※この作品はR-18です。

世界に絶望した救世主の救済方   作:ウル・ウルス

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ナーシャの思い

 

ウルと眷族契約を結ぶのは次第に簡単になっている。

以前は相手がウルに全てを捧げる覚悟と、ウルが相手に対して完全に心を開いている必要があった。

だが心境の変化で難易度がかなり下がり、今ではウルに全てを捧げる覚悟と、相手に対して多少心を開いているだけで眷族契約が結べる。

ウルはナーシャに自分に似た感覚を感じていたし、ナーシャも死の淵に瀕したことでウルに全てを捧げる覚悟を持てた。

しかし、それは一時の感情で、いわば神頼みのようなものだ。

その物事が起こっている間は真剣に願うが、事が終われば気持ちは薄れていく。

勿論、眷族契約の強制力でウルの不利になる行動はとれないし、命令に逆らいこともできない。

だが、例えばナーシャが捕らわれ、ウルの足を引っ張り、ウルに致命的なダメージを与えてしまう状況になったとき、ナーシャは自らの意思で自害するかと言われれば、それは無いと断言できる。

 

ウルの仲間でいるためには全てを捧げる覚悟など最低限の条件なのだ。

ナーシャはその最低ラインですら眷族契約の強制力なくして満たせない。

さらにこの一週間、シャルロットやイーは積極的にナーシャに声をかけ距離を縮めようとしていたが、ナーシャは距離を縮めるどころか距離を置こうとさえしていた。

彼女達もナーシャのことを仲間だとは認めていない。

それでもウルが眷族契約を結んだ相手だからこそ距離を縮め仲間になろうとしているのだ。

そんな状況で差し出された手を振り払えば心など通わせられるわけもなく、連携すらままならない。

 

ウルの眷族の存在意義はウルの力になること。

それができない以上、ナーシャは足手まといのお荷物でしかない。

 

「主様の役に立てん貴様を生かしておく価値があると思うか」

 

リューの口から発せられる言葉は呪詛のように冷たく纏わりつく。

体は鉛のように重たくなり、命の灯が今にも消えそうに揺らぐ。

それでもナーシャは抵抗すら許されない。

頬に添えられていた掌がゆっくりと下がり、首筋を愛撫する。

リューが少しでも力を入れれば簡単にへし折れてしまう。

ナーシャは命乞いしたい気持ちを必死に押さえつける。

この状況でそんなことを言えば、その瞬間に殺されると理解させられているからだ。

 

「今の貴様が役に立つことといえば―――儂に進んで食われる事じゃ」

 

リューは"分解"によって食った物をそのまま魔力に変換できる。

ナーシャを食らい生きたまま魔力に変換し、"森羅"で己の肉体へと還元することで魂を壊さないようにする。

こうすることでナーシャの能力値を失わずに事実上殺すことだ出来るのだ。

だが、リューはここまで言って手を離し、放っていた重圧も消し去る。

 

「と、言ってみたもののオヌシは主様が眷族に迎え入れた者じゃ、主様のためにも殺しとうない」

 

リューが手を離したことで体を支えらえなくなったナーシャは地面に崩れ落ちる。

受け身も取れずかなりの勢いで体を打ち付けたが、痛みなど感じる要はない。

なぜなら、状況は全く変わっていないからだ。

 

「要はオヌシが仲間に相応しい意志を持てばいい話じゃ」

 

リューは倒れたナーシャの傍にしゃがんで言い聞かせるようにゆっくりと言葉を発する。

その顔には優しい笑みが浮かべられているが、目は一切笑っていない。

ナーシャのことなど眼中にない、ただ邪魔な物を見る恐ろしく冷たい目だ。

 

「なんやリュー先生、こんなとこに呼び出して」

 

ナーシャが恐怖したまま固まっていると酒瓶を手に持ったキアラがフワフワと飛んでくる。

さっきまで飲んで酔っ払っていたはずなのに、今は完全に酔いが醒めている様子だ。

 

「例の魔法を使いたくての」

 

キアラは特殊な魔法を編み出している。

魔法にかかった者の精神を構築した空間に閉じ込める魔法だが、本来はスキルに分類されるべき能力を持つ。

なぜなら、魔法空間はキアラの思い通り変化するからだ。

相手の能力を奪うことも、自身の強化も思うがまま。

しかも魔法空間で起こった事は現実に反映することもできる。

魔法空間で相手を殺せば現実でも相手は死に、現実で致命傷を負っても魔法空間に逃げ込み回復させれば死ぬ事はない。

この魔法のおかげでキアラは多少相手が強かろうが互角に戦うことができる。

勿論、デメリットもそれなりにある。

魔法なので発動までに時間がかかり、膨大な魔力を消費するので長時間の持続はできない。

さらに、相手の弱体化も自身の強化のキアラの魔力による現象なので限度があり、その状況でも相手がキアラをはるかに上回っていた場合、強引に魔法を破壊されてしまう。

 

「いいけど、何に使いはるん」

「少しコヤツの考えを改めさそうと思っての」

 

チラリとナーシャに視線を向けると、キアラは「ああ」と納得した様子を見せる。

キアラの魔法空間は世界を自由に構築でき、相手の魂にも干渉できる。

さらに魔法空間でいくら死のうと現実に反映しなければ実際に死ぬこともない。

これほど便利なシミュレーションはない。

 

「これからオヌシには様々な状況を体験してもらう。具体的に言えばオヌシが主様の足を引っ張りかねん状況じゃな」

 

リューはただ淡々と説明を始める。

 

「その状況でオヌシは死を選ぶか、あるいは死ぬことができないかを見させてもらう」

 

ウルのために死ねるところを見せる。

それだけでいいのかと少し安心したナーシャの心を見透かすようにリューは注意事項を口にする。

 

「ただ単に死ねばよいというわけではない。眷族は主様のモノ。主様の心を痛めぬよう極力死は避けねばならない」

 

あくまで自分のためではなく、ウルのためだと念押ししてからさらに続ける。

 

「ある程度の状況は把握できる状態で主様のために死ぬべき状況か、あるいは他の打開策があるのかを見極めよ」

 

本来はこのことにすら自分で気づかなければならないのだが、今のナーシャでは不可能だ。

リューもウルのためにナーシャを殺したくはない。

だから許容範囲ギリギリまで難易度を落とし、ヒントを与えているのだ。

 

「オヌシの行動を見て主様の傍にいるに相応しくないと判断した場合は…………本当に殺すぞ」

 

最初のように重圧を放ちながら宣言され、ナーシャは絶望に苛まれた。

しかし、逆らうことなど許されず、キアラの魔法にかけられ魔法空間に囚われる。

 

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ナーシャが死をここまで恐れるのには理由がある。

"死の祝福"

ナーシャが生まれた時から持っていたスキルだ。

効果は視界内の能力値が劣る相手を無条件で殺す。

高位化していない者が持っているスキルとしては相当稀だが、魂を扱うスキルとしては普通の効果だ。

このスキルだけならまだマシだったかもしれない。

しかし、ナーシャはもう一つ"忌む靈"というスキルを保持していた。

効果は自身の姿を認識した相手に強烈な憎悪感を与えるといったものだった。

このスキルの厄介なところはナーシャの意思と関係なく常に発動しており、スキルの影響を受けた者は能力値の差に関係なくナーシャを殺そうとしてくるところだ。

 

そのせいでナーシャは物心付いた時から両親に暴力を振るわれた。

たまたま能力値が高く生まれてきたために、殺されることは無かったが、常に殴られ、刺され、切り刻まれる生活。

いくら能力値が高くてもダメージは蓄積する。

本能で死を察知したナーシャは"死の祝福"を使い、両親を殺した。

その時、両親は苦しみ顔を歪めながらもナーシャに呪詛を浴びせ続け、最後まで両親の殺意に満ちた顔以外を見ることはできなかった。

 

ナーシャは生んでくれた両親を殺してしまったことに涙を流しながら、家を出ていく。

初めて見る外の世界。

しかし、そこは家の中と変わらなかった。

ナーシャを見た者は一瞬で表情を豹変させ、両親と同じように殺意に歪んだ顔で殺しにくる。

 

ナーシャは必至で逃げるが、逃げれば逃げるほど人の目に触れ、四方八方から襲い掛かってくる。

ついに逃げきれなくなり、また"死の祝福"で全員を殺す。

両親と同じように殺意と苦痛に溢れた表情で死に絶えていく周囲。

この時、ナーシャは死というものをはっきりと認識した。

 

人目を避け、姿をローブで隠してもどうしても見つかるときがある。

それが自分より弱い相手だけならまだいいが、相手の方が強かろうが問答無用で襲われるため、ナーシャ自身も何度も死にかけた。

その度に死の認識を強く刷り込まれ、自分で殺した相手の感情をより深く理解できるようにされてしまう。

次第にナーシャは死を恐怖し、50を超える頃にはどんなことをしてでも死から逃れようと考えるようになった。

そして五年ほど前に魔王ソフィアに出会い、高位化をすることで"忌む靈"を捨てることができたが、今まで培った死への恐怖は消えることは無く、ソフィアに恐怖によって首輪を嵌められ、死に対する恐怖は強まる。

 

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ナーシャはもう何度目か分からない死を経験していた。

キアラは今までに殺した相手の記憶や感情を元に死の苦痛や恐怖を完璧に再現している。

もはやこれが現実なのか魔法の中なのか分からない状態で死の選択を迫られた。

怖くて逃げ出したくなった。

もう開放して欲しかった。

何度も死ぬことで死に慣れるどころかますます死にたくないという気持ちが強まった。

しかし、これがまだ試験の一部なら死ななければ確実に殺される。

その選択が合っていたのかさえ分からない。

死にたくないという感情のせいで死の苦痛を感じなくてはならない。

もう何が正解なのか分からず、思考が纏まらない。

いっそもう死を受け入れることが出来たらと考えるが、死の恐怖がそれを許さない。

 

―――どこで間違えたんだろう

 

暗い何もない空間の中で揺らめきながらぼんやりと考える。

自分は死という恐怖から逃れるために死と対極の生にしがみ付いてきた。

なのにこのまま生にしがみ付けば殺されてしまう。

 

―――助けて

 

そう心の中で何度も祈り続ける。

だが与えられるのは絶望だけ。

 

―――怖いよ……死にたくないよ……

 

膝を抱えて丸まり涙を流す。

しかし、非常にも意識が薄れてくる。

これは何度も体験した次の試験が始まる予兆だ。

また始まるのかと感情を殺そうとしたとき、急に意識がはっきりして、誰もいないはずの空間に自分以外の誰かを感じる。

誰だろうと意識を集中させ誰かを感じようとすると、誰かはナーシャの傍に寄り添う。

 

―――温かい

 

誰かは優しい熱を帯び、冷え切った心を温めてくれる。

この誰かにずっとそばにいて欲しい、誰かに身を委ねてしまいたい。

そう思うほど誰かが鮮明に見えてくる。

 

(ああ……そっ……か……)

 

誰かはウルだった。

眷族契約を結んでいるため、魂が無事なら死んでもウルと繋がったままなんだと理解できた。

今まで培った死の恐怖すら和らげて包み込んでくれるウルの存在を感じる。

死の恐怖から逃れるために生にしがみ付いてきた。

でも、これからはそんな必要はないのだ。

たとえ死んでもウルが付き添い、慰めてくれる。

死んでも死の恐怖を感じなくて済む。

この瞬間、ナーシャは長年の呪縛から解放された。

 

(ウル様……私のご主人様……)

 

ナーシャは温かい涙を流しながらウルに感謝する。

同時にウルに恩返しをしたいという気持ちが溢れてきた。

どんな些細な事でもいいからウルに喜んで貰いたい。

ウルのためになることをしたい。

その気持ちでいっぱいになった時、魔法空間から現実へと世界が切り替わる。

魔法をかけられる前と変わらない場所で、仲間に向ける顔に変わったリューは祝福するように言う。

 

「合格じゃ」




次回は新しい気持ちを持ったナーシャちゃんとのエロ回です
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