エレニーがウルに従うと決め民を説得している間、リューは分身を作ってとある場所へ向かっていた。
その場所は普通なら辿り着くことが出来ない、世界の果てともいうべき場所に存在している小さな島だ。
「ここに来るのは何万年ぶりじゃろうな」
島に足を踏み入れ、当時と変わらない景色に懐かしさを覚えると共に、二度とあの時が戻ってこない悲しみを感じる。
だが、感傷に浸るためにこの場に来たのではない。
リューは気持ちを切り替え、事前に呼び出していた人物が来るのを待つ。
「お待たせしてすみません。リュー先生」
ほどなくして、呼び出していた人物がリューの前に転移してくる。
身長は160cmほどの美しい女性で、月の光を凝縮したように淡く輝く銀の髪。
一度目にすれば引き込まれ、目が離せなくなる漆黒の瞳。
その瞳を隠す眼鏡は、穏やかで知的な印象を与える。
「久し振りじゃの。いきなり呼び出してすまんかった」
「いえ、リュー先生からのお呼び出しより重要なことなど、大してありませんから」
リューが何か言えば、来訪者は嬉しそうに応える。
だが、世間話はこれくらいにするべきだろう。
リューは本題に入る。
「実はついに
「ええ、存じてます。ウル・ラグナルの事でしょう」
来訪者はハッキリとウルの名を口にした。
しかし、リューは大して驚きもせず、軽くため息を吐くだけだ。
「やはり、見ておったか」
「はい。あの娘を使わせてもらいました」
「主様に気付かれんのは見事じゃが、気を付けるのじゃぞ。主様が気付いても儂は庇えんのでな」
「分かっています。私もあの子と事を構えたくないので」
最悪の場合、ウルと敵対することを考えつつも、極力争いは避けたいと言う来訪者。
それに対してリューはもう一度だけ警告をしておく。
この来訪者とリューの関係は浅くない。
出来ることなら守ってやりたいが、ウルが敵と見なしてしまえば、それに従わざるをえない。
「知っておるじゃろうが、主様は今回の件で大きく動く。それをあやつに知られんようにして欲しい」
リューはあえてその人物の名を口にしない。
そいつは未だ、ウルが
「分かりました」
来訪者はウルの事を考えているのか、少し柔らかい笑みを浮かべた。
リューはそれを見て満足そうに頷く。
「あまり主様の元を離れるのも不味いので儂は帰るが、そっちは頼んだぞ」
「お任せください」
両者はそれを最後に島を去っていく。
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出張させていた体を戻すと、ちょうどエレニーの説得が終わったタイミングだった。
「どこへ行っていた」
ウルはラピックスの民の前から去ると、リューに声をかけてくる。
別に隠すつもりもなかったが、完全に見抜かれている。
リューは相変わらずウルの感覚は鋭いと感心しつつ苦笑いを浮かべる。
「万が一の時に備えて、保険をかけておった」
詳しい内容は話すわけにいかないので、詳細は伏せつつ報告する。
「そうか」
ウルはそれだけ言うと、それ以上は追求することもなく話を終える。
どうせいつものように裏で何かしているのだろうと思われているのかもしれない。
リューはそんなことを考えながらウルの後ろに続く。
だから、その後にウルが口にした言葉に目を丸くさせた。
「リュー、俺の眷族になれ」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
リューはウルの事をかなり理解しているつもりだ。
だから、ウルが自分の事を信用してない事など百も承知だ。
「ほ、本気か?儂はお前様に対して秘め事しておるのじゃぞ」
自分に対して隠し事をする不誠実な自分を受け入れる。
そんなこと、ウルがする訳がない。
「別に構わない」
もしかしたら眷族にすることで秘密を知ろうとしているのかもと思ったが、そんな馬鹿なことはないとすぐに否定する。
ウルがそんな回りくどいやり方をするとは思えないし、何より秘密を知るために信用の出来ない相手に心を開くことなどありえない。
なら、ウルは本気で自分を眷族にしていいと思っているのか?
「なぜ……儂を眷族にしてくれる気になったのか聞いて良いかの?」
「……」
リューはにやけそうな口を苦労して抑えて質問してみるが、ウルはそれには答えない。
これは何か企んでいるというより、言うのが恥ずかしいと思っている感じだ。
だが、それはウルが本気で自分を眷族にする気なのだと教えてくれる。
「お前様の申し出は本当に嬉しい。気を抜けば直ぐにでもにやけ顔になってしまいそうじゃ」
リューはウルの足元に跪き、頭を地面に擦り付ける。
「じゃがその申し出―――断らせてもらう」
頭を下げているためウルの表情は見えないが、きっと意外そうな顔をしているのだろう。
無理もない。
リューはもともとウルの配下に入りたがっていたし、そのアピールは怠らなかった。
だが、もしウルが本気で自分を配下にしていいと思うほど心を開いてくれているのなら……
リューは頭を上げ、ある要求をする。
「その代わりといってはなんじゃが、儂が高位化する事を許して欲しいのじゃ」
リューが高位化すれば間違いなくウルでは手に負えないくらい強くなる。
それは、リューが反旗を翻したら対処できないということだ。
リューはウルの承認なしで高位化するつもりはなかった。
そして、今までならウルがリューの高位化を許すことはなかった。
しかし、今ならあるいは……
「お前が望むなら、そうしろ」
ウルはすんなりとリューの高位化を認めた。
それは、完全にリューを仲間と見なした証拠。
リューは今度こそ口元を緩め、感涙にむせぶ。
「ありがとうございます」
リューは万感の思いを込めて短くそれだけ言うと、再び頭を下げて顔を隠す。
いま自分は涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃに汚し、変な形に口を歪めて、媚びた雌の目をしているのだろう。
そんな恥ずかしい顔をウルに見せたくない。
ウルはそんなリューの気持ちを察したのか、そのまま立ち去ってくれた。
リューはウルの気配が完全に消えてから顔を上げ、直ぐに高位化の準備に取りかかる。
高位化はそう簡単に出来るものではない。
しかし、リューは高位化に必要な条件は満たしている。
それに、いつでも儀式が出来るように必要な素材も準備していた。
後はどれだけ時間を要するかだ。
高位化は早ければ一日で済むが、長ければ数ヵ月かかることもある。
(流石に時間をかけるわけにはいかんな。直ぐに戦争になるわけはないじゃろうが、参加せんわけにはいかん)
ウルが心を許してくれたのだ、ウルのために働きたい。
(しかし、あまり早くするわけにもいかんな……)
リューほどになれば、高位化にかかる時間をある程度コントロールすることも不可能ではない。
だが、かける時間を短くすれば能力値の上昇は見込めない。
リューが高位化を望む理由の一つは能力値を上げて抑止力となる事だ。
それを踏まえて、14日が限度だと判断する。
「では、取りかかるとするかの」
費やす時間が決まったので、リューは急いで高位化の儀式を始める。
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リューと密会していた人物は、リューと別れてからいつもの日常を送っていた。
そこにある人物から呼び出が掛かる。
その呼び出しは何を置いても優先すべき事だ。
密会者は直ぐさま転移で呼び出した主の元へ転移する。
「お呼びでしょうか?」
転移するなり恭しく主に跪き、用件を伺う。
「あの雌竜が高位化をしたようだ」
「!?」
主の言葉に密会者は息を詰まらせ、空を仰ぐ。
リューほどの存在が高位化すれば、その事実を隠すことはできない。
特に主はリューが危険視する実力者だ。
どんな細工をしても気付かれる。
「あの雌竜がなぜ今さら高位化をしたのかは分からぬが……あの竜の存在が邪魔になるなら―――」
「そのような些事は私に任せて―――お姉様はご自分の目的にだけ没頭なさってください」
主―――姉の言葉を遮るように密会者は進言する。
リューの事を探られて、ウルの事を知られるのは不味い。
リューとの約束もあるが、この姉はラグナルの一族を根絶やしにしたいほど憎んでいる。
姉にラグナルの一族が生きていることを知られて、ウルが殺されるのは避けたい。
「そうか」
姉はそれだけ言うと、妹にすら興味がなくなったように何か作業を再開する。
姉がこの世の全ての事情に興味が無かったので助かったが、流石に自分の驚異になる可能性があるとなると、いつまで隠せるか怪しい。
(高位化するなんて聞いてませんよリュー先生!)
密会者は心の中で絶叫しながら、頭を抱える。
これから先、胃痛と付き合わなければならないはめになり、密会者はひっそりと涙を流す。
この密会者は少し、いやかなりの苦労人なのだ。
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「ふぅ」
無事、14日間の儀式を終えて高位化したリューは疲れたように息を吐く。
高位化は途轍もない負担がかかる。
リューは気を失いそうなほどの疲労を感じながらも、自分の能力値を確認する。
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世界竜
〈能力値〉452000
〈スキル〉
・加速
世界の法則に縛られずに移動することが可能。
最高速度は光と同速。
光速に近づけば近づくほど脳と神経に負担がかかり、長時間の使用が困難になる。
・歪刻
行動にかかる時間を歪める。
行動にかかった時間を早めるだけでなく、遅めることも可能。
使用時間に比例して心臓に負荷がかかる。
・無限の叡智
詠唱を魔方陣に変換することが可能。
長文の魔方陣ほど展開に時間がかかる。
魔方陣を組み合わせることで本来なら反発しあい、発動できない対極魔法を発動することが出来る。
・千里眼
一定範囲内で起こっている情報を全て察知可能。
・万物変化
世に存在する生命体ならばどのような種にでも変化可能。
・邪眼
視界の生物を石化させる。
・聖なる恩寵
一定時間の祈祷を捧げることで、目的の成就まで幸運を授かる。
祈祷時間は目的の達成難易度に比例して長くなる。
・錯乱
魔力によって生じる現象のコントロールを失わせる空間を形成する。
・不死の加護
自身の硬度を極限まで高める。
使用中は真空や超高温の環境でも活動できる。
・裁きの焔
自らの身を焼くことで周囲に超高温の焔を発生させる。
・王者の呪縛
魔獣に分類される生物ならば絶対の忠誠を誓う下僕にできる。
・吟嘯
声に超音波と衝撃波を乗せる。詠唱時間が長ければ長いほど破壊力が増す。
・貪欲な狩人
大量の魔力消費と引き換えに疑似ブラックホールを発現させる。
魔力の消費量に比例して破壊力が変化する。
・威圧
自分よりステータスが低い者を怯ませる
ステータスの差によって効果が変わる
・飛翔
物理法則を無視した飛行が可能
・森羅
この世に存在する万物に変化することができる
・分解
食らった物質を魔力に変換して蓄えることが可能
〈種族〉高位世界竜
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時間をかけられなかったので、あまり能力値も上がらずスキルも増えなかったが、欲しかったスキルは手に入った。
というより、新しいスキルを獲得するために能力値を犠牲にしたのだ。
(あやつがどれほど成長しているか分からぬが……これで簡単には攻めてこれぬだろう)
成長していなくてもこの能力値では勝てないどころか戦いになるかも怪しい。
しかし、抑止力としては及第点だろう。
リューは疲れた体に鞭を打ってウルの元へ戻る。
すべてはウルの役に立つために。
ここで毎日更新は一旦終了します
後は今まで通り不定期になりますが、出来るだけ早く更新できるように頑張ります(p`・Д・´q)