※この作品はR-18です。

カルデア女英霊奪還作戦   作:野比のび太

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海賊団の終焉

 

 巨大海魔の剛腕が唸る。腕、と呼ぶには些か不気味な形状ではあるが、ともかく腕に位置する部位であるそこが空気を唸らせながら大きく振り回され、魔神柱船のマストを横薙ぎに叩いた。

 攻撃を受け、フォルネウスが起立しているそこがメキメキと嫌な音を鳴らす。船を揺らす衝撃に耐えながら、今度はドレイクが反撃として無数の光線を繰り出した。

 放たれた光線は海魔の中心部分を捉え、そこを焼き焦がす。マスターは自分の胴体が焼ける様な痛みを感じて表情をしかめた。

 だが、それで怯める訳も無い。痛みを無視し、彼はもう片方の腕を振って海魔の触手を魔神柱船へと叩き付けた。

 自重と勢いを乗せた強烈な手刀。その一撃は巨大な魔神柱船を軽く沈ませ、船全体に凄まじい衝撃を響かせる。

 

 イアソンの特攻によってダメージを受けた魔神柱船は、思う様に動くことが不可能になっていた。対して巨大海魔はその巨体からは想像も出来ない機敏さと器用さを見せ、攻撃と防御をそつなく行っている。

 お互いに攻防を繰り返しても、その差が大きく出てしまっていた。段々と魔神柱船の修復能力が追い付かなくなり、攻撃による被害が目に見える様になっていたのだ。

 

「行けるっ! このまま押し切るっっ!」

 

 砲弾に左腕を弾き飛ばされるも、マスターはその痛みを食いしばって再度攻撃を仕掛けた。脳から分泌されるアドレナリンが、彼の感覚から痛みを奪いつつあったのだ。

 無茶な戦いであり、危険な賭けである巨大海魔での戦闘。五感をリンクさせたことで痛みを感じはするが、自分の思うがままに動くことが出来る。

 攻撃も防御も直感で行いつつ、徐々に魔神柱船を追い詰める。両手でフォルネウスが顕現するマストを握ったマスターは、腕に思い切り力を込めてそれをへし折ってみせた。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

 マストの中ほどからぽきりと折れ、海に沈んだフォルネウス。再生機能がある為、完全に倒せた訳では無いのだろうが、それでもダメージを与えたことは間違い無いだろう。

 それを証明するかの様にオケアノスの海に響いたドレイクの叫びを耳にし、マスターはここが正念場とばかりに追撃を行う。海魔の口から黒煙を噴き出して魔神柱船を覆いながら、二本の腕を何度も魔神柱船の甲板へと叩き付け続ける。

 

「がっ! このっ! このぉっ! ソロモン様に逆らう、愚か者がぁっっ!!」

 

 一撃、強靭な筈の魔神柱船の甲板が凹む。自身の宝具であり、ソロモンから与えられた兵器を傷つけられたドレイクが叫びを上げる。

 二撃、船の側面が割れ、内部へと潮水が浸水していく。ごぼごぼと音を立てて海の水を飲みこむ魔神柱船は、段々とその重みで沈みつつあった。

 そして三撃、両手を重ね合わせてのハンマースイングは、僅かに残っていたフォルネウスの体を完全に叩き潰した。魔神柱船を構成する重要な部分が崩壊し、ドレイクの船はもはや轟沈を待つだけの存在と化す。

 

 終わりだった。決着はついた。魔神柱船は崩壊し、後は沈むだけだった。

 しかし……この女は、最後まで足掻くことを止めようとはしなかったのだ。

 

「あは、はは、ははははは! 見えたっ! 見えたよっっ!」

 

 傷つき、穴だらけになった黄金の鹿号の船首に立つドレイクは、目の前の巨大海魔の一部分を見て大笑いしていた。彼女の視線の先にあったのは、この海魔を制御する心臓とも言える場所である。

 一番魔力が集中し、制御の根幹となる部分……そこには必ずカルデアのマスターたちが居る。そう判断したドレイクは、愛銃を構えてその部位へと狙いを定めた。

 

「海賊団は全滅した。ソロモン様から賜った魔神柱船も沈む。だが……アンタの命は、駄賃として受け取って行くよ!」

 

 ドレイクの背後に浮かぶ巨大な砲門。狙いは真っすぐにカルデアのマスターたちの居る場所に定められ、発射の時を今か今かと待ち続けている。

 ドレイクは知っていた。最後の最後まで諦めなければ奇跡が起きると言う事を。それが、自分の持つ『星の開拓者』の効果である事を。

 だから最後まで足掻いた。結果、こうやって事実上の勝利を得ようとしている。足掻いて、足掻いて、足掻いた先にこそ勝利の美酒が待っている事を、彼女は知っていたから、ここまで戦い続けて来たのだ。

 

「終わりだ、終わりだぁっ!!」

 

 指が引き金に触れる。後は僅かな力を込めれば、砲門から放たれた一撃がカルデアのマスターたちの命を奪うだろう。

 見える、勝利した自分の姿が。勝てる、勝てる勝てる勝てる。大逆転の一撃で、全てに片を付ける事が出来る。

 今までの敗北を帳消しに出来る。海賊団の全滅や魔神柱船の撃沈と言う失態を加えても、おつりが出る程の成果を上げられる。ソロモンも自分のことを褒めてくれるだろう。メディア・リリィを庇うことだって不可能では無い。

 終わる、とドレイクは思った。今までの戦いも、そして人類の未来も、この一撃で終わると思っていた。

 だが、そうはならなかった。

 

 ぐらりと、ドレイクの足場が揺れた。それと同時に狙いを定めていた砲門はあらぬ方向を向き、完全に当初の狙いとは別の場所へと狙いをつけてしまった。

 そして、もうドレイクには狙いを定め直すことは出来なかった。何故なら、彼女の体は宙に浮いていたからだ。

 一体何が起きたのかと聞かれれば、答えは単純で『黄金の鹿号』が攻撃を受けたのだ。その衝撃で、ドレイクの体は宙へと投げ出されてしまっただけだ。

 そして、攻撃を行ったのは巨大海魔では無く、『女王アンの復讐号』であった。黒髭が、トドメとなる一撃をドレイクに向けて放ったのだ。

 

 彼は知っていた。フランシス・ドレイクと言う女が、最後まで足掻く事を。そして、その足掻きが奇跡とも呼べる結末を引き起こす事も。

 だからこそ、一見無駄と思える一撃を放ち、ドレイクの抵抗を完全に封じた。『星の開拓者』が発動しようとも、逆転が不可能である状況を作り出そうとした。そして、その一撃が完全なる王手となったのだ。

 

 水飛沫を上げて海面に叩き付けられたドレイクは、沈み行く意識の中でようやく敗因に気が付いた。そして、その下らなさに自嘲気味な笑みを浮かべる。

 何てことは無い。自分の敗北は、『自分以外の誰かを当てにした』時点で決まっていたのだ。もしくは、何かでも良いだろう。

 かつての自分はソロモンの力など借りることはなかった。スキルなど所有していなかったし、そんなものを知る事もなかった。それでも、自分は数多の戦いで勝利を掴み取って来た。

 それは、自分の力を信じ、ただ真っすぐに出来る事をして来たから起きた奇跡だった。何かに頼る事はせず、ただ自分の持つ、自分が作り上げた手札で勝負をして来たからこそ築けた勝利の栄光だった。

 だが、今回の戦いは違った。最初からソロモンに与えられた兵と武器を使い、最終兵器として与えられた魔神柱を切り札とし、最後はスキルの効果に頼ろうとした。自分は、最初からフランシス・ドレイクとしての戦いを放棄していた。そして、その上辺だけをなぞった戦い方をしていたのだ。

 これで勝てたのなら、それこそ奇跡だろう。海の底へと沈みながら、ドレイクはようやくその事に気が付く。そして、下らない死に方をしようとしている自分に向けての嘲笑を浮かべた。

 

 最初から最後まで、本当に下らない戦いだった。何もかもを失って、傷つけただけの戦いだった。

 船も、兵も、服も、ソロモンから受け取った物は全て失った。裸一貫で海に沈む自分もまた、最後に残った命を失おうとしている。

 下らない女の命の幕切れとしては相応しいかもしれない……最後にそう思い浮かべ、ごぽりと口から残った酸素を吐き出したドレイクは、完全に意識を微睡みへと沈ませて目を瞑った。

 

 だが……自らの死を受け入れようとした彼女に冷たい死が訪れることは無かった。何かに腕を掴まれたドレイクは、次の瞬間には体を抱えられて海面に浮上していたのだ。

 死を目前とした状況から文字通り引き上げられ、九死に一生を得たドレイクが目を開ければ、そこには水に濡れた黒髭の姿があった。どうやら、自分は彼に助けられた様だ。

 

「なん……で……?」

 

「あ? なんでだと? んなもん、決まってるでしょ~よ」

 

 海に飛び込み、すぐ近くで船が沈んでいる危険な海域で自分を助け出すと言う行為に打って出た黒髭に対し、ドレイクが疑問を投げかける。黒髭は、そんな彼女の疑問に至極単純な答えを返した。

 

「BBAが欲しかったから。欲しい物の為に命を懸けるのが海賊だろう? んな当然の事、聞くんじゃねえよ」

 

 口の端を釣り上げ、悪党に相応しい笑みを浮かべながらの一言。その答えを耳にしたドレイクの中に衝撃が走る。

 それは自分が忘れていたもの。海賊としての大事な矜持は、その言葉の中に詰まっていた。

 勝利の為になりふり構わずに突き進んだ男たちの姿を見た今の彼女には、その言葉と姿は眩し過ぎて直視が出来ない。ゆっくりと、ドレイクは再び瞳を閉じて体を脱力する。

 武器も無い。抵抗する気力も体力も無い。配下も全滅し、船も沈んだ。

 完全なる敗北……それを味わった彼女は、薄れていく意識の中で最後に心に浮かんだ一言を小さく呟く。

 

「ホント……アンタ、イイ男だよ……」

 

 ドレイクのその言葉を聞いた黒髭は、満足気に笑った。

 

 

 

 





オケアノスでの戦闘報告

・聖杯及び柩を回収。カルデアにおいて厳重に保管されたし

・多数の英霊の身柄を確保。彼女たちにもケアが必要

・この特異点で遭遇した英霊の内、イアソンは消滅、エミヤ・オルタはカルデアへの今後の協力を拒否して英霊の座に帰還することを決めた模様


アイリスフィール[天の衣]
ステンノ
エウリュアレ
メドゥーサ(ランサー)
メアリー・リード
メディア

・上記の英霊たちは淫紋令呪の束縛を受けていない、もしくは既に脱却している為、抱く必要性は他の英霊に比べて薄い。だが、ソロモンたちに奪われぬ様にする必要はある

クロエ・フォン・アインツベルン
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン
アン・ボニー
メドゥーサ
フランシス・ドレイク

 当面はこちらの女性たちのケアを優先した方が上策であると考えられる。

・また、新たに合流した男性英霊たちからも事情聴取をし、ソロモン側の情報を少しでも集めておきたい

アタランテ
メディア・リリィ

・二名の英霊の奪還に失敗。今後の作戦で敵として相対する可能性は十分にある。その際にもう一度奪還を試みる

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