※この作品はR-18です。

カルデア女英霊奪還作戦   作:野比のび太

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絶海戦

「……見えたねぇ、首尾はどうだい?」

 

「『女王アンの復讐号』は進行方向に位置しています。我が『黄金の鹿号』とアルゴー船を挟み込む形です。他の艦船もここ一帯の海域を封鎖する様に停止しており、包囲は完成しております」

 

「ははっ! そりゃあ上々……奴さんたちは袋の鼠って訳だね」

 

「流石はドレイク船長、アルゴー船の航路を予想した完璧な位置取りですわ。ここまで事を進めたならばあとは簡単です!」

 

「そうだねぇ……なら、始めるとするか」

 

 艦首に立ち、遠目に見えるアルゴー船を睨みつけたドレイクは右腕を頭上に振り上げた。ニヤリと黒い笑みを浮かべた彼女がその腕を振り下ろして周囲の船に攻撃の合図を送れば、この海域を封鎖していた海賊船たちが主砲を次々とアルゴー船に向けて連射し始めた。

 空気が唸り、轟音が響く。たった一隻のアルゴー船に向けて乱射される砲弾はすんでの所で直撃はしなかったものの、海に落下すると水飛沫を上げて船体を大きく振動させた。

 

「ふふふ……! これならアルゴー船が沈むのは時間の問題ですね……」

 

「……さあ、どうだろうねぇ?」

 

 一方的な攻撃を受けるアルゴー船を見たメディア・リリィは勝利を確信するも、ドレイクはそんな彼女の言葉を否定しつつ空を指差した。彼女の指差した先には一隻の船から発射された砲弾があり、メディア・リリィはその軌跡を目で追って成り行きを見守る。

 角度、スピード、距離……それら全てを計算すれば、砲弾がアルゴー船に直撃する事は明らかだった。だがしかし、砲弾はメディア・リリィの予想を裏切って真っ青な海へと落下してしまう。

 全てを見ていたメディア・リリィは、砲弾がアルゴー船に近づいた瞬間に何かに阻まれて大きくその軌道を変えた様子を目の当たりにしていた。そして、ドレイクが何を言おうとしているかを理解する。

 

「ルーンか、成長したお前さんの魔術か、はたまたそのどちらもかねぇ? 船全体に『矢避けの加護』の効果がかかってると見た。あれじゃあ直撃は難しそうだ」

 

「くっ……! 小癪な真似を……!」

 

 しっかりと防策を練り、この窮地を脱しようとしているアルゴー船の後姿を見ながら歯軋りするメディア・リリィ。しかし、ドレイクはそんな彼女の頭を撫でるとつかつかと前に歩みつつ言った。

 

「気にするなよ、あんなもんは想定の範囲内さ。急ごしらえのもんだし、そこまで防御力がある訳でも無い。そもそも、砲弾で脚を鈍らせりゃあそれで良いのさ……トドメはアタシらが刺してやるよ」

 

 古びたアンティーク銃を構え、アルゴー船へと狙いを定める。獲物を狙うドレイクの鋭い眼光に合わせて『黄金の鹿号』の主砲も魔力を溜めた砲門をアルゴー船へと向け始める。宝具による全力の一撃で決着を狙うドレイクは、アルゴー船の先に在る船もまた自分の船同様に宝具を展開しようとしている事を見て取ると顔に笑みを浮かべた。

 アルゴー船の進路を塞ぐように横向きに位置している巨大な戦艦『女王アンの復讐号』は、連装されている砲台の狙いを全てアルゴー船へとつけていた。船長であるティーチの合図一つで、そこから無数の砲弾が放たれる事になるだろう。

 前と後ろ、二方向からの宝具での挟み撃ちを防ぐ手段はアルゴー船には無い筈だ。急ごしらえの防御では限界があるし、最強の盾であるマシュの宝具も一方向しか守る事は出来ない。ドレイクか黒髭のどちらかの宝具は防げても、もう片方がアルゴー船の息の根を止めるだろう。

 

「さあ……こいつで幕引きと行こうじゃあ無いか!」

 

 全身に魔力を漲らせたドレイクは、銃の引き金に触れる指に力を込めてそれを引いた。瞬間、彼女の乗る『黄金の鹿号』の主砲から金色と暗黒の混じり合った禍々しい光線が発射され、真っすぐにアルゴー船へと向かって行く。同時に黒髭も攻撃命令を出したのか、『女王アンの復讐号』から放たれた無数の砲弾が豪雨の様に上空からアルゴー船へと降り注ごうとしていた。

 逃げ場も無く、防ぐ手段も無い。この攻撃を以って戦いの大勢は決まると思っているメディア・リリィが期待の込めた視線をアルゴー船へと向ける。彼女の目には、一瞬後に攻撃を受けて轟沈する船の姿がはっきりと見えていた。

 

 しかし――

 

「っっ……!?」

 

 メディア・リリィとドレイクが見たのは、信じられない光景だった。攻撃が直撃するかと思われたその時、アルゴー船の背後に巨大な盾が出現したのだ。

 それがマシュの宝具であり、ドレイクの攻撃を受け止めた事までは想像の範囲内だった。しかし、彼女たちにとって予想外の出来事はここから始まったのだ。

 

 ドレイクの宝具を受け切ったアルゴー船は、あろうことかその攻撃を推進力に変えて急激に加速したのである。暴風を追い風に受けたかの様な加速力を見せるアルゴー船は、『女王アンの復讐号』の放つ砲弾など気にせぬ様にして真っすぐに突っ込んで行く。

 一つの攻撃を防ぐ事によってもう一つの攻撃を回避することに成功したアルゴー船は、真横を向いていた『女王アンの復讐号』のどてっぱらに艦首をぶつけて停止する。こうなってしまっては、黒髭たちの船を巻き込む可能性のある砲撃はもう行う訳にはいかなくなってしまった。そしてなにより、この行動によってカルデアのマスターたちは人質の居る船への潜入を可能にしてしまったのだ。

 

「ああっ! そんな馬鹿なことがっ!?」

 

「……アタシの攻撃を追い風にした、か……やるじゃあないか!」

 

 予想外の行動でこのピンチを凌ぎ、更にチャンスを生み出したカルデアの面々に素直な賞賛の言葉を送ったドレイクは、攻撃を砲戦から白兵戦へと切り替えることを部下に指示してからどっかりと椅子に座り直した。

 周囲に居る人物がメディア・リリィであることを入念に確認し、目を伏せた彼女は、静かな声で語り始める。

 

「……これで確信に変わったよ。アタシたちの中に裏切り者がいる……じゃなきゃ、こんな作戦は立てられない」

 

「アルゴー船の乗組員たちは、私たちの船と黒髭さんの船が対角線上に位置することを知っていた……でなければ、あんな動きは出来ないはず……」

 

「アタシたちの作戦を伝えた奴が居る……アタランテはメデューサに見張らせてたが、奴めしくじったのか?」

 

「……本当に彼女が裏切り者だとお思いですか? それと……」

 

 生前からの知り合いが自分たちを裏切っている可能性を示唆されたメディア・リリィが悲しそうに目を伏せる。彼女の様子を見たドレイクは短く舌打ちを鳴らした後、苛立ち紛れに言葉を吐き捨てた。

 

「ああ……アイツと黒髭、あとはヘクトールもだろうね。誰か一人で出来る様な動きじゃあない。奴らめ、連携してやがるよ」

 

「……あなたはそう言うのならばそうなのでしょうね……悲しい事ですが」

 

 ドレイクに断言されたメディア・リリィは、ようやく覚悟を決めたと言う様子で顔を上げた。その表情には悲しみの色が残ってはいるが、慈悲の感情はまるきり見えはしない。もはや、アタランテたちを裏切り者として処断するつもりなのだろう。

 

「……行きましょう。この戦いで人質を奪われれば、それは私たちの敗北を意味しています。何とかして守り切らなければなりません」

 

「そう気張るなよ。その為の準備はして来ただろう? ……まだまだ予想の範囲内だ、焦る必要は無いんだよ」

 

「……はい」

 

 初動では不意を突かれた、しかし、次はこうはいかない。必ずやカルデア側の行動を阻止し、自分たちに有利な戦況に引き戻してみせる。

 深い覚悟を固めるメディア・リリィとドレイクの瞳には、黒い炎が燃え盛っていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……突入成功! さて、第二段階に移るとしますか!」

 

「緑の! しっかりオレたちの事を隠せよ!」

 

「わぁ~ったから少し黙ってて貰えますかね? あんまりうるさいとそれだけで敵に見つかって……っ!!」

 

 面倒くさそうにモードレッドへと注意の言葉を向けていたロビンフッドが体を強張らせる。それはモードレッドも同様で、一瞬にして二人の表情からは余裕や慢心と言った感情が消え去っていた。

 圧倒的な力を感じさせる魔力。足元の甲板が揺れ、その魔力の持ち主が徐々に近づいている事を知らしめている。

 あまり船員が見えない船の上で深呼吸を行ったマスターは、自分たちに敵意を向ける巨大な人影を見てからその名を呼んだ。

 

「早速お出ましか、ヘラクレス……!」

 

「■■■■ーーー!!」

 

 この海の空気を震わせる咆哮、心が弱い者が聞けばそれだけで降伏してしまいそうな程の重圧を与えるその咆哮を受けたマスターは、心の内にほんの僅かに湧き上がって来た恐怖を感じていた。

 心臓が早鐘を打ち、背中に冷や汗が流れる。相対している英霊が間違いなく最強の一角を担う程の強さを誇っている事を忘れられる程、カルデアのマスターは楽天的では無い。

 だからこそ、彼に対する策も用意して来たつもりだった。

 

「……何時まで固まっている? 人質の奪還は時間との勝負だ。ここでぼさっとしている暇があるのならさっさと行け」

 

 その()()()が冷ややかな台詞を口にしながらマスターたちの背後から姿を現す。腰のホルスターから二丁の拳銃を引き抜き、その銃口をヘラクレスに向けた彼は、淡々とした感情の籠ってない声でなおも告げた。

 

「事前の取り決め通り、ここは俺が引き受けよう。こう言った役回りは慣れている、俺が適任だと判断したお前の目は悪くない」

 

「エミヤ……」

 

「……わかったならさっさと行け、ここに居られても邪魔なだけだ」

 

 あくまで冷徹な言葉をマスターへと投げかけるエミヤ・オルタは、ヘラクレスを睨んだまま微動だにしないでいる。そんな彼の様子を見るカルデアのマスターの胸の中には、一つの疑問が去来していた。

 

 本当にこのまま、エミヤ・オルタだけにヘラクレスを任せて良いのだろうか……? 大英雄を相手に時間を稼ぐと言うのは自分が思っている以上に難しい事だろう。であるならば、もう一人か二人サーヴァントを援護に回すべきだったのではないだろうか?

 そんな疑問を浮かべてしまったマスターは、その疑問に答えが出せないまま固まってしまっていた。迅速に行動しなければならない事はわかっているのに、迷いがその動きを阻害するのだ。

 このままではいけない……カルデアのマスターが焦り、動揺し始めた時だった。

 

「……おい、一つ確認させて貰うぞ。そこでぼさっとしているのは自由だが、そのせいで奴が死んでも良いのか?」

 

「え……?」

 

 不意に自分に投げかけられたエミヤ・オルタからの質問の意味を理解出来なかったマスターは、きょとんとした表情を彼に向けた。エミヤ・オルタは、そんな彼に視線を少しだけ向けて、もっと噛み砕いた問いを送る。

 

「俺が、()()()()()()()()()()()()()()()と聞いているんだ。時間稼ぎ、時間稼ぎとお前はうるさいが、何故俺が奴に勝てない前提で話をしている?」

 

「え? え……!?」

 

「……お前がそこで何もしないままでいるのなら、俺が奴を倒してこの船を制圧するだけだ。それが嫌ならさっさと人質を奪還して来い」

 

 吐き捨てる様に、淡々としたその言葉……しかし、カルデアのマスターの目には、その言葉を口にしたエミヤ・オルタの表情が笑っていた様に見えた。

 それはもしかしたら彼なりの気遣いだったのかもしれない。自分を一人でこの場に残すことを躊躇うカルデアのマスターに向けて、その硬さを解きほぐす為の冗談を言ってくれたのか……はたまた、全部自分の勝手な思い込みであり、彼が全てを本気で言っているかだ。

 

「……信じるよ、エミヤ。ここは任せた!」

 

「ふん……」

 

 自分への信頼を言葉として残して駆け出したカルデアのマスターに対し、エミヤ・オルタは鼻を鳴らすだけで何も答えなかった。自分の背後にある気配が完全に消えたことを確かめた彼は、ギロリと鋭い視線を目の前のヘラクレスへと向ける。

 

「と言う訳だ、大英雄……暫く俺に付き合って貰おうか。貴様を縛る鎖が砕け散るか、それとも――」

 

 言葉の途中で跳躍し、ヘラクレスの視界から消え去る。有無を言わさず、例え卑怯と呼ばれたとしても目的を達成する為に戦う……エミヤ・オルタは、そう言った意味では非常にプロフェッショナルであった。

 自分の視界から消えたエミヤ・オルタの姿を探すのではなく、気配を探ったヘラクレスは自分の背後に張り付く殺気を覚えて振り返る。その眉間に銃口を突き付け、口元を僅かに綻ばせながら……エミヤ・オルタは、先ほど途中まで言いかけていた言葉を最後まで口にした。

 

「――お前が俺に殺されるまで、だな」

 

 

 

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