なかなかエロを挟む余地が見つからないので、もしかしたらこの特異点ではエロはないかもしれません。
終わった後に一気に書く感じになるかもです。
「アタ、ランテ……! その姿は、一体……!?」
「ん~? ……決まってるじゃん、裏切り者であるこいつには、ソロモン様直々の再調教が施されたんだよ! 霊基に影響が及ぶほどの、苛烈な調教を、ね……!」
「……わかっちゃいたが、殺したくなるほど胸糞の悪い話だ。心底腐ってやがるな、ソロモンの野郎!」
「あははははっ! そんなに怒らないでよ~! 彼女がこうなったのは、君たちの責任でもあるんだよ? 中途半端に期待させたアタランテの手を掴めなかったのは、他ならぬ元マスターたちじゃないか!」
「ぐっ……!!」
グサリと、アストルフォの放った一言が、ナイフのように鋭くマスターの胸に刺さる。
彼の言うことは正しい。あのオケアノスの海で、ソロモンを裏切って自分たちに協力してくれたアタランテを助け出せなかったことは、確かにマスターたちの落ち度だ。戦いに勝利こそは収めたものの、カルデアの誰もがアタランテを救えなかったことを後悔していた。
だからこそ、次の機会には必ず彼女を助け出すと心に固く誓っていたのだが……まさか、こんなにも残酷な形での再会が訪れるとは、この場に居る誰もが想像していなかったのである。
黒き獣と化し、何の感情も浮かんでいない瞳をこちらへと向けているアタランテは、ソロモンからどんな罰を下されたのだろう? きっと自分たちの想像を遥かに超えた責め苦が彼女を襲ったのだろう。だが、気丈な彼女は再び取り戻した誇りを手放すことはしなかった。アタランテは強く、美しく、優しい女性……英傑と呼ぶに相応しい、心の強さを持っていたから。
だからこそ……彼女は、ああなった。その美しい心を根こそぎ削り取られ、何も感じなくなる人形に、獣へと堕とされてしまったのだ。
霊基が反転するほどの苦しみを受け続けても、アタランテはソロモンに屈しなかった。その結果として訪れた最悪の事態を目の当たりにしながら、マスターは自分の無力さに怒り、ソロモンへの憎しみを募らせていく。
「それで? この場でやり合うのか? こっちは丁度ウォーミングアップも終わって、体が温まってきたところだ。お望みなら、幾らでも相手になってやらぁ!」
「う~ん、それは遠慮しておこうかな。だってほら、単純に数の上でもこっちが不利だし、今回は無能な元マスターにこのアタランテのことを紹介するのが目的みたいなところがあったし、それに何より――」
けたけたと楽し気に、されど邪悪な笑みを浮かべながら話していたアストルフォは、視線をマスターたちから緑髪のサーヴァントへと向ける。そして、今までの様子とは一変した無表情にも近しい顔で、意味深に呟いた。
「――そっちはまだ、手駒が揃ってなさそうだしね」
「手駒、だって……? どういう意味だ!?」
「ははっ、焦んなくってもその内に理解することになるよ! ま、何にしたって、元マスターがソロモン様に勝つなんてことは有り得ないだろうけどさ! そんじゃ、次に会う時は全力で殺し合うってことで、バイバ~イ!」
ひらひらと手を振ったアストルフォが大きく口笛を吹けば、天から舞い降りた
「アストルフォ、アタランテ……2人が、この特異点に来ているなんて……」
「……マスター、彼の口振りでは、どうやらこの特異点にはソロモンも来ている様子。彼との直接対決となれば、激戦は必至です」
「はっ! 丁度いいじゃねえかよ! 今までの借りを纏めて返してやるチャンスだ!」
短く、衝撃的ではあったものの、アストルフォとの邂逅を経て得られた情報を元に話し合いを進める一行。その最中、マスターはつい先ほどまで自分たちと戦っていた緑髪のサーヴァントへと目を向けた。
アストルフォは、カルデアのマスターはまだ手駒を揃えていないと彼を見ながら言った。その行動から察するに、彼は自分たちに味方してくれるはずの存在なのかもしれない。
交戦こそしたものの、彼がソロモンの配下でないことはアストルフォの態度からも間違いないだろう。それに、アタランテの姿を見てショックを受けていた以上、かつての彼女の姿を知っている存在である可能性は高い。
何とか、彼と話をしてみたい。そう考えたマスターが顔を上げると、向こうもまた真剣な表情でこちらへと視線を注いでいる姿が目に入った。
そのまま、ずかずかと大股でカルデアのマスターたちへと近づいて来た彼は、様々な感情を入り混じらせたような表情で、されどそれを懸命に押し殺した声で、質問を投げかけてくる。
「お前たち、さっきのピンク髪のサーヴァントの知り合いか? それと姐さ……アタランテのことも知っているみたいだな。ならば答えろ! 彼女の身に、何があった!?」
「ま、待ってくれ! 俺たちも全てを理解出来ている訳じゃあないんだ。少し落ち着いて、考えを纏める時間を――」
「そんな時間をくれてやる余裕はねえ! いいから早く質問に答えろ。こっちはイラついてしょうがないんだよ!」
緑髪のサーヴァントは、怒気を強めてカルデアのマスターへと詰め寄る。その威圧感は、先ほどモードレッドと剣を交えていた時よりも強まっており、その態度からマスターは、アストルフォの話とアタランテの姿が彼にとってどれだけの衝撃を与えたのかを察することが出来た。
やはり、彼は敵では無いらしい。だが、この頭に血が上った状態ではまともに話を聞いてくれはしないだろう。まずは落ち着いて情報交換をしたいところではあるが、ヒートアップする彼をどうすれば冷静に出来るのかがマスターにはわからないでいた。
とにかく、落ち着いて会話を試みてみよう。そうしていれば徐々に彼も落ち着いてくれるかもしれない……マスターはそう考え、それを実行に移そうとしていたところ、思わぬ助け船が彼に向って出された。
「落ち着きなさい、ライダー。そんな状態では、聞いた話もまともに頭に入ってこないでしょう」
「っっ!?!?」
不意に響く、物静かながらも威厳のある男性の声。その声を耳にした緑髪のサーヴァントは、びくりと体を震わせて動きを止めた。
背後へと振り返った彼に釣られ、同じ場所へと視線を向けたマスターたちは、いつの間にか姿を現した長髪の男性英霊の姿を見止める。その男性は、そのままゆったりとした足取りで、カルデア一行の元へと近づいて来た。
「申し訳ありません、私の教え子が失礼をしました。しかし、彼にも熱くなる理由があるのです。どうか、そのことを理解してやってください」
「え、あ、は、はい……えっと、その……あなたは?」
「……この世界に呼び寄せられた英霊……真名はケイローン、
「せ、先生っ!? どうして真名を!? こんな奴らを信用するつもりですか!?」
「ライダー、事は我々の予想を遥かに超えた複雑さを呈しているようです。私たちを呼んだ存在も見つけられない内に敵対勢力まで出現してしまった。ならば、多少のリスクは覚悟してでも行動を起こすべきでしょう」
「敵の敵は味方って言葉もあります……でも、俺は……っ!!」
激しく動揺した様子でケイローンへと詰め寄るライダー。今までのやり取りから察するに、この2人の関係性は師と弟子ということのようだ。そして、ライダーの方は生前からアタランテのことを知っているように見受けられる。そこまでの情報を得たマスターは、この騎兵の正体を思い当たり、驚きに息を飲む。
最近、英霊たちについての勉強を始めた彼は、多少なりとも彼らの生い立ちや人生について詳しくはなっていた。だからこそという訳ではないのだが、目の前にいるこの英霊は、例えマスターが勉強をしていなくてもその名前だけは知り得ていた可能性が高い。
彼に関する文献は、神話を調べれば幾らでも出て来る。オケアノスでの戦いを経てカルデアに帰還したヘラクレスやヘクトール、そして先ほど出会ったアタランテについて学んだ際に、彼の名前は当然のように上がってきた。
それは韋駄天の代名詞。ヘラクレスと双璧を成す、ギリシャ神話最強の英雄。文献から、仲間たちから、何度もその名を聞いていたマスターは、まるで予想外の出会いに驚きつつ、ケイローンと会話を続けるライダーへとこう尋ねた。
「まさか、君は……アキレウス、なのか……!?」
「……ちっ、やっぱりこうなったか。まあ、先生の名前を出しても俺の真名に辿り着けない馬鹿じゃあなかったってことを喜ぶしかねえよな……」
マスターの質問を暗に肯定したライダー……アキレウスは、やや苦々し気な表情を浮かべながらも自分自身に言い聞かせるようにして真名が判明してしまったことを納得しようとしていた。そんな彼とケイローンの姿を交互に見つめながら、マスターは困惑と興奮の入り混じった感情を胸に抱く。
ギリシャ神話最強の英霊の1人であるアキレウスとその師、ケイローン。この2人が味方に近しい存在として特異点に召喚されていた。誰がそんなことをしたのかも、どうしてそうなったのかもわからないが、2人が強力な援軍であることは間違いない。
そこまで考えたマスターは、先ほどのアストルフォの言葉を思い出す。彼の言った手駒とは、アキレウスたちのようにこの特異点に召喚されていたサーヴァントたちなのではないかと思い当たった彼は、その考えが正しいのかどうかを確かめるためにケイローンへと質問を投げかけた。
「あの、ケイローンさん。もしかして何ですが、あなたたち以外にもこの特異点に呼ばれたサーヴァントが居るんじゃ……?」
「……ええ、その通りです。私とアキレウスの他に、3騎の英霊がこの地には召喚されています。彼らも自分たちを呼び出した存在や、目的はわかっていないようですがね……」
「やっぱり! そのサーヴァントたちに会うことは出来ませんか!? この特異点の修正には、皆さんの力が必要なんです!」
「……いいでしょう。どうやらあなたたちは数々の情報を得ている様子。これから私たちの拠点に案内した際、あなたの知る限りの情報を提供していただけるのなら、私の仲間たちもあなたを招き入れたことを納得してもらえるでしょう」
「勿論です! お互いの情報交換をしあって、これからのことに備えましょう! 早速、その拠点へ移動を――」
「ああ、その必要はないですよ。だって、ほら……」
迅速に行動を起こそうとするマスターに手を振り、少し悪戯っぽい笑顔を見せたケイローンは、指を自分の真上へと向ける。その瞬間、カルデアのマスターたちを黒い影が包み、同時に空気を唸らすほどの振動が巻き起こった。
突然の異変に驚き、周囲を見回したマスターたちが目にしたのは、自分たちの上空に浮かぶ巨大な城だった。ゆっくり、ゆっくりと降下してくるそれを見て唖然としているカルデアの一行に向け、ケイローンが微笑みながら言う。
「……拠点の方が、こちらに来てくれますからね」
天空に浮かぶ城……その内部に乗り込んだマスターは、とある有名なアニメ映画を思い出していた。
あの作品の中の天空城はかなり古びたものであったが、それに比べるとここはかなり綺麗だ。しかし、どこか混沌めいた美しさとでもいうべき単純には表せない独特の雰囲気を醸し出している。
実際に乗り込んでみての感想としては、これは城というよりも庭園だ。巨大な浮遊城塞であり、戦闘も可能であることは間違いないのだろうが、兵器としては不必要な施設が多く見受けられることからも純粋な戦闘用具という訳ではないように思えた。
「これは……誰かの宝具なんですか?」
「それを私の口から語るのは止しましょう。真実は、彼らとの邂逅の後にご自分で見つけ出してください」
ケイローンはマスターからの質問にそう答えると先導して城内を進んでいく。カルデアの一行に好意的な彼だが、アキレウスを除いた他の英霊に関する情報を口にしようとはしなかった。それはきっと、仲間であるサーヴァントたちに対する配慮なのだろう。
この状況でなら誰だって、初対面であるマスターに自分の真名やそれに近づくための情報をそう易々と開示したくはない。自らの目で彼の実力を計り、人柄や能力を見て、信頼に足るべき存在かどうかを確かめたいと思うのが普通だ。
ケイローンは、自分の手で仲間たちの信頼を勝ち取ってみせろとカルデアのマスターに暗に言っているのだろう。ややスパルタにも思えるが、仲間との信頼関係の重要さをこれまでの戦いで嫌というほど理解している彼は、むしろそれはありがたいことだと思いながら天空庭園を歩んで行く。
やがて、先頭を進んでいたケイローンはとある扉の前で立ち止まり、一行へと振り返ると、静かな口調で語り出した。
「……この扉の先に、私たちの仲間がいます。彼らも交え、我々とあなた方の持つ情報を共有したいと思いますが、よろしいですね?」
「はい、勿論です」
カルデアのマスターの力強い返事に頷き、再び前を向いたケイローンは、ゆっくりと目の前の扉を開く。その先に広がる荘厳な広場には、3つの人影が存在していた。
「どういうつもりだ、
まず最初に反応を示したのは、黒髪の美しい女性であった。
黒い、まるで暗闇のようなドレスと、尊大かつ自信に溢れた雰囲気を纏うその女性は、疑いようもなく美しかった。高い気位と何処か退廃的な雰囲気を醸し出す容姿も相まって、女帝という言葉がぴったりと合う印象を見受けられる。
彼女の言葉から察するに、この空中庭園は彼女の物なのだろう。そこから真名が絞り込めそうだが、カルデアのマスターはそれよりも他のサーヴァントの反応を観察することを優先し、次に声を上げた英霊へと視線を向ける。
「ほぅ、これは……英霊だけじゃない、人間もいるね。英霊を引き連れた人間ということは……マスター、ということでいいのかな?」
そう言葉を口にしたのはおそらく男性のサーヴァントだ。おそらく、といったのには理由があり、彼は顔を仮面で隠しているためにどのような顔をしているのかがわからないのである。
声から判断するに男性だとも思われるが、仮面だけでなく体もマントとボディスーツで一切の露出無く隠しているため、それ以上の情報を得ることが出来ない。雰囲気は老練な魔術師を思わせるが、実際はどうなのかはこの時点ではマスターには判断がつかなかった。
(やっぱり、初対面の英霊たちだよな。ソロモンの支配を受けていないってことは、あの時カルデアには召喚されてなかったサーヴァントってことなんだから……)
女性も、男性も、どちらも初めて会うサーヴァントだ。これまでの経緯を考えれば当然のことなのだが、やはり初対面の相手と0から信頼関係を築くことには不安を覚えてしまう。
どうにか、彼らが友好的な相手であると良い……そう考えながら3人目の英霊の姿を見たマスターは、二度、三度と瞬きをし、驚きに眼を見開いた後、破顔して笑みを浮かべる。
「あ、あ、あ……! あなたは、あなたは……!!」
漆黒の貴族服に身を包んだ壮年の男性。長く美しい白髪と知性と高貴さを感じさせるその顔立ち。カルデアのマスターには、その全てに見覚えがあった。
ここで彼と再会出来たことに、驚きよりも喜びの感情が勝る。自分に視線を注ぐそのサーヴァントへと一目散に近づいたマスターは、深々と頭を下げ、涙声で彼への挨拶の言葉を口にした。
「ヴラド公……! よくぞ御無事で……!」
小国の王として、当時最強の軍事力を持っていた大国を幾度となく退けた大英雄。その武勇と王としての知性を以って、今まで何度もカルデアのマスターの危機を救ってくれた頼りになる英霊。自身の不名誉な呼び名を嫌い、それを拭い去るために戦い続ける者。
その名はヴラド三世。かつてのカルデアにも在籍していたサーヴァントである彼との予想外の再会は、マスターにとって喜ぶべきものであった。しかし、当のヴラド三世の方は、訝し気な表情を浮かべてカルデアのマスターへとこれまた予想外の言葉を投げかける。
「余を、知っているのか? 吸血鬼ではない、領主としての世を……?」
「え? 何を言ってるんですか、ヴラド公。俺のことをお忘れですか?」
カルデアのマスターとは初対面だと言わんばかりの反応を見せたヴラド三世に対し、困惑しながらも自分の顔を指差しながら快活に微笑むマスター。しかし、それでもヴラド三世はピンと来ないようで、小さく首を振るばかりだ。
そんな両者の様子を見ていた仮面の男性は、状況整理のためか現状を声に出して呟く。
「どうやら……君の方は
「……槍兵?
仮面の男性の呟きを耳にしたマスターは、彼の言ったヴラド三世のクラスについて疑問を抱く。
自分の知るヴラド三世は、狂戦士のクラスであったはずだ。確かに槍兵としての彼の姿も知っているが、今、自分の目の前に在るこのヴラド三世のクラスは狂戦士で間違いない。
ほんのわずかだが、大きな違いに再び困惑するマスター。このクラスチェンジの理由について思案を巡らそうとした彼であったが、残念ながらその思考は他ならぬヴラド三世の手によって中断させられてしまった。
「……余を、狂戦士と呼ぶか? 理性の無い、怪物と……あの吸血鬼のような存在と呼ぶのか!?」
「ぐっ、はっ!?」
ぐっ、と片手でマスターの首を掴んだヴラド三世は、そのまま彼の体を宙へと持ち上げる。足のつかない状態で首を絞められ、息苦しさにもがくマスターの姿に、サーヴァントたちは騒然となった。
緊迫する空気の中、誰よりも早く動いたのはモードレットだった。腰の剣を抜きながら瞬時にヴラド三世に接近した彼女は、剣の切っ先を彼の喉元に突き付けながら、低く唸るような声で脅し文句を言い放つ。
「今すぐ、マスターを放せ。さもなきゃ、テメーの首が胴体と泣き別れすることになるぞ」
「……ふん」
紛れもない殺気を放ち、自身を威嚇するモードレッドの姿を見たヴラド三世は、小さく鼻を鳴らすとマスターを掴む手を放す。
それは決して彼がモードレッドの脅しに屈した訳ではなく、ただ純粋なる慈悲によってカルデアのマスターのことを許しただけであることを、今の今まで彼に首を絞められていたマスターは理解していた。
「マスター、大丈夫か!?」
「げほっ、ごほっ! う、うん、ありがとう、モードレッド……」
ようやっと解放されたマスターは大きく息を吸い込んで、肺へと酸素を送り込ませた。そんな中、ヴラド三世とマスターとの壁になるようにして彼の前に立ったジャンヌは、深々と頭を下げた後に謝罪の言葉を口にする。
「貴方の尊厳を傷つける発言をしたことを、我がマスターに代わって謝罪させていただきます。しかし、彼も決して悪意があった訳ではないということをご理解いただけないでしょうか?」
「……ふん、気に食わんがまあ、いい。大賢者たる弓兵が連れて来た人間を話も聞かずに殺すのも惜しいからな。その命を残してやった分の価値を見せてもらおう」
「無論です、しかし……その前に、我々のマスターには伝えておかなければならない情報があります。暫し、そのための時間を頂戴いたします」
ジャンヌの発言に鼻を鳴らした後で頷き、了解の意を示したヴラド三世は、玉座に座するとカルデア一行へと冷たい視線を向け始める。自分のことを吸血鬼扱いしたマスターに対する怒りはまだ拭えぬようであり、彼とのファーストコンタクトは大失敗であったと言えるだろう。
マスターもこの邂逅を経て、ヴラド三世が自分の知る彼ではないということを強く感じ取っていた。彼が吸血鬼ドラキュラという存在と自分を同一視されることを強く忌避していることは知っていたが、カルデアのヴラド三世はここまで強い拒絶の反応を見せたことはない。
マスターの目には、今、自分たちの目の前にいる彼には、どこか余裕がないように見えた。
「マスター、お気付きですか? ここに揃った8騎のサーヴァントのクラスについての奇妙な点に……」
「えっ? な、なに? 何か変なことがあったの?」
そんな考えを抱いていたマスターは、不意にジャンヌに声を掛けられたことで大慌てで彼女へと向き直る。そして、彼女の言葉に対して素直にわからないという反応を見せた。対してジャンヌは、この部屋に集うサーヴァントたちを1人ずつ指差しながら、マスターに向けての解説を始める。
「いいですか? まず、カルデアから
「……誰1人、クラスが被ってない?」
「そう、その通りです。8騎ものサーヴァントがいるのに、その中の誰もクラスが重複していません。基本の7クラスに加え、
ジャンヌの指摘を受けたカルデアのマスターは、確かにとこの不思議な現象に首を傾げる。そして、これにどのような意味があるのかを考え始めた。
ジャンヌの言う通り、完全にランダムで8騎のサーヴァントを選択したとしたら、クラス被りが起きる方が自然だ。100名近い英霊が在籍していたかつてのカルデアでも、くじ引きか何かで8人サーヴァントを選抜したとしたら、間違いなく1組は同じクラスのサーヴァントが選ばれてしまうだろう。
つまり、そう、これは……偶然、この8騎が選ばれたという訳ではないということだ。レイシフトの際、モードレッドたち以外のサーヴァントが弾かれてしまったことを思い出したマスターは、この考えが正しいという思いに確信を抱く。
問題は、その理由だ。何故、この8騎なのか? その理由がわからないままでいるマスターに向け、ジャンヌは今、彼女が知る限りの情報を元に、自らの考えを語り始める。
「マスター、おそらくですが……この8騎のサーヴァントたちは、前に戦ったことがあるのです。この地か、あるいはこの地によく似た場所で、聖杯を巡って戦いを繰り広げた英霊たちこそが、この特異点に集められたサーヴァントなのでしょう」
「つまり、この8騎で聖杯戦争が行われたってこと? そのメンバーをもう一度集めて、一体何を――」
「いいえ、この8騎だけではありません。この特異点に集められたサーヴァントたち、です。あのアストルフォやアタランテも含めたサーヴァント全員が、この地で激しい戦いを繰り広げた……そんな記憶が、朧気ながらも私の中に存在しているのです」
ジャンヌの言葉に、マスターは眉をひそめる。それはどう考えても、おかしなことだった。
基本的に、聖杯戦争とは7人の魔術師と7騎のサーヴァントが1チームずつに分かれて戦いを繰り広げるものだ。その7組のうち、1組が勝者となって聖杯を手にすることが出来る。
だが、今のジャンヌの話が正しいのならば、この時点で既に10名のサーヴァントが戦いに参加していたことになってしまう。しかも、騎兵と弓兵のサーヴァントが2人以上いる状態で、だ。
そんなことは絶対におかしい。人理修復を懸けた戦いに臨む自分のような、特殊な状況でなければ絶対にありえない……と、そこまで考えた所で、カルデアのマスターはとある可能性に思い至る。同じくして、ジャンヌも同じ結論に至ったのか、彼に変わってその可能性について話を始めた。
「以前、この地で行われた聖杯戦争は、強大な力を持つ大聖杯を巡って2つの陣営が争うという特殊なものでした。それぞれの陣営が7人の魔術師と7騎の英霊を行使し、総力を以ってぶつかり合うその戦いが
ごくりと、マスターが息を飲む。自分を囲うように立つ英霊たちの顔を一周して見回した彼は、再び目の前のジャンヌと視線を交わらせ、彼女の言葉を待った。
「……ソロモンがこの特異点に来ていることは、アストルフォの言葉から考えても間違いないでしょう。そして、ソロモンが自分の配下である英霊たちを複数連れて来ていることも明々白々です。その数もおそらく8騎、我々と同じ数でしょう」
「8騎対8騎……そこにマスターを加えた、変則的な聖杯大戦。こっちの陣営を指揮するのは俺で、向こうの陣営を指揮するのは――」
その言葉を、事実を、口にしようとしたマスターの喉が急に締まる。先ほど、ヴラド三世に首を絞められた時以上の息苦しさが彼を襲った。
いつかは来ると思っていた。だが、こんなにも突然に、早いタイミングで訪れるとは思っていなかった。ひどく重い、苦しいプレッシャーに圧し潰されそうになるマスターに向け、ジャンヌは彼が言葉に出来なかったその事実を改めて口にする。
「敵陣営の指揮者は……ソロモン。我々の仇敵であり、最終的に打倒すべき存在……マスター、あなたは……この特異点で魔術王とぶつかり、勝利しなければなりません。彼に捕らえられているサーヴァントたちを救うために、世界を守るために……!」