「答えは出たか?」
朝日の光が部屋に入ってくると共に、ウルはエレニーの部屋を訪れる。
一晩中起きていたであろうエレニーの瞼には小さく隈ができていた。
エレニーはゆっくりと立ち上がり、ウルの前まで来て跪く。
これは王が別の王に服従の意を示す体勢だ。
「ウル様のご提案。お受けさせて頂きます」
これまで会った誰とも違う、王族の風格を持つ態度でウルに追従することを告げる。
「盟主たるウル様にこのような申し出をするのは不敬かと存じますが……わたくしと共に来ることを拒む民をどうか、お見逃しいただけませんか?」
エレニーは民にウルに従うように誠心誠意頼み込むつもりだ。
それでも、何人の民が付いてきてくれるか分からない。
もしかしたら半数もいないかもしれない。
その者達を処罰しないようにとウルに頼む。
「別に従わないならそれでいい。俺が何かすることはない」
もちろん、ウルの名を広げるようなことはさせないが、それ以外なら、何をしようと知ったことではない。
「ウル様のご温情、感謝いたします」
心から安堵したような顔をした後、エレニーは着ていたドレスを脱ぎ出す。
「契約の証として、わたくしの全てを捧げます」
生まれたままの姿になったエレニーは、覚悟を決めたようにウルに秘部を晒け出す。
この申し出に驚いたのはウルの方だ。
たしかに、奴隷契約を結べと言ったが、ここまでしろとは言ってない。
少し混乱して、犯人らしき人物に思い当たる。
その人物はニヤニヤと楽しそうに事のなり行きを見ていた。
「リュー、お前か」
「儂はお前様の状況を詳しく教えただけじゃぞ。それで眷族になる決心をしたのはその娘じゃ」
ウルはため息をついて頭が痛そうにこめかみを押さえる。
「別に俺の眷族にならなくてもお前達は庇護してやる」
ウルはエレニーに対してそんなことを求めていない。
「で、ですが……」
エレニーはウルの言葉を聞いて、恥ずかしそうに局部を手で隠す。
「ウル様の庇護を受けさせていただくのに、わたくしは何もウル様に返すことが出来ません。ならばせめて、この体くらいは……それとも、わたくしでは満足していただけませんか」
俯いて悲しげに目を伏せるエレニー。
別にエレニーの容姿を悪いとは思わない。
ウルの仲間と比べても引けを取らないほどだ。
「俺はお前にそんな事を望んでいる訳じゃない」
ウルがこの国を庇護するのは、こちらの都合で利用する詫びと、エレニーに対する関心が理由だ。
本心から望んでいるならともかく、恩を返すために無理をする必要はない。
ウルは軽くエレニーの頭を撫でて部屋を出る。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
ウルが部屋を去った後、エレニーは急いでドレスに着替え、広場に人を集める。
エレニーは不安そうにしていたが、やがて覚悟を決めたように話し始める。
「これからわたくしが行おうとしている事に賛同できなければ、わたくしの元を去ってくださって構いません」
エレニーの言葉に臣下達はザワザワとざわめく。
「エリュシア国は魔族と共謀して国力を高めています」
噂はあったが、今まで口に出せなかった事を躊躇わず言い放つ。
「エリュシア国の横暴を見逃すわけにはいきません。よってラピックスはエリュシア国に宣戦布告を致します」
その爆弾発言にどよめきは更に大きくなる。
無茶だと言う声や、考え直すように進言する声など、エレニーに賛同する声は上がらない。
「わたくし達の力ではエリュシアに対抗できません。そこでわたくしは―――ウル・ラグナル様を盟主と仰ぎ、かの御方の庇護を受けることにいたしました」
ウルの名前が出たことで、民の混乱はピークに達する。
中にはエレニーの正気を疑う者まで出始めた。
「皆さんのお気持ちは分かります。わたくしもウル・ラグナル様の真相をお聞きするまではこのようなことを考えもしませんでした」
エレニーはウルが世界の行く末を握っていることや、救世主の役割を持っていることを話す。
「姫様!そんな馬鹿な話が真実なわけありません」
「信じる信じないは自由じゃが、どちらにしろ真実は変わらんぞ」
部下の一人がエレニーを嗜めると、リューが言葉を挟む。
「最初にその小娘も言っておったじゃろ。賛同できなければ去れと」
「貴様か!姫様を誑かし、洗脳したのは!」
むしろ無知な民を嘲るような口調のリューに激昂し、斬りかかろうとする兵もいたが、一睨みされただけで動けなくなる。
「き、貴様がウル・ラグナルか……」
「儂ごときを主様と間違えるな。儂はただの使いの世界竜じゃ」
リューはあえて世界竜の名を出す。
それが効いたのか、憤っていた民も勢いが削がれる。
「お前らがどう思おうが知らんが、お前達が戦争をすれば俺に都合が良い。俺に従うエレニーに付き従うなら、ついでに庇護してやっても良いというだけだ」
ウルはエレニーには関心がある。
それは彼女がウルに似ているからだ。
彼女は守ってやってもいいが、その配下達はどうでもいい。
彼女に従い、自分に服従するなら守ってやってやらんこともない。
その程度なのだ。
「皆様がどう仰られようと、わたくしはウル・ラグナル様に従うと決めました。ですが、皆様のこともお守りしたいのです。だから……どうか、わたくしを信じてついてきてくださいませんか」
エレニーは民に膝をつき、頭を下げる。
信じれない気持ちもわかる。
けれど、自分は皆の事を大切に思っていると、誠心誠意示す。
「姫様、お顔をお上げください」
「そうです!我々などに頭を下げないでください」
民は口々に言うが、エレニーは頭を上げようとしない。
「わたくしに出来ることは、頭を下げて皆様に信じていただくことです」
お願いだから信じてくれと、祈りながら頭を下げ続ける。
それが通じたのか、一人、また一人とエレニーに傅く。
「我らは姫様の忠臣。姫様がお決めになられたのならば、例えどんな選択でもついて行きます」
「皆様……」
エレニーが顔を上げると、その場を立ち去ったものは一人もいなかった。
生き残ったラピックスの民すべてがエレニーと共にウルに従うと決めたのだ。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
「ほれほれ、どうした口が止まっておるぞ」
「はぁん、ゴポッ、ゴポッ」
股ぐらに頭を埋め込み、淫らで汚い音を発するのは、周辺国から調達した姫だ。
初めは反抗的だったこの女も、洗脳を繰り返すことで従順な肉奴隷に仕上がった。
「フィリップス様……お楽しみのところ申し訳ありませんが、ラピックス国のエレニー姫がおいでです」
その惨状を痛ましそうに眺めながら、感情を圧し殺し、事務的に報告するのは、最近後宮に入れられた姫だ。
その姫は裸よりも下品で淫らな服を着せられ、羞恥と屈辱に顔を歪ませている。
「おかしいの?ギルフォードのやつから連絡が来ておらんが……まあこちらに出向いたと言うことは、早くワシの女になりたかったということじゃろ」
エリュシア国王―――ゴードン・フィリップスは黄ばんだ精を吐き出しながらニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべる。
周辺国から美しい姫や貴族を集めているが、エレニー姫は群を抜いて美人だ。
そんな極上の女を傅かせ、性欲の捌け口にできるかと思うと……
フィリップスはささっと身を整え、エレニーを迎えにいく。
自分の欲求が通らないなど微塵も考えていない様子だ。
「おお!エレニー姫!よくぞいらしゃった」
「ご無沙汰しておりますフィリップス陛下」
エレニー姫は相変わらず美しい美貌だった。
フィリップスは嫌らしい笑みを浮かべてエレニーと会合する。
「この度は援軍の申し出をして頂き、感謝に堪えません」
「いえいえ、これからも両国、手を取り合い魔族どもの進行を防いで行きましょう」
フィリップスはエレニーを抱き締めようと手を伸ばすが、エレニーはそれを払い除ける。
「ですが、その申し出お断りさせていただきます」
「は?」
フィリップスは何を言っているんだコイツはと言った表情をエレニーに向ける。
「貴国が魔族と共謀していることはすでに知っております。そのような国からの申し出など受けれるはずもありません」
「姫……言葉には気を付けた方がよろしいですよ」
「我がラピックス国はエリュシア国を人類の敵と見なし、ここに宣戦を布告致します」
フィリップスの圧力をかけるような視線を無視して、エレニーははっきりと宣言する。
「皆のもの!この無礼者共を引っ捕らえよ!」
フィリップスは激昂して衛兵を呼ぶ。
ここまで侮辱されたのは初めての経験だ。
後悔してもしきれない地獄を見せてやると怒り狂う。
だが、集まった衛兵は一瞬で首を切り落とされた。
「ひぃ!?」
「お前と手を組んでいる高位魔族に伝えろ。十年前に殺し損ねたガキがお前を殺すと」
衛兵の首を跳ねた男はそれだけ言うとフィリップスには興味がないようにその場を去る。
「では、フィリップス王。もうまみえる事は無いでしょうが……ごきげんよう」
エレニーもそれだけ言うと、空間転移でこの場を去ってしまう。
その場には怒と屈辱に震えるフィリップス王だけが残された。