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オケアノスの最終決戦において、ついにソロモン海賊団を追い詰めたかと思われたカルデア一行であったが、指揮官であるドレイクは掟破りの秘密兵器を投入して来た。
その名も魔神柱船・フォルネウス。かつてこの海で相対した魔神柱と同じ名を持つその兵器は、ドレイクの黄金の鹿号とソロモンの配下である魔神柱とが混じり合った狂気の産物だ。
巨大な本体をドレイクの船に積み込み、遺憾なく超常的な火力を発揮する為の融合。機動力と攻撃力を兼ね備えた魔神柱船の恐ろしさは、想像することに難しくなかった。
遠距離からはドレイクの黄金の鹿号の砲台が火を噴く。中距離ではファルネウスの光線が、近距離に移れば触手による薙ぎ払いと巨体を活かした体当たりで攻撃を仕掛ける。そのどれもが一撃必殺の威力を誇るうえに広範囲にわたって繰り出されるものなのだ。まさに完全無欠と呼ぶほか無いだろう。
「ダヴィンチちゃん! ドクター! あの船に弱点はないの!?」
黒髭の見事な操舵で攻撃を何とか躱し続ける女王アンの復讐号の上で戦いの突破口を探すマスターは、カルデアでこの戦いをモニターしている二人に対して大声で叫ぶ。潮風と波の轟音に掻き消されぬ様、声を張って叫んだその質問に対して、二人もまた叫び返すかの様に答えた。
『無い訳じゃあ無いが相当に厳しい相手だ! 今の手札じゃあ、簡単に勝つことは出来ないぞ!』
「取り敢えず、その弱点を教えて! そこを突けるように作戦を組み立てる!」
『わかった! と言うよりも本当に単純な話なんだが……魔神柱船は、魔神柱単体の時よりも防御力が下がっている! 強力な攻撃を叩き込み続ければ、案外簡単に倒せるかもしれないよ!』
「強力な攻撃……!」
ダヴィンチの答えを聞いたマスターは、このオケアノスに存在するサーヴァントたちを頭の中に思い浮かべ、歯噛みした。残念ながら、あの魔神柱船に強力な攻撃を叩き込めるサーヴァントは、ほとんど存在していないのだ。
今回連れて来たのは大半が対人宝具持ちのサーヴァントたちだ。つまり、攻撃射程が非常に短い。移動する魔神柱船に接近することが非常に困難である以上、その火力を発揮することは難しいだろう。
残るサーヴァントたちもまた対軍宝具を持つ者も居るが、それは文字通り多くの敵を倒す為の攻撃手段であり、巨大な敵を倒す為の物では無い。一撃一撃の威力が低く、決定打とはなりにくい宝具が殆どだ。
今の状況ならば、アルトリアやアルテラの宝具の様な遠距離から発動して一気に決着をつけられる強烈な一撃が必要であった。そして、その条件を満たしているサーヴァントは、現状モードレッド一人だけだ。
「令呪を使っての連撃……いや、駄目だ。今のモードレッドの宝具じゃあ威力が足りない!」
撃てる砲弾は一種類のみ、しかもその砲弾ではどう考えても威力不足。令呪を使って三回までならば連撃出来るが、せいぜい撃てて四回ではあの魔神柱船を沈めることは出来ない。
ここまでの戦いで登場していなかったが故に構想から外してしまった魔神柱への対策。それを怠ったが故に打てる手がほぼ無い状況にまで追い込まれてしまった。
「私の宝具で盾を張って強引に接近するのはどうですか!?」
「触手を駆けてあの船に乗り込めば……」
「船での砲撃は? 魔術での攻撃も効果はあるかしら?」
あと一歩、それだけなのだが、その一歩が果てしなく遠い。今の自分たちに最も必要な『継続して繰り出せる高威力な攻撃』が無い。
マスターは必死に頭を考え、サーヴァントたちも懸命に策を練るも、いまいち決定打に足りない意見しか出て来ない。
攻撃を躱し続けるのにも限界はある。このまま摩耗し続けていれば、打てる手も打てなくなってしまう。
じりじりと追い詰められるカルデアのマスターであったが、起死回生の策は予想外の所から飛び出して来た。
「……時間と協力を頂けますか? そうすれば、なんとか出来るやもしれません」
「えっ!?」
そう口にしたのはジルであった。ソロモン海賊団の手下である男たちがほとんどいなくなった現状において海魔を召喚することを止めた彼は、アルゴー船から魔神柱船を鋭い視線で睨んでいる。
「ほんの少しの時間と何名かのサーヴァントの協力があれば、あの船に対抗する手段を生み出せるはずです。時間があればの話ですが……」
「乗った! マシュ、アルゴー船を宝具で守って時間稼ぎを! 黒髭は魔神柱船の気を引いて、ジルの策を援護して!」
策の子細を聞かぬまま、マスターはジルの提案に乗る事を即座に決めた。あのジルがここまで言うのであれば、相当の自信があると判断したからである。
ならばその為の時間を稼ぐことが自分の役目だ。頭脳を回転させ、どうジルを守るかを考え、マスターは懸命に陣形を組み立て始めていたが――
「……待て。そう兵を動かしても意味はないぞ」
「え……?」
頭に響いたイアソンの言葉がその思考を一度停止させた。イアソンは、そのままジルに対して確認の為の質問を投げかける。
「確認だ。必要なのは時間と協力者だな? それだけなんだな?」
「はい、そうなりますな」
「……なら、話は単純だ。お前たちは黒髭の船に乗り移れ。そっちの方が時間を稼ぎやすくなる」
そう言ったイアソンは、器用に攻撃を躱しながら黒髭の女王アンの復讐号へとアルゴー船を接近させた。彼の真意を理解出来ない面々ではあったが、確かに英霊が多数搭乗していた方が女王アンの復讐号の性能は上がる。イアソンの言葉の意味をそう解釈したサーヴァントたちは、次々と女王アンの復讐号へと飛び移って行った。
「……あなた、何を考えているの?」
「決まっている、勝つ方法だ! 後は、俺が如何に偉大な存在であるかを知らしめる方法だな」
最後の一人となったメディアは、魔力で編み出した羽で飛行する寸前にイアソンへとそう尋ねた。それに対する彼の返答は彼女の予想通りの物ではあったが、メディアは何か違和感の様な物を感じつつアルゴー船から飛び立っていく。
その背を見つめ、彼女が向かう先へと視線を移し……イアソンは、僅かに微笑んでから操舵の為の舵を握り、呟く。
「さあ、一仕事と行こうじゃあないか! 英霊イアソンにしか出来ぬ、偉業を打ち立てにな!」
そのまま全速前進、ただ前へとアルゴー船を走らせるイアソン。女王アンの復讐号に搭乗する仲間たちは、その様子に驚いて目を丸くした。
「イアソン、何をやってるんだ!? そのままじゃ魔神柱船に突っ込むぞ!」
「何を分かり切ったことを言っている、
「!?!?」
イアソンのその言葉にカルデアのマスターを始めとした仲間たちは驚愕し、唖然とした様子で魔神柱船へと突き進むアルゴー船を見つめていた。イアソンは、懸命に船を走らせながら叫び続ける。
「良いか? 今、俺たちに必要なのは時間と策を実らせる為の協力だ! 俺とアルゴー船じゃない! 新しい船は手に入り、そちらの方にサーヴァントが集まっていた方が都合が良い……ならば、もう俺は抜けさせて貰うぞ」
「だからって、何で特攻なんて真似を……!?」
「何でだと? バカか貴様は! 必要の無くなった物を有効活用するのは当然のことだ。今回は俺がその立場になっただけのこと……それに、自慢じゃ無いが俺は弱い。あの化け物と戦うことなど絶対に御免だからな。ここで一足先に退場させて貰おう」
「イアソン……!?」
直接会話しているマスターは、彼のその言葉から滲み出る感情を読み取り、言葉を詰まらせた。一見、普段と変わらぬ様に見える彼だが、それでもやはり死を恐れているのだ。だが、それでも自分たちの勝利の為に彼はこの道を選んだ。その意思が、痛い程に伝わって来たのである。
「……ジル! 早く準備して! イアソンが時間を稼いでいる間に、早く!」
イアソンの意思を感じ取ったマスターは、ジルに向けてそう叫んだ。彼は勝利の為に己が身を投げ打っている。ならば、自分たちもまたその献身に報いる様、努力すべきなのだ。
それでも……マスターは、イアソンを犠牲にすると言う選択に苦しんでいた。元は敵であり、性根の腐った男だと思っていたが、昨日の助言や仲間として戦ったこの日々で、少しずつ好意を抱いていた事も確かだ。
しかし……この胸の痛みこそが、彼の言った『人間であることの証』なのだろうと考え、マスターはその痛みを真正面から受け止める選択を行う。必要だからと割り切るのでは無く、痛みと苦しみを感じながらも先へ進むことを選択した彼は、最後に突き進むアルゴー船とその船長へと小さな呟きを送った。
「……ありがとう、イアソン」
ああ、まったく……最悪な一時だった。
と言うよりも、最悪な時は現在進行形で続いている。一発まともに喰らえば即死の攻撃を掻い潜りながら突き進むなんて、最高に心臓に悪い。
何でこんなことをしているのか? 別に仲間たちの為と言う訳では無い。自分がこうするのは、あくまで自分の為に決まっている。
だってそうだろう? かつての自分の死にざまは、それはそれは無様な物であった。過去の栄光にすがり、果たせなかった夢へと思いを馳せながら、このアルゴー船の下敷きになる。考えられる限り、英霊としては最低の死に方だ。……チーズをぶつけられて死んだよりかはましかもしれないが。
とにかく、自分の死に方は最悪だった。人生の幕切れとしてはあまりにも情けない物であった。しかし、今はどうだ?
困難に直面した(こう呼ぶには気が引けるが)仲間たちの為に命を捨て、恐ろしい怪物へと突撃して行く……これぞまさに英雄と言える物ではないか。
それは……言葉にするのは難しいが、有体に言えば格好良いものだろう。自分の辿った末路よりかは、何十倍も素晴らしい。
「ああ、そうとも……俺は英雄だ!」
自分は弱い、戦いなど出来る訳が無い。弱者であることは間違いない。勇猛果敢な男にはなれない。
だが、自分は何も出来ない訳ではない。たとえ弱くとも、必要な時に命を懸けることは出来る。そして、戦うことも出来る。
戦って勝つだけが英雄では無い。戦わずして勝った英雄も居れば、戦って負けたと言うのにも関わらず英雄となった者も居る。自分は、勝利を掴む為に礎となった英雄となるのだ。
「だから、勝て……! 必ず勝て!」
ここで負ければ、自分の雄姿を語り継ぐ者が居なくなる。それでは何の意味も無い。
この自分がここまでするのだ、敗北など許されるはずも無い。迫る魔神柱船の巨体を前にして吹っ切れたイアソンは、憎み切れない宿敵であり、僅かに心を通わせた
「勝て! この背を追って来い! そして追い越せ! 勝って、お前の――」
未来を掴め、その言葉を紡ぐよりも早く、アルゴー船は魔神柱船に真正面から激突していた。
激突した魔力が膨張し、炎となって爆発を起こす。アルゴー船と魔神柱船、双方に損害を与えた爆発の果て、イアソンの体もまた炎に包まれる。
痛み、熱、衝撃……その全てを感じ、自分が死ぬことを悟りながらも、イアソンは満足していた。
だってそうだろう? ……自分は、人類史を守る英雄を守った男になれた。世界を救う英雄を救った英雄になれた。
それでもう、十分だった。
「クソッ! 雑魚が、味な真似をしてくれる!」
衝撃に揺られ、船体同様に少なくないダメージを受けたドレイクはイアソンに対する悪態をつく。
全く予想していない攻撃を受け、自身のプライドとソロモンから譲り受けた魔神柱を傷つけられた彼女は、瞳に怒りの炎を燃やしていた。
「チッ! あの船はもう沈んだのかい。生きてりゃあ、タダでは済まさなかったってのに……!」
ようやく黒煙が晴れた先には、もうアルゴー船の姿は無かった。どうやら、イアソンの消滅と共に消えてなくなった様だ。
生きていればそれはそれで腹立たしいが、死んでしまわれてはこの怒りをぶつける事が出来ない事に腹が立つ。煮えたぎるマグマの様な怒りを胸にするドレイクは、そのぶつける先を残るカルデアのマスターたちに決め、顔を上げ――そして、それを視界に映した。
それは、海を歩いていた。それは、魔神柱船と比べても遜色ない程に巨大だった。それは、見るからにおどろどおろしい姿をしていた。
それは海魔だった。巨大な海魔だった。その中には、ジル・ド・レェを始めとした英霊たちの姿があった。
「……本来、制御不可能である巨大な海魔をギリギリ制御出来る大きさで召喚、その補助として森の賢者たるクー・フーリン殿と神代の魔女であるメディア殿に協力いただくことで、完全なるコントロールを得ました」
海魔の中、中心部たる位置にある人影は四つ。うち三つは海魔を召喚した張本人であるジルと、彼に名前を挙げられた二人の英霊だ。
そして、最後の一人であるカルデアのマスターは、海魔の肉体である床に手を付きつつ前を見据える。その目に映るのはアルゴー船の特攻でダメージを受けた魔神柱船・フォルネウス。そして、その支配者たるドレイクだ。
「我々は海魔の暴走を防ぐことで手一杯。コントロール権はマスターにお預け致します。どうか、この奇策を持ってオケアノスの戦いに終止符を打って下さい!」
ジルの言葉に返事代わりの頷きを一つ。ようやく慣れて来た海魔の操作を行い、また一歩前へと踏み出せば、魔神柱船がもう目の前の位置にまで到達していた。
「貴様……! ソロモン様の英知にそんな怪物で対抗するつもりか!? この大馬鹿野郎め!」
「神様が怪物に倒されるなんて珍しく無い話でしょ? ……さあ、怪獣大決戦といこうか!」
双方、化け物。その巨体が海に浮かぶ。神VS怪物の想像不可能な激闘の火蓋が今、切って落とされた。