特訓
恐ろしく強い相手だった、手も足も出ず一方的に嬲られるだけだった。母を連れ必死に逃げるがすぐに追いつかれてしまう。そして避けられない死神の魔の手が迫る。死を覚悟した時横から突き飛ばされ浮遊感に襲われる。母が自分を谷に突き落としたのだと理解するのに少しかかる。
視界に映るのはどんどん離れていく母の姿、そしてその母を楽しそうに引き裂き切り刻む魔族の姿。
———絶対許さない、殺す必ず殺す
母を殺した魔族に呪詛を吐く、同時に大切な存在を守れなかった自分の弱さを呪いながら谷底に落ちていく。
ー - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
目が覚めると全身が汗で濡れていた。息が荒く鼓動が異常に早い。しばらくしてようやく落ち着いてくる。久しく見ていなかった悪夢、母の魂があの魔族に囚われていると聞かされたためだろう。隣を見るとリリスが気持ちよさそうに眠っている。その寝顔を見て今度こそは守り抜こうと決める。
もう二度と大切な存在を失うのはごめんだ。そのためにはウルもリリスも強くなる必要になる。しかしリリスを強くするためには彼女を抱く必要がある。アルリアはともかくリリスはまだ幼い、いくら半神化しているとはいえ壊れてしまう可能性も有る。
きっとリリスはウルになら壊されてもいいと言うのだろうがやはり抵抗がある。二度の喪失それがウルを必要以上に臆病にしてしまっているのだ。
どちらにしろ当面はウルがリリスを守る必要がある、ならば少しでも力を付けるべきだろう。
ウルは2本の短剣を手にする。愛刀などではない殺した敵から奪ったものだ。そもそもウルは武器に拘らない、ウルにとって武器とは敵を殺す為の道具でしかない。もっとも無茶な使い方をしてすぐダメにしてしまうのも理由の一つだが。
(とは言えこれからは敵を殺して武器を奪うこともできないし大切に使わないと)
ウルがウル・ラグナルだとバレてはまた世界から敵意を向けられかねない、そうなればウルは世界を救おうとは思わないだろう。それでは意味が無いとふたりに言われた。
ウル・ラグナルだとわかると殺しにくる世界など滅んでしまえと思うが、そのことによって母を助け出しにくくなるのは避けたい、何よりリリスに危険に晒されるのは絶対に避けたい。
そんな事を考えながら元居た世界に戻る。あらかじめアルリアからこの空間と元の世界を行き来できるようにしてもらっていた。
元居たの世界に戻ると夜明け前で薄暗い。適当に歩いているとギャアギャアと耳障りな鳴き声と共に毛むくじゃらの小人が姿を現した、コボルトだ。
コボルトは棍棒の様な物を振り回しながら襲い掛かってくる。神眼を使って能力値を見てみると130程だ。正直攻撃を食らっても問題ないが、あえて短剣で受け流す。攻撃を外されたことが気に入らないのかさらにギャアギャアと喚き突っ込んでくるが全て受け流す。コボルトはバランスを崩しウルから離れたタイミングで剣を振り抜く。もちろん剣が届くわけないが、太刀筋の延長線上に炎を飛ばすイメージをする。
イメージ通り炎を飛ばすことはできたが、威力が高すぎてコボルトを消し炭にしただけではなく辺り一帯まで燃やしてしまう。
昨日の訓練で時間をかけてじっくりイメージすると魔法を完璧に制御できるようになったが、時間が短かったり何かをしながらだとうまく制御できない。これでは無詠唱魔法の意味が無い。その後も何度か挑戦してみるがやはり結果は変わらない。最後は自分の短剣をドロドロに溶かしてしまう。
大切にしようとしたそばからこれだ。一旦訓練は中止して部屋に戻る。
部屋に戻るとアルリアがタオルを差し出してくる。独りで訓練していることに気付いていたのだろう。悪夢を見たことや炎を撃ちまくっていたため体は汗で塗れだ、一言礼を言ってからそれを受け取る。
アルリアはウルがタオルを受け取ると何かを作り始める。
「何を造っているんだ?」
「アイテムを保管する空間に繋がるアイテムボックスです」
聞くと昨日造った食材を保管する空間以外に武器や防具、アイテムなどそれぞれ保管できる空間を造ったらしいのだが、いちいち保管している空間に行くのは手間なのでそれぞれの空間に繋がり念じるだけで目的の物を取り出せるようにした物らしい。
見た目はただのポーチだ、試しに昨日の食材を取り出そうとしてみる。すると明らかにポーチより大きな肉が取り出せる。確かに便利だ。
「なあアル、俺に武器を作ってくれないか」
ボロボロになった剣を見せて聞いてみるとアルリアは素材さえ用意すればそれ相応の武器を作ってもいいと言ってくれた。ただしアルリアは本当にサポートに徹するつもりのようで、出来る限りに街などで入手して自分に頼りすぎないようにと釘を刺される。
話がまとまるとリリスを起こし朝食をすますと再び特訓に入る。リリスはアルリアに戦い方などを教えてもらえることになった。ウルの戦い方は独自に生み出したもので無茶な動くも多くそういう風に体ができてるウルでなければ扱えない。そもそもウル自体よく理解していないため教えることができない。
リリスのことはアルリアに任せてウルは自分のことに集中する。ウルは戦闘での能力値の上昇も異常らしいが、この辺りの魔獣はウルにとっては弱くウルは戦闘での能力値戦闘での能力値の増加はあまり期待できない。
(やっぱり強くなるためには性交するしかないのか)
未だに覚悟ができず悩んでいるといつの間にか十数体の狼型の魔獣に囲まれていた。どうやら巣に入ってしまったらい。神眼で能力値を見てみると全員300前後だ合計するとウルの能力値を超えるだろうが、例えばウルに能力値100の者が40人束になってかかってきてもウルの圧勝に終わるだろう。能力値が著しく劣る者の能力値の合計値は当てにならない。
魔獣は能力値が高ければ高いほど知性も高くなる傾向にあるらしい。ウル程の力を持っている相手に軽率に襲いかかって来る程度ではまず負けることはない。しかし巣に入ったのは自分だ、どうしたものかと考えていると奥から一回り大きな魔獣が現れる。能力値は700近く、おそらくこの群れのボスであろうそいつは明らかにウルの事を警戒しているが、ボスとしてのプライドがあるのだろうか飛びかかって来る。
ウルはそいつを掴むと地面に叩きつける。
「ぐぎゅあぁぁあああ!!!ぐぎゃっっっ!!」
殺すつもりはなかったとはいえそれなりの力で叩きつけたため苦しそうな鳴き声を上げ暴れるが、ウルに押さえつけられビクともしない。手を放してやると唸り声を上げ威嚇してきたがべたぁー、と仰向けになり降伏のポーズをする。すると周りの魔獣も一斉に地に伏せる。
ウルは詫びと魔法の特訓を兼ねて回復魔法を使ってみる。もちろん無詠唱魔法だ。魔獣の体か緑色の光に包まれうめき声も小さくなる。
効果は応急手当程度でまだまだ魔法と呼べるものではない。回復魔法は難易度が高いが使う者によっては四肢欠損クラスの怪我でも直すことができる。一方回復魔術は応急手当の効果しかなく今のウルはせいぜい回復魔術ほどの効果しか出せない。
ある程度回復してやるとウルはその場を後にする。しかしなぜか魔獣たちが付いてくる、撒こうとしても臭いを嗅いで追いかけてくる。これでは邪魔で魔法の訓練ができないので、魔法を撃って威嚇してみるがやはり驚くだけで離れようとしない。
埒が明かなくなりアルリアに相談してみる。眷属契約を結んでいると念話で話すことができる。アルリアもウルと眷属契約を結んだのと同じ状態なので話すことができる。
そのまま連れて来ても問題無いだろう、ということで一旦拠点に連れ帰る。
戻るとリリスがアルリアに弓を作ってもらったようで弓を使った戦い方を教わっていた。アルリアはリリスに伝えてなかった様でリリスはウルの方を見て青くなる。まあ、能力値300前後の魔獣を十数体と700近い奴をいきなり連れてきたらそうなるだろう。
取り敢えず状況を説明して落ち着かせるがやはり怖いようでウルの手を握る。怖がらせている魔獣たちは大人しく座っている。
「どうやらウル様を新しい群れのリーダーだと思ってるようです」
アルリアはしばらく魔獣たちと向き合った後そういってくる。
「こいつらどうしたらいいと思う?」
「リリの護衛や弱い魔獣の追い込み、食料や素材集め、戦闘の特訓相手などさせるのがいいと思います。ウル様が指示を出せばそれくらいできる知性は有りますし」
「こいつら俺の言っている意味が分からないだろ」
さっきも付いてくるなと言っても理解できていない様子だった。するとアルリアがキスをしてくる。アルリアから何かが入ってくる感じがする。
「何をしたんだ?」
「ウル様に交信のスキルをお渡ししました」
言われて確認してみるとスキルが1つ増えていた。
・交信
あらゆる生物と意思疎通ができる
早速スキルを使って魔獣たちに命令してみる。すると魔獣たちはいくつかのグループに分かれて移動する。
しばらくするとコボルトが走って来る。能力値は130程だ、リリスは弓で頭を射抜く。その後も何度もリリスの能力値より±20程の魔獣ばかりやって来る。ちゃんとリリスの強さに合った魔獣を分かっている様子だ。
リリスの弓の腕前は3発撃って1発当たるか当たらないかくらいで、仕留めそこなった奴がリリスを襲おうとするとウルや狼たちが妨害をする。後はこれの繰り返しだ。
リリスの体力が限界になったところで一旦休憩をはさむ。
「やっぱり私弱いですよね」
コボルト一匹相手にもまともに戦えない事を気にしているのか落ち込んだ様子で呟く。別にコボルト一匹なら近接戦でも戦えないことはないのだが。遠距離の戦い方をしているのはウルの傍にいると能力値の高い魔獣とも戦うことになるため離れたところから身を守る方が重要になって来るからだ。
「でも結局それ弱いってことじゃないですか]
[リリを強くしたいならウル様がリリを抱いてあげることが絶対に必要です」
アルリアにはウルの迷いなど分かっているのだろう。
「そうすることでリリが壊れてしまったり、無理しなければならないことになったりしないか?」
心配なことを正直に打ち明ける
「そう簡単に壊れることはありません」
「私はウルさんにされる事なら嫌な事なんてありません気にしないでください」
アルリアは大丈夫だと安心させるように、リリスは少し怒った様子で言う。
「どうしても心配なら能力値を少しでも早く上げる方法もあります。リリの忠誠度を上げることやウル様の能力値が高くなれば一回の性交で増える数値も増えます。もし滅茶苦茶にしたくなったら私を使っていただいて構いませんから」
「アル様さりげなくアピールしないでください」
少し茶化してはいるがふたりの目は真剣だ、本気で思っているのだろう。ウルは今度こそ覚悟を決める。
「分かった」
それだけ言うとウルは自分の特訓に入る。リリスを抱くことへの不安は無くなったが負担はできるだけ減らすべきだろう。
配下の魔獣にできるだけ強い魔獣を集めさす。集まって来た魔獣を全て魔法で倒す。やはり威力が大きすぎる跡形もなく消し飛ばしてしまう。
何度も繰り返す内に短い時間でも思い通りの威力を抑えることはできるようになってきたが、まだ細かなコントロールをしようとすると威力が高くなる。
結局今日は完璧にコントロールすることはできなかったが、これで戦闘中にも魔法を撃てるようになっただけましだ。
リリスの方はあまり芳しくないようで落ち込んでいる。
「ウルさん今日は抱いて下さい」
ウルを見るなり切羽詰まった様子でそう言ってきた。
「あぁ、いいぞ」
すでにリリスを抱くことへの迷いはないため承諾する。
「リリそんな態度ではだめです。私たちはあくまでウル様の眷属、ウル様に奉仕する気持ちが大切です」
アルリアがリリスにダメ出しをする。別にそこまでの覚悟はいらないのだが、リリスははっとしたように言い直す。
「ご主人様、今日はいっぱい奉仕させてください」
アルリアは合格と言う様に頷きリリスに何か耳打ちする。リリスは赤くなりながらもウルの方を見てから頷く。