しかし今回はエロ無しです。
多分次回もエロ無しです。その次はちょっと分かりません。
アグーが何処に行ったのか分からないが、灯りがあるなら人間が住んでるかも知れない。
そう思って進んで行くと、そこが道と呼べるほど拓かれていることに気付く。更に灯りは人家と思われる場所から漏れていることも解った。
砦の類ではないから、戦争中の相手である可能性は低い。
周囲を警戒しながら近付くと、やはりそこは木造の人家だ。それに町と呼べる規模の家々がある。
中には石造りの建物もあるが、それらは神殿と思われる造りをしていて砦の類には人影が見られない。
見た所、穀物や資材を溜める倉庫らしき建物も多い。住民もそれなりに多いようだ。。
陽か完全に落ちる前に、誰か人間に接触しなければならない。宿の確保も重要だ。
町の中に入って行くと、すぐに人影が見える。そこに近付いていくと、暗がりで遠くからは気付かなかったが獣人の男のようだ。
猫系とも犬系ともつかぬが、ここは亜人の町らしい。その男達も鼎の存在に気付いて驚きながら言う。
「た、旅のヒトっ?」
「一体どこからっ?」
話を聞いて見ると、ここはロマリア山地の各所に物資を運ぶ拠点が元になっらロボラという町だという。
鼎を見て驚いたのは、先日の地揺れで周辺の地形が変わり、崩落した岩に道を塞がれて外から人が来れなかった為だという。
つい先日、ようやく町の周辺で一番細い道を再開通間近まで手作業で堀進めたのだという。
「すいませんね。何せ力仕事できるヤツがグルト以外で少なくて……」
地球世界の犬猫同様、獣人系亜人は見た目では外見年齢が解り難いが、2人とも中年以上のようだ。
どうも、若者が出来る仕事が少なくて若年者は町の外に行ってしまうらしい。若者が少なくて過疎化するとは、地方出身者の鼎も他人事とは思えない。
鼎は全く長い付き合いをしたいとは思ってないのだが、あの男は亜人を見下す性格だから亜人の町で不評を買うような言動してもらっては困る。早く所在を突き止めて手綱を握っておかなくてはいけない。
しかし2人は見ていないという。彼等は話しに集中していたようだ。
「そのヒト種、あんたの何だい?」
比較的犬っぽい男に聞かれると、何か誤解を招いたらいけないと思い即座に答える。
「いや、今朝会ったばかりのヒトなんですけどね、どうもヒト至上主義だから皆さんに迷惑かけるといけないんで……」
それを聞いた2人は、何故か安堵したような表情を作る。
「……どうしたんです?」
「あんたみたいな美人のヒトが豚みたいな顔の男のコレじゃないかと考えてしまって」
「へ?」
コレと言って小指を立たせる仕草を見るに、特地でも小指を女と表現する地域があるらしい。世界的なモノかは分からないが。
「前にこの町にいたんだよ。あんたとそっくりのエルフの女が」
どうやら遠回しに褒められていたようだ。
「えぇっ。エルフとそっくりっ?」
「長い黒髪の美人でなぁ」
黒髪エルフとは初耳である。
男達が言うに、そのエルフは東方出身者だったらしい。もしかすると小指の仕草は東方特有のものなのかも知れない。日本では恋人や愛人の意味でも、欧米では重大な侮辱を意味するものだと聞いた事があるし。
それはさて置き鼎はこれまでに「東方エルフの遺産」を求めてロマリア山地まで来たのだ。東に銀座世界で言うところのアジアのような地域があるなら、そこから来た黒髪のエルフには是非に会わねばならない。
「今は居ないんですか?」
鼎の問いに男達は少しばかり沈痛な顔を作ってた頭を垂れた。
「もう何年も前に流行り病でなぁ……」
もうこの世には居ないという。
存命なら会ってみたかったが、長い黒髪というだけで似てると思ったのかも知れない。三偵の黒川には負けるが鼎も自身の黒髪の美しさには自信がある。
しかし、特地に来て以来モテまくってる鼎だが、テュカやヤオのようなエルフほど美貌が自分にあるとは思えるほど自惚れてはいなかった。
高校時代にマドンナ五人衆に入ったり入らなかったりしていたくらいだ。
だが明らかに、日本にいた頃より明らかに男性面で充実してる。もう特地残留を決定してしまおうかと思える程に。
「か、母さん!?」
その時、視覚外から少年の声が投げ掛けられた。
見れば、ヒトより若干耳の長い、所謂エルフ長穂耳より少し短めの耳の少年がいた。
* * * *
アストと名乗ったその少年は、亡くなった黒髪エルフの女が何処の誰とも知らぬ男との間に作った子供だった。
エルフだからどーせ見た目と実年齢が違うのだろう?
……と、思ったが、実年齢も14歳の子供だという。
彼は普段、ロンデルで学問を身に付けているが、ハリョと呼ばれる者達なのでエルフとは言えないそうだ。
アストは自分の育ての親と言える自宅のヒト種にも会ってもらいたいという。
何もしていないのに、初めて会った現地住民と良い関係が結べたのは幸運としか言いようが無い。
東方エルフの遺産に一気に近付いたと思われる鼎だ。
しかし思う処も少なからずある。
「初めて会った人間に無用心が過ぎるんじゃないか」と。
鼎はお人好しそうなハーフエルフの少年に対して言ってやるのだが、
「じゃあアシガラさんは悪いヒトなの?」
と聞かれると否定しないわけにはいかない。
「そうだよ。母さんに似てるヒトが悪いヒトの訳ないよ」
そんなことをアストは言う。
鼎は敵には容赦ないが、普段や民間人に対しては慈悲あるつもりでいる。
そしてアストは将来が心配になるくらいだ。
そうして着いた彼の生家は町の中で一番大きい邸宅だった。流石にフォルマル邸と比べると幾分も小さくなるが、猫の額程の庭しかない鼎の実家に比べれば随分大きい。
アルヌスにある隊の官舎の半分程の大きさはある。
鼎の中で、「ショタ金持ちに玉の輿」という馬鹿らしくも突飛で後ろ暗めな発想が産まれたりする。
その敷地内である庭に入った時、オーガの如き巨大な単眼の人影を見た。
「あ、アシガラさん。グルトは怪異じゃ……」
「知ってるよ~。キュクプロスって種族でしょ?」
アストの言葉に被せるように阻んで鼎は言う。フォルマル邸のメイドにメイフラワーという同様の種族が居たので、グルトが怪異ではないことを知っていたのだ。
それと共に、アストが鼎がこの地域の人間ではないことを分かってるらしい事に気付いた。
「私がこの地域の人間じゃないって気付いてた?」
「ミドリノヒトでしょ?」
「あぁ、それでか」
緑の斑模様の戦闘服が「ミドリノヒト」であることは、第三偵察隊が炎龍が出現した際に民間人の避難を支援し、その避難民から吟遊人や噂で大陸の広範囲に広まった。
アストがいたロンデルにも広まってるのだろうか?
「レレイ・ラ・レレーナさんが炎龍を斃した時にも2人のミドリノヒトが一緒に居たって聞いたよ」
「なっ、なにそれっ?」
それも人伝の噂として広まっている話なのだろうが、炎龍を斃したのはレレイではない。
「老賢者カトーの弟子レレイと仲間達って話、知らない?」
アストは続ける。
「レレイ・ラ・レレーナさんが炎龍を斃した時、亜神ロゥリィ・マーキュリーとエルフの少年とダークエルフの女性と男のミドリノヒトが2人一緒に居たっていう話、聞いた事ない?」
「男2人!? しかもテュカが少年!?」
片方は紛れもなく鼎だ。テュカが男になっているのも理解に苦しむ。
「え……あ、はい。1人はエルフの少年の保護者か恋人みたいな感じで、一人は凄く腕っぷしが立つミドリノヒトでしたけど……」
明らかに間違っている。合ってるのは話の筋だけで、パーティ構成で正解なのはロゥリィとヤオ。そして一応伊丹であろうミドリノヒトの片方だけだ。どちらかと言うと現実では保護者が正解であろう。テュカからも「お父さん」と呼ばれてたし。
無口なレレイがこんな偽りを吹聴するとも思えないから、パーティ構成を知っていた人物であることが推測される。
「その話、ロンデルで聞いたの?」
「え…えぇ、そうです」
この話の広まりよう……発信元がそれなりの組織に属している人間だろうことを予想させる。アルヌスを出発する時に見送りに来ていた人間の中には薔薇騎士団の少女もいた。
となれば、そこで話が改変されたのだろう。テュカが男になってるのも801的感覚で考えれば合点が行く。レレイ本人は帝国臣民という意識は持って居ないだろうが、帝国領に住んでいるヒト種だから帝国に住むヒト種であるレレイの功績にしただと推測すれば納得できる。
「ぐぬぬ、オノレ薔薇騎士団……」
そうと決まった訳ではないのに(まぁ正解だが)薔薇騎士団に敵愾心を募らせる鼎だ。
「あ……アシガラさん…?」
アストに声を掛けられた鼎は、先ずは深呼吸する。それからこう言った。
「炎龍ね……ホント雑魚だよッ!」
「!?」
「アレ斃したの私だから。羽を八つ裂きにして嘴と手足捥ぎ取ったの私だから」
「えっ、えぇっ!?」
「新生龍の方がまだ手古摺ったからッ!」
母に似た美しいヒトが、突然なにを言い出すのか。
炎龍の手脚を捥ぎ取るという、ローストした七面鳥相手みたいなことを言い出して、この女性は大丈夫なのか。
エルフだが人の好いアストは、早く鼎を休ませなければならないと感じたのである。
* * * *
屋敷に入る前、鼎は戦闘服に付いた砂埃などの汚れを落とす為に脱いでから上下に大振りに振る。
アストはそれを黙って見ていたが、彼の視線がボディーアーマーに注がれてることに気付いて何気なく問う?
「どうしたの?」
「いや、それがアシガラさんが緑の服の下に着けてるが鎧なんだろうけど、そんなので体が守れるのかな……って」
言われた鼎はニヤりと軽く笑う。
異世界人から見れば、とても軽装な防具に見えるだろう。
しかしこれでも矢や多少の斬撃くらいは防げるのだ。
そんなことを言ってから、後で触らせてあげようと約束する。
無論、触るのはボディーアーマーで鼎の軆ではない。ちょっぴりハーフエルフショタにも興味はあるが、自分から触らせたらそれこそ痴女である。
屋敷に入ったアストと鼎を出迎えたのは使用人ではなく、屋敷の女主人だった。
老女と言って良い彼女に、鼎は日本独特であるお辞儀をしてから自己紹介をする。
それと同時に彼女は「オト!?」と驚きの声を発した。
「お婆様、違います。似てるけどヒト種。ミドリノヒトですよ」
すぐさま自分がした間違いと同様の間違いを訂正するアスト。アデラという名のこの老女がアストの育ての親だという。
ヨルバ・ハー・ヴィレリはかつてロボラの町を治めていたフェイム・ハー・ヴィレリの妻だ。
夫のフェイムが病没したあと、彼女は女手一つで二人の娘を育てながな町政を担ってきた。
アストの母親であるサクラ・オトは山地の外から来たロボラに来たが、遥か昔に東方の国から騎馬民族の奴隷として連れてこられ、異郷の地で男に騙されて孕んだのだという。
その境遇に同情したフェイムが名目上の愛人として雇い、産まれてきたアストを可愛がってきたのだ。
異世界でも、東方では苗字が先になるのだとアストから教えてもらった。以前にも炎龍から避難する民間人がそんなことを言っていたような気もする。そしてお辞儀という習慣も東方独特の習慣かも知れない。だからヨルバは鼎(耳は短いが)を東方出身のエルフだと勘違いした可能性がある。
エルフと思い違いするくらいアシガラは美人だ。アストが大人だったらもっと深い仲に成りたがっていたかも知れない。
「アシガラ・カナエと言ったね。今夜はどうするつもりだい?」
ヨルバの問いかけに町の中で宿を探し、そこで一泊してから仲間と連絡を取ることを伝える鼎。
「連絡って言ったって、どうやって……」
アストの疑問は最もであろう。
「まぁ狼煙みたいなものがあるから、それを使うよ」
異世界人に銀座世界の技術を簡単に教える訳にはいかないのだ。
「宿舎はあるけど……」
ロボラという町は山脈各地の都市に物品を運ぶ集積地の他、亜人女性に娼婦仕事をしてもらうことで発展してきた。銀座世界であればいかがわしい看板がそこらかしこで見受けられるのだが、ロボラの娼館にはそういったものがない。旅人と見れば屋内から娼婦が男達に手招きするのだ。
だが、鼎は女である。一般男性より遥かに強く、両刀のケがあるとは言え娼館に泊まれとは言えない。
そもそも、そんな秘密は鼎自身と帯同してきたダークエルフしか知らない。
「ならここに泊まれば良い」
ヨルバはアストが言いたいことを代わりに言ってくれた。
名目上とは言え、祖父の愛人に似てるからアストからはお願いできなかったが、考えて見ればヨルバも母、オトのことを気に入っていたのだ。
だからその息子のアトラがロンデルで勉強したいと言った時も、嫌な顔一つせず応援してくれた。
「そういえば、アシガラさんはどうやってロボラに来れたの?」
聞かれてみれば西の道を塞いでる大岩の下を苦労して潜って来たと答える以外ない。
成人女性が必死になって岩と岩の間を這い出てるのは若干恥ずかしいが、恥を隠さず認めるしかないのだ。
「昨日だったら僕も手伝えたのに」
アストも昨日ロンデルから戻って苦労して岩の隙間を進んで来たようだ。その鼎はグルトという人名を気にする。
「すまないねぇ。グルトだけの力だけではどうにも出来ないから」
ヨルバとアストが言うに、先程見たキュプロクスの少年がグルトらしい。
尤も、ヒトの成人男性から見ても背の高い少年であるが。
そんなことを話してる間にも周辺で採れたであろう食材を調理したものが皿に乗って運ばれてきた。
「聞いた話しだと町の外との連絡が途絶えて大変らしいですね」
「そうだねぇ。ここ町は旅人の宿場町という一面があるから、そっちの仕事をしてる人間からしたら早く大岩をどけないと干上がってしまうよ」
もう一面の顔が山脈各都市への荷を運ぶ為の集積地であることは、最初に町を見回した時の様子で知れた。
住んでるであろう人口より、遥かに貯蔵庫が多いのだ。
「岩が邪魔で荷物が運び出せないのも問題ですね」
するとヨルバは目を輝かせて鼎を見た。
「解るかい。やっぱりあんたはオトの生まれ変わりなんじゃないか?」
「え、えぇっと……そのオトさんがいつ亡くなったなか存じませんが……」
特地と銀座世界では時間の流れが違うらしいことは聞いたことがある。
だから、もしかしたら、或はとも思ってしまった鼎だ。
「オトが死んだのは、そう……アトラが5歳の時だったねぇ」
現在アラサーの鼎だからオトの生まれ変わり説はなくなった。
いや、時間の流れが違うのなら満更否定もできない。
「そうですねぇ。時間の流れが違うらしいですから、あり得ない話しではないかも……」
鼎はそう言うだけに留まる。
この町に居るのは一時限りなのだから、一人の子供に保護欲を抱いて離れ難くなる訳にはいかないのだ。
「そういえば、アシガラさんはどうしてこの町に来たの?」
アストの質問を鼎は待っていた。
「帝国が異世界の国を相手に戦争始めたのは知ってる?」
ヨルバもアストも帝国がまた対外戦争を始めたのは知ってた。だが相手の国がニホンという名前以外に、何処にあるどんな国かまでは知らなかったようだ。
「えーっと…私はその日本でいわゆる緑の人の下っ端指揮官をやってて、帝国との和平講和で5000億スワニの賠償金を請求したんだけど……」
これを言うと、案の定ヨルバもアストも席から跳び跳ねて驚いた。
「5000億スワニ!?」
「内にはそんなお金持ちないよ!!」
アストは今にも卒倒しそうで、ヨルバに至っては包丁でも持ち出しそうな形相である。
可愛がってた夫の愛人に似ているからと言って油断してたらトンでもないこと言い始めた、と、言葉にせずとも伝わって来る。
「あ、いやいや。流石に法外な値段は要求できないことは分かってますから、代わりに地下資源とかそういうのでも代替オーケーってことになってます。本格的な和平交渉の時にはどう転ぶか分かりませんし」
日本の国家予算より少し多い程度らしいことを菅原から聞いたが、特別が付く国家公務員の給料にもう少し回して欲しいものである。
ヨルバとアストは「おーけー」という日本語英語に少し戸惑ったが「構わない」という意味と分かると安堵していた。
「それで、私はトレドっていう港町で聞いたんだすが、此方の方に東方エルフの遺産があるとか聞いて来たんですよ」
するとヨルバが口を開く。
「トレドか……。あそこの領主はよく此処に来るからね」
「えっ、あのエロ領主がよく来るってことは……」
帝国の要人をエロ親父呼ばわりしてしまったが、本当のことだから仕方ない。
「あのエロ親父と面識があるってことは、アンタも結構な好き者なんじゃないか?」
そう背後から声掛けられて、振り返ってみれば癖のあるクリーム色の髪で無精髭のヒト種の男が立っていた。軽薄そうな笑みを浮かべ、一見するだけで人となりが分かる。
「クアリ! また女遊びに現《うつつ》抜かして!」
「義母さん、出来ることったって今はないでしょう」
「グルトみたいに少しでも岩を片付けたらどうなんだい」
「あの怪異みたいな力仕事なんて出来ませんよ。それよりアンタ……」
「えっ、私?」
クアリという男は顎で鼎を示す。
「オトに似てるな。ドレイクの爺さんが目を付けただけのことはある。ここでも働けるんじゃないか?」
「クアリぃ!客にふざけたこと言ってんじゃないよ!」
無精髭男の言葉を聞いて、ヨルバが烈火の如く怒る。そして2人の会話で鼎はこの町の形態とクアリとヨルバの関係を理解してしまった。
クアリが姿を消すと、アストとヨルバは申し訳なさそうに鼎に向き直る。
「すまないねぇ……」
「あぁ、いえいえ。帝都出身のヒトの多くはあんな感じでしょうし、私も“そういう目”で見られるのは慣れてますから」
恐らく、クアリという男は帝国の臣民と言う自負がある帝都出身者だろう。そう考えた鼎はそう述べた。
「判るかい? どうしてフェイムはあんな男を娘の婿養子なんかにしたんだか……」
亡くなる前の人間は意識が混濁して正常な判断ができなくなることがある。フェイムという館の亭主だった男も恐らくそうなのだろうが、それにしたって人選が悪過ぎるんじゃないかと思う。
聞けば、ヴィレリ家には2人の娘が居るが、そのクアリは帝都から呼び寄せた長女の旦那だそうだ。そして帝国の通例では長子相続制。ヨルバが倒れたらクアリがロボラの実権を握ることになる。
どうしたもんか、と、ヨルバは溜め息混じりにアストを見やる。
「私としては、アストに町の全権を譲りたいんだけどねえ」
「お、御婆様。ロボラは代々ヒト種が町長を努めてますから……」
「お前だって半分はヒト種だろう?」
そう言われて、アストは困ったように口を閉じてしまった。
御家騒動に首を突っ込む義理もないが、世話になっている彼等を不安にさせるのも憚れる。
だが世話になったからこそ、万が一の事を考えた鼎は帝都から来たと思われる男の話しをしなければならないのだ。
「クソッ、顔を見れば小言ばかり言いやがってあの婆ァ!!」
ヴィレリ邸を出たクアリは陽が沈んだ路地の中で独り荒れる。
陽は沈んだが、ロボラの町は町の成立経緯から外灯を設置する家が少くない。
それでも訪れる旅人が絶え、町の周囲を岩に囲まれて出入りが少くなってからは灯りの数は目に見えて少くなっていた。
「荒れてますなあ。ヴィレリの若旦那」
クアリは声を掛けられた方向を見る。すると顔を包帯でくるぐる巻きにした男がいた。
「だ、誰だ!?」
咄嗟に距離を取るクアリ。武芸の類はサッパリ身に付けてないので、明らかに怪しい人物から距離を取るほか身を守る手段がないのだ。
「ガストですよ。帝都では良く贔屓にして下さったでしょう」
ロボラに来る途中で賊に襲われて傷を負ったのだと説明する。だがそれは寝起きの鼎に強かに足蹴にされて出来た傷で、ガストと名乗った男は鼎にはアグーと名乗っていた。
「あぁ、ガストか。家に居たら義母が煩くてよ」
言いかけて、途中でクアリは思い立ったように別の女の話をしはじめた。
「あぁ、でも今日は初めて見る好い女がいたな」
「ほぅ、どのような?」
ガストと名乗る男は続きを促す。それは自身の生き方・生業にも関わることだからだ。
「ウチにアストってハショのガキが居るんだがな、どうもそいつが外から連れて来たらしい。あの頑固な婆が目の色変えて話してた女だ」
そんな前置きは良いから、早く女の風体を知りたいアグーである。
「して、どのような背格好で?」
好い女と聞いて姿を知りたいのは男なら不自然ではない。先を促すとアグーに取っては予想されたことが知らされた。
「黒くて長い髪でな、後ろからで今一解らない所があるが、胸もデカくて良い顔立ちしてたと思うぞ」
アグーはボディーアーマーを取り払った鼎の軆を見ている。もう少しで睡姦できそうなところまでいったのに、蹴りを入れられて頭だけ包帯ぐるぐる巻きのミイラのような有様だ。
仕事仲間との接触を急いだが、あの女がこの町にいるならモノにしない手は無い。
「そしたらヨルバの婆さんに叱られてよ」
今出来ることなど少ないだろうにと嘯くクアリを、ガストと名乗るアグーはニヤついて諭す。
「そう残り長くない人生でしょうし、後生が心配なんでしょうさ」
アグーはクアリがロマリア山地の山間にある町へ婿養子に行ったことを知っている。帝都で2人が接触したのが、1度や2度ではないことが知れた。
それからアグーは聞く。
「やはりポンパルへ?」
「あぁ、その通りだ。ロクに外も行けないんだからな。そこしか遊ぶ所がない」
すると豚顔に包帯を巻いた男はクアリに松明を渡しながら、親切ごかしたように言う。
「これを使いなせえ。最近はこのあたりも夜は足元が暗い。ポンパルまでは足元が悪いから気を付けてくだせぇ」
ポンパルとは娼館を示す。ロボラは狭い町ではないが、娼館に関しては同業他社が一カ所に集中するから人々が資材を道に置くから便が悪くなり易いのだ。
「良いのかい?」
「えぇ、日頃お世話になってますから」
言いながらアグーはクアリに松明を押し付けるように手渡した。
「そうか。感謝するよ。これからも帝都に行ったらアンタんところは利用させてもらうよ」
そう言うクアリには悟られず、鼎に顔面を蹴られて包帯を巻くことになったアグーは誰にも知られず、ほくそ笑む。
そしてクアリが見えなくなるまで見送ると、町が一望できる高台の雑木林へ急いだ。そして今回の計画を練り合わせた手下達の元へ向かう。
シブチで猛威を振るった女兵士がいるのは想定外だったが、山地の中で会ってから薄々覚悟はしていたのだ。簡単に捕縛出来るとは思えないが、ロボラの娼婦達と共に愛玩奴隷に出来れば当分遊んで暮らす事が出来るだろう。
今回の仕事の難点は、手下を含めて自分もロボラの娼館の位置を知らないことだった。だが周囲を大岩で塞がれ、出入りが簡単に出来なくなったことでロボラから廃棄物が外に出しにくくなったのは分かる。
娼館というものは、意外に物を必要とする場所だ。アグー自身も良く利用するので、そこから出る廃棄物、或は入る物品が多いことを知っているのだ。
「お頭」
「どうだ?」
1人の小男の頭越しに見るロボラの町は既に夕闇の中にあった。
その中に一点、ぼんやりと松明の灯が灯っている。それは動き、やがて木造の建物が密集している地点の中に消えた。
「お頭、どうします?」
鮫肌の背の高い亜人がアグーの指示を仰いだ。
「まぁ待て。夜を待て。町の人間が寝静まった時間に始めるんだ」
アグーを頭に持つ賊の一団は、陽が沈んで人々が眠りに入る時間を待つのだった。
そろそろエロいの書きたいなぁと思うんですけど、考えてるストーリー的に中々エロが来ないです。
それより誤字・脱字が無いかが気になるという……。