※この作品はR-18です。

世界に絶望した救世主の救済方   作:ウル・ウルス

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破滅

 

世界樹の根に作られた堅牢な空間。

そこは森族に害をなすと判断されたものが捕らえられる牢獄であった。

 

「ぐッ、がはっ……」

「お母さん!お母さん!止めて……お母さんを苦しめないで」

 

薄暗い檻の中で森族の老婆は苦悶の声、少女が悲痛な叫びを上げていた。

二人とも衣服はボロボロに破れ、全身には血やアザができていた。

 

「どうだ?未来について話す気になったか?」

「だから……私には自分で未来を見る事はできないんです」

「チッ、強情な奴め───やれ」

 

この場を仕切っている高位森族は苛立たしげに舌打ちをして、部下にあるものを持ってこさせる。

それは3cm毎に鋭い刃が付いた小型のギロチンのような物だった。

その装置を老婆の腕に取り付け、一番端の刃を落とす。

ザクッという音がして、老婆の指が落ちる。

次は手の甲、手首と徐々に肩に向かって刃を落としていく。

 

「あああぁぁぁぁ!!!」

 

老婆は脂汗を流しながら絶叫する。

床には夥しい量の鮮血が撒き散らされて、早く止血しなければ出血多量で死に至るだろう。

 

「止めて……止めて下さい……」

 

少女はただ泣きながら懇願するしかできない。

彼等は自分の力が自由に未来を見れる万能なスキルだと思い込んでいるらしいが、本当に未来を知れるのはランダムで自由意思の介入しないスキルなのだ。

しかし、いくらそれを説明しても彼等が信じることはなかった。

そのせいで母親が想像を絶するような拷問を受けている。

助けてと願うしかないシュビィの脳裏にあるイメージが沸き上がってくる。

今まで何度か体験した未来を見る時の現象だ。

 

──燃える街並み、逃げ惑う高位森族、死した者との再会、そして揺らめく爆炎の中に立つ一人の少年の怒りの顔──

 

その少年に関する信託なら以前受けた。

シュビィの住むドローグの村に破滅と救済をもたらす存在。

既に破滅は実現された。

ならば次に起こるのは……

 

その意味を理解したシュビィは嬉しくて涙を流す。

 

「大丈夫だよ、お母さん。あの人が来てくれた……私達を救いに来てくれた」

「何を言って───」

 

シュビィの髪の毛を鷲掴みにして問い詰めようとした高位森族の言葉は辺りを揺るがす振動と爆音によって掻き消された。

 

「何事だ」

「りゅ、竜の群れが都市に向かって攻撃を仕掛けてきました」

 

慌ただしく牢獄に入ってきた森族が恐怖に引き攣った顔で状況を説明する。

竜とは天災のようなものだ。

一匹だけでも国が滅びたなどという話は珍しくない。

森族といえども撃退するのは困難でな存在なのだ。

とは言え、それは普通の森族の国での話だ。

ここ、ベルクは森族領最大の国であり、高位森族が数十名もいる。

いかに竜の群れであろうが返り討ちにすることさえできると自負していた。

シュビィを掴んでいた高位森族は多少緊張しつつも迎撃に向かおうとするが、その後に続けられた言葉に絶句する

 

「──中には50mを越えるものもいるそうです」

「バカな!?」

 

竜はその大きさには限度があると考えられていた。

竜も生物なので成長はするが、その好戦的な性格上、数百年しか生きられない。

ごく稀に千年以上生きた竜もいる存在するが、それでも大きさは30mが良いところだろう。

それが50mとなると何年生き続けたか見当も付かない。

そして、それだけの期間死なずに戦い抜いてきたとすれば、その能力値は下手をすればベルクの総戦力を上回るかもしれない。

 

「何故そんな存在がこの国を狙う」

 

高位森族はパニックになりながら怒鳴りつける。

そもそもそんな巨大な竜が近くに生息していたことさえ気が付かないとは国境警備隊はどれ程無能なのか、と恐怖から逃れるために部下を心の中で罵る。

 

「高位森族は至急この竜を抑え込めとのご命令です」

「くそ」

 

高位森族は汚い言葉を吐きながら牢獄を出ていく。

それがこの最後の言葉となった。

 

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 

ウルは何故自分がここまで怒っているのかよく分かっていなかった。

ただ、死を覚悟してまで友達になって欲しいと願ったあの少女が苦しめられていると思うと、我慢できなくなるのだ。

きっとウルは好意を向けられると、その存在を拒みきれなくなるのだろう。

それは今までそうしてきたせいか、或いは元々ウルがそういう性格だったのかは分からないが……。

どちらにしろウルがシュビィを助けるには十分すぎる好意を向けられていたのだ。

 

「ひぃぃぃぃ!!」

「何でこんなに竜が襲ってくるんだよッ」

「助けて……助けて!」

 

街はまさに阿鼻叫喚と言った様子で、力の無い普通の森族は逃げ惑うことしかできず、力のある者もリュー相手に押さえ込まれている。

 

「早く迎撃魔法の準備を済ませるんだ」

「俺達には世界樹様の加護が付いている」

「神聖なるこの地を竜ごときに汚されるな」

 

戦士の森族たちは怒りや屈辱をバネに恐怖を打ち消し、多少怯みながらも訓練された動きを見せる。

ウルがそんな兵士達を鬱陶しく思っていると、上空で爆炎を吐いているリューから念話で語りかけてくる。

 

『お前様よ、あの者達ではそろそろ厳しいようじゃし、儂も本格的に暴れてよいか?』

『まだ待て。シュビィ達を救出できてからだ』

 

確かにリュー以外の竜は高位森族に囲まれて多少苦戦していた。

いくらウルが本気で暴れるのを許可していないとは言え、高位森族を数十人抱え、森族領最大の戦力を誇るだけの事はある。

しかし、そんな状況が長く続くわけもなく……。

 

『マスター、個体名シュビィとその母親の救出に成功しました』

 

別行動でシュビィ達の救出に向かわせていたイーから念話で二人を保護できたと報告が入る。

 

『二人とも無事か?』

『シュビィの方は軽傷だけど母親の方は酷いね』

『アルリアに部屋で治療させろ』

『畏まりました』

 

ウルは簡潔に二人の状態を聞き、安全を確保するため部屋に移動させるように命じる。

すると戦闘狂のキアラがうずうずした様子で念話を飛ばしてくる。

 

『ご主人様~ウチも戦闘に参加してええか?』

『ああ。好きに暴れろ』

『やった♪』

 

ウルが暴れる許可を出すと嬉しそうな声を出す。

それと同時に世界樹の根本から大爆発と黒いモヤが発生する。

どうやらキアラだけでなく、リーネも戦闘に参加したらしい。

 

『リュー』

『ついに本気で暴れてよいのじゃな』

 

リューは名前を呼ばれるだけで嬉しそうな反応を見せる。

それはキアラと違い、暴れられる事への喜びではなく、自分が庇護する竜達が傷付かなくて済む事への喜びの色が強かった。

リューは以外と仲間思いなのである。

 

それから始まったのは一方的な虐殺だった。

 

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 

「何で高位天族がこんなところにいるんだよ!」

「死にたくない……死にたくないよ」

 

キアラは逃げ惑うだけの森族に物足りなさを感じていた。

キアラがしたいのは血沸き肉踊る戦闘であって虐殺ではないのだ。

 

(やっぱりこの玩具は面白くないわ。ご主人様の側に居る方が何倍も楽しめる)

 

そう思っているとキアラの前に5人の森族が立ち塞がる。

全員が高位化をしており、今までの雑魚と比べると多少は出来るようだが、それだけだ。

 

「何故こんな事をする」

 

高位森族の一人がそう問い掛けてくる。

どうやらこの高位森族はキアラがこの惨劇の主犯格だと思っているらしい。

 

「さて何でやろな?」

「ぐふっ!?」

 

呑気な声で惚けながらキアラは高位森族の一人の胸を貫く。

常に戦いに明け暮れていたキアラにとって戦闘を経験すること無くただ無為に過ごしてきた高位森族などただの木偶の坊に過ぎないのだ。

──ツマラナイ

ウルと言う宝石を目の当たりにしたからこそ強くそう思う。

ウルは単純に力が強いだけの存在ではない。

相手を殺すために隙を作り裏を掻く技術や魔法を扱う技術など全てが桁違いだった。

それはリューも同じだが、ウルはまだまだ成長する余地を残していた。

いったいどこまで成長するのか楽しみでしょうがない。

キアラはウルへの羨望と賞賛を胸に淡々と作業を繰り返す。

別にキアラにとって森族が滅ぼうがどうでも良いことなのだ。この作業でご主人様に気に入って貰うことの方が遥かに重要なのだから。

 

「キアラお姉ちゃん、こっちは終わったよ」

 

混沌とする戦場には似つかない可愛らしい声がキアラの後方で聞こえる。

その正体は自身の周りに死の霧を張り巡らしたリーネだった。

 

「ゴメン、考え事してたら遅くなってもうたわ」

 

キアラは何気なく返事をする。

その反応を見て高位森族はリーネが敵であると認識した。

 

「そうか……貴様のような穢れた存在がこの悲劇の原因か……」

 

今、リーネはフードを被らず、その褐色の肌を惜し気もなく晒していた。

森族にとって闇森族は災厄の象徴だ。

リーネが居ることでこの悲劇が起きたのだと考えたのだろう。

 

「今なんて言うた?」

 

その言葉に真っ先に反応したのは意外なことにリーネではなく、キアラだった。

その声には明らかな怒気が混じっており、辺り一体が凍りつくような錯覚に陥らせる。

 

「ウチの聞き間違いかな?今、誰の事を穢れた存在とか言うた」

 

キアラはウルに心酔している。

そのウルが仲間と認めたリーネを馬鹿にされるのはウルを馬鹿にされるのと同義だった。

そうでなくても先輩であるリーネを侮辱されて我慢できるほどキアラは出来た人物ではない。

 

「お前らには死すら生温いな」

 

そう言ってキアラはある魔法を発動させる。

その魔法は幻術魔法に分類されるが、本質は魂を扱う人知の及ばぬ秘術だ。

この魔法に掛かった者は精神を魔法で構築された空間に閉じ込められる。

そして、この魔法の恐ろしさは魔法空間で起こった事が現実にも反映される事だ。

例えば魔法空間で死んだとすれば現実でも死んでしまい、逆に死ななければ現実で致命傷を受けていようが首を切り離されようが死ぬことはない。

キアラは魔法空間を思うままに操ることができ、ウルが高位天族にした拷問すら擬似的に再現できる。

 

「お前らは永遠にそこで悔い改めろ」

 

その言葉を最後に高位森族達の精神は二度と戻れぬ地獄に落とされる。

 

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「LLLLLLLLLLLLLLLLLLLLAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」

 

全力で暴れる許可を貰ったリューは容赦がなかった。

"邪眼"で視界に映る全てを石像に変え、"吟嘯(ぎんしょう)"で唄うように超音波を出して悉く打ち砕いていく。

おまけに国の周囲を数千度の焔で焼くことで逃げられなくする。

その姿はまさしく天災。

竜が人々に恐れられている理由を如実に表していた。

それでもリューは実力の半分も出していなかった。

そもそもリューが本気で暴れたら、大陸の一つは消し飛んでしまう。

リューも森族が滅びても構わないと思っていたが、友人との約束がある。

それ以前に友人の忘れ形見を壊すような真似はしたくない。

だからリューは忘れ形見に傷が付かないように細心の注意を払っていた。

 

(お主も役目を果たしたくば、何をすればよいか考えるのじゃな)

 

リューは心の中で忘れ形見に語りかける。

それに答えるは震えるように葉を鳴らす世界樹だけであった。

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