エリュシアは属国からも兵を集めて、約10万もの軍団を編成していた。
普段ならその3分の1ほどのしか用意しないが、今回は魔族と繋がっていることを知った上で戦争を仕掛けられた事と、フィリップス王がラピックスの国民を根絶やしにする気だからだ。
「あやつら、随分と気合いが入っておるの」
エリュシアの様子を"千里眼"で偵察していたリューは滑稽なものを見るように笑う。
能力値が絶対のこの世で、兵の数はあまり意味がない。
例えば能力値1000の相手と能力値100の相手が15人、戦ったとしたら勝つのは前者だ。
能力値がほぼ拮抗しているもの同士ならともかく、能力値が大きく劣る者が束になって自分より強い相手に勝とうとするら、最低でも相手の能力値の2倍は欲しい。
確実に勝つなら3倍といったところか。
リューとウル、二人を倒そうと思うならエリュシアは240万の合計能力値がいるわけだが、そんなもの全人族が一丸となっても足りるかどうか。
つまり、エリュシアがどう足掻こうとウル達に勝利する未来はないのだ。
「でも、それが逆に面倒なんじゃない」
リューの"千里眼"の情報を魔法で共有して見ているシャルロットは少し難しい顔をする。
確かにエリュシアに勝つことは簡単だ。
しかし、今回の戦争の目的である、高位魔族を引きずり出すとなると、難易度はかなり跳ね上がる。
「戦争に勝利するだけなら全力で戦えばいい。けど、ウルの仇の高位魔族を引きずり出すとなると、手加減しなきゃならない」
問題はそこなのだ。
あまりに圧倒的な力を見せれば目当ての高位魔族が警戒して出てこない可能性がある。
そのせいで、一目で驚異と分かるキアラやジブル、イーたち人造天族は戦争に参加できない。
同じ理由でブロウたちも駆り出すことが出来ない。
あれだけの数の竜を従えるとなると、間違いなく高位化していなければならないからだ。
ブロウたちを出すと、間接的にこちらの実力を明かすことになる。
「となると、戦力に数えられるのは儂と主様、シャルロットとリリス、後はリーネか」
シュヴィは少し力不足だ。
個々なら戦えなくもないだろうが、軍団相手では厳しい。
それに何より実戦経験がない。
「奴らは部隊を5つに分けておるの」
エリュシアとラピックスを結ぶ街道には3万5000の軍団が進行中。
その後方には15隻もの飛行船からなる航空部隊が待機しており、約1万5000ほどの兵士を乗せている。
街道から少し離れた山岳地帯には2万ほどの魔獣騎兵部隊が川や森に身を隠しながら進行している。
さらに、2万5000もの後方支援部隊に5000にも上る魔道部隊が待機していた。
「流石に多いね。これで総戦力じゃないんだから」
シャルロットは呆れたように言いながら、"千里眼"で見た敵軍隊の情報を地図に配置し、進行ルートや取って来る戦法などを予想していた。
「ここまでしなくても本来なら勝てるだろうけど、見せしめのつもりなんだろうね」
エリュシアの怒りを買った国がどうなるのか、必要以上に蹂躙することで周辺国を黙らせるのが今回の目的なのだろう。
「とは言え、チマチマされて戦争が長引くよりは良いかな」
下手に戦争が長引いて、周辺国が参戦してくるようなことは避けたい。
それに、軍団を小分けにされると対処できなくなる。
「よし、敵の行動は読めた」
シャルロットの見解では街道を進行する軍団にラピックスの全軍団を集中させ、その隙に航空部隊が爆撃で畑を焼く。
そうやって食料不足にさせたところで、他の国に支援を求められないように裏に回っていた魔獣騎兵部隊が他国に続く街道を閉鎖。
「そんな回りくどいことをしなくても、後ろから一気に攻めた方がよくないですか?」
シャルロットの説明にリリスが疑問を投げかける。
軍団に兵を割かせて手薄になった首都を攻める。
こちらの方が手っ取り早いはずだ。
「そこはやっぱり見せしめの意味が強いんだろうね。食糧難で救援も求めれず、降伏させた上で完膚なきまでに滅ぼす。俺達に逆らったらこうなるぞって周辺国に見せつけたいんだろうね」
「嫌なやり方ですね」
リリスは顔をしかめる。
戦争をするにしても、被害は少なくするべきという考えのリリスにとってエリュシアのやり方は理解しがたいものだ。
「それじゃあ、迎え撃つポイントと誰が対処するか言うね。まず街道を進行してる軍団だけど、これはウルにやってもらう」
やはり敵の最大勢力だけあってウルやリュー以外では対応できない。
ここでリューではなくウルを選んだ理由は、
「リューには航空部隊を任せたいんだ」
空を飛べるリューには地上部隊よりも航空部隊の相手をしてもらいたいのだ。
「リリスは後方支援部隊、リーネは魔道部隊をお願い」
魔道部隊は数こそ少ないが、魔法を使って遠距離攻撃を主体としている。
リリスは魔法のコントロールこそ超一流だが、魔力の総量は少ない。
戦えば負けることはないだろうが、かなりの長期戦を強いられる。
魔族が出てきたら危なくなるかもしれない。
そういう理由でリリスは後方支援部隊を任せることにしたのだ。
「残った魔獣騎兵部隊はボクが引き受けるよ」
本音を言えば、ここをリーネに担当してほしかったのだが、相手の動きが複雑になるので、リーネでは対応できないのだ。
リーネは良くも悪くもまだ子供。
戦法などには縁がない。
「ギルドは国家間の戦争には基本介入しないけど、戦争の正当性なんかを調べる為に偵察部隊が派遣される程度なんだけど……」
シャルロットはそこまで言ってため息をつく。
ギルドといえど巨大になれば腐ってくる部分も出てくる。
リューの"千里眼"で得た情報の中には、シャルロットがよく知る人物がこの戦争に加わっていた。
ジヌディーヤ・ハーマン
エリュシアのギルドマスターを勤める魔獣との亜人で、その能力値は2860と人族領でも屈指の実力者だ。
女好きで短気、自分の思い通りにならない奴は徹底的に叩き潰すといった最悪の性格をしている。
ギルドの会合で何度か顔を会わすことがあったが、しつこくナンパされた。
その時はギルドマスターという立場にいたため、ハーマンも変な気を起こさず抑えていたが、立場がなければ襲いかかって来ていただろう。
「こいつの相手はボクがするよ。色々と嫌がらせもされてたし」
シャルロットにしては珍しく感情的だが、人々を守る立場のギルドマスターが私利私欲のために人々を傷付けるやり方は以前から気に入らなかった。
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「キャハハハハハハハハハ」
フィリップス王の王室に耳障りな笑い声が木霊する。
「もう少し静かにできんのか」
「いえ、コレはワタクシのクセでしてねぇ。嬉しくなるとついデテしまうんですよ。キャハハハハハハハハハ」
フィリップス王の苦言に対して声の主は愉快そうに笑い続ける。
この男こそ、ウルの母を殺した高位魔族だ。
「アノとき殺し損ねた、糞マオウの子孫を殺せるかと思うと、ワタクシ心が踊ります」
その高位魔族は体をくねらせ、踊るように全身で喜びを表現する。
ふざけた態度だが、これでも魔王軍の幹部なのだ。
その力は計り知れない。
「コレでワタクシも魔王様に怒られなくてすみますネ。キャハハハハハハハハハ」
かつて、魔王の子孫を殺し損ねたときに、この高位魔族は新しい魔王に殺されかけた。
そのときの恨みも晴らしてやるとやる気十分な様子だ。
「一応この事を魔王様にご報告しますので、戦争はソッチで適当にやってくださいな」
もともとラピックスが軍力でエリュシアに勝てる道理もない。
この高位魔族にとっては魔王の子孫を炙り出して殺せればそれで良いのだ。
「それではワタクシはここら辺でおいとまイタシマショウかね。キャハハハハハハハハハ」
高位魔族はそれだけ言うと、姿を消してしまう。
おそらく魔族領に戻ったのだろう。
フィリップス王は嫌悪感を露にしながら部屋を出ていく。