できるかぎり頑張ったので、生暖かい目で見ていってください
ラピックスまで残り3分の1の距離まで進軍しても、ラピックスが出兵したという情報は入ってこない。
兵士の間では怯えて出てこれないのでは、といった話まで上がるほどだ。
しかし、今回の戦争はラピックス側から仕掛けたもの。
何かエリュシアと互角に戦える当てがあるに違いない。
だが、そんな付け焼き刃の戦力など恐れるに足らず。
我らの力の前には無意味だと自負している。
だから、エリュシア兵はわりと気楽に進軍していた。
「止まれ」
軍団長のディオン・マギルは前方に空間転移してきた男を確認して、進軍を止める。
ただの旅人ではない。
「ラピックスの使者か」
今さら何のために使者などを送るのか分からないが、敵国の使いで間違いないだろう。
「……」
対して男はなにも言わず、背中に携えていた大剣を抜き構える。
まさかこの男は一人でこの軍勢を相手にしようというのか?
マギルは呆れを通り越して、そのバカさに感心すら覚える。
「このバカは決闘でもお望みなのか?誰か相手をしてやったらどうだ」
マギルが小馬鹿にしたように言うと、辺りから笑いが起きる。
「悪いがこれは一騎討ちの試合じゃない。あの世でその意味を噛み締めるんだな」
マギルが手を振り下ろすと、数人の兵が男に斬りかかる。
たが、
「少しはやるようだな」
マギルの目の色が変わる。
それは戦争を楽しむ狂戦士の目だ。
おそらくこの男の能力値は2000は下らないだろう。
そんな難敵をどう攻略するか。
久々の戦いに気を昂らせる。
「やれ」
陣形を整えさせ、一斉に襲いかからせた。
そこまで実力のない兵士に突貫させ、男が切り捨てた瞬間にそれなりの実力がある兵を斬り込ませる。
だが、男も見事な対応を見せる。
大地を力一杯踏みつけ、地盤を崩してこちらの攻撃を中止させる。
この地形では簡単に近づくことは出来ないだろう。
しかし、それは相手も同じ。
マギルは弩兵に合図をして男を一斉射撃させる。
矢の嵐が男を襲うが、男は大剣を盾のように構え、矢を防ぐ。
しかも、ゆっくりと前進してくる。
「ならば!」
一部の弩兵に空を射たせる。
前と上からの同時攻撃だ。
これは捌けまい!
そう思っていたが、男は魔術で風を起こして矢を逸らす。
これを数回繰り返したところで埒があかないと、槍兵を側面に回り込ませる。
「……」
だが、男の表情に変化は見られない。
それに苛ついた槍兵が男の脇腹を貫こうとする。
それが合図となり、弩兵が弓を放ち、剣士や槍兵は側面から斬撃を繰り出す。
男の操る風は次第に強くなるが、何とか近付けなくもない。
やがて剣の射程範囲に入った兵が男を切り捨てようとしたが、今までの比にならないほどの爆風が吹き荒れる。
「ぐぉう!?」
エリュシア兵は吹き飛ばされまいとするが、大半は踏ん張りが効かず空に舞い上げられて地面に叩きつけられる。
「化け物め!」
ここまで力の差を見せられると、統制がとれなくなる。
恐怖を誤魔化そうと自棄糞になって男に殺到する兵も出てきた。
男は相変わらず無表情のままだ。
片手で大剣を振り回し、大剣の届く範囲に入った兵士を悉く切り捨てていく。
「落ち着け!相手はあくまで個。反撃のチャンスを与えず疲弊させれば良い!」
マギルは大声で叫ぶが、半ば半狂乱となっているため兵に届かない。
そうやって統率が狂ってわずか5分で300人も被害を受けた。
流石にここまで来るとこちらから攻撃を仕掛けようとするものはいなくなった。
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「主様も始めたことだし、儂もそろそろ出るかの」
ウルがエリュシアの本隊と交戦を始めて30分ほど時間をおいて、リューは航空部隊の前に空間転移する。
目の前には軍事用に改造された飛行艇がV字に隊列を組んでラピックスを目指していた。
リューはその先頭の飛行艇に向けて挨拶代わりに軽く魔術を放つ。
ドォォォォォォォンンンンン!!!
激しい閃光と熱風が辺りを覆い尽くし、手前にあった3隻の飛行艇が蒸発する。
リューはかなり手加減を加えたつもりだったが、高位化した影響で以前と感覚が狂っている。
2週間で能力値を5倍にしたのだ、リューといえど感覚にズレが生じてしまう。
「やれやれ、仕方ないの」
あまり派手に暴れるわけにはいかないので、リューはため息をつきながら、ヒラヒラと空を飛び回る。
相手は慌てて砲撃してくるが、リューにそんなもの当たるわけがない。
逆に砲撃の先に別の飛行艇を誘導して同士討ちをさせる。
甲板に出て魔術や矢を飛ばしてくる者もいたが、むしろ格好の的だ。
リューは表に出ている兵を軽く撫でる。
それだけで兵士は肉塊に変わり、血肉を撒き散らした。
「おっと、連絡は取らせんぞ」
相手の指揮官らしき人物が部下に被害状況を本軍に通達するように命令しているのを"千里眼"で聞いたリューは"錯乱"を使って妨害する。
初めに少しやり過ぎてしまったので、下手に情報を伝えられたくないのだ。
「しかし、脆い玩具じゃの」
リューからすれば最新式の飛行艇といっても欠陥だらけに見える。
設計からして無駄が多い。
こんなものを得意がって使っているようでは話にならない。
こちらから攻撃は仕掛けられないので、仕方なく相手の欠点を突いた行動をとらせて、ゆっくりと自壊させていく。
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リリスは後方支援部隊から少し離れた場所に転移して、身を隠していた。
「そろそろ良いかな?」
ウルが交戦を始めて、部隊に混乱が生じたタイミングでリリスは気配を消して白いローブを纏う。
「凍てつく吐息、冥府の風よ。その息吹で生の熱を奪い取り、悉くを永久の眠りに誘え」
リリスが詠唱を始めると、辺りに冷気が広がり、細かく小さな雪が降り始めた。
やがて雪は吹雪となり、辺りを白く染め上げる。
何の対策もしていない人間がこの吹雪を浴び続けたら、骨の髄まで凍え、凍死するだろう。
仮に凍死を免れたとしても、寒さで動きが鈍り、本来の実力を発揮できなくなる。
白いローブを着たリリスは吹雪に身を隠し、"神眼"で能力値の高い者から処理していく。
たまにリリスの攻撃に反応しての防御したりカウンターをしてくる者がいたが、その場合は無理をせず距離をとって姿をくらます。
人を殺すことに心が痛まないわけではないが、ウルの命令ならば躊躇いなく人を殺せる。
リリスにとってウルこそ一番であり、絶対的に優先すべき存在なのだ。
普通に考えれば、自分は歪んで狂ってるのだろう。
しかし、狂っていようが、歪んでいようがリリスは幸せなのだ。
他人からの評価なんてどうでもいい。
リリスはウルの為だけに人を殺し続ける。
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シャルロットは魔獣騎兵部隊がバラける前に襲撃をかける。
部隊はやはり既知の人物が指揮していた。
「ギルドは基本戦争には不干渉のはすだけど」
シャルロットは呆れたようにハーマンに声をかける。
「シャルロット?何でテメェがこんなところにいるんだ?」
「ボクにもボクの事情があってね」
シャルロットは手を横に振る。
すると、突風がごく小さな範囲で起こり、地面に線を描く。
「何の真似だ?」
「ボクも出来れば人を殺したくない。その線を越えなかったらボクは何もしない。けど、その線を越えたら命の保証はできないよ」
「は、はは。何を言うかと思ったら、ラピックスに付いたのか?」
「ちょっと違うけど、君たちの敵ではあるね」
「ケッ、脳ミソお花畑の連中に泣きつかれでもしたのか。まぁ、俺様がいる時点で無意味だがな!」
前にハーマンと会ったときは彼の方が能力値が高かった。
能力値はそう簡単には上がらない。
人族なら一生掛けても200くらいが限界だ。
だから、ハーマンはシャルロットを敵と見なしていない。
「ふんっ!」
ハーマンは両手に握りしめた手斧を力任せに振り下ろす。
以前のシャルロットならこれを食らっただけで、かなりのダメージを負ったかもしれない。
しかし、今は違う。
逆手に構えた短刀で攻撃を受け流し、相手のこめかみにカウンターの回し蹴りを食らわせる。
「痛ってぇな」
ハーマンは蹴られた部分を擦りながら、再び突っ込んできた。
そんな威力を込めて無かったので、まだシャルロットの事を甘く見ているのだろう。
さっきの倍ほどの威力で攻撃が繰り出される。
今度は受け流したりせず、後ろに飛んで躱す。
それと同時に背中の矢筒から矢を4、5本つかみとって、それをまとめて弓につがえる。
「悪を挫く一矢よ、竜よりも速く駆け汝の敵を食らい尽くせ」
飛び道具の威力を高める魔法を併用しながら、シャルロットは全ての矢を同時に放つ。
矢は彗星のごとき速さでハーマンに迫る。
狙撃されたハーマンは、迫り来る矢を左右に躱し、撃墜するが、最後の一本だけ右肩に食らってしまう。
その隙に着地したシャルロットは魔術を使ってハーマンの立つ地面を軟化させ、底無し沼に変える。
魔術や魔法を使えるものなら、対抗する術を使って打ち消せるが、あいにくハーマンにその心得はない
「チッ!」
ハーマンは苛つきながら、武器を全力で足元に叩きつけ、泥沼になった場所をまとめて吹き飛ばす。
その泥はシャルロットに向かって高速で飛んでくる。
柔らかい泥とはいえ、当たれば鉄球を本気で当てられた程度のダメージは受けるだろう。
しかし、シャルロットはこれを全て矢で撃ち落としていく。
「死ねやオラァ!」
泥の散弾でシャルロットの視界を奪い、後ろに回り込んでいたハーマンはシャルロットに致命傷を負わせようとする。
しかし、シャルロットが持つ矢筒に入っていた矢が独りでに飛び出し、ハーマンの攻撃を防ぐ。
「何だそりゃ」
「この矢には事前に魔法を込めていてね」
シャルロットが矢に込めた魔法は、矢がシャルロットの思い通りに動くといったものだ。
しかし、動くだけで威力は普通の矢と変わらないので、決定打になる武器ではない。
「でも、こんな風に大軍を相手にするときには重宝する」
「ぐぁ!」
シャルロットは自分の回りに浮かぶ矢を飛ばし、ハーマンに加勢しようとして線を越えていた兵士達を射殺す。
個対群、これはシャルロットがもっとも得意とする戦い方なのだ。
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「退屈だな……」
魔道部隊の近くに転移したリーネは、足をバタつかせながら暇そうに、相手を見ていた。
リーネがその気になれば一瞬でこんな部隊など壊滅できるが、あまり力を見せるなと言われているので、"呪術"を使って相手の体を内部から腐食させたり、飲み水に毒素を混入させたりと間接的な攻撃に止めている。
「先生、攻撃しちゃダメ?」
『駄目じゃ。お主は力のコントロールが下手じゃから、必ずやり過ぎる』
リーネはこんな相手さっさと片付け、ウルに誉めてもらいたい。
しかし、リューに止められて仕方なく時間をかけている。
『心配せんでも、主様は誉めてくれる』
「ホント!」
『じゃから、今は我慢せい』
「わかった!」
ウルが誉めてくれるなら、どんなことでもする。
リーネはご褒美ももらえるかな?
とワクワクしながら、何の感情も持たずに相手を惨たらしく殺し続ける。