恩義
「やっぱり魔族領ともなると、瘴気がかなり濃いね」
瘴気とは基本的に害にしかならない。
ウルでなくとも濃い瘴気は体に負担がかかるのだ。
「世界樹の葉が大量に手に入ってよかったよ」
シャルロットは少し疲れた表情をしながら、世界樹の葉を細かく刻んで煮出した世界樹茶を飲む。
世界樹には瘴気を祓い、清める効果がある。
その葉を煎じて飲むことで、瘴気の影響をほぼゼロに出来るのだ。
しかしこれはあくまで一時的なものに過ぎない。
ウルの"瘴気耐性"と違い定期的に飲まないと効果が薄れていく。
「世界樹さんの葉はいくらでも手に入りますけど、食料の方が持つか心配ですね」
リリスも世界樹茶を飲みながら、食料を保管している部屋を覗く。
魔族領に生息している動植物は全て瘴気に犯されている。
一定ライン以上の能力値があれば、強引に食べれないこともないが、ウィズやウィラ、シュヴィなどは食べれない。
よって、ウル達は人族領で買い貯めしておいた食料を使っている。
「エリュシアではあんまり買えなかったからね……」
戦後間もない国で大量に食料を買い漁る訳もなく、ウル達は最小限の買い物だけ済まして人族領を出た。
もちろん、今までに狩った魔獣の肉や山菜などもあるので、すぐに底をつくということはない。
しかし、どれくらい魔族領に滞在するかわからないのだから、無計画に消費する訳にもいかないのだ。
「しかし、魔王も面倒なことをしますね。主様と戦うつもりなら、わざわざ結界など張る必要もないでしょうに」
いま、魔族領は魔王が張った結界で自由に移動ができなくなっている。
魔族領の端から中央にかけて螺旋状に結界の要が散りばめられており、順番に解除していかないと魔王のいる場所までたどり着けない仕組みだ。
「お前様の実力を正確に測りたいんじゃろ」
リューはチラッと空を見上げながら、ため息をつく。
魔族領に到着してからと言うもの、魔王はかなりの頻度でウル達の事を見ている。
リューが打ち消しても暫くしたらまた覗いてくるのだ。
「ま、それだけではないじゃろうがの」
魔王からしたら、より長く楽しみを味わうための余興とっいたところだろう。
強すぎる力を持ったものは、全てが思い通りに進むので、退屈を感じるのだ。
「ですが、そのおかげでマスターの力を蓄える猶予が出来たわけですが」
そう言葉を続けるのは、イーではなくスーだ。
能力値の低いウィラやウィズ、シュヴィと、新たに魂が生まれつつあるイーは体に悪影響が出ないように部屋で待機している。
「リーネはお兄ちゃんに一杯抱いて貰えるから、このままでもいい!」
リーネは嬉しそうな顔で少しずれたことを言う。
人族領を出てから、ウル達は毎日欠かすことなく性交での能力値強化を行っている。
その結果、ウルに抱いてもらえる回数が増えたので、実は他の眷族達も満更ではないのだが、それを口にする者はいない。
そんな風に話し合いをしていると、遠くのほうで誰かが近付いてくる気配がして一瞬警戒するが、相手はこちらに気付いている様子もない。
「魔族かな?」
「弱小魔族では大した情報も持ってないやろうけど、捕らえましょか?」
ウルは魔族領の情勢を一切知らない状態だ。
捕らえて、情報を聞き出すかとキアラは気楽に聞く。
このメンバーなら魔族軍の幹部が来ても余裕で対処できる。
魔王以外に警戒する要因がないのだ。
「そうだな」
ウルが頷くと同時に、キアラは転移で相手の魔族の後ろに回り込む。
その魔族はまだ子供で、能力値も人族より低い。
キアラはその子供の喉を手刀で軽く切る。
「ひぃっ!?」
「おかしな事したら殺すで」
冷たいキアラの声に、子供の魔族はガクガクと震え、固まる。
その状態でいくつか質問をして、情報を得る。
「あ、あの」
キアラの質問がすべて終わると、子供の魔族は恐る恐るといった様子で口を開く。
「あなたは、ラグナル
子供魔族の言葉にキアラはピクリと反応する。
魔族領中にウルが来ることは知られているらしいが、わざわざ様を付けたことが気になったのだ。
「も、もしラグナル様なら、ぜひ僕たちの集落に来て欲しいんです」
この魔族からは何かを企んでいる様子は見られない。
どうするべきかと、キアラは念話を使ってウルに指示を仰ぐ。
『そっちに行く』
ウルもこの魔族から悪意は感じられなかったので、転移を使って子供の魔族の前に移動する。
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「ラグナル様、こんな辺鄙な場所に来ていただいて……ありがたい限りです」
子供の魔族に連れてこられた集落の長がウルを拝むように手を合わせて、合掌する。
「なんで魔王の敵である俺にそんな態度をとる」
「魔王ソフィアはあたし等みたいな弱小魔族のことを気にも留めていません。あたし等みたいなのは自然に淘汰されればいいと考えてるんです」
今の魔王のソフィアは完全な実力主義で、弱者に対して見向きもしないらしい。
「しかし、かつての魔王のラグナル様たちは、あたし等のことを気にかけて下さいました」
力のない魔族にとっても濃すぎる瘴気は毒になる。
だから、ウルの先祖は力のない魔族を瘴気の薄まる魔族領の端の方に住まわせた。
そして、海の食料を取りやすくするために当たりの魔獣を駆除し、緊急の際にすぐに魔王軍と連絡が取れるように王都と集落を繋ぐ街道を作ったりと、弱い魔族でも見捨てることはなかった。
「あたし等みたいなラグナル様に助けられた魔族は、今の魔王を認めていません。あたし等が王と仰ぐのはラグナル様だけです」
もちろん、先祖たちとウルが同じ思考とは限らない。
しかし、違うとも限らない。
「あなた様に魔王ソフィアを倒し、あたし達の王になって頂きたいのです」
集落の長は真剣な表情でウルを見つめる。
「あたし達程度の実力じゃあなた様のお力になれない事は分かっていますが、かつて受けた恩義に報いるため、出来ることは全てさせて頂きます」
長だけでなく、当たりを囲んでいた全ての魔族がウルのために命を懸けると言う。
それを聞いてウルは少し考える素振りを見せる。
「もし俺が死ねと言ったら死ねる、俺の全てに従うというなら、たとえこの世が滅んでも―――お前たちを保護してやる」
ウルの放った言葉に魔族たちは絶句する。
それはウルの心ひとつで生死を決められるということ。
それほどの代価に安定を与えると言うウル。
「あたしはラグナル様がいなければ、とうに果てていた身。あなた様がそれを望まれるのでしたら、あたしの全てを捧げましょう」
長が初めに口を開く。
それに釣られるように他の魔族も口々にウルの提案を受ける。
全員がウルの提案を受けた時点で、ウルはここにいる全ての魔族と奴隷契約を結び、集落を部屋化する。