またゆっくりと投稿していきます
「随分とあっさりとしてたね」
魔族領の外周を地脈の通りに回って、結界の要を擁する街にたどり着いたウル達は要を護る魔族と交戦したのだが、魔王が何か仕掛けてくる訳でもなく、ウルの一撃で魔族を絶命させた。
「もともと護るつもりも無かったのでしょう」
ウルが倒した魔族は高位化すらしていなかった。
幹部であったバアルを抵抗すらさせずに殺したウルを相手にそれは舐めているとしか言えない。
恐らくだが、ウルの戦闘を見るために捨て石にされたのだろう。
「向こうもお前様の相手ができるのは自分だけだと分かっておるじゃろう」
リューは相変わらずウル達の行動を監視している魔王の視線を感じながらため息をつく。
この魔王は遊んでいるように見えて案外抜け目がない。
ウルが攻撃を繰り出す瞬間は遠見の魔法を強くして、リューでも払えなくしていた。
ウルの動きをたとえ一撃でも見逃さないつもりだ。
格下と認識しながらも脅威に成りうるなら、油断なく勝ちに来ている。
リューは厄介だなと魔王への警戒をさらに強くする。
(儂は魔王との戦いには参加できんしの……)
例えばウルがリューと協力して魔王を倒せたとする。
しかし、超高位化した強さの者同士が戦えば、間違いなく
魔王との戦いで消耗した状態であいつと戦うことはできない。
だから、ウルには一人で魔王を倒せるだけの強さを手に入れてもらう必要がある。
「…………」
ウルはそんなリューの様子を見ても何も言わない。
ウルもリューが警戒してるのが魔王ではないことくらいは気が付いている。
しかし、そのリューはその存在のことを口にしようとしない。
そいつに気付かれれば、魔王より厄介なことにあるからだ。
ウルもそこまで分かっているが、リューを問いただそうとはしない。
それはリューのことを信用しているからだ。
高位化をするために眷族にはなれなかったが、ウルはリューのことを他の仲間と同じように考えている。
リューが自分のことを考えて黙秘しているのなら、それで構わない。
「ウルさん、変わりましたね」
そんなことを考えていると、リリスが嬉しそうな顔をしながら話しかけてくる。
「そうか?」
ウル自身は特に変わったつもりはない。
「はい!優しい表情をよくするようになりました」
リリスは眷族の中で一番付き合いが長い。
一番ウルの傍でウルのことを見ていたのだ。
そのリリスが言うなら、きっとそうなのだろう。
「ウルさんはこの世界をどうするか―――決めたんですよね」
「……ああ」
リューに先祖の話をしてもらい、エレニーの国を救った時点で、大体は決めていたが、魔族領に来て自分に隷属した弱小魔族たちを見てウルの心は完全に固まった。
後は母の魂を取り返すだけだが、もう急ぐ必要はない。
ゆっくりと自分の足で歩を進めるつもりだ。
「初めてウルさんと出会ったときはこんな事になるなんて思いませんでしたが……私、ウルさんと出会えて良かったです」
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リリスが初めてウルに会ったのは住んでいた村を魔族に壊滅させられ、一人で行く当てもなく彷徨っていた時だ。
何日も飲まず食わずでいたため、意識が朦朧としていた時に、偶然見つけた川で大量の血を流して気を失っているウルを見つけのだ。
ウルの傷は深く、このままでは死んでしまうのは、子供のリリスでもすぐ分かった。
自分ももうすぐ死ぬと分かっていたリリスは、最後にこの人を助けて死のうと、持っていた最後の薬草をウルに与えた。
それでもウルの傷は完治しなかったが、とりあえず命の危機は去った。
そのままリリスはウルの体を川の水で清め、止血などをの応急手当を施す。
そして、自分の体力が尽き、眠るように意識を手放したかけた時にウルが目覚めた。
ウルは失った体力を補充するために近くにいたリリスを殺し、食べようとするが、リリスは抵抗するそぶりを見せない。
リリスの体力が無かったのもあるが、リリスはこのまま殺されてもいいと思ったのもある。
魔族に家族や友達を殺され、生きる希望も無かったからだ。
だが、ウルは自分が手当てされている事に気付き、手を止めその場を去ろうとする。
「お母さん……」
リリスの力のない声と、一滴だけ流れた涙を見てウルは立ち止まる。
少女の体は擦り傷だらけで、服も煤けていた。
何度も見てきた住む場所を奪われ、家族を失った者の特徴だ。
ウルも母をバアルに殺されてたばかりだったこともあり、なんとなく放置する気になれなかった。
目の前で気を失っている少女は、放っておけば魔獣に食い殺されるだろう。
この少女も自分の正体を知れば、悪意を向けてくるだろうが、せめて意識が戻るまでは守ってやろう。
そう思ってウルはリリスの傍に腰を下ろした。
今思えば、この行動は同じく母を殺されたばかりでリリスに親近感をを覚えただけでなく、リリスの優しさを感じていたからかもしれない。
だが、ウルはリリスが目覚めるで傍にいた。
そして夜が明けるとリリスは目を覚ます。
酷く衰弱しているリリスを見てそこら辺で狩った魔獣を食料として与えて、ウルは再びその場を立ち去ろうとする。
「あ、あの!」
離れていくウルをリリスは呼び止める。
「お名前を教えていただけませんか」
初めに助けたのはリリスだが、リリスはそんなこと気にしておらず、ウルに助けてもらったとしか思っていない。
「………………ウル・ラグナル」
ウルは長い沈黙の後に自分の名前を告げる。
自分の名前を教えてもこの少女には何もできないという思いだったが、心のどこかでリリスを自分から遠ざけたかったのかもしれない。
ウルは少女が自分に敵意を向けてくると思ったが、リリスの行動は予想外のものだった。
リリスはウルの名前を聞いて驚いた様子を見せるが、分けてもらった貴重な食料の一部をウルに差し出してきたのだ。
「一緒に食べませんか?」
リリスはウルに対して敵意を向けるどころか距離を詰めてきたのだ。
「…………俺を知らないのか?」
ウルは少女が自分を知らないだけかと思った。
だが、
「もちろん知ってます。でも、あなたは私を助けてくれました」
リリスはウルのことを知っているが、本人を知っていたわけではない。
ウルはリリスを殺そうとしたが、思いとどまり、気を失っている自分を守ってくれただけでなく食べ物までくれた。
世間ではどんな風に言われていても、それは変わらない事実だ。
「あなたは優しい人です」
リリスはウルに笑顔を見せる。
それはウルが生まれて母以外で初めて向けられた好意だった。
「あなたもまだ傷が治ってませんし、一緒に食べましょ」
目の前に差し出される食料。
ウルは自分が何を感じているのか分からないままにそれを受け取る。
ウルほどの回復力のなかったリリスが動けるようになるまで数日かかり、その間ウルはリリスのために食料となる魔獣を狩った。
回復すればリリスも自分から離れるだろうと思ったのだが、動けるようになってもリリスは自分から離れない。
それどころかさらに好意を向けてきた。
リリスはウルと一緒にいることで世界から敵意を向けられてもウルから離れなかった。
リリスにとって親しい者はウルだけになっていたからだ。
そんなリリスにウルも次第に心を開いていく。
リリスもウルが受けてきた仕打ちの一端を知り、ウルの味方になっていく。
そうして二人は心を通わせ合う。
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「私は……私達は、どこまでもウルさんについていきますよ」
リリスの言葉はウルが決めた答えをさらに強くすることになる