「もういいのか?」
「うん!ちょっとはスッキリしたし、後はアルリアさんの作ってくれた代理に任せる」
自分を迫害した森族達を拷問していたリーネは少し満足した顔で答える。
これで気が晴れたわけではないが、多少の溜飲は下げれたようだ。
「今度はリーネがお兄ちゃんのお手伝いをする番だね」
ウルを見据えて言うリーネは既に新しい獲物を狩る目になっていた。
確かにリーネの言う通り、もうこの森族領に留まる必要は無くなった。
しかし、ウルの中にモヤモヤとした気持ちが残っている。
「ではお前様の母親を殺した魔族のところへ行くとするかの」
リューはこの場所にもう用はないといった感じで竜の姿に戻っている。
しかし、ウルはリューのその態度に違和感を覚える。
これといった確証はないが、リューは早くこの大陸から離れたがっているように感じたのだ。
「リュー、何を隠している?」
リューほどの実力があればこの世で起こる問題など些細なものだ。
つまり、それはリュー自信の問題ではない。
となれば後はウルに関する事になる。
「さて、儂がお前様に秘密にしている事は多いからの」
リューはとぼけた様子ではぐらかす。
だが、それで逆にリューの思惑に大体の察しがつく。
リューはウルに秘密を隠す気など無い。
ウルが命令すれば直ぐに秘密を話すだろう。
しかし、それを話せばウルにとって不都合な事になりかねないらしい。
「シュビィに関することか?」
さっきモヤモヤとした気持ちになったときに、ウルはこの大陸であった森族の少女の事を思い出していた。
ウルの事を知っていながらも友達になりたいと願った信託の少女。
その名を出すとリューが一瞬だけ硬直する。
それが答えと言うことだろう。
「シュビィがいた村の座標は覚えているか?」
「記録しています」
イーの返答に頷いてからウルは直ぐに転移をするように命じる。
リューは諦めたように目を閉じてため息を付き、転移の範囲内に入ってくる。
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ガラスが砕けるような音と共に木々が生い茂る森から見覚えのあるドローグの村へと景色が一転する。
だが、その村は前に来たときと違いすぎていた。
木々が焼け、灰が空中に漂い、噎せ返るほど強烈な鉄の臭い。
そして、辺りに転がる森族や人族の死体。
「これって……」
その悲惨な光景を目の当たりにして、リリスは思わず息を飲む。
キアラは気を聞かしてウィズとウィラを部屋に移動させていた。
ウルは死体全てを確認し、シュビィの死体がないか確認する。
そして、ここにシュビィの死体が無いと分かるとアルリアに向かって命令をする。
「アルリア。ここにいる者を全員治療しろ」
既にこの村に生存者が居ないことはウルも分かっている。
その上で治療しろと言っている。
その意味は口にしなくても理解できた。
ウルは村の住人を蘇生しろと言っているのだ。
それはこの世の理に反すること。
しかし、
「畏まりました」
アルリアはただ、従順に従った。
既に転生を待つだけの魂を呼び戻し、一人一人の
それこそ神にしか成し得ない反魂の奇跡。
死人は蘇り、生を成す。
「こ、ここは?」
「ここはお前たちが住んでいた村だ」
目が覚め、状況が飲み込めない者達に、ウルは優しく話しかける。
「そうだ……私達は、あいつらにいきなり襲われて……それで……あ、あぁぁぁぁ!!」
自分達の身に何が起こったかを思い出してパニックになる住人達。
「落ち着きなさい。ゆっくりと息を吸って」
それをあやすようにイーが"分裂"を使って背中をさすったり、抱き締めたりしてなだめていく。
その甲斐もあってか住人達は次第に落ち着きを取り戻していく。
「何があった?」
か後の一人が落ち着きを取り戻したのを確認してから、ウルはここで何が起こったのかを尋ねる。
「分からない。あいつらがいきなり村に押し掛けてきて、それで人族の子供たちを殺し始めたんだ……それで、私達はあいつらに戦いを挑んだが、あいつらは
「そいつらに心当たりは?」
「無い。でも、いくらあいつらが高位森族を連れてるとは言え、ここの結界を難なく解けるはずがない」
つまり、この村に裏切り者がいると言うことらしい。
そいつらは直ぐに分かった。
村長とシュビィ以外でこの場に居ないものは、この村でも上位の実力を持つ若い森族達ばかりだった。
「あいつらは陰で森族至上主義を唱えていたこともある。多分同じ森族至上主義の連中に村長の事を話したんだろう」
仲間を疑いたくはないが、それ以外に説明が付かないと涙ながらに語る。
それを見てウルは目を鋭くさせ、回りを威圧するような圧を放ち出す。
その圧はリューすらも怯ませる程のものだった。
「リュー、お前ならそいつらが何者か知っているだろ」
「ま、まてお前様よ───」
リューは何か言おうとしたが、ウルに首を掴まれて黙らされる。
今、ウルに逆らったら殺される。
強化魔法すら使っていないのにリューは悟ったのだ。
しかし、
「お前様がしようとしている事をすれば、お前様の存在を隠しきれなくなるぞ」
リューは自分が死ぬことなど怖くはない。
リューが心配しているのはウルの事だけなのだ。
自分がウルの眷族になって力を貸しているのならまだなんとかなるが、勝てないまでもウルと真正面から戦える者が居ないわけではないのだ。
それに加えてウルの仲間が狙われればウルだけでは対処しきれない可能性がある。
「それがどうした?」
「なっ!?」
リューはウルに対してその行動がどれだけ危険か懇切丁寧に説明したつもりだった。
だからこそウルから返ってきた答えに絶句せざるを得ない。
だが、ウルの瞳を見てウルの考えを理解する。
例え存在がバレようとも、自分と戦える敵が現れようとも、自分に気に入らない結果にはさせない。
自分の気に入らない結果など認めず、自分の望む結果に作り替える。
そう、その瞳は語っていた。
「ふ、ふふふ、ふふふははははははは」
ウルの考えを悟ったリューは堪えられないと言った様子で大笑いをする。
そうだ!!ウルこそ世界最強の雄になる存在。
神さえ従え、この世の理を弄ぶ。
この世界はウルの
その玩具が何をしようとウルを害することなどできる筈がない。
儂は何を心配していたのだろうと、自分が滑稽に思えてくる。
そして、何よりウルに対してそんな不敬な態度を取ってしまったことを恥じるばかりだ。
「お前様よ、この愚昧な儂を許してくだされ。儂はお前様の望む道具と成るゆえに、お前様のお側に控える名誉を下され」
リューは地面に伏せ込み、頭を地面に擦り付ける。
そして、媚びた目でそう言うとウルの足に接吻をする。
それがリューの知る限り最大の服従方法だったからだ。
「俺の質問に答えろ」
対してウルはリューの言葉には何も答えない。
しかし、リューにとってはそれで十分だった。
「この村を襲ったのはベルクと言う森族の国じゃな。こやつらは森族至上主義を唱えており、人族や魔族だけでなく、天族をも排除しようと考えておる過激な集団じゃ」
リューが語る内容に嘘をついている気配はなく、真実だけを語っているのが分かる。
「こやつらは世界に向けて戦争を起こす前に信託の能力を狙ったようじゃな」
それで母親が殺されそうになっている所を見たシュビィが本当の事を話し、二人だけ連れ去られたと言うことらしい。
「そいつらはどこにいる?」
「世界樹の根本に国を作っておるよ」
リューは世界樹を指しながら詳しい場所を地面に書いていく。
すると、その書いていた場所から草木が凄まじい勢いで成長し、この村を囲う檻のようになる。
「これは、これは。珍しい客が来たものじゃな」
リューは檻の端の方に現れた緑色に光る少女を見て少し驚いた様子を見せる。
「我が主様に何のようじゃ、世界樹よ?」
世界樹と呼ばれた少女はリューの言葉にビクッと肩を震わせつつもウルの方に近付いてくる。
近付かれて分かったが、この少女の体は半分透けており、実体を持っていない事が一目で分かる。
「偉大なる方々よ。どうか今回の事を見逃しては頂けないでしょうか?」
ウルの前に跪き、震えた声で進言してくる。
「どういう意味だ?」
「あの子達はわたくしが庇護する子達でございます。その命が無惨に奪われることを見過ごすわけにはいきません」
その言い分にウルは怒りを覚える。
「ならここの村の住人が殺されるのを何で許可した?」
「わたくしは力を持たない樹木です。この子達の死を止める方法など無かったのです」
「今のようにお前が姿を表して止めれば良かっただろ」
「わたくしは無闇に姿を晒すことのできない身なのです。しかし、今回はあなた様方が偉大な方々であられる事と、あの子達に壊滅的な被害が出る事なので、こうして姿を表した次第です」
少女はウルの怒りを買わないように細心の注意を払いながら、ウルに願う。
「断る」
「お願いでございます。あの子達にはわたくしの方で罰を与えますので、どうかご容赦ください」
世界樹にできることなど限られているが、それでも森の加護や森の実りを没収することで反省を促すことはできる。
しかし、それだけではウルの気は収まらない。
何より、そいつらがシュビィを捉えている時点でウルが動かないことはないのだ。
「偉大な方よ、どうか……」
「くどいぞ世界樹よ」
「しかし」
「黙れ。我が主様は既に心を決めておられる。それを邪魔するなら、貴様ごと滅ぼすぞ。雑草風情が」
リューの威圧に世界樹は苦悩の表情を浮かべて押し黙る。
いくら世界樹といってもその実態はまだ幼木なのだ。
未熟な精神では自分が殺されるのを怖いと思ってしまうのは無理もないことだ。
「ここで大人しく見ておるなら、お前は燃やし尽くさないでいてやろう。しかし、邪魔をするなら」
「………………分かりました」
結局、世界樹はウルの行動を黙認する事を確約した。
それは、自分が殺される事を恐れた訳でもあったが、なにより、それをするのがウルだと言うことが大きく影響していた。
「偉大な方よ、できるだけ苦しまないようにしてやってください」
それだけ言って世界樹は姿を消し、回りの檻も消滅させる。
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「世界樹様ですか……」
その一部始終を見ていたシャルロットは複雑な気持ちになる。
ハーフとは言え、森族の血を引いているシャルロットに取って世界樹とは神のようなもの。
その神が願っていることを一蹴するのは、少し心苦しいものがあった。
とは言え、今シャルロットが神のように崇めているのはウルただ一人。
そのウルが決めたことは世界樹の願いより重たい。
シャルロットはウルの判断に従う。
(でもなんでウルは世界樹様の言葉が分かったんだろ?)
母から聞かされていたおとぎ話では、世界樹の声を聞けるのは森族だけだと言われていたのに。
しかし、シャルロットは直ぐにその考えを捨てる。
そんな事、今はどうでもいいからだ。