その光景を見て、そこが森族領で一番栄えていた国だと分かる者はいないだろう。
それほどまでにベルクの街は破壊し尽くされていた。
生きている者の反応はなく、まさに廃都と言った様子だった。
そんな中、人形に戻ったリューは瓦礫に腰掛けて考えを巡らせていた。
ベルクは森族至上主義を先導していたが、その思考に賛同するものが全てベルクに住んでいたわけではない。
シュビィを助け出したが、その力は知られてしまっただろう。
となれば、いずれまたシュビィの事を狙う者が現れないとも限らない。
リューは遠くで村の仲間との再会に涙しているシュビィを見る。
シュビィ達が二度と襲われないためには、これが人為的なものだと知らしめることだが、それをすればウルの存在が完全にバレてしまう。
ただでさえ今回の事で自分が誰かに従っていると思われただろう。
恐らくそれだけでヤツは動かないだろうが、ウルの存在がヤツにバレればウルもただでは済まない。
リューはこの世界で5本の指に入る実力を持っているが、決して一番ではないのだ。
ウルの身に降りかかる火の粉は極力減らしてやりたいとリューはあれやこれやと思考を走らせる。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
布を張っただけの簡易テントの中でウルはドローグの村長と話し合いをしていた。
「怪我は大丈夫なのか?」
「はい。アルリア様に手当てをしていただいたお陰で、この通り元に戻っております」
そう言って老婆は元に戻った右腕をヒラヒラと振る。
以前会ったときはウルに対して警戒心を持っていたが、今はすっかり心を開いているようだ。
「それで、話ってのはなんだ?」
「実は救世主様に折り入ってお願いしたいた事が」
ウルが単刀直入に聞くと、目の前に座るセラは軽く頭を下げて真剣な表情になる。
「シュビィを連れて行って欲しいのです」
老婆もこれで全てが解決したとは思っていない。
寧ろ頭がいなくなったことで後がまに座ろうとする輩が出てくるだろう。
そして、その一番の近道が、未来を見通せるシュビィを手に入れることだ。
「ワシではシュビィを護りきれません。シュビィも救世主様に懐いておる様ですし、救世主様のお力に頼らせていただきたいのです」
ウルは直ぐには返答しなかった。
老婆の言い分も分かるし、シュビィさえその気ならウルに否はなかった。
しかし、
「それで、お前達はどうするんだ?」
ウルが気にしている事は老婆を含むドローグの村の住人達の事であった。
この村には戦力となる者が少なく、まともに戦えるのは高位森族である老婆だけだろう。
そして、ベルクの襲撃で分かったように老婆だけではこの村を護りきれない。
「あの者達は既に一度死んだ身、これ以上、救世主様の手を煩わせる訳にはいきません」
老婆はウルの正体を知らないが、ウルが身を隠して旅をしていることぐらいは分かっている。
この村の住人が全員付いていく訳にはいかず、かといってウルに留まってくれなど言えるわけもない。
「勿論、救世主様の事は口外いたしませんので」
老婆はウルが自分達の口から情報が漏れる事を心配しているのではないかと思い、死んでもウルの事は話さないと誓う。
しかし、ウルが気にしている事はそこではない。
既にウルはこの村の住人を蘇生させている。
それは裏返せばこの村の住人達はそれをするだけの価値があると言うことだ。
ウルはこの村の住人達を全員連れていってもいいと考えている。
しかし、そんな相手だからこそ強制はできないのだ。
(ここに居たまま連れていくことが出来れば……)
そんな矛盾した考えが脳裏に過る。
すると今までウルの後ろに控えて、一言も発しなかったアルリアが手を上げて発言をする。
「ウル様が今考えられた事は実現可能です」
「どういう事だ?」
「それを説明するには、この者達に私達の身の上を語らなければなりません。ですが、私たちの秘密を知る以上は奴隷契約かそれよりも強力な契約を結ばせる必要があります」
アルリアもこの村の者達が裏切るとは考えていない。
それでもウルにとって不安要素となる可能性は全て潰すべきだと思っている。
「ふむ……秘密が漏れぬようにするための措置ですか。当然の要求でしょうな」
一方、老婆もこの要求が無茶なものではないと理解していた。
そもそもウルに生き返らせてもらった命なのだ。
ウルのために死ねと言われれば死ぬくらいの恩は十分にある。
「それに、救世主様の庇護を受けられることはこの村の安泰を意味しますからな」
ウルほどの力を持っていれば、ドローグが滅びることもない。
仮に死んだとしても生き返らせてもらえる。
これほどの恩恵を考えれば隷属するぐらいは当然の事だ。
「では、説明をさせていただきます───」
アルリアが語った方法とは、ドローグの村の次元をずらして、部屋と同期させると言うものだった。
そうすれば部屋からドローグに来ることもできるし、外からはアルリアの許可なしに入ることが出来ない。
これならばドローグに居ながらウルと共に行動していることになる。
「な、なるほど……」
老婆はウル達の正体を知って冷や汗を流す。
そこにさっきまでと違い、明らかに畏敬の念が籠められていた。
「救世主様がどんなお方であっても、ワシらはあなた様に付いて行きます」
老婆はウルの正体を知っても敢えて救世主と呼ぶことでウルへの翻意がないことを示す。
その後は村の住人達にも説明をして、契約を結んだ。
契約は奴隷契約でもよかったのだが、全員がウルの力になれる眷族契約を選んだ。
「これて晴れてワシらは救世主様の庇護下に入れたと言うわけですな」
「お前は?」
全員と眷族契約を結び終わると、見覚えのない森族が話し掛けてくる。
「おっと、この姿に戻ってからお目にかかるのは初めてでしたね。村長のセラです」
そう言われてウルは納得する。
眷族契約の際に半神化も行っていたのだが、半神化は肉体の全盛期を維持することができる。
明らかに全盛期を過ぎていた老婆改めセラはその効果で若返ったのだろう。
「この姿、救世主様のお眼鏡に敵えば良いのですが」
セラは謙遜しているが、その容貌は妖艶で、何人も寄せ付けない神秘的な美しさを秘めている。
娘であるシュビィもその美貌に見とれてしまっているくらいだ。
「この体、救世主様さえよろしければ、差し出したいと考えております」
セラはウルの前で軽く衣服を着崩してみせる。
半神化や眷族契約の説明の際にウルと交われば、ウルの力が増えると聞いていたセラは、せめてものお礼にと体を差し出そうとしているのだ。
「ウルさん……私も未熟な体ですけど、ウルさんの役に立ちたいんです……」
それはシュビィも同様だったようで、ウルの目を見て真剣な表情で訴えかけてくる。
「……分かった」
ウルは性交による強化については否定的だが、今回はすんなりと受け入れられた。
それはウルの心に変化が起こり始めている証拠なのだが、それに気付いているものは少ない。
「お主達、少し気が早いぞ」
セラが今にもウルに抱きつこうとしているとき、リューの声が割ってはいる。
「半神化して体が馴染むまではまぐわっても意味がないぞ」
「む、ワシとしたことが早まってしまったようだな」
セラは少し恥ずかしそうに、シュビィは残念そうにしながら衣服を正す。
「では、救世主様。今日はここでお休みになっていただけませんか?」
ウルが母の魂を持つ魔族を探していることは知っているが、この恩だけは返したいと言うセラの気持ちが伝わってくる。
こうなっては嫌とは言えず、ウルは一晩だけ寄り道をすることにした。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
「お前様よ、客人が来ておるぞ」
日も暮れ、アルリアがドローグを部屋化しようとしていると、リューが一人の人物を連れてやってきた。
その人物は緑色の光を発しながら、半分透けていた。
「何のようだ、世界樹」
ウルは一度会ったことがあるので、特に気にすることなく問い掛ける。
「はい。わたくしも貴方様の庇護下に入れていただきたいのです」
「なぜだ?」
世界樹はウルの前に跪いてそんなことを言う。
しかし、ウルは世界樹に対して良い思いを持っていない。
よほどの理由がなければ許可することはないだろう。
「わたくしの使命はこの大陸に住まう森族を庇護することです。しかし、今やそれは貴方様の庇護なしには叶いません」
ウルと敵対すれば世界樹の庇護があろうが関係ない。
ウルが庇護しない限り世界樹の使命は果たすことが出来ないのだ。
ならば、自身もウルの庇護下にある森族を庇護することで、指名を果たせば良いと考えた。
勿論それだけでウルが納得するとは思っていない。
だからこそウルに対し絶対服従を誓うことで指名を果たすチャンスを与えてほしいと言うのだ。
「なぜお前はそこまで使命を果たしたがる」
「それこそがわたくしの存在価値であり、わたくしの主の願いでもあるからです」
「お前の主は誰なんだ?」
「それは───」
リューが一瞬だけ殺気を放ったのを感じて、主の名前を紡ごうとする世界樹の口が止まる。
「世界樹よ、それ以上は語るな。我が主様が知るにはまだ早すぎる」
リューがそう言うと、世界樹は冷や汗を流しながら口を噤む。
そして、ウルの方を怯えながら見るが、最終的には覚悟を決めたように目を瞑る。
「どういう事だリュー」
「まだ話すわけにはいかん。ここで話せばお前様の目的が遂げにくくなるぞ」
リューは暗にウルの目的が達成されたあとならば話せる内容だと言う。
しかし、リューには少し焦りの感情が見える。
(リューが慌てるような内容なのか?しかし、知らなければ問題ないと言うことか)
リューは例え殺されたとしても話さないことは話さないだろう。
世界樹からも同じ覚悟が伝わってくる。
これ以上問いただしても何も得るものはないだろう。
「世界樹、俺がお前を庇護するとしても、お前が裏切らない保証がどこにある?」
「私には魂がありませんが、擬似魂ならあります。擬似魂さえあれば擬似眷族契約を結ぶこともできます」
ウルがアルリアを見ると、アルリアは頷いて首肯する。
「ならお前は俺と擬似眷族契約を結ぶ気なんだな」
「はい」
ウルはそれを聞いてため息をつく。
世界樹が何を考えているにしろ、この木が森族の守り神のような存在であることに代わりはない。
そんな世界樹が共に庇護下にあると知ればドローグの村の住人も気が楽だろう。
ウルは黙って世界樹の提案を飲むことにする。
次回からはエロラッシュです
早めに書くつもりなので楽しみにしていてください