるのは困難で困難ではないでしょうか?」
「そうですね……いっそのこと一人づつ部屋に押し込んで始末するのはどうでしょう」
イーが思案顔でそう言うと、スーが案を出してくる。
ウルの実力なら高位天族だろうと容易に倒せるが、それほどの力を使えば痕跡が残ってしまう。
スーが言った通りそれが一番ウルの存在を気付かせない方法なのは確かだ。
しかし、
「それでは初めの一名を取り込んだ時点で他の四名に警戒されます」
これはシーが懸念するように初めの一人にしか使えない作戦なのだ。
高位天族となれば回りの敵など気にしないが、同じ高位天族が側にいるとなると話は変わってくる。
お互いがお互いを警戒し、動向をチェックしている。
それが何の前触れもなく消えたとあっては警戒しないはずがない。
「5人同時に部屋に放り込めたら良いんだけどね」
「5人を同時にここに呼び出すことならできるぞ」
「できるの!?」
シャルロットはダメ元で言ったのにあっさりとできると言われて驚く。
「じゃが、それも多少のリスクを犯すことになるぞ」
リューが考えている方法は、上手く隠しているリューの存在感を解放して挑発することで全ての高位天族を一ヶ所に集めるといったものだ。
しかし、リューは一部の天族とは面識があり、その天族たちにリューの動向を探られる切っ掛けになりかねないのだ。
「どれくらいの確率だ?」
「20%といったところじゃな」
20%、確率論で言えばそこまで高くないように感じるが、それは今までで一番危ない賭けになる。
「構わない。やれ」
ウルは少し考えるように目を閉じていたが、すぐにリューに命じる。
その命令にリューとアルリアを除く仲間達が驚きを露にする。
今までで慎重に行動してきたウルにしては大胆な決断だからだ。
ウル自身もこの判断をしたのが不思議だった。
だが、別に止めるつもりにはならなかった。
「では、御心のままに」
リューは畏まった風にウルの足元に跪いてから前にウルと戦った竜の姿へと変化する。
以前よりも力を押さえているためかウルは気圧されることなかった。
しかし、それでもウルと同等程度の力を持っているのだからリューの恐ろしさがかえって引き立つ。
「WWWOOOOOOOOOOOO」
リューは森族領全体に響き渡るような遠吠えで高位天族を挑発する。
そして、その成果はすぐに現れた。
リューの目の前に5体の高位天族が転移してきたのだ。
その目は好戦的な色を帯びていて、今にも暴れだしそうだった。
だが、天族達が攻撃に転じる一瞬の間にリューはそいつらを部屋に放り込む。
「ほい、全員放り込んだぞ」
リューはいつもの人形に戻りながら得意顔で言ってくる。
ウルはよくやったとだけ言って部屋に移動する。
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部屋に入ると5名の高位天族が少し毒気を抜かれた様子で思い思いにくつろいでいた。
高位天族にとって魔法で隔離させる事など珍しくないようだ。
「アンタがウチ等を呼んだんかいな?」
高位天族の一人がウルの存在に気付きフレンドリーに話しかけてくる。
しかし、その目はいつでも襲いかかる気でいる目だ。
それに伴って他の高位天族達も臨戦態勢をとる。
(33970、40280、34890、45500、37480)
ウルは瞬時に"神眼"で高位天族達の能力値を読み取る。
単体の力はウルより下だが、流石にこの数の高位天族を相手にするのは素では厳しいだろう。
「お前らは黙って俺の質問に答えればいい」
ウルは強化魔法を発動して命令に近い口調で言い放つ。
高位天族達は一瞬で倍の力を持ったウルに瞠目するが、ウルの物言いが頭に来たようで、一斉に襲いかかってくる。
ウルの事を舐めているのか、そんな余裕などないと思ったのか、高位天族達は魔法を使わず物理攻撃で攻撃してくる。
だが、ウルは先頭にいた高位天族の攻撃真正面から殴り返す。
拳と拳がぶつかり、拮抗すらせず相手の腕がぐちゃぐちゃに潰れる。
ウルは一人目を殴り付け後方に吹き飛ばすと、次に襲いかかってきた高位天族の首を掴み、地面に叩き付ける。
内臓という内臓が潰れたのか盛大に吐血するが、ウルは興味がないように次の処理に入る。
次に襲いかかってきた高位天族は胴に回し蹴りを食らわせる。
その衝撃で心臓の近くまで肉が抉れ、ウルの体に鮮やかな血化粧を施していく。
その次の高位天族は前の3人が返り討ちにあったのを見て攻撃の手を止め、ウルから距離を取ろうとする。
しかし、そんな程度でウルの攻撃から逃れられるわけもなく、あっさりと距離を詰められ鳩尾を強打される。
そのダメージは全身を駆け巡り、背中側の肉が弾け飛ぶ。
そして最後の高位天族は完全に戦意を失い、棒立ちになっている。
ウルはゆっくりと近付き、顔面を殴り付ける。
時間にして1分もかからない内にウルは5人の高位天族を地に這いずらせる。
「もう一度言うぞ、お前達は俺の質問に答えればいい」
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森族の村にも勢力はある。
小さな村は、大きな村に呑み込まれ、さらに大きな村に呑み込まれる。
そうしてできたエルフ最大の国がベルクだ。
ベルクは世界樹の根本に都市を構え、森族の代表として君臨し始めていた。
そんなベルクを統治する高位森族の王の元に一人の森族が跪いていた。
「その話は真か?」
「はい。その村には人族だけでなく、魔族の血を引くものさえいます」
「なんと汚らわしい!そんな村がアインワイド森族領にあるとは……」
「いかがいたしますか?」
「そんな村は即刻滅ぼせ!!だが、その村におる高位森族と未来を見通す子供だけ生け捕りにして来い」
「かしこまりました」
部下はそう言って部屋を出て、王だけが残される。
「やはり、この神聖なアインワイドにも癌が侵食してきているのか……」
言わずとも知れた魔族共はもちろん、ただ数か多いと言うだけで環境を破壊するしか脳がない猿人族や、自分達が神だと信じて傍若無人に振る舞う天族共など、この世界を蝕む種族ばかりだ。
やはり、自然と共存できる森族が低俗な種族を支配し、この世界を守らなければならない。
既にベルクには30を越える高位森族が仕えている。
そこに未来を見通す力を持った森族が加われば、他種族を排除する事など造作もない。
その行動が世界を滅ぼす一端を担うとも知らずに、王は思考を巡らせる。