「ウル・ラグナルさん、あなた達にお願いしたいことがあります」
「どうして俺がウル・ラグナルだと分かった」
はっきりとウルの事をウル・ラグナルだと言った。ウルは明らかに威嚇して問いただす。
「君たちがあまりにも能力値の魔獣を何体も倒していたから気になって鑑定の魔法で君のステータスを見さして貰った」
ウルは舌打ちしながら自分の迂闊さに腹を立てる。<偽装>はONの状態にするためには一度自分の意思で発動しなければならない、ウルは<偽装>を使ってなかったのだ。先程感じた視線はステータスを見られたものだったのだろう。しかし今は過ぎたことを悔やんでも仕方がない、問題はシャルロットの対応だ。
もし誰かに話していたら最悪この街の者全員殺さなければならない
「俺がウル・ラグナルだということは」
「誰にもしゃべっていません」
(嘘をついてる感じはしない、誰にも話してないということは問題は頼みごとの方か)
「で、俺達に頼みたいことってなんだ」
ウルは武器に手をかけ対応次第ではお前を殺すと言外に脅す。一方脅されたシャルロットといえば額から冷や汗を流しまるで蛇に睨まれた蛙の様になっている。
「き、君達にはある依頼を受けてほしいんだ」
「依頼?」
「最近特別指定区域に行った者が一人も帰ってこなくて調査に行ったAランクの者5名も連絡が取れなくなってしまったんだ」
「・・・特別指定区域とかAランクとか言われてもよく分からん」
シャルロットは一瞬キョトンとしてから慌てて説明する。
ギルドでは能力値に合わせてランク分けをしており
1000以上の者をSランク
900以上の者をAランク
800以上の者をBランク
700以上の者をCランク
600以上の者をDランク
500以上の者をEランク
400以上の者をFランク
300以上の者をGランク
200以上の者をHランク
200未満の者をIランク
とランク分けしており、特別指定区域は資源が豊富だが強力な魔獣が多く生息していてCランク以上の実力を持っていないと立ち入ることのできない場所だ。
説明の間シャルロットはおかしそうな顔をするが、知らないものは仕方がない。
「話を戻します、あなた達にはその特別指定区域に行って原因を調べて来てほしいのです」
「なんで俺達に頼る、お前が行けばいいだろ」
「Sランクの者は許可なくクエストに行けないんだ。それにそのあたりで天族を見たって噂もあるし」
シャルロットの能力値は1500近く、天族は翼の枚数で強さが変わるが基本的な2枚羽の平均能力値は5000、噂が本当ならシャルロットでは無理だろう。
「で、その依頼を受けて俺達に何のメリットがある」
「え、えっと君たちの事を誰にも話さない」
「そんなことお前を殺せば済む事だろ」
今のウルの能力値は5000を超えている、天族と変わらない存在に殺すと言われてシャルロットはビクッと震える。
「ボクにできる事なら何でも聞く、例え命を差し出せと言われても従う。だから、どうかお願いします!!」
シャルロットは床に手をつき頭を下げる。
「ウル様、この依頼受けていただけませんか」
アルリアが珍しくウルに意見する。何か考えがあるのだろう。
「どうしてそこまでする?」
「この街はあそこから手に入る資源で成り立っている。あそこからの資源が無いとこの街は成り立たないんだ」
街に入った時に感知した負の感情はそういう理由があったのだろう。
「そのために死んでもいいと?」
「ボクはこの街を愛している。この街のために死ぬのならそれで構わない」
シャルロットは顔を上げウルの目を見つめる。
「・・・分かった」
彼女からは打算も悪意も感じられない、本気で言っているのだろう。しばらく見つめ合っていたがウルの方が先に根負けしたようにため息を付きながら依頼を受けることにする。
「ありがとう!」
シャルロットはもう一度頭を床につけ礼を言う。
「その代り条件がある、お前も一緒に来い」
自分達が出ていってる間に誰かに話さないとも限らない、目の届く範囲で監視しておく必要がある。
「分かった、どうにか許可をもらえるよう掛け合ってみる」
「俺たちの存在は?」
「もちろん話さない、あくまでボク一人で行くことにしておく」
噓をついてる感じはしない、これも本当なのだろう。
「ただ、許可が下りるまでかなり時間がかかると思う」
「どれくらいだ」
「たぶん一ヶ月くらい」
「駄目だ、長すぎる」
「仕方がない、許可なしで行こう」
天族がいるという噂があったとはいえ街の事を大切に思っているシャルロットが今まで許可なしでも行かなかったところを見るとあまりよくない事なのだろうがウルも一ヶ月も待つ余裕はない。
「誰にも話さず行くと大事になるので何人かには一人で特別指定区域に行くと伝えていいかい」
ウルとしても面倒なことになるのは避けたい黙って了承する。何人かに反対されていたが、餅のためだと言うと渋々認めた。
ウル達は<隠蔽>を使い姿を隠して街を出る。特別指定区域は東門から道沿いにまっすぐ二日ほど歩いたところにあるらしい。
「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。ウルさんはそんなに悪い人じゃないですから」
リリスはこの隙に殺されるのではないかと怯えているシャルロットを安心させるように話しかける。二人はしばらく話している内に打ち解けたのか笑顔を見せながら話し合う。
「シャルさんて亜人なんですね」
「亜人?」
「人族は他の種族と子をもうけられ、他種族と混血の者を亜人と呼ぶんだ。ボクの場合は父がエルフなんだ」
アルリアより先にシャルロットがウルに笑顔で亜人の事を詳しく説明する。説明が終わると気まずそうに苦笑いをする。
しばらく歩いていると日が暮れてきたので夜営の準備をする、リリスはアイテムボックスからアイテムを取り出し料理を始める、途中からシャルロットが手伝にはいる。
晩飯を食べた後リリスはすぐ寝てしまったが、ウルとアルリア、シャルロットは一向に寝ようとしない。
「お前は俺の事をどう思っている」
ウルから初めてシャルロットに向かって話しかける。
「人類の敵、と教えられているけど少なくとも今はオリブントの街を救おうとしてくれてるいい人だと思っている」
「そうか」
ウルはそれだけ言うとまた黙る。結局三人は一睡もしないまま朝を迎える。
「もうすぐ関所がある姿を隠しておいた方がいい」
道中魔獣に襲われる事無く特別指定区域の近くまで来るとシャルロットが教えてくれる。ウル達は<隠蔽>を使い姿を隠す。
「とまれここに何の用だ」
関所から二人の兵士が出てきて行く手を阻む。
「ギルド長のシャルロット・ルーシアだ、特別指定区域の調査に来た」
シャルロットはギルドカードを出しながら言う。
「これは失礼しました、どうかお気を付けて」
兵士は敬礼すると道を開ける。シャルロットの後について関所を抜けしばらくしてから<隠蔽>を解く。
「君達は本当に何者なんだい?」
「詮索はなしだ、それよりお前たちはここで待機してろ」
正確な強さは分からないが奥の方に強い力を感じる、恐らく噂は本当なのだろう。ならば二人は足手まといになる。
三人を残し一人で奥へ進む。奥に進めば進むほど力が大きくなっていく。
「私の領地に無断で踏み入る身の程知らずなゴミ虫がまだいましたか」
力の元にたどり着くといきなり声を掛けられた。そこには神が降臨するように太陽の光に照らされ、血のように真っ赤な髪を風で揺らし、黒い瞳にウルの事を映し、音もなくウルの目の前に降り立った。その姿は美しく一般の者が天使と言われて納得するのも分かる。その天族はウルの事を敵とは捕らえていない。
「お前、最近ここに来る連中を殺してるのか?」
「ええ。私の領地に無断で入り込んだ罰として当然の報いです」
「だったら今すぐやめろ、やめないならぶっ飛ばす」
「あなた自分立場を理解していますか?必死に命乞いするならともかく私に命令、しかもぶっ飛ばすですか」
天族が初めて不快感をあらわにする。それだけで普通だったら死ぬくらいの圧力がかかるが、ウルはなにくわぬ顔のままだ。
「せめて冥土の土産代わりに自分を殺す者の名前くらい教えておきましょう。私はジブルと申します」
「なら俺もおまえを倒す者の名を教えてやろう。ウル・ラグナルだ」
ウルの名を聞いて一瞬驚いた表情をするが、すぐに真顔に戻し殺気を放つ。
ジブルはウルより能力値が高いが、ウルには切り札があるそう簡単に負けることはない。
「死になさい」
ジブルはそう言って右手をウルの方に向ける。その手からは何重もの魔法陣が現れる。
「炎よ我が従順な狗よ我の敵をその咢で食い殺せ」
ジブルは魔法を使ってくる、天族だけあって詠唱もかなり短縮してくるが、ウルも魔法を放ち相殺する。
本来能力値で劣るウルの魔法だが膨大な魔力によってその差を埋めてしまう。
何度も魔法を撃ち合いそのたびに相殺し合い両者には一向にダメージが入らない。埒が明かないと思ったのか炎を槍の形に変え直接攻撃をしてくる。しかしそれこそウルが望んだ状況だった。魔法が相殺し合う以上空を飛べるジブルに対してウルは攻撃手段を持っていなかったからである。
ウルも自分の剣に魔法をかけジブルの攻撃を受ける。ただし正面から受けては武器が壊れてしまうため受け流し、相手がバランスを崩したところをもう一つの剣で追撃する。しかしジブルは空へ飛びあがりギリギリ回避する。その後も手を変え品を変え攻撃してくる。能力値で劣っている以上攻撃をまともに受けてはウルでも危ないがウルの剣は蛇のように絡みつき、軌道をずらし思う様に攻撃させない。しかし防戦一方の戦いになっているこのままではいずれやられてしまう。こちらから攻撃する方法が無ければ疲弊するまでゆっくりと攻撃し続ければいい。そんなことはジブルも分かっているが何時間経ってもウルは疲れ様子を見せない。
明らかに苛立って大ぶりな攻撃ばかりしてくるようになるとウルは切り札を使う。切り札とはウルが無意識で魔法を使っていた時によく使っていたという魔法だ。その魔法は自分のステータスを大幅に上げる代わりに魔力を大量に使用するため5分しか持たないうえ、使用後は1日魔法が使えなくなってしまうなどリスクも高い。
「はっ!」
ウルはジブルの攻撃を真正面から受ける。当然武器は壊れるが力任せに弾き飛ばしジブルの武器も破壊する。そして一瞬でジブルの前に行き殴り飛ばす。空中だったためガードできずまともに受ける。
「氷狼よ・・・くっ」
魔法の詠唱より早く攻撃を加える。今度はジブルもただで食らわず殴り返してくるがその手を掴み握りつぶす。バキ、ゴキと嫌な音が木霊する。
「くあぁぁぁぁ!!」
悲鳴を上げ目を閉じたタイミングで足を踏みつける、こちらも骨が砕けた音がしてまた悲鳴を上げる。そんなことはお構いなしにジブルの腕に自分の巻きつけ、締め上げる。
「がぁぁぁぁああっ」
更に数か所が同時に折れる生々しい音が響く。そのまま振り回す。周りの木に叩きつける。ジブルは数十メートルとばされ木々をなぎ倒しながらようやく止まる。ウルはゆっくりと近づく。
「ひっ!」
ジブルの目にはすでに戦意はなく地べたを這いで逃げようとする。それを踏みつけ逃がさないようにする。そして残った魔力を殆どつぎ込んだ魔法を放つ。ジブルは吹き飛ばされ手足を滅茶苦茶に投げ出しうつ伏せに倒れる。
死んではいないが意識を失ったようだ。ウルも体力を使い果たし指一本動かせなくなる。念話でアルリア達に連絡を取り迎えに来てもらう