「アルリア、リーネに何をしたんだ?」
「私はなにもしてません。リーネがウル様の為になりたいと願った結果、眷族契約に似たスキルを発現させたようですね」
リーネの能力値はあの高位天族の能力値分だけ跳ね上がっていた。
気になって"神眼"で見てみたところ"補食"と言うスキルを手に入れていた。
能力は敗北を認めて絶対服従を誓った相手の魂を自分の物にできるといったものだ。
「魂を扱うスキルを使えるものは少ないからの」
リューはボコボコにしたキアラの首根っこを掴みながら話に入ってくる。
何でもキアラは治療されるなりリューにケンカを吹っ掛けたらしい。
あの拷問を見せられても挑んでくるとは、余程の戦闘狂なのだろう。
「それで、魂を扱うスキルってのは?」
「知っての通り儂らの力の根元は魂の大きさじゃ。本来これは他人が干渉できるものではないが、ごく稀に魂に干渉できるようになるスキルが現れるんじゃよ」
そう言ったスキルを手にしたものは例外なく歴史に名を残す程の力を得るそうだ。
「お前様が追っている魔族も似たようなスキルを持っておるぞ」
その言葉にウルは一瞬だけ眉を引くつかせるが、特にそれ以上は追求することもない。
今は自分の復讐よりリーネの復讐の方が大事なのだがら。
「あの高位天族が住みかにしていた所の近くにリーネの生まれ故郷があるのか?」
「その可能性は高いじゃろうな。とは言ってもいくつかの村が有るのからどれか見極めなければならんがな」
「あいつの事を信仰してた村なら知ってるで」
さっきまで目を回していたキアラがタイミングよく跳ね起きてそんなことを言う。
なんでもキアラとあの高位天族はケンカ仲間だったようで、自分の事を信仰している森族を使って戦争ゲームをしたりしていたらしい。
「せやから、そこの闇森族のお嬢ちゃんの故郷もそこやと思うで」
「なら案内しろ」
「分かりましたご主人様!」
元気よく返事をするキアラはどこか嬉しそうに見える。
フワフワとウルの回りを飛び回り、甘えるように背中に抱きついたりと完全にウルに懐いている。
喜怒哀楽が激しく、猫のように自由奔放。
しかし、どこか嫌になれない魅力を持っている。
ウルとしてもキアラのようなタイプは初めてなので扱いに困る。
「ご主人様は人族やろ。せやのに、何でそこまで強うなれたんや?それに、さっき会うた時より格段に強うなってるや」
リーネが奪った高位天族の能力値はそのままウルに還元されている。
キアラ達とやったときは5万程だったが、今は9万を上回りリューに切迫する程の力を得ている。
流石に誤魔化すのは無理があるだろう。
「あれ?これ聞いたら不味かった?」
キアラは周りの異変に気付いて気まずそうに頬を掻く。
それはウルの秘密に迫る質問だけに、スーやリーネをはじめとした力ある眷族達がいつでもキアラを始末できるように戦闘体勢に入ったのだ。
他の天族と繋がっている訳でもなく、ウルに隷属しているので裏切れないと分かっていても、ウルの命令があればキアラを殺す気だ。
「ちょ、ちょっと待ってえな!聞いたら不味いことならもう聞かんから」
キアラはあの高位天族のような拷問を受けると思ったのか、ウルに何とかしてもらうように拝み倒す。
「マスター、如何いたしますか?」
殺気を隠そうともしないイーはウルの指示を伺う。
しかし、実のところウルもキアラの対応に困っていた。
仲間と見なすには過ごした時間が短く、敵と見なすには好意的過ぎるのだ。
「お前様はこの天族が裏切ると考えておるのか?」
リューはキアラの肩を持つようにそんなことを言う。
キアラにウルを害する意思がないのは他でもないウルが一番よく分かっている。
しかし、それだけで仲間と認める事はできないのだ。
「キアラとやらよ、お前は主様の奴隷として生きてもいいのか?」
「勿論や!!ウチとしてはご主人様が遊んでくれるならなにも望まへんねん!」
ウルとケンカしたいと言いながらも、忠誠を誓うと宣言する。
その戦闘狂ぶりにリューは苦笑しながらも満足そうに頷いた。
「ならば話は簡単じゃ。こやつが裏切れんように奴隷契約より強い眷族契約を結んでしまえばすべて解決じゃろ」
その発現にイーはリューに対しても殺意を向ける。
ウルにとって眷族契約は仲間と認めたと同義だ。
それを結べと言っているのだから、イーが切れるのも無理はないだろう。
「この契約は本来はこういう使い方が正しいじゃろ」
眷族契約が奴隷契約や主従契約の最上位である以上、リューの言い分は間違っていない。
要はウルの考え方の問題なのだ。
「お前様はもっと自分の思うままに行動してよいのじゃよ」
最後は優しく諭すようにウルに語りかける。
リューはウルが無意識の内に自分の感情を押し殺している事に気が付いていた。
ウルはキアラの事を仲間と認めている。
しかし、その思いが弱すぎるだけなのだ。
「お前様は僅にでも思ったらそのまま実行すればよい。それで生じる問題など儂らが解決する」
ウルの配下としてウルに都合が悪いことは起こさせない。
だから、ウルは好き勝手に振る舞って良いのだとリューは言う。
傲慢な考えだが、ウルにはそれをする力と権利があるのだから。
「キアラ」
「何でしょうかご主人様」
ウルがキアラを見据えて名前を呼ぶと、キアラも真剣そうな表情で応える。
それを見た眷族達はウルが何をしようとしているのか悟り、戦闘体勢を解く。
「よろしいのです」
「ああ」
アルリアが確認を取るとウルは鷹揚に頷く。
その瞬間をもってキアラはウルの仲間と認められた。
状況がよく呑み込めずに目をぱちくりとさせているキアラに簡単に自分達の素性を明かす。
「ご主人様が何者でも構わへん。ウチはご主人様のお側におると決めたんや」
ウルの正体が魔王の子孫であると知ったときは少し驚いた表情をしたが、直ぐにいつもの能天気な顔に戻りそう言う。
元々キアラは今の天族の体制に嫌気がさしていたので別に天族の天敵である魔族に仕えてもなんとも思わないらしい。
「そもそも天界じゃラグナルの一族なんて聞かんかったしな」
だからウルの事を魔王の子孫という認識もしづらいらしい。
それを聞いてウルは疑問を抱く。
ウル自身は襲われたことはないが、ラグナルの一族は天族にも目の敵にされて攻撃されていたと聞いている。
それなのに天界ではラグナルの名は知られていないのは不自然じゃないのか。
そう思いはしたが、それはどうでもいい事なのでウルはそれ以上は考えずに、キアラと眷族契約を済ませることにした。
『俺に忠誠を誓え』
『永遠の忠誠をあなた様にお誓いします』
誓い、契約は成される。
キアラの能力値が上乗せされ、ウルの力は12万を越える。
だが、一日で8万も能力値を上げたのは流石のウルでも無茶だったようで契約が終わると気を失うように眠ってしまった。
「おはようございますご主人様」
翌朝、ウルは疲労感を引きずりながらも目を覚ますと女中の格好をしたキアラが元気よく声をかけてくる。
しかし、その体はボロボロでまたリューにケンカを吹っ掛けたようだ。
そして、そのリューはというと珍しく疲れた顔をしている。
なんでもウルが眠りに入ってからずっとキアラに挑まれ続けたらしい。
「ウチはご主人様と遊びたいんやけど」
しかも今度はウルにまで絡んでくる。
ウルはため息を吐きキアラに注意をする。
少し疲れはするが、嫌な気分にはならない。
それこそウルがキアラを仲間と認めた証拠でもあった。
「ところで、ご主人様はリュー先輩を眷族にしないんかいな?」
キアラの問いかけは至極まっとうなものだった。
リューは力も知恵もずば抜けている。
そんなリューを眷族にしたらウルの力も比類なきものになるのではないか?
そう思うのは普通だろう。
しかし、まず今までのウルの力ではリューを眷族にすることはできなかったし、キアラと違ってリューを仲間だと思えていない。
リューはウルに対して何かを隠している。
そしてそれはウルが命令しても話さないだろう。
だからウルはリューを敵とも味方とも見なせないでいるのだ。
「まぁ、儂はお前様の側に居れるだけで満足じゃ。お前様が本心から儂を仲間と認めてくれるまで待つとする」
しかし、リューはそれでも別に構わないと思っている。
ウルの性格からしたらこの関係が壊れることはない。
そして、いずれはウルもリューを認めてくれるだろう、リューがこの世でウルの事をどれほど愛しているかを。
「見えてきたで」
そうしている内に目的の場所へ着いた。
そこには突然崇めている高位天族が消えて混乱している森族達の姿があった。
「ここがリーネの生まれた国……」
キアラの案内で着いた国はリーネの記憶とは少し違うが、間違いなくここで自分は迫害を受けたのだと確信する。
その瞳に映るのは喜びではなく、確かな殺意だった。
ちょうどこの国に住んでいる森族は全て集まっているようなので、リューに結界を張らせて逃げられないようにする。
そしてリーネはゆっくりと歩を進め、フードを取る。
「みんなリーネの事を覚えてるよね」
リーネは恐怖を掻き立てるような笑みを浮かべて森族達に問いかける。
リーネの素顔を見た森族達は驚愕の表情を浮かべ固まり、誰も声を発せずにいる。
「リーネの事をさんざん苦しめて、絶対に許さないから」
それが合図となり、森族達は一斉にリーネに襲いかかってくる。
もちろん今のリーネにとってただの森族など取るに足らない存在だ。
全ての攻撃を弾き、魔法を相殺していく。
やがてリーネとの絶望的なまでの実力差を理解した森族達は、魂が抜けたようにへたり込んでいる。
だが、それで許すようなリーネではない。
リーネは部屋から高位天族を呼び寄せ、森族達に見せつける。
「うぷっ」
そのあまりにも悲惨な姿を直視することができず、吐きそうになっている者もいる。
だが、許さない。
目の前で神と崇めていた存在を踏みにじることで心を折り、一人一人に呪術をかけていく。
「やめてえ!!」
次に自分の番だと分かった森族が泣き喚きながら逃げ出そうとするが、リーネは素早く魔法を発動させ、両足を破壊する。
その怯えきった表情は、かつてのリーネと同じであった。
それでも許せない。
リーネは全員を呪術で弱らせると部屋に移動する。
ここでは死ぬ前にアルリアが回復させてくれるので、森族達はあの高位天族と同じ拷問を永遠に受け続けることになる。