「おいおい、マジでついてくんのかよ……」
「その言葉はもうすでに聞き飽きたわ」
「はぁ・・・・・・」
ほむらの返答に杏子は今日で何回目かのため息をつくと、肩を落としながら歩を進めた。
ツカツカツカツカ・・・・・・
先を歩く杏子の後をついていく様にほむらが続く。
杏子としては不本意な、けれどもほむらとしては本意的な行動の理由は、ほむらが教会に到着した数分前にさかのぼる……
●
「佐倉杏子!!いるなら出てきなさい!!あなたに話があるのっ!!」
教会内に突入して直ぐ、ほむらは自分でも驚くほどの大声を張り上げた。
しかし、その声は教会内に反響するばかりで、お目当ての返事は聞こえてこない。
「……いないのかしら?」
昨夜とは違う足取りでステンドグラスが輝く教壇の前まで近づき、辺りを慎重に見渡す。
「こらぁ~~!!佐倉杏子!!いるんなら出てきなさい!!!!」
もう一度、さっきよりも大きな声で教会内に音の振動を響き渡らせる。
すると…………
「おいっ!うっせーぞっ!誰ださっきから叫んでやがるのはっ!!」
教壇から少し離れた、薄暗い物置の様な場所から、怒声と共に待ち人が姿を現す。
「あら、居たのね?」
「……って、またお前かよ!!」
寝起きのせいか、いつもの様な鋭い目つきではなく、寝ぼけた眼を擦りながら、杏子は教壇に立つほむらの姿を目にし、数秒の間のあと、驚きの声を漏らした。
「ええ、私よ」
状況を理解できていない杏子とは対照的に、ほむらはいつもの調子で髪をかき上げ、冷静な様子で応対する。
しかし、それはあくまで表面上だけの姿であり、
(きょ、杏子の寝起きの姿って何だかとても可愛い……)
普段見ることが出来ない佐倉杏子の一面を垣間見ただけでも、ほむらの胸は高く打ち、いつにも増して身体が熱を持っているような気さえしていた。
「ってあれ?お前、なんかいつもと違わねーか?」
意識が覚醒し、いつもの杏子に戻った彼女は、ほむらの姿を改めて見直すと、いつもとはどこか違う違和感を感じとり、小さく首をひねった。
一見、どこも変っていない筈なのに、身にまとう雰囲気というか、それとなく顔つきが違うというか。
そんなかすかな違和感が、杏子を支配し抱えていたいくつもの不満を押し殺していた。
「そ、そう?」
制服姿ではなく、自分が出来る限り考えつくしたコーデ。少しだけいじった髪形。
うっすらと施した慣れない化粧。アクセントにとつけたヘアピン。
自分なりに頑張ってみた変化にいの一番に気が付いてくれた事がうれしくて、ほむらは真っ赤になった顔を見られまいと、そっぽを向く。
「う~ん……まぁいいか。んで、昨日の今日で何の用だよ」
「・・・・・・・」
杏子が感じ取ったその違和感を出来ることなら、深くまで掘り下げてほしい。
心中でそう願いつつも、杏子の口からついた変換の言葉にほむらはあからさまな不満を示し、恨めしそうな顔で杏子をにらみつける。
「そ、そんな怖ぇ顔すんなって。それなりの用があって来たんだろ?話だけならきいてやるから」
「ふんっ……まあいいけれど」
「やれやれだな……」
コロコロと変わるほむらの感情に不意を突かれながら、杏子は小さくため息をつくと、近くの朽ちかけた椅子に腰かけた。
「それで、何の用さ?」
「……単刀直入に言うわ。佐倉杏子、私はあなたと行動を共にするわ!異論は認めない!!」
「……はぁ?何言ってんだお前は」
唐突なほむらの提案に、杏子は驚きの声を漏らすが、ほむらはそれを気にすることなく言葉を続ける。
「あなた、言ったわよね?自分が自分を許すまで戦い続けるって。あなたは優しくて真面目だからきっと自分の信念に従って戦い続けるでしょう。で、その際命を落としても構わないとも思っているはず。そうでしょ?」
「・・・・・・」
ほむらの問いかけに杏子は無言でそっぽを向き、無言のイエスサインをだした。
「今までの私ならおそらくそれに干渉しようとは思わなかった。それどころか、気に掛けることさえもしようとしなかったでしょうね。でも、昨日私はあなたに会って、それからよく考えてみたの」
「私にとってまどかがそうであるように、誰かにとって絶対に失いたくないって人はいるものよ。佐倉杏子、あなたにもね」
「……何が言いてえんだ?」
「……だ、だから、その」
―私は、まどかだけでなく、あなたも失いたくない
その言葉が口をつこうとしていたのに、寸でのところでそれは飲み込まれた。
臆病な性格が今となってはすごく鬱陶しく、煩わしい。
「だから何だよ?」
「そ、そのっ!あのねっ!!」
気恥ずかしさを存分に発揮しながら、椅子に座る杏子に近づくと、緊張のあまり震える手で彼女の手をとり、そしてぎゅっと握る。
「わ、私はっ……」
(あなたに死んでほしくないのっ!!)
「私は、あなたと一緒にいたいのっ!!」
「……あっ」
言葉を発して数秒後、ほむらは自身の失態に気が付いた。
本音と建前という言葉がある様に、暁美ほむらはそれを体現した人間であったといえる。
今回もそれを存分に体現する予定であったが、最初の一歩で自身の口から出た本音に気が付き、一瞬にしてだらだらと脂汗が滲み始める。
「あっ、えっと、その……」
なんとか弁解しようにも、一度から回った頭で考えるには無理があり、間を繋ぐための言葉たちが口をつくばかり。
けれど……
「―ぷっ、あははははっ!」
唐突な杏子の高笑いでが教会内に響き渡り、ほむらは我に返る。
「ほむら、今日はいつにも増してキャラが不安定じゃねーかっ!」
「い、言わないでよ……」
馬鹿笑いを続ける杏子を見ながらも、照れくささ半分、気恥ずかしさ半分で居てもたってもいられなくなったほむらは、握ったままの杏子の手を無理やり引っ張ると、
「ほ、ほらっ!罪の償いをするんでしょ!?さっさと行くわよっ!」
ツカツカと足早に教会の出口へと歩き出す。
「お、おいっ!今は昼間だから魔女が探しずれーんだってっ!」
「さっさと歩くっ!」
杏子の意見には耳を傾けることなく、ほむらは徐々にその歩速を早め、勢いよく扉をあけ放ち、外へと飛び出した。
●
「この時間なら、路地裏とかそのへんか~?」
「ええ、恐らく」
始めはただ心配だけで自分の様子を見に来たであろうと感じていた杏子は、ほむらをどうにかして送り返そうとしていたが、彼女の意思が予想以上に堅く、決して折れないと理解した杏子は、いつしか諭すことを諦めていた。
お世辞でも一緒に居てくれると言ってくれたことは、杏子にとってもこの上なく嬉しいものであった。
しかし、戦いだけに明け暮れる日々など、どんな人間でもいずれ嫌気がさしてくるものだ。
しかも、それが年頃の女の子であれば尚更だ。
ほむらには、杏子と違って、学び舎も友達も頼れる先輩もいる。
そんな人間が甘受できる幸せを放棄してでも、自分との戦いに同行するわけがない。したとしてもそれは時間の問題だろう。
だからこそ、杏子は今すぐにほむらを返そうとするのではなく、やがて来るその時までは彼女の好きにさせておけば良いという結論に至っていた。
「まっ、その時はすぐ来るだろ」
「何か言った?」
「いいや別に。ほら、噂をすれば結界さんがお見えだぞ」
かざしたソウルジェムが光を放ち、近辺に魔女の結界がある事を告げ、二人は立ち止まる。
「そういや、お前も戦うのか?」
「それは……まぁ」
「ふ~ん、ま、足手まといにはなんなよな」
「あなたこそ」
軽口を叩きながらも、顔を見合わせ苦笑すると、二人は魔法少女へと成り替わり、
二人同時に結界の中へと突入していった。