ウルを取り囲んだフェンリル達は一斉に飛びかかって来る。
「はあ!」
ウルの掛け声と共に地面が意思を持っている様に動きフェンリル達の足に絡みき動きを止める。何体かは飛びずさって躱すが、着地する瞬間を狙って魔法を放つ。ウルが放った魔法によりフェンリル達は吹き飛ばされる。しかしその間にさっき足止めした内の何体かが脱出できたようで再び襲い掛かって来る。ウルは自分の周りに高温の炎の壁を作ることでやり過ごすとひるんだフェンリル達の隙を突き次々と無力化していく。
しばらくするとフェンリル達の傷が消え何事もなかったように起き上がって来る。
「悪かったな」
ウル達は今アルリアが作った特殊な結界の中に居る。この結界の中では起こった現象は全てリセットされる、とはいえ結界の中でも痛みは感じる為謝るとフェンリル達はウルの元にきて頬ずりをしてくる。気にして無いという意味らしい。
ウル達が特訓を始めて一週間が経ったち、ウルは魔法をほぼ完璧にコントロールできるようになっていた。
「すごいですね」
人族でここまで魔法をコントロールしようと思ったら数十年、あるいは生涯をかけても不可能かもしれない。それをたった一週間で成し遂げたウルにアルリアとリリスは感心したように拍手する。
「リリの方も順調そうだな」
拍手するリリスの手には弓ではなく小さなナイフが握られている。フェンリル達が集めてきた素材で作ったものだ。
リリスも弓を使った戦い方は一通りマスターしたため近接戦闘の特訓に入っているのだ。
「私なんてまだまだです」
リリスは謙遜するがすでにフェンリル一体だけなら正面から相手できるくらいの力はある。
「もっと強くなってウルさんと一緒に戦えるくらいになりたいんです」
最低限身を守れる力があれば十分だと思うのだが、リリスはあくまでウルの役に立ちたい、ウルの隣で戦いたいという思いがあるらしい。
「ですがリリが最低限身を守れるようになったのであれば、そろそろ街に向かってもいいと思います」
今ここに居る理由はウルが世界を救うかを見極める為だ。その為にはウルが他人と関わる必要がある。いつまでもこんなところに留まっていては意味がない。
「確かにそろそろ向かってもいいか」
ウルは人が大勢いる所へ行くのはやはり抵抗があるが世界をどうするか真剣に考える以上避けては通れない道だ。それに世界が滅びる前に母を殺した魔族を見つけ出さなければならないのでゆっくりしていられないのも確かだ。
それはリリスも分かっているので特に不満は言わない。
「街に向かうとしてもこいつらどうしたらいい」
さすがにフェンリル達を連れて歩くわけにはいかない。そんなことをすれパニックになることくらいウルでも分かる。
「それでしたら使い魔の契約をしておけばいいかと」
使い魔の契約をしておくと主側が召喚することができるそうだ。
「そこは眷属契約と似たようなものか」
眷属契約も眷属を主の元に召喚することができる。
「というより眷属契約は全ての契約の最上位に位置するものですので他の契約の特性を全て持っているのです。例えば首に首輪の様な紋様ができるのは奴隷契約の特徴ですし、手の甲に魔法陣が刻まれるのは主従契約の特徴です」
それぞれの契約を組み合わせ極限まで高めたもの、それが眷属契約らしい。考えてみれば魂を繋げること以上の繋がりは考えられない。
アルリアと放している内にフェンリル達と使い魔の契約を済ませる。彼らは全員快く契約を受け入れてくれた。使い魔契約は外見に目立った変化は無いようだ。
他の契約と違って眷属契約は配下側の意思で紋様を見えないようにすることができる様なのでアルリアとリリスも目立たないように首の紋様だけ見えないようにして貰う。
「準備はこんなもんでいいか。アル、近くの街までどれくらいある」
「ここの近くでギルドがある街ですと、ここから南に四日ほど歩いたところにオリブントという街があります」
かなり街から離れているのはアルリアが道中魔物を狩ったり、性交する時間をとれるようにわざと街から離れた場所に転移したらしい。
フェンリル達との別れをすまし街に向かって歩き出す。
「そういえばちゃんと聞いてなかったがこの世界はいつ、どうやって滅びるんだ?」
「数年内に全ての種族による全面戦争が起こります。その結果、全ての生命が死に絶えることによってこの世界は滅びます」
「つまり俺は数年以内に母様を殺した魔族を見つけだし母様を助ける。その間に世界を救うかを考え、もし救うならその戦争を止める。そういうことだな」
「はい」
道中アルリアに詳しく説明してもらう。
思っていたよりくだらない理由だったがこれでこの世界でやるべきことは把握した。
たまに魔獣が襲い掛かって来るがリリス一人で対処できる程度のやつがほとんどだが、ごく稀にリリスでは対処できない魔獣も現れた。その場合はウルが魔法の練習がてら瞬殺する。
そんなことで街の近くまで無事にこれた。
「おい兄ちゃん、いい女連れてるじゃねえか。痛い目にあいたくなかったら女と金目の物全部置いていきな」
街へと続く道の途中でガラの悪い連中に囲まれる。そいつらはウルの事を見ようともせずアルリアとリリスを舐めまわすように見ている。
そしてその内の一人がリリスに触れようとするとウルは何の躊躇もなく首を刎ねる。
「な!?こいつナメたことしやがってなぶり殺しにしてや、ぐああああああぁぁぁぁぁっ!!?」
仲間を殺され武器を手に取ろうとするが、全身が炎に包まれる。炎は連中をじりじりと焼くが簡単には死なない。しばらく暴れ狂っていたがやがて動かなくなり、何事もなかったように静まり返る。
後に残ったのは炭の塊と連中が使っていた荷馬車だけだ。荷台の中を見てみると手枷や首輪などを付けられた女達がいた。
「たぶんさっきの人達人攫いの奴隷商人だと思います」
本来奴隷のやり取りは奴隷法のもと正規の奴隷市場で奴隷契約を結ぶ必要があるが、攫った人を無理矢理奴隷として売りさばく連中もいる。
「街のまで一緒に連れて行ってあげて、ギルドに事情を話して保護してもらいましょう」
リリスは女達の拘束を解きながら言う。
ギルドはそういった者達の保護なども率先して行っているらしい。
「ありがとうございます」
「助けていただけなかったらどうなっていたことか」
女達は礼を言ってくるがウルは無視して歩き出す。
「とまれ身分を証明する物を提示しろ。それができないのなら通行料として一人1300
街の入り口に着くと門番に止められる。
銅貨=10L
銅板=100L
銀貨=1000L
銀板=1万L
金貨=10万L
金版=100万L
白金貨=1000万L
白金版=1億L
らしい。
「いま手持ちがないのですがこれで認めてもらえないでしょうか」
ウル達は身分を証明できる物もお金も持っていない。どうしようかと悩んでいるとアルリアが魔獣の素材を取り出す。
「これは?」
「キメラの爪です」
キメラは能力値が900を超えてた魔獣だ。
「確かに本物みたいだが・・・いいのかこれ金貨5枚分くらいの価値があるぞ」
「構いません。その代り私たちの事は詮索しないでください」
門番達はしばらく悩んでいたが金貨5枚の誘惑に勝てず頷く。
「分かった。だが万一の事が有ってはいけない、その荷台の中は調べさせてもらうぞ」
そう言って荷台の中を覗き込む。
「彼女らは?」
「非合法の奴隷商人に攫われた人達です。ギルドに保護してもらうために連れて来ました」
「そういう事なら、ギルドはこの大通りをまっすぐに進んだ広場の奥にあるぞ」
そう言って門番達はウル達を通してくれる。
ウルにとっては初めて来た街、しかしそれは気分のいいものではなかった。街に入った瞬間から打算や恨み事など負の感情をあちらこちらから感じる。最悪なことにそういった感情はウルに向けられていなくても感知できるようだ。
中でもウルを一番不快にさせているのはアルリアやリリスに対するものだ、二人を劣情の対象としてしか見ていない。苛立ちながらもギルドに入り女達の保護と魔獣討伐の報酬といくつかの素材を買い取ってもらう。
ふと視線を感じて辺りを見る。
「どうしたんですか?」
「・・・いや、誰かに見られたような感覚がしたから」
「大丈夫です。誰もウルさんの事気付いていません」
アルリアによってウルの顔を見てもウル・ラグナルだと気付かないようになっている。辺りを見回しても特に気付かれた様子もない、気のせいだったのだろう。
「なあ知ってるか?遂にラグナルの一族が死に絶えたらしいぜ」
「本当か!?ならめでてぇ事じゃねぇか」
「なんでも一族最後の生き残りだったウル・ラグナルてやつは最後小便漏らしながら涙と鼻水たらして必死に命乞いしたらしいぜ」
「屑にふさわしい死にざまだな」
何人かのパーティーが酒を飲みながらぎゃははと大笑いしている。
「お!お嬢ちゃんたち見ない顔だね、ギルドに登録しに来たの?だったらこんな弱そうなやつとじゃなく俺らのパーティーに入りなよ何があっても守ってあげるよ。なんせ俺はDランクだからね」
バカ騒ぎいている連中を無視してギルドを出ようとすると、その内の一人が近寄って来るこいつもアルリア達の事を性的にしか見ていない。
ウルは風の魔法を使いその男を吹き飛ばす。男は壁に叩きつけられ動かなくなる、加減はしたので運が良ければ生きているだろう。周りは何が起こったのか分からず狼狽えるだけだ。
ウルはそのままギルドを出ると慌ててリリスたちも続く。
ギルドを出るとウル達はまず服屋に行く。アルリア達は目立ちすぎるのでローブで顔を隠すことにした。
「せっかくかわいいのに隠したらもったいないでしょ、うちで一番人気のやつにしなよ。あなた達ならすごく似合うと思うの」
店の人があれやこれやと進めてくれるが、ウルには純粋な気持ちで進めてくるわけではないと分かっているので全て断る。
ウル達はローブ以外に目立たない服数着だけ買うと店を後にする。
次は鍛冶屋で武器とリリス用の防具を買う。
「ウルさん、私食材とか調味料とか調理器具とかが欲しいです」
「別に今のままでも食べ物に困ってないし必要ないだろ」
「そうですけどちゃんとしたものも食べたほうがいいです」
「リリはウル様に手料理を食べてもらいたいのです」
リリスが必死に説得していると横からアルリアが教えてくれる。ウルは苦笑しながらリリスの注文を認めてやる。
一通り買い物が終わると人目につかない裏路地で買った物をアイテムボックスに入れる。
「必要な物も買ったしもう出るぞ」
本来なら街に来たら何日か滞在する予定だったがウルは明らかに嫌気がさした様子で言う。
「分かりました」
本当ならウルにもっと人と関わってほしいのだがこのままここに居ても逆効果になるだけだ、仕方なく街を出ることにする。
「あ!君たちもう出ていくのか?」
「はい。この街には必要な物を買いに来ただけですので」
街に入ってまだ数時間しか経ってないため、門番が聞いてくる。
「君たちの事ギルド長が探してぞ、街を出る前に会って来たらどうだ」
そんな人物が自分を探す理由が分からないが一応会うだけ会ってみる。ギルドに戻ると先程の騒ぎがまだ続いてるようだが、ウルは無視して受付嬢に事情を話す。すると上へと続く階段に案内される。
「ギルド長は3階の突き当りの部屋に居ます」
案内された部屋に入ると金髪で緑色の目を持つ女の子が居た、この子がギルド長なのだろう。しかしウル達を見る目は怯えが混ざっている。
「はじめまして、ボクがギルド長のシャルロット・ルーシアです」
「ギルド長が俺たちに何の用だ」
シャルロットは少し悩む素振りを見せ、やがて意を決したように口を開く。
「ウル・ラグナルさん、あなた達にお願いしたい事があります」